東方奇才伝   作:サンダーボルト

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いくら奇才でも、うっかりミスが無い訳じゃありません。狂人も人間ですから。


上海の改造は目の前……しかし、大事な事を見落としていた話です。


奇才の盲点

~レヴァンサイド~

 

 

資金は用意できた。上海の改造プランも既に完成している。さあ、早速改造しよう……とはならなかった。僕としたことが、大事な事を見落としていたのだ。

 

 

 

 

 

「………………材料が無い」

 

 

 

 

 

そう、今度は材料が不足していた。上海の体の分は今あるので足りるのだが、上海を動かす為の動力炉が作れない。それというのも、上海には新しい動力炉である”魔力炉”を搭載しようというプランにしたのだが、それを作るには様々な電子部品が必要……そう、電子部品(・・・・)だ。知っての通り、幻想郷には電化製品が全く普及していない。それに加え、ネジやボルトと言った機械には欠かせない部品すら手に入りにくい。こういう部品まで手作業で用意するとなると、気の遠くなる程に金と時間がかかる。

 

ちなみに魔力炉というのは、魔導手甲のデータを基にアーマーの動力炉と魔力変換器を合わせた物だ。魔導手甲は流れてきたエネルギーを魔力に変えるが、魔力炉は常にエネルギーを魔力に変えた状態で流す。魔力を生み出すのとはちょっと違うんだよな。

 

 

ああ…あと一歩だというのに思わぬ障害だ…。ネジを作るとなると、それ用の金型も必要になるし、そもそもそんな物を置く場所も無い。機械を扱っている河童の河城に頼んでみるか?いや、正確な居場所を知らないから無理か…。

 

 

……そういや、前に香霖堂に行った時にパソコンを見たな。使っている様子は無かったが…あれも拾ってきた物なのだろうか?だとすれば、他にもある可能性があるな。バイトさせてもらえるか聞きに行くついでだ、仕入れも兼ねるとしようかね。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

「……という訳で金と機械部品がいるんだ。働かせてくれないか?」

 

「はは…いきなり来たと思ったら凄い事言うね」

 

 

香霖堂の店主、森近霖之助は苦笑いを浮かべた。まあ確かに身も蓋もない話だな。

 

 

「しかし、取扱説明書か…。たまにそれっぽい物も一緒に落ちているんだけど、字がかすれてたり僕には分からない言葉で書かれてたりしたからなぁ。良いアイディアかもしれないね」

 

「そうだろう?」

 

「でも、うちは利益とかそういうのは重視してないから、君が満足できるような給金は払えないと思うよ?それに君の言ってたパソコンだって使ってはいないけど、珍しい物は僕の個人的なコレクションにしてるから売れないよ?」

 

 

要するに、この商売は趣味みたいなもんなのか…。これでは一時しのぎにはなっても、長期的に稼ぐのには向かないな…。

 

 

「別に構わん。働き口は別のを探せばいい。機械部品も売れるものだけでいいから全部くれ」

 

「ぜ、全部かい!?こりゃまた思い切ったね…。お金は大丈夫なのかい?」

 

「こっちの物価は詳しくは知らないが、多分足りるだろう」

 

 

昨日、急いで作った簡素な財布を取り出し、中身をちらりと森近に見せる。森近は中身を見るなりひどく驚いた様子だ。

 

 

「……こ、これは凄い。よくこんなに手に入ったね」

 

「まあ…多少荒っぽい方法だったがな。安心しろ、法は犯してない」

 

「それを聞いて安心したようなそうでもないような…。まあ、お金の心配がいらないのは分かったよ」

 

 

森近が椅子に深く座り、何かを考えている。

 

 

「……よし、こうしよう。君が取扱説明書を充分な数用意してくれたら、お勘定は半額で良いよ」

 

「…………えっ、マジで?」

 

「ああ。でもそれだけじゃなくて、店番とかもしてもらうけどね。店の利益が上がったなら、ちゃんと給金も出すよ」

 

 

至れり尽くせりな条件だな。願っても無い好条件だ。

 

 

「僕にとってはありがた過ぎる話だな。契約成立だ、森近。よろしく頼む」

 

「こちらこそよろしく。あと、僕の事は霖之助でいいよ」

 

「そうか。なら霖之助、早速かかるぞ。物を出せ」

 

「え、もう始めるのかい?」

 

「どうせ帰ったところでやる事も無いんだ。迷惑なら明日出直すが…」

 

「いやいや、迷惑なんてとんでもない。そういう事なら納得だ。用途が分からない物は奥の部屋に纏めてあるから、先に見ていてくれ。僕は紙と書くものを持ってくるから」

 

「了解した」

 

 

僕は霖之助が指を差した部屋に入る。……少々埃っぽい。見覚えのあるような無いような物が無造作に置かれているな。取りあえず足元にあったカプセルを手に取って観察する。中央にボタンがあり、そこから黒いラインが左右に伸びている。それを境目に赤と白の二色が塗装されているな。

 

……これモンスターボールのおもちゃじゃねえか。確か、投げる動作で捕獲する遊びができるんだっけか。どうせ電池切れだろうから遊べないけど。……いや、別に遊びたいとか思ってないから。

 

めぼしい物ををいくつか抱えてカウンターに戻ると、同じタイミングで霖之助が戻ってきた。

 

 

「これを使ってくれるかい?あ~、それとお客さんはあんまり来ないと思うけど、もし来たら応対を頼んでいいかな?売れるものなら値札が付いてて、それ以外は売れない物だからね。会計の時は呼んでくれ」

 

「ああ」

 

 

