異変も無事解決し、恒例の宴会の準備をするために博麗神社へ戻る霊夢。そして横には、ジェットパックを装着して並行して飛行するレヴァンがいた。
「はあ~あ…。異変の首謀者は紅魔館の連中なんだから、宴会も紅魔館でやればいいのに…」
「お前大して働いてないんだから、僕達を労うくらいしろ」
「うっさいわね」
今回の異変の元凶であるレミリア・スカーレット率いる紅魔館は、宴会で出す料理を用意する事になっていた。弾幕ごっこが終わって早めの軽い昼食を取った後、それぞれが宴会の為に行動を始めた。紅魔館組は十六夜咲夜が指揮を執って料理の仕込み、魔理沙とチルノ達は友達を宴会に誘いに行き、霊夢とレヴァンは宴会場の設営を任された。
「…霊力も魔力も無いのに空を飛ぶなんて、ほんと変よね、あんたって」
「翼もプロペラもジェットエンジンも無いのに空を飛んでるお前こそ、僕からすれば変だ」
他愛無い会話をしながら飛び続けると、あっという間に博麗神社に到着した。
「…早いな」
「そう?……もしかして、紅魔館まで歩いて行ったの?」
「ああ。妖精が邪魔だったんでな」
「ふーん、ご苦労様ね。じゃ、早速だけど手伝ってもらうわよ」
霊夢は神社の物置へ向かう。宴会で使うテーブル等を用意する為だ。レヴァンはジェットパックを解除して空へ放ち、霊夢の後に続いた。物置の中は少し埃っぽく、足の踏み場もないくらいに物が散乱していた。一見するとどこに何があるのか全く分からないが、霊夢は慣れた足取りで進んでいく。レヴァンも苦労しながらついていく。
「あったあった。これを全部運ばないといけないのよね…」
宴会用の大きめのテーブルが大量に立てかけられている。霊夢は溜息を吐きながらもテーブルを一台持ち上げて運び始める。レヴァンもそれに倣い、テーブルを運ぼうとアームを展開。アーム一本につきテーブル一台、更には片手で一台ずつテーブルを持ち上げたため、レヴァン一人でテーブル六台を運べる事になる。
「へえ…便利なもんね」
「戦うだけがテンプルアーマーの使い道じゃない」
テーブルをあっという間に運び出し終わり、他に必要な物を探していると、レヴァンの目に奇怪な物体が映る。
「博麗、これは何だ?」
「ん?ああ…確か河童が持ってきたやつね。食器を自動で洗ってくれるとか、冷たい風が出るとか言ってたけど、結局まともに動かなかったからほったらかしてたのよ」
「ほう…」
レヴァンは河童の機械を手に取り、まじまじと観察する。霊夢の言っていた機能を持った機械はレヴァンも知っているが、形状が全く異なっていたために興味をそそられたのだ。
「欲しいならあげてもいいわよ」
「……いいのか?」
「ええ。どうせ使ってないし。あんたのおかげで準備も楽になりそうだからね」
「そうか。ならさっさと終わらせよう」
急にやる気を出したレヴァンを見て、霊夢は「子供みたいね。」と軽く吹き出す。レヴァンは霊夢を軽く睨んだが、特に気にしない事にしたのか作業を再開する。会場設営は一時間足らずで終了し、レヴァンは霊夢から譲ってもらった機械をホームカプセルに詰め込む。
「…材質は……よし、これならばいけるか」
作業台の上には、機械の他に弾幕ごっこで使った手袋が置いてある。終わった後にパチュリーに返そうとしたのだが、「私には必要の無い物だし、あなたの好きにして頂戴。」と言われて貰ってきた物だ。
レヴァンは工具箱の中から円形の金属パーツに細い扇状の金属板が付いた道具を取り出す。パーツを上から軽く押すと、金属板が円を囲むようにスライドし、皿の様な形状になった。レヴァンは貰ってきた機械を分解し、材質毎に分ける。皿の中心から青い火が出たのを確認すると、ひと塊分入れる。時間が経ってドロドロに溶けたものをスプーンでかき混ぜながら、また別の分解したパーツを入れていく。
左手でかき混ぜながら右手で備え付けのコンソールを操作すると、空中にディスプレイが浮かび上がり、それに設計図の様なものが表示される。指でなぞると設計図の一部が消え、また指で新しく書き足していく。
「さて…これで上手くいけばいいが…」
設計図を書き終えたレヴァンは、手袋と溶かした金属を交互に見る。何を考えているかを知るのは、ここにいる奇才のみである…。
~~~~~~~~
