それではどうぞ!
ようやく周りが静かになって一息ついたレヴァンの肩を何者かが叩いた。やけに叩かれた感触が小さいことに違和感を感じながらも、振り向いたレヴァン。そしてまた驚愕の表情を浮かべた。
「シャンハーイ!」
肩を叩いたのは人間でも妖怪でもなく、浮かんでいる小さな人形。レヴァンが現状を理解できずに固まっていると、人形が大きく手を振りながら何かを伝えようと喋っている。
「シャンハーイ!」
「……すまん、少しフリーズしてしまったようだ。で、僕に何か用か?」
「シャンハーイ!」
「……悪いんだが、君の話している言葉が分からない。分かる言葉で話してもらえるか?宴会に来ている連中の言葉なら通じるから、それで頼む」
「シャンハーイ!」
「………お前、喧嘩売ってる?言っとくが、今は機嫌が良いとは言えないんだ。ボディをバラバラにしてやろうか?」
「シャンハーイ!?」
手と首をブンブン振って否定する人形。その反応を見て考え込んだレヴァンが、何かに気付いた。
「…ひょっとして、それしか喋れないのか?」
「シャンハーイ…」
今度は落ち込む素振りを見せた。つまりは正解のようだ。
「それは悪かったな。しかし、それならどうすれば…?」
「シャンハーイ!」
「…ん?」
人形の意思をどうやって理解するか考えようとすると、人形がレヴァンの服を引っ張りながら反対を指差した。そちらには、魔理沙とパチュリー、そして人形と似た服を着ている少女がこちらに手を振っていた。
「…成程、あっちに行けと?」
「シャンハーイ!!」
力強く頷く人形。レヴァンは人形に引っ張られるように立ち上がり、そのまま魔理沙達の方へ歩いていった。
「…この人形の持ち主は君かな?」
「ええ、そうよ。驚いた?」
「……まあ、割と」
「うふふ、そう」
クスクスと笑う金髪の少女。その後ろでは魔理沙とパチュリーも可笑しそうに笑っていた。
「お前たちも一緒か」
「まあな。それにしても、お前もあんな顔するんだな。霊夢にも見せたかったぜ」
「ええ、レミィ達にもね。きっと笑い転げるでしょうね」
「……退屈しないね、全く…」
うんざりしたように呟いたレヴァンを見て、金髪の少女が苦笑しながら手を差し出した。
「アリス・マーガトロイドよ。さっきは驚かせてごめんなさい。この子は上海っていうの。よろしくね」
「…レヴァン。こちらこそよろしく」
「シャンハーイ!」
「はいはい…お前もよろしくな」
片手でアリスと握手をしながら、もう片方の手の人差し指で上海と握手をした。
「…一体どういう仕組みで動いているんだ、こいつは…?微弱だが霧雨やパチュリーと同じ反応がある。体内に魔力を宿しているのか?」
「いいえ、上海は私の魔力の糸で操ってるのよ」
「ちなみに動かせるのは上海だけじゃないぜ。アリスはもっと沢山人形持っててな、それを使って弾幕ごっこするんだぜ!」
「ほう」
「まあ、貴方は魔力が無くても自由に操れるもの持ってるし、あんまり興味は無いかしら?」
「そんな事は無い」
そう言うと、レヴァンは上海を両手で掴んで掲げた。上海は楽しそうに笑っている。
「シャンハーイ♪」
「こいつは僕にとっても非常に興味深い。魔力を流して動かすなんて事が出来るとはな。しかも、喜怒哀楽の表情まで分かる。僕が幻想郷で見たものの中で一番凄いと言っても過言ではない」
「そ、そう?そこまで褒められると照れちゃう「シャンハーイ!?」ってちょっと!!何してるの!?」
褒められて照れくさそうに笑うアリスだったが、レヴァンがある行動をするのを見て怒りだした。
「何って……外装を剥いで中身を見ようと…」
「なんてことするのよ!?離して!!」
上海の服を脱がそうとしていたレヴァンから無理矢理ひったくり、自分の膝に乗せて乱れた服を直すアリス。魔理沙はジト目でレヴァンを睨み、パチュリーからの視線も冷たくなっていた。
「お前…いくらなんでも今のはねーよ…」
「あなた……もしかしてそういう趣味があったの?」
「おいおい、まさか僕が人形に欲情してるとでも思っているのか?馬鹿馬鹿しい。単に内部構造が見たかっただけだ」
