東方奇才伝   作:サンダーボルト

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今回の話は難産です…。うまく書けたかどうか分かりませんが、楽しんでいただければ幸いです。


フラワーマスター・エクスタシー

「ふふ…私と力比べをするつもり?」

 

「………」

 

 

ほぼゼロ距離で睨み合う二人。幽香は余裕そうに笑っているが、レヴァンの顔に余裕は無い。少しでも力を抜けば、あっという間に押し返されてしまう。幻想郷に来て初めて、力押しが通用しない相手と対峙しているのだ。

 

冷や汗が一滴、レヴァンの頬を流れる。幽香はそれを見て目を細めて舌なめずりをする。そしてゆっくりと顔を近づけ……、

 

 

 

 

 

ぺろ。

 

 

 

 

 

舌でなめとった。

 

 

予想外の行動にレヴァンは驚き、体に悪寒が走って力が抜けそうになるが堪える。不快感で顔を歪ませたのを見ると、幽香は愉快そうに更に笑う。

 

 

「うふふふふ……良いわその顔…」

 

「……!!」

 

 

幽香の腕に込められた力が強くなり、徐々にレヴァンは押し負けはじめた。レヴァンは右腕も使って押さえこもうとするが、それでも力負けしている。全体重を掛けて押し返そうとしても、幽香は全く意に介していない。踏ん張った姿勢のままでじりじりと押されていく。

 

 

「…はぁ。あなたの力ってその程度?それでよく、幻想郷を敵に回そうなんて…もがっ」

 

 

残念そうに溜息を吐いて喋り始めた幽香の口を何かが塞ぐ。柔らかい感触のする何かを、幽香は戸惑いながら噛みしめる。すると、口の中に甘ったるい味が広がった。

 

 

…餡子。しかもこしあん。これは饅頭だ。恐らく宴会で用意されていたものだろう。

 

 

もぐもぐと饅頭を困った顔で食べている幽香を見て、今度はレヴァンがニヤニヤ笑っていた。右手に隠し持っていた饅頭を、隙を見て幽香の口に放り込んだのだ。

 

 

「…残念ながら、今、僕ができるのはこれくらいだ」

 

 

ほんの少しだけ、おどけた調子でレヴァンが言った。

 

 

「……どういう事かしら?」

 

 

傘による攻撃を止めた幽香が、凄まじい殺気を込めてレヴァンを睨む。レヴァンはそれに臆せずに、変わらずニヤつきながら続けた。

 

 

「悔しいが、今の僕ではお前に勝つことはできないだろう」

 

「…今の?」

 

 

今、という単語に反応する幽香。

 

 

「まどろっこしいのは嫌いだから、ハッキリと言わせてもらおう。今の僕は訳あって全力で戦えない状態なんだ。だからお前が満足するような戦いはできない」

 

「……」

 

「だから今のところは見逃してもらえないだろうか?」

 

 

幽香は訝しげにレヴァンを観察する。戦いを回避するためのただのハッタリ?…いや、それならば挑発めいた行動をとったりしないだろう。それにこの言い方だと、一時しのぎはできるがいずれは戦わなくてはならなくなる。裏を返せば、全力が出せれば大妖怪とも渡り合えるという事だろうか?

 

 

「随分大きな口を叩くのね。仮にあなたを見逃したとして…私に何か見返りはあるのかしら?」

 

「幻想郷にいたのでは決して味わえない、最高のパーティーを用意しよう」

 

 

幽香は驚いた。目の前の男は、風見幽香が求めているものを理解している。風見幽香は幻想郷でも屈指の実力者。それ故に弱い者には興味を示さず、強者との戦いを好む。しかし、悲しい事に幽香と渡り合える程の妖怪は数少ない。更には、そうした実力者はむやみやたらに戦うことをしないので、幽香は戦いというものに飢えていたのだ。

スペルカードルール…弾幕ごっこが制定されてからは戦う機会も少し増えたが、それでも昔のように血沸き肉躍るような戦いは無く、幽香の飢えは満たされることはなかった。

 

 

そこに舞い込んだ外来人の噂。幻想郷の全員を敵にするとまで断言した男。最初はただの愚か者だと一笑に付した。幻想郷に来た人間は大抵、混乱しておかしな事を言い出すからだ。

 

 

だが、幽香の考えはあっという間に打ち砕かれた。その男は紅魔の屋城に単身で乗り込み、異変解決に貢献したというのだ。そして、とある筋から聞いた情報によれば、あの吸血鬼と殴り合った上に、姉妹の関係の拗れを修復したという。吸血鬼は歴史は浅いが、実力は確かだ。かつて徒党を組んで幻想郷に攻め入った事があり、吸血鬼異変として名を残す事となった。風見幽香も当時、吸血鬼の鎮圧に参加しており、その強さは身を以って理解している。

 

吸血鬼は強いが、弱点も多い。例え博麗の巫女でなくても、しっかりと準備を整えたその道のプロが集まれば退治することは可能だろう。(ヴァンパイアハンターという職業があるのがその証拠)

 

だが果たして、幻想入りしたばかりで碌な装備や情報もなく、しかも一人で乗り込んで赤の他人の姉妹仲を修復できる者がいるのだろうか?博麗の巫女は妖怪退治が仕事であり、妖怪同士のいざこざに割り込むようなことは基本的にしない。例えできたとしても、解決まで導くことができるのだろうか?

 

 

疑惑は期待となり、先程の言葉で確信へと変わった。この男は紛れもない強者だと。

 

自分と相手の戦力差を正しく理解し、敵わないと知った上で真正面から向かってきた。

 

勝つためではなく、自分の力量を相手に見極めさせるために。

 

大妖怪の口に饅頭を放り込むという普通では考えられない悪戯を仕掛け、自分の度胸強さを証明するために。

 

自身の強さを幻想郷に知らしめ、甘く見られないように。

 

 

「…はぁぁぁぁぁぁ……ん……!!!」

 

 

幽香は自分を抱きしめ悶えながら、恍惚に浸った笑いを浮かべた。顔が紅潮して呼吸が荒くなる。獲物を見るような、恋人を見るような熱い視線をレヴァンへと送る。

 

 

「良いわあなた…思っていたよりずっと良い…」

 

「……お、おう。どうも」

 

 

態度が急変した幽香を不気味に思いながら、レヴァンは引き気味に返事をする。やがて興奮が治まり、冷静さを取り戻した幽香がニッコリ笑う。

 

 

「うふふふふ…分かったわ、あなたの準備が整うまで待っていてあげる」

 

 

幽香がレヴァンの隣へ移動し、腕を組んだ。

 

 

「……おい」

 

「エスコートお願いしますわ、旦那様♪」

 

 

笑顔で冗談を言っているが、腕に入った力は萃香に勝るとも劣らない。下手に振り払おうとしようものなら、容赦なく折りにかかるだろう。

 

 

「(……ヤバい奴とヤバい約束してしまった)」

 

 

心の中で後悔しながら、レヴァンは幽香に引きずられるように宴会場へ戻っていった。




次回もよろしくお願いします。
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