日も暮れ始めた頃、霊夢がレヴァンを呼びに来る。そろそろ宴会の参加者達が集まり始める時間になったからだ。二人でコップや皿をテーブルに運んでいると、外から霊夢を呼ぶ声が聞こえた。
「あら、元凶様が到着したみたいね。ちょっと行ってくるわ」
「ああ」
外にいたのは紅魔館一行。腕を組んでふんぞり返るレミリアと隣で日傘を差している咲夜。沢山の荷物を抱えた美鈴に自分で傘を差しているフラン。その後ろにはパチュリーとこぁ、そして美鈴と同じく荷物を持ったメイド妖精数人だ。
「来たわよ霊夢」
「いらっしゃい。ちょうどいい時間ね。まだ誰も来てないから、ちゃっちゃと準備を済ませちゃいましょ」
「そうね。美鈴、料理を台所まで運んであげて。私も手伝うわ」
「わっかりましたー!」
神社の中に入って傘を畳んだ咲夜は美鈴からいくつか荷物を受け取り、霊夢の案内で台所へと向かう。
「あ、レヴァンさん!」
「よう」
途中の廊下でレヴァンが霊夢達を迎える。
「それは料理か?なら僕が運ぼう」
「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
そんな咲夜の言葉を無視して、半ばひったくる様に二人の荷物を持って台所へ戻るレヴァン。三人は暫し唖然とした後、顔を見合わせて苦笑する。
「レヴァンさんはやっぱり優しくて良い人ですよね?」
「ぶっきらぼう過ぎてよく分からないわ…」
「これから見極めればいい事よ。私達もレヴァン様を手伝いに行きましょう」
台所に着くと、すでにレヴァンが料理を大きな皿に盛りつけていた。時間を止めていたかのように素早い仕事ぶりに、咲夜は感嘆の声をあげる。
「素晴らしい早さですわ!今すぐ紅魔館へ執事として来て頂けませんか?」
「お前はいきなり何を言い出す」
興奮して勧誘しだしたメイド長を軽くいなしながら、レヴァンは盛りつけを女性たちに任せて分けた料理を会場へと運ぶ。障子を開けて中に入ろうとすると…?
「お兄ちゃーーーん!!」
「危ねっ!?」
もはや恒例となりつつあるフランのタックルがボディに炸裂。アームも両手も料理でふさがっていたレヴァンは、受け身も取れずに背中から倒れた。それでも料理をこぼしていないあたりは流石というべきだろう。
「だ、大丈夫ですか!?」
こぁがレヴァンの頭を抱きかかえるように助け起こす。フランもレヴァンが自分を受け止められない状態だったと分かり、慌てて体から下りて抱き起こすのを手伝った。
「あぁ…糞…痛ぇ……」
「ご、ごめんなさいお兄ちゃん…」
「気を付けろ。お前は素で人間の大人以上に怪力なんだ。僕じゃなけりゃ大怪我では済まんぞ」
「……うん」
厳しめの口調でフランを戒める。元々は強大な力が原因で閉じ込められていたので、力加減を覚えなければ、また閉じ込められはしないにしろ何らかの処遇は免れない。フランもそれは理解出来ているらしく、俯いてはいるがレヴァンの言葉をしっかりと刻み込む。
「分かったならこれ運ぶの手伝え。そっちのテーブルな」
「うん!」
早々に思考を切り替えたレヴァンはフランに指示を飛ばす。フランもすぐに立ち直って、料理を言われたテーブルにせっせと運ぶ。こぁもそれに倣い、レヴァンから料理を受け取って運ぶ。残りも片付けようとしたら、少しモジモジしながらレミリアがレヴァンの進路を塞ぐ。
「なんだよ、邪魔なんですけど。何もしないなら大人しく座っててくんない?」
「…な、何かすればいいのよね!?」
「いや……何したいのお前?」
レミリアはレヴァンに向けて両手を差し出す。
「……私も手伝うわ」
その一言にレヴァンは目を丸くし、本を読んでいたパチュリーも驚いた様子でレミリアを見る。メイド妖精も軽くどよめいた。
「お前はこういう下働きみたいなのは嫌いだと思っていたがな」
「確かに主らしくはないわね。でも、今は姉としての振る舞いよ。妹だけに働かせられないもの」
「そうか」
レヴァンは特に掘り下げもせず、レミリアに料理を渡す。ふと見ると、フランとパチュリーが質の違う笑みを浮かべていた。またこいついじられるだろうな、と心の中で呟いたレヴァンは、新しい料理を取りに台所へ戻った。
~~~~~~~~