「だからっていきなり脱がせようとするかぁ?まずはアリスに許可取るべきだろ」
「それもそうだな。マーガトロイド、中身見る許可をくれ」
「駄目に決まってるでしょう!?」
顔を真っ赤にして上海を抱きながら怒るアリス。
「そもそも中身なんて言い方しないで!上海は人形だけど女の子なの!繊細なの!扱いに気を付けて頂戴!」
「……そうなのか?」
「シャンハーイ…」
目線を上海に移して聞くと、上海は胸元を腕で隠しながらこくこくと頷いた。
「…そうか、すまなかった。許してくれ」
「…もう、二度とあんな事しないでよね」
素直に頭を下げたレヴァンを見て、アリスもさっきの事を水に流す事にした。アリスの手を離れた上海が、レヴァンの所に飛んでいって頭を撫でる。
「……お前は優しい奴だな」
レヴァンもお返しに、上海の顎の辺りを指の背で優しく撫でる。
「…シャ、シャンハーイ///」
上海は頬を赤く染め、気持ち良さそうに撫でられている。それを見て更に撫で続けるレヴァンは、ふとこんな事を思っていた。
「(しかし喋れないというのは不便だな。持ち主のマーガトロイドなら多分理解してるんだろうが、それにしたって"シャンハイ"だけで意思疏通はどう考えても無理だ。精々、出来て自己紹介程度だろうな。
………いや、待てよ…逆に考えれば、シ、ヤ、ン、ハ、イ、とは喋れるんだ。やりようによっては、もっと喋れるかもしれんぞ。喋る文字を組み替えれば、表現方法のレパートリーも増える。物は試しだ、やってみよう)」
レヴァンは撫でるのを止めて、上海に顔を少し近づけた。
「上海、ちょっと僕と同じように発音してみてくれないか?」
「シャンハーイ?」
「僕の言った言葉を真似して喋ってみてくれって事だ。僕がシャンハイと言ったなら、お前もシャンハイと言うんだ。分かったか?」
「シャンハーイ!」
元気よく返事をした上海を見て、レヴァンは頷く。
「シャ」
「シャ」
「シャー」
「シャー。
「ヤー」
「ヤー…」
「ヤーーー」
「ヤーーー」
「ヤァーー」
「ヤーー…?」
「ヤァーー」
「ヤ、ヤァー…」
「ヤァーー」
「ヤァーー」
「ヤ、アーーー」
「ヤ、ヤァー…?」
「ヤ、アーーー」
「ヤ…ァー…」
「ヤ、アーーー」
「ヤ、アーーー」
「アーーー」
「アーーー」
「アー」
「アー」
「ア」
「ア!」
「ぃよっしゃ!!」
「ィッシャーー!!」
上海は”ア”の発音を覚えた!!
ガッツポーズを二人で決めてはしゃぎ出す!!
「シャンハーイ!!シャンハーイ!!」
「偉いぞ上海!お前は賢い!!」
「シャンハァァァーイ♪」
「よし、もっと教えてやる!やる気はあるな!?」
「ハイ!ハーイ!!」
「グレイトッ!!」
いつになくハイテンションで上海に言葉を教え始める。
一方その頃、アリス達三人は追加の酒とおつまみを補充するために席を立っていた。
「あっという間に無くなっちゃったわね。どこかから料理を分けてもらいましょうか」
「そうね。レミィ達のとこならまだ残ってるかしら」
「んじゃ、私は霊夢んとこ行って酒を貰ってくるぜ!」
「そう。なら私はパチュリーと一緒に行ってくるわ。上海……は、今はそっとしておいた方がいいかしらね?」
「だな。珍しくレヴァンも上機嫌っぽいし。あんな楽しそうなレヴァンを見るの初めてだぜ」
「ふふ、まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供みたいね」
「上海も楽しそうね……良いなぁ」
思わずボソッと呟いたアリスは、顔を瞬時に赤くして口を押えたが既に遅し。魔理沙とパチュリーがニヤニヤしながらアリスを見ている。
「ほほーう、これはこれは…」
「アリス?戻ってきたら今の、『良いなぁ』についてじっくり聞かせてもらうわよ?」
「し、知らない!」
アリスは顔を真っ赤にしたまま早足でその場を離れ、パチュリーも慌ててその後を追う。魔理沙は楽しそうにしているレヴァンと上海を少し眺め、笑いながら霊夢の元へ向かった。
はい、という訳で上海が主役でした!チルノやアリスではありません、上海です!期待していた方はすいません。
そして次回は、上海が更に凄い事になります。