東方奇才伝   作:サンダーボルト

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VS咲夜さんです。ここまでで一番長い話ですね。

レヴァンの奥の手が1つ解放されます。


奇才の品格、再び

~レヴァンサイド~

 

 

「ほう……これは中々」

 

 

エントランスに入った僕は、思わず感嘆の声を漏らしてしまった。美しい装飾品の数々、隅々まで行き届いている掃除。まさに完璧とはこの事だ。

 

 

「ようこそお越しくださいました、レヴァン様」

 

 

声をかけられた方を見ると、エントランスの2階からメイドがこちらを見下ろしていた。あの時、ナイフ持ってた奴か…。

 

 

「僕は侵入者じゃないのか?様付けしていいの?」

 

「お嬢様がお認めになられた方ですから。お嬢様からも、丁重におもてなしするよう言われております」

 

「そうかい。しかし、料理も無いのにナイフを渡すのはいかがなもんかね」

 

 

彼女の手にはいつの間にかナイフが握られていた。

 

 

「それと自己紹介くらいしろよ。でないと、どう呼んでいいか分からん」

 

「失礼致しました。私は十六夜咲夜。紅魔館のメイド長を勤めています」

 

「そうか。なら十六夜、スカーレットの所まで案内してもらえるか?」

 

「申し訳ありませんが…私を倒さなければ、お嬢様の元へはお通し出来ません」

 

「……その台詞、今日だけで何度聞くんだか…」

 

 

幻想郷で流行ってんのかね、それ…。十六夜は僕と会話しながら、エントランスの1階へ降りてくる。

 

 

「そういや、この飾り付けとか掃除ってお前がやってるのか?」

 

「はい。館内の雑用はほぼ私が承っております。他にメイド妖精も雇っておりますが。それが何か?」

 

「いや、ここで戦うなら滅茶苦茶になるだろうから、先に謝っておこうと思ってな…」

 

「お気遣いありがとうございます」

 

 

綺麗な一礼をする十六夜。メイド長を任されているのは伊達ではないようだ。

 

 

「ですが、謝罪の必要はありません」

 

 

あの時と同じ、静かな殺気が溢れだす…。

 

 

「何故なら……滅茶苦茶にするのは、私自身ですから」

 

 

そう言った瞬間、無数のナイフが僕に向かって飛来した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~咲夜サイド~

 

 

彼がここにいるという事は……美鈴は負けたのね。なら、美鈴の仇を取る意味でも負けられないわ。

 

投げたナイフは大半は避けられたけれど、いくつかは命中したわ。

 

 

「……ちっ」

 

 

彼は舌打ちすると、体に刺さったナイフを、まるで埃でも付いてるかのように払い落とす。深くは刺さっていなかったようね。

 

 

「流石ね……でも、これは避けられるかしら?」

 

 

ナイフを投げた後、私の『時間を操る程度の能力』で時間停止を発動させる。そして、更に大量のナイフを設置する。……解除。

 

 

「……!?」

 

 

彼は一瞬驚いた表情になったが、すぐ元の表情になる。ナイフをかわし、片腕を盾にして防ぐ。

 

 

「守ってばかりでは勝てないわよ?」

 

 

そう言いながらも、私はナイフを投げる手を緩めない。時間停止を使い、ナイフの量を増やしたり、死角からの攻撃を仕掛けている。

辺りは突き刺さったナイフだらけになっているわ。彼の言う通り、滅茶苦茶になったわね…。でも、そんな事を気にしてられない。気を抜いたら負けてしまうかもしれない……慢心はしないわ。

 

 

「……ちょっと気になる事があってな。それを考えてたんだ」

 

 

これだけの攻撃を受けながら考え事をするなんて、随分と余裕ね…。

 

 

「あら、それは私の能力についてかしら?」

 

「それは大体分かってる」

 

 

攻撃の手を止める。……分かってる?ま、まさか……もうバレたの?