宴会の準備がほぼ終わりかけた頃、最初の訪問者が到着した。霊夢は手が離せなかったのでレヴァンが応対に向かう。
「やあ、元気そうで何よりだよ、レヴァン君」
笑顔の上白沢慧音がいた。ただ、妙な迫力が漂っていたが。後ろでは妹紅が苦笑いをしながら手を振っている。取りあえず二人が持ってきた手土産をこぁに運ばせて神社に上げようとしたが、慧音は笑顔でレヴァンを見たまま動こうとしなかった。
「…何だ。僕に言いたい事でもあるのか」
「言いたい事?ははは、そんなの……!」
笑顔をやめてレヴァンに近づいた後、大きく息を吸い込む。
「あるに決まってるだろうがっ!!!!!」
特大の怒号が響き、レヴァンは少し顔を歪める。妹紅は事前に察知して耳を塞いでいたので、大したダメージは受けなかった。台所や会場で何かが落ちたような音や悲鳴が聞こえたが、慧音は構わず続ける。
「チルノから聞いたぞ…道すがら…お腹を空かせたルーミアに会ったそうだな…?」
「そうだよ。それがどうした」
「どうしたじゃない!!いくら治るとはいえ、自分の腕を食べさせる奴があるかっ!!」
「治るから別にいいだろ」
「話を聞いていたのか!?そういう問題じゃない!!相手がまだルーミアだったから良いものの、もしタチの悪い妖怪だったらどうする気だ!?」
「そもそもそんな奴に食わせん。ルーミアだったから助けてやっただけだ。まあ、名前は食わせた後に聞いたが…」
「だからって自分の体を何だと思ってる!?治るからといって考えも無しに行動するな!!紅魔館でも私達に言えない位の怪我をしたんじゃないのか!?」
「………」
レヴァンは黙り込む。慧音はその様子を見て更に怒りのボルテージを上げた。
「やっぱりか!!危なくなったら戻れと言ったのを忘れたか!?」
「忘れちゃいない。危ないとは感じなかったから戻らなかっただけだ」
「君の感覚はどうかしているぞ!?自覚しているのか!?」
「……言われるまでもねぇよ」
不穏な空気を感じ取った妹紅が、慧音を一旦落ち着かせようと肩に手を置く。
「落ち着きなよ慧音。レヴァンだって何も考えずに紅魔館へ行った訳じゃないだろうし」
「考えるも何も、対策を前もって練れるほど情報が無かった。だから行ったその場で考えた」
「…聞いただろう妹紅。彼はこういう人間だ」
落ち着かせるどころか、火に油を注ぐ結果になってしまった。
「……こうなったら、博麗の巫女達と相談して、君の行動を制限させてもらう」
「待ってよ慧音!それはいくらなんでも飛躍しすぎだ!」
「どこがだ!彼を野放しにしておいたら絶対にどこかでのたれ死ぬぞ!?それどころか、彼自身が幻想郷に何かしでかす事だって考えられる!例え、本人にその気が無くてもな!」
「…それは…そうだけど…」
「だからまずは、幻想郷の力関係などを学ばせる。勿論、覚え終わるまで不用意に外出はさせない。武器を作るのも禁止だ。幻想郷について1…か……ら……?」
二人の背筋に寒気が走る。慧音は言いかけた言葉を飲み込み、妹紅は恐る恐るレヴァンの方へ振り向く。
眉間にしわを寄せ、口をへの字にして不機嫌そうに慧音を睨みつけているレヴァン。慧音の頭にフラッシュバックしたのは、前の宴会でレヴァンが森近霖之助に詰め寄った後、自分が指差された時の光景。僅かながら敵対心を向けられた、思い出したくもない記憶。
「…ゴチャゴチャとうるせえんだよ、お前」
「……な……あ……!」
低い声で言われた言葉に反論しようと口を開く慧音。だが、言葉が出てこない。
「僕が何をしようとお前には関係ないだろうが…!好き勝手言ってんじゃねえよ、何様だ…?」
初めてかもしれない、ここまで怒りを露わにしたレヴァンを見るのは。
妹紅は静かに成り行きを見守りながらこう思った。
慧音は何か言おうとしているが、口をパクパクさせたままで声が出ていない。
「僕のやる事為す事に一々ケチを付けるな!!」
さっきの慧音に負けない程の怒号が響く。慧音は打ちのめされた様に呆然と立ち尽くし、レヴァンは舌打ちすると奥へ戻っていく。妹紅はしばらくレヴァンと慧音を見ていたが、やがて大きなため息を吐くと、慧音の手を引いて会場へ向かう。
呆然自失の慧音が我に返ったのは、宴会の喧騒が大きくなり始めた時だった。
詰め込み過ぎ感あふれてますね…。次回もお楽しみに。