……それにしても、眠い…。
~レヴァンサイド~
西行寺が香霖堂に来た翌日。まだしこりは残っているものの、気を取り直して仕事に向かう。霖之助からは大丈夫なのかと聞かれたが、心配はいらないと答えた。折角の好意を無駄にはできないからな。
それと、何故だか知らんが今日は博麗と魔理沙がついてきた。理由を聞いたら仕事ぶりを見たいとかなんとか…。正直言って邪魔される予感しかしない。というか、お前ら暇なだけだよな?
「おっす香霖!」
「おはよう、霖之助さん」
「おはよう霖之助。暇人二人ついてきた。邪魔なら叩き出すけど?」
「おはよう。気にしなくていいよ、いつもの事だから。見てもらいたい物はそこに纏めておいたから、見終わったら言ってくれ」
カウンターに大量の小物が置いてある。時間かかりそうだな…アームも使わないと今日中に終わる気がしねえ。適当に物を選んで作業に移る。両手とアーム四本で同時に三つずつの作業か…楽勝だな。僕の仕事ぶりを見て魔理沙が絶句していたが、博麗は慣れたのかリアクション無し。神社の掃除手伝った時、掃き掃除しながら拭き掃除してたからな。早く終わるって喜んでた位だし、こういうのに耐性あるんだろう。
手持無沙汰で店内をうろちょろしている二人だが、霖之助は気にしている様子は無い。ただ黙々と物品を手入れしている。……そういや、こいつも僕を見て何の反応も無いな。やはり幻想郷は変人が多いようだ。
うろちょろするのを止めた二人が、まだ取説書いてない小物を漁りだした。そして魔理沙が手に取った物を僕の眼前へ突き出す。
「なあなあ、これってどう使うんだ?」
「……それを今書いてるんですがねえ…?」
イライラして魔理沙を睨むが、本人はどこ吹く風。それどころか目を輝かせて僕を見つめ続けるもんだから、ついそれを手に取ってしまった。まあ、アームでも仕事はしてるし、ちょっとくらいならいいか。
魔理沙が持っていたのはおどろおどろしい絵が描かれた表紙に紙束が30枚程束ねられた物だった。表紙に書かれている文字は……駄目だ、汚れていて読めんな。だがこれは見た事あるぞ。
「これは昔あったおもちゃだな」
「おもちゃ?」
「ああ。この中の紙の表面を触ってみな」
魔理沙は言われた通りに紙を人差し指でなぞった。すると、少し顔を歪ませてすぐに指を離した。
「な、なんだこりゃ……ベトベトするぜ?」
「それがミソだ。見てな」
僕は紙のベトベトを人差し指と親指に付けて、こすり合わせる。すると指から白い煙が発生し、魔理沙は目を丸くして驚いた。
「おおっ!?煙が出たぜ!?」
「こうやって遊ぶんだよ。煙は吸っても特に害は無かったと思うが…」
「私にもやらせろ!」
魔理沙は僕の注意を無視して遊び始めた。それ一応売り物なんですけど。
「おお~!面白いなこれ!魔法みたいだぜ!」
「やりすぎるなよ?それ商品だって事忘れるなよ」
「分かった分かった!」
……両手に付けたぞこいつ。派手好きだな。すげえ煙出てるぞ。
「ねえ、これって懐中電灯ってやつ?前に同じ物を見た事あるわ」
博麗が手にしたのは確かに懐中電灯だ。だがこれは恐らく…
「こういう道具って電気が必要なんでしょ?なら売れないんじゃない?」
「まあ…そうだね」
「いや、そうでもない」
博麗は懐中電灯のスイッチを入れてみるものの、光は出ない。霖之助もそれを見て博麗の言葉に同意するが、それは早計と言わざるを得ないな。僕を見て困惑している博麗の手から懐中電灯を取り、持ち手の部分を弄ってハンドルを引き出した。
これは手動充電式の懐中電灯だ。ハンドルを回す事で充電ができる。なので回そうとしたが……錆びついてるのか、ギギギ…、という音がして上手く回らない。
「お、おいおい…壊さないでくれよ?」
「分かってる…」
霖之助が心配そうに声をかけてくるが、いらん心配だ。作業中のアームを一組戻し、微弱の熱線砲をハンドルの付け根に浴びせて錆を取る。錆が取れきった所を見計らい、思い切り回して充電した後、スイッチを入れる。
……バッテリーはいかれてなかったようだな。眩い閃光が博麗を照らす。博麗は眩しそうにしながらも驚いているようだな。
「これは電池がいらないタイプの懐中電灯だ。このハンドルを回せば電気が溜まって使えるようになるんだ」
「ほ~、こんなのも外にはあるのか…」
「は~…便利なもんね…」
霖之助と博麗は感心した様子で手回し式懐中電灯を見ている。その後ろでは魔理沙が煙を出して遊んでいる。が、誰も反応しないのが面白くないのか、次第に静かになっていった。どうやらこいつは典型的なかまってちゃんのようだ。いや、単に寂しがりなのか?
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黙々と取説を書いているとドアが開く音がした。どうやら来客のようだ。記念すべき二人目の客だな。客が来なさすぎだろここ。
「店主さん、いらっしゃいますか……レヴァン様!?」
笑顔で挨拶しながらカウンターを見た十六夜が、霖之助ではなく僕がいた事に驚いて声を上げる。
「よう、いらっしゃいませ。何をお探しで?」
「…ええと、新しいティーカップを…それより何故レヴァン様がここに?」
「バイト兼、割引サービスの為」
状況を飲み込めていない十六夜に働いている理由を懇切丁寧に説明すると、納得したように腕を組んで頷いた。
「成程、生活と製作の為ですか…。水臭いですわ、それなら私達紅魔館に相談して下さればよろしいのに…」
「いや、そのうち聞こうとは思ってたんだがな…」
「聞くまでもありませんわ。レミリアお嬢様なら二つ返事で了承して下さると思いますよ?」
「実際に聞いてみんとどうにも言えんだろ。悪いんだがお前から聞いてみてもらえないか?」
「ええ、構いませんよ。なんなら今からでも拠点を紅魔館に移してはいかがでしょうか?働く、働かないに関わらず、住むお部屋ならご用意致しますよ?フランお嬢様の恩人であるレヴァン様がお困りなら、それくらいの事は…」
「何となく恩につけ込んでいるようで気に食わない。申し出はありがたいが断る」
「そうですか…」
何故か残念そうな十六夜。もう少し言葉を選ぶべきだっただろうか。
「なあなあ咲夜!見てみろよこれ!ほら、指から煙が出るんだぜ!」
「あら凄い♪それでレヴァン様、ティーカップを見