今回はパチュリーが主役でございます。
~レヴァンサイド~
部屋を紅美鈴に貸し出したので寝る場所がない僕は今、地下にある大図書館を訪れていた。それには二つ理由がある。
まず、大図書館を管理しているパチュリー・ノーレッジは魔法使いという種族らしく、なんと食事も睡眠も必要としないのだそうだ。必要としないだけで食事を摂取したり眠る事は普通に出来るようだが。…不老だからいらないってどういう事だ。疲労回復とか体調管理とかどうやってるんだ?人間は睡眠を欠くと、思考力の低下を招く。魔法使いという種族は身体能力は人間と大差ないというのに、そこは問題ないというのか。
食事だってそうだ。外部から栄養やエネルギーを摂取しないというなら、体を構成する栄養素は一体どこから得るというんだ?水や脂肪がなければ痩せこける一方だろう。
仮に魔力というのをたんぱく質等に変換出来たとして……それだと同じく魔力を持つ霧雨が普通に年を取るというのはおかしい…。いや、あえてしていないという可能性もあるか…。
いっその事、捕らえて解剖なりすれば普通の人間との相違点も出てくるかもしれないな。まあやらないし、やらせてももらえんだろうが。同じ立場なら僕だって断るし、抵抗する。単なる好奇心だけでやっていい事と悪い事の分別くらいつく。他者の命や尊厳を踏みにじって技術や情報を得ようとするなど傲慢だ。
………話が逸れた。何が言いたかったかというと、ノーレッジは睡眠を必要としない為、もしかしたらこの時間でも起きているかもしれないという事だ。
もう一つの理由、これはノーレッジが起きている事前提なのだが、魔法について調べようと思っている。八雲のあの反応からして、僕は暫く元の世界には帰れないだろう。ならば、この何でもありの世界で生き残る為の知識を学ばなければならない。霧雨やノーレッジ、それと恐らくだがスカーレットの妹も魔法を使っていた。僕も使えるようになるという保証は無いが、せめて対抗策くらいは見つけたい。
「ノーレッジ、いるか?」
「……レヴァン?」
どうやら起きていたようだ。椅子に座って読書をしていたノーレッジは、本を持ったまま顔だけをこちらに向けて、首をかしげる。
「どうしたの?こんな遅くにこんな所に来るなんて。眠れないの?」
「お宅の門番にベッドを占拠されてな」
「……そう」
何があったか察してくれたようだな。
「それで、何をお探しかしら?あなたの事だもの、ただ寝床を探してる訳じゃないわよね?」
察しが良すぎる。一々説明しなくていいのは助かるが、少し怖いぞ。
「魔法について調べたい。そういった本はあるか?」
「ええ、腐るほどあるわ。……こぁ!」
「はーい!お呼びですかパチュリー様~!」
本の整理をしていたと思われる小悪魔がこちらへ飛んできた。僕を見ると、目を丸くして驚いた。
「あれ?レヴァンさんじゃないですか!どうされたんですか、こんな夜中に?」
「魔法についての本を探しに来た」
「そういう事よ。こぁ、案内してあげて」
「了解でーす!ささ、どうぞこちらに!」
小悪魔に案内され、大図書館の奥へと足を踏み入れる。室内だというのに、何なんだこの洞窟の奥にでも行くような緊張感は。
~パチュリーサイド~
普段なら滅多に来ない来客。しかも夜中に来た変わり者は、私の親友とその妹を救った外来人だった。彼の言葉から察するに、美鈴が寝ぼけて彼の部屋に入って、そのまま寝てしまったといったところでしょうね…。朝になったらひと悶着ありそうね…。
でも意外だわ。彼なら無理矢理にでも美鈴を起こして追い出しそうなのに…。ま、知り合ってからまだ間もないし、憶測だけで判断するのは失礼ね。
それにしても、魔法について調べたいなんてね…。魔法使いの私が目の前にいるのに、教えてもらうという選択肢はないのかしら?自分で調べるという姿勢は立派だけれど、果たして理解できるのかしら…?あ、戻ってきたわね。
……なにあの本の量。こぁの持っている分も含めて50冊はあるわね…。あれ全部を今夜で読むつもり…?