 

 

「なら、聞かせてもらえるかしら?」

 

「あ?ああ……多分、時間停止だろ?」

 

「……何で分かったのよ…」

 

 

嘘でしょ…。戦ってからそんなに時間は経ってないのに、もう見抜かれたの…!

 

 

「お前が最初に時間停止を使ったのは、2回目にナイフを投げた時だ。あの時……軌道が見えたナイフと見えないナイフが一度に現れた」

 

 

驚いた表情をしていたのは、それに気づいたからだったのね…。

 

「ナイフを瞬間移動でもさせたのかと思ったが、普通に投げたナイフとスピードが一緒だったから違った。

だから、これは僕が知覚できない時にお前が投げたものだと分かったのさ。だが、僕はお前から目を離していない。隙をついて投げるなんて出来ない。

………だとしたら、後は時間を止めた位しか思い付かなかったんだよ」

 

 

……普通にナイフを投げた後に時間停止を使ってナイフを増やしたのは、相手を動揺させるため。それが全く通じていない所か、裏目に出た…!

 

 

「……驚いたわね、殆ど正解よ。正確には、時間を操る程度の能力だけれどね」

 

「そこまで分かるか…」

 

 

まあそうよね。そこまで見抜かれたら勝てる気しないわ。

 

でも、分かったからといってどうも出来ないわ。この忌み嫌われた能力……本気で使ったら、貴方は何も出来ずに死ぬだけよ。

 

 

「ねえ…貴方が気になっている事って何?」

 

「何だ、知りたいのか?」

 

「ええ。貴方が死んだら聞けないじゃない」

 

「そうか。なら教えてやるよ」

 

 

軽い挑発を気にも留めず、彼はOKを出した。

 

 

「あのさ……何で言葉遣いが変わってんの?」

 

「…………えっ」

 

 

気になっていたのって私の事だったの!?確かに、戦う時は丁寧語ではなかったけれど、戦闘中に気にする事!?

 

 

「……特に深い意味は無いわ。丁寧語に戻しましょうか?」

 

「いや、いい」

 

「そう。なら、もう思い残す事は無いわね」

 

 

時間停止を発動し、彼の全周囲にナイフを設置する。

今ならお嬢様が勧誘した理由が分かるわ。彼はかなりの切れ者……悔しいけれど、時間を操る程度の能力が無かったら勝てなかったでしょうね…。

 

 

……でも、

 

 

「これでおしまいよ……解除」

 

 

時間停止を解除した瞬間、大量のナイフが彼を襲う。防御や回避する暇も無く、彼の体の至るところにナイフが突き刺さる。悲鳴をあげない精神力には恐れ入るわ…。けれど、その傷ならもう助からないわね…。

 

「……せめて、苦しまずにいかせてあげるわ」

 

 

彼はろくに動ける状態ではない。このままにしておけば、大量の出血でじきに死ぬ。けど、彼はお嬢様がお認めになった程の方。それに、エントランスの惨状を予想して私に謝罪した礼節のある人物。このままにしておくのは心苦しいわ。

 

 

 

私はナイフを手に、彼にとどめを刺そうと……え?あ、足が動かない…?

 

 

 

「?………………!?」

 

 

 

 

足元を見て、驚愕した。私の足を……何かが掴んでいた。人の手じゃない…何かに。

 

 

 

 

まさか、彼が何か仕掛けたの?あの状態……で…?

 

 

 

 

な……何で立っているの?立ったままなの!?あの傷で……倒れていないの!?

 

 

 

「生憎だが…」

 

 

 

その声に体が震える。

 

 

 

「こんなもん、いくら刺したって死にはしない」

 

 

 

体に刺さったナイフを1本抜き、それを握り潰した………刃の部分を。

 

 

 

「そうそう、お前を掴んでるのは僕だ。正確には、僕のアームだ」

 

 

アーム?……よく目を凝らして見ると、彼の背中から何かが伸びて、それが私の足を掴んでいる事が分かった。

 

 

「時間停止を使えるお前に攻撃したって、まず当たらないだろうからな。だから動きを封じさせてもらった。お前のナイフが良い目眩ましになったよ」

 

 

やられた…!床は刺さったナイフだらけの上、館の中は霧のせいで光が入らず薄暗い。それらを利用したのね…。

アームはかなりの力で足を掴んでいる。時間停止を使ったところでどうにも出来ないわ…。

 

 

「それと、僕の体は超合金の骨格に医療用ナノマシンを注入した体だ。早い話が硬くて治る」

 

 

そう言うと刺さったナイフを払い落とす。……そして、みるみるうちに傷が塞がっていく。

 

 

「……ナイフ程度じゃ、倒せないって事ね…」

 

 

お嬢様や美鈴とは違って、私は人間。比べると力も断然弱い。だからナイフが深く刺さらず、大したダメージにならなかったのね…。

 

 

「さて、これでチェックメイトだ。大人しく降参しな」

 

 

 

勝利を確信したのか、笑みを浮かべて私の近くに来る。確かに、この状態で逆転するのは無理ね…。

 

 

 

「……でもねっ!」

 

 

 

隠し持っていたナイフを構え、近づいた彼に突き刺そうとする。

 

 

「私はレミリアお嬢様に仕えるメイド、十六夜咲夜!この身が動くうちは、降参なんてしないっ!!」

 

 

ナイフが彼に届く……もう少しの距離で、急に体が彼から離れる。いえ…無理矢理離されてるのね…。

 

 

「……がはっ……!!」

 

 

壁に叩きつけられ、意識が飛びそうになるも何とかこらえた。

何が起きたのか見ると、私の両手足をアームが拘束している事に気づく。

 

 

「悪いな、アームは4本あるんだよ」

 

「……ぐっ…!」

 

 

駄目元で動こうとしても……アームが壁にめり込んでびくともしないわね…。

 

 

「これで動けないだろう?さあ、降参しろ」

 

「……降参なんてしないわ。煮るなり焼くなり好きにして頂戴」

 

 

私の言葉に彼は眉をひそめる。

 

 

「おいおい、動けるうちは降参しないって言ってなかったか?」

 

「動けなくなったら降参するって意味じゃないわ。それに、これはただ拘束してるだけ。私を解放したら、また貴方を攻撃するわ」

 

 

我ながらしつこいわね…。でも、このまま彼を行かせるなんてプライドが許さないわ。

 

紅魔館のメイド長として……お嬢様の従者として、出来る限り戦いたい。それが私のお嬢様への忠誠の証。お嬢様の為なら、いくらボロボロになったって構わない。

キッと、彼を睨み付ける。こんな中途半端な手段じゃ屈しない。貴方が倒れるか私が倒れるか、きっちり決着をつけない限り、私は退かない。

 

 

「……どうにも分からんね。何故、人間のお前が吸血鬼のスカーレットの為にそこまでする?」

 

「…………」

 

「仲が良い妖怪と人間は何人か知っているが、お前みたいに忠誠を誓っているようなのは珍しくてね」

 

「……私の能力、見たでしょう?あれが、普通の人達に歓迎されると思う?」

 

 

 

時間を操る程度の能力。私がこれを持っていると知った人間は私を恐れた。

 

 

ある人間は私を利用しようとした。

 

 

ある人間は私を悪魔の使いだとか言って殺そうとした。

 

 

やってもいない事件の罪を押し付けられた事もあった。

 

 

………私は孤独だった。皆、恐がって離れていくか、利用しようと近づいてくるだけだったから。

 

 

世界に絶望し、当てもなくさ迷い続けて死にかけたところを、お嬢様に助けていただいた。

 

 

お嬢様は私を"十六夜咲夜"として見てくれた。時間を操る人間としてではなく…。幻想郷の住人達は私の力を見ても恐がらなかった。パチュリー様や美鈴も、私を暖かく受け入れてくれた…。私はそれがとても嬉しかった。

 

 

そして、私は誓った。私を救ってくれたレミリアお嬢様に一生お仕えすると。

 

 

「……これが理由よ。貴方には理解出来ないかもしれないけどね…」

 

 

何故か全て話してしまったわね…。教える気なんてなかったのに…。

やっぱり……どこかで彼を認めていたからかしら?彼になら話してもいい…。心のどこかでそう思っていたのかもしれないわね。

 

 

 

「……泣いてるの?」

 

「……え?」

 

 

 

言われて初めて気づいたけれど……知らないうちに涙が流れていた…。こんな事ってあるのね…。

 

 

「…………」

 

 

彼は暫く考え込んだ後……なんと私の拘束を解いた。

 

 

「……羨ましいね、まったく」

 

「羨ましい?どういう事?」

 

 

涙を拭った後、彼に聞く。拘束を解いた事もそうだが、何故彼が私を羨ましがるの?

 

 

「僕もどっちかっていうとお前よりの人間でね。常に孤独だったよ」

 

「……そう、だったの?」

 

「まあな。僕って頭の中が普通じゃないからな。慕ってくれる奴もいたっちゃいたが……大半は僕の頭の中を狙ってた」

 

「………同じ、だったのね。私と」

 

「いや、違う。お前は手を差し伸べられた。僕は差し伸べられなかった」

 

 

そう言われて、何だか申し訳ない気持ちになってくる。救いが無かった彼に対して、私は救われた話をしてしまったのだ。

 

 

「知らない事とはいえ……ごめんなさい」

 

「……何で謝んの?」

 

「何で、って…。」

 

 

……彼は何とも思ってないのだろうか?皮肉ではなく、本当に分からないから聞いているらしい。

 

 

「だって、同じ境遇だったのに、私は助けられた話をしたのよ?あなたは……その…」

 

 

面と向かって、あなたは誰からも助けられなかった、なんて言える筈ない。言葉を濁していると、彼は察してくれたようだ。

 

 

「確かに僕は誰からも救われなかったが、だからってお前が萎縮する必要ないだろ。それに、お前の事を妬んじゃいないさ」

 

「……なぜ?」

 

「何故って……幸せになる奴は多いにこした事はないだろ」

 

「!!」

 

 

彼は……他人の私の幸福を肯定した?自分が辛い目にあっていても、人の幸せを妬まない。それは無関心?それとも……優しさ?分からない…私には分からない…。

 

 

「良かったな、立派なお嬢様と出会えて」

 

「……ええ。心の底からそう思うわ」

 

 

……ただ1つだけ分かるとすれば。

 

 

「レヴァン様」

 

「…ん?」

 

「参りました。私は降参致します。どうぞお通り下さい」

 

 

彼はお嬢様に会わせても良いという事くらいね。

 

 

「……また戻ったな」

 

「貴方様は、侵入者ではなくお客様になりましたので」

 

「そりゃどうも」

 

「お嬢様のお部屋の場所は、道中のメイド妖精にお聞き下さい。私はまだ仕事が残っていますので」

 

「お掃除頑張れよ」

 

 

軽く手を振りながら、奥へと進んでいく。

 

 

立場上、彼を応援する事は出来ないけれど、

 

 

 

 

 

………無事を祈るくらいなら、良いわよね?

 




テンプルアーマー:テンタクルアーム

レヴァンの背中に収納されているテンプルアーマー。

巨大な触手が4本格納されている。超合金製のパーツを何重も組み合わせて出来ており、伸縮自在、自由に操れる。先端は花の様に開くアームになっており、物を掴んだり出来る。
パワーも相当なもので、1本で自分を支えられ、自分より巨大な物や重いものも止めたり持ち上げたり出来る。
強度もあり、円形に巻いて盾にしたり、体に巻き付けて鎧の代わりにする事も。
先端が開いた状態だと、熱線砲やバリアなどの様々な機能を使える。ただし、他のテンプルアーマーを装着している時は、レヴァンとアーマーの連結部分になるため展開出来なくなる。
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