霖之助は紙束と鉛筆を僕に渡すと、奥の部屋に引っ込んでしまった。あいつはあいつでやる事があるんだろう。さて、こっちも取り掛かるとしようか。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

「ごめんくださ~い」

 

 

説明書の作成がいくつか終わり、次のを書いている最中に店内に間延びした声が入ってきた。桃色のウェーブがかった髪に、水色を主体にした服、頭に被ったナイトキャップには三角巾が付いている。

 

 

「……確か、西行寺幽々子だったか?」

 

「あら、覚えていてくれたの?嬉しいわ~」

 

 

両手を合わせて微笑む西行寺。何しに来たんだこいつ…。

 

 

「久しぶりだな西行寺。で、何しに来たんだ」

 

「ん~、私は今日は暇で仕方なかったのよ。そうしたら紫が家に来てね、あなたがばいと?っていうのを始めたから、暇なら見に行ったら?って言われたから来たの」

 

「……要するに暇潰しか」

 

「前からここの事は聞いてたから、行ってみたいとは思ってたのよ?」

 

「冷やかしならお断りだ」

 

「もう、愛想が無いわね。ほ~ら、笑って笑って~?」

 

「僕がんな事やったって不気味なだけだ」

 

 

西行寺はニコニコ笑いながら自分の頬を人差し指で突っついている。無駄に可愛いなおい。だが僕はやらないからな。

 

 

「ぶー…からかい甲斐が無いわね…」

 

「あってたまるか、そんなもん。客なら黙ってそこら辺の商品でも見てろ」

 

「そうしようかしら…ここって本はあるの?」

 

「……そこの本棚に腐る程あるぞ。立ち読みは程々にな」

 

「は~い♪」

 

 

ゆらゆら?ふらふら?した歩き方で西行寺は本棚へ向かった。しかし八雲の奴、僕が働いてるのもう知ってるのか。ずっと監視されてんじゃないだろうな?

 

 

「レヴァン、女性の声がしたけどお客さんかい?」

 

「そうだ。そっちはいいのか?」

 

「ああ、ひと段落ついたから休憩をね……驚いた、幽々子が来たのか」

 

 

霖之助が奥の部屋から肩を大きく回しながら出てきた。そして本を一冊手に取って読んでいる西行寺を見ると、少し驚いたような表情をした。

 

 

「どうした、あいつが来たのがそんなに珍しいのか?」

 

「ああ、まあね…。幽々子は冥界っていうちょっと特殊な場所に住んでいるんだ。気軽に出入りできる場所じゃないし、幻想郷の住人の殆どは存在すら知らないと思うよ」

 

「……あいつって霊魂的な何かなの?」

 

「幽冥楼閣の亡霊少女って紫は評していたけど…」

 

「……よもや、亡霊までこの目に収める事になるとはな…」

 

 

どこか遠い目をしながら西行寺を眺める。西行寺は僕の視線に気づくと、笑顔で手を振ってきた。つられて僕も引きつった笑い顔で手を振り返す。……和やか過ぎる。お前みたいな亡霊いるのかよ。

 

 

「お~い、大丈夫かい?疲れたんなら君も休んだらどうだい?」

 

「平気だ。ちょっと現実を受け入れていた」

 

「大丈夫なのかそれは…」

 

 

亡霊なんているなら、そのうち神や悪魔なんてのも出てきそうだな……会いたくねえ。絶対めんどくさい事に巻き込まれるわ。そして、それが八雲の手の平の上……なんてのも容易に想像できるな…。

 

 

「あの、これ頂けます?」

 

 

起こり得る未来を危惧していたら、西行寺がカウンターに一冊の本を持ってきた。手に持った財布から札を一枚取り出して僕に渡す。外の世界の千円札といったところだろうか。

 

 

「悪いがレジは任されてないんだ。霖之助、頼む」

 

「はいはい」

 

 

受け取った金を霖之助に渡す。西行寺が買った本は古ぼけている年代物だな。あれだ、字が筆で書いてあるようなやつ。表紙から察するに伝記のようだな。

 

 

「珍しいお客さんだし、少し安くしておいたよ」

 

「ありがとう」

 

 

そう言って釣り銭を西行寺に渡す霖之助。また来いという事だろうかね…?僕は本を袋に入れようとしたが……レジ袋なんてある訳無いか。

 

 

「おい霖之助、袋無いぞ」

 

「いえ、結構よ」

 

 

西行寺は本を取ると、服の胸の部分を少し開いてそこに本を仕舞った。……ちょっと見えてしまった。頼むから、男の前でそういう事しないでほしいね。霖之助も顔逸らしてるし。あ、僕も逸らせばよかった。

 

僕達の些細な抵抗も知らずに、西行寺はまたゆらふら……もう面倒だから纏めた……した歩き方で出ていこうとする。

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

 

…………?

 

 

 

 

 

 

 

「西行寺」

 

 

僕に呼ばれ、扉に手を掛けたままこちらを振り返る西行寺。

 

 

「なあに?」

 

 

小首を傾げ、笑顔で僕を見る。

 

……僕は言葉に詰まってしまった。僕は何故……西行寺を呼び止めたんだ?

 

答えあぐねている僕を見て、西行寺の表情が疑惑に変わっていく。僕は何とか言葉を見つけ、発した。

 

 

 

「……また会おう」

 

 

ようやく出たのがこの言葉。僕は何を言いたかったんだ?

 

西行寺は少し驚いた表情になり、儚く、静かに、笑った。

 

 

「ええ…また会いましょう、レヴァン」

 

 

西行寺が出ていった後、霖之助が何かを言っていたが覚えていない。僕の初日のアルバイトは、どうにもやりきれない何かを残して幕を閉じた。




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