彼は本を全て机に置いて、その中から一冊手に取って読み始めた。こぁも持ってきた本を同じく机に置くと、本来の仕事に戻っていった。……どんなの選んできたのかしら。ちょっと気になってきたわ。私は読んでいた本を閉じてそっと近づいて、置いてある背表紙の本のタイトルを確認する。
『魔法の歩み』『サルでも分かる現代魔法』『世界の魔法から』『今日から君もマジシャンだ!』『レミィ観察日記』『紫もやしの冒険記』『私の全て(下):著・パチュリー・ノーレッジ』『パチュリー様観察日記』『パチェらない100の方法』
「待って。ねえ、待ってっ!!」
「…んだよ…?」
おかしい、おかしいわ!?後半魔法関係無くなってるし、私の知らない本混じってるし!誰よ、私を観察してるのは!こぁ!?こぁなのね!?あとパチェらないってなによ!?無いわよそんな言葉!
そ、それに……レミィの観察日記はともかく、前に気まぐれで書いて後悔した暴露本まであるし…!誰にも見つからない場所に隠した筈なのに…!こぁ!?やっぱりこぁの仕業なの!?これはきつーいお仕置きが必要ね…!
「こ、こっちの本は魔法とは関係ないから戻しておくわ…」
「ふ~ん…さっきの小悪魔に面白いから読めって言われたんだが」
「そ、そうなの…」
証拠は掴んだわよ…こぁ…覚悟することね…!
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「ひっ!?な、何だか急に寒気が…。」
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お仕置きの内容は後で考えるとして、まずはこの本たちを戻さないと…。特に、私の暴露本はもっともっと厳重に管理しないとね…。ほんと、今考えると何であんな本書いたのかしら…?
……う、この量を持って動くのはちょっと辛いわね。でも、こぁに任せたらどうなるか分からないし……はぁ、余計な仕事が増えたわね…。あ、でもレミィの観察日記は見せてもいいかも。その方が面白そうだし…。レミィのあんな秘密やこんな秘密を知ったレヴァンがどんな反応するのか、そしてその事を更に知ったレミィがどう動くか……フフ、見物ね。
…あら?そういえば、『私の全て』の下巻はあるけど上巻は無いわね…。変ね、二冊セットで置いておいたと思ったんだけど…。こぁが見つけられなかったのかしら?
……………。
…………………。
ま、まさか……?
私は本を戻しに行こうとした足を止め、恐る恐る振り向いて、レヴァンがさっきから読んでいる本のタイトルを確認する。
『私の全て(上):著・パチュリー・ノーレッジ』
「いやあああああああああああああああーーーーーーーーーー!!!!!?」
私は持っていた本を投げ捨ててレヴァンに飛びかかり、持っている本を奪おうとする!!だけど、そんな私を嘲笑うかのように本を高く掲げるレヴァン。
「な、何で何食わぬ顔で読んでるのよぉー!?か、返して!」
「まあ待て、今良い所なんだ。幻惑魔法でナイスバディーになったお前が鏡の前で悩殺ポーズを決めて…」
「やめてぇぇぇぇぇぇ!?」
必死にジャンプしてるけど、全然届かない…!ああ、もう!私がこんなに焦ってるのに、向こうは涼しい顔してるのが腹立つわ!しかも現在進行形でページめくって読んでるし!?
「魔女っ子ぱちゅ☆りん?アホみたいなタイトルだな…。しかも、はしゃいで改造した箒にまたがって飛んでたら、室内であること忘れて天井に頭を強打…」
「いやぁぁぁぁぁぁ!?」
「私が闇を好んでいるのではない。光が私を避けるだけだ…」
「だめぇぇぇぇぇぇ!?」
「目をつぶって魔方陣書いたら猫耳が生えた…」
「やめて、もうやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
そんな私の叫びも空しく、彼は私の秘密を余すことなく読み切ってしまった…。
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自分の黒歴史を知られてしまった事から立ち直るのに一時間。取りあえずこぁにありったけのスペルカードをくらわせた私は読書を再開した。レヴァンは私の暴露本を読み終えた後、普通に他の本を読んでいた。その冷静さがとても腹立たしい。
そして読むスピードがとてつもなく早い。もう五冊読み終わっているのだ。というか、本当に内容を理解して読んでるのだろうか?ただ何となく読み進めてるだけじゃないの?聞けば、彼は魔法とは無縁の世界にいたようだし…。
……ちょっと、試してみようかしら。
「レヴァン、ちょっといいかしら?」
「何だ?」
「魔法使いにとって、魔法陣とはどの様な役割を持っていると思う?」
「魔法を発動させる為の基盤、自らの魔力を具現化させる為の変換機」
「……魔法陣を書くのに使われる、文字や図形にどんな意味があると思う?」
「…文字に関しては、まあ大まかに言えば目的だろうか。例えば、火を生み出したいならそれを連想させる言葉を書く。光、熱、溶岩、太陽、地獄…まあイメージだがな。図形は組み合わせる事であらゆる意味を持たせる。三角と三角を組み合わせて、星。四角と三角を組み合わせて、家とかな。他にも星座を模して星から力を貰ったり。門を模して何かを呼び寄せたり、自分を転送したり。十字架を模して力を封じたり…」
「も、もういいわ…」
……素直に驚いた。この短時間でここまでの答えを出せる程、魔法について理解したらしい。科学の発達した世界で生きてきた彼が、こんなにも早く魔法に適応できるなんて…。
「……ねえ、良かったら一緒に勉強しない?」
「…はぁ?」
返事を聞く前に椅子をレヴァンの近くに移動させる。こんな強引な手を使ったのは、私が久々に心躍っていたからだ。目の前にいる逸材に、魔法の知識をありったけ教えてやりたい。そうすればきっと……私では創り出せない魔法を創りだしてしまいそうだから。
「僕はともかく、お前が勉強する意味なんて無いだろ」
「あら、それは違うわよ?魔法の道に終わりなんて無いもの。日々研究して常に高みを目指すものなのよ。あなたからは、特に面白い話も聞けそうだし」
レヴァンは読んでいた本を置いて、こちらに椅子の向きを変えた。どうやらそれなりにノリ気のようね。ふふっ…今夜は長い夜になりそうね…♪
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翌日。
十六夜咲夜とフランドール・スカーレットはレヴァンに貸し出した部屋の前に来ていた。すでにほとんどの住人は起きており、まだ寝ていると思われるレヴァンを起こしに来たのだ。(フラン発案)
ただ、普段は朝が早い美鈴の姿が見えないのが少しだけ気になっていた。
「おにーちゃーん!!朝だよーー!!」
元気よくドアを開けて飛び込んだフラン。それに苦笑しつつも、静かに後に続く咲夜。そんな二人の目に入ったのは、ベッドで寝ているレヴァン……ではなく、ベッドで寝ている紅美鈴の姿だった。
「「…………え?」」
予想だにしていない光景に頭がフリーズして、しばし動きが止まる。先に我に返った咲夜が美鈴に近づき……頭にナイフを突き刺した。
「いったぁぁぁぁぁぁぁ!?」
当然、飛び起きることになった美鈴。これまでに何度も居眠りをしてナイフを刺されていたので、咲夜の仕業だというのはすぐに分かった。抗議の声を上げようとしたが、尋常ならざる殺気をぶち当てられて何も言えなくなってしまった。
「……美鈴?ナンデオニイチャンノオヘヤニイルノカナ?」
「………へ?レヴァンさんの、部屋?」
フランが薄ら笑いを浮かべて美鈴を問いただす。だが、当の美鈴も何が何だか分からないといった反応だ。
「あ、あれ…?咲夜さん、何で私、レヴァンさんの部屋にいるんですかね…?」
「私が知るわけないでしょう!?レヴァン様をどこへやったのよ!?」
「ひっ!?ご、ごめんなさい!で、でも私、何も覚えてなくて…」
咲夜の気迫に怯えた様子から、嘘はついていないという事は分かった。しかし、そうなるとレヴァンは現在どこにいるのか分からなくなってしまった。多分、館の中にはいるのだろうが…。
「えっと…とにかく探してきます」
「待ちなさい。闇雲に探しても時間がかかるわ。まず、パチュリー様に相談してみましょう」
あらゆる魔法に精通しているパチュリーは、紅魔館で迷子になった人を探す探知魔法も使える。実際、道に迷ってしまった客人を探したことも何度かあるのだ。
「フランお嬢様は、レミリアお嬢様にこの事を報告していただけますか?恐らく、朝食は遅れてしまいますから…」
「…うん、分かった。美鈴のせいだって伝えておくね」
「そ、そんなぁ~…」
がっくりとうなだれた美鈴を、半ば引っ張るように連れていく咲夜。時間が惜しいので、時を止めながら地下の大図書館へ向かった。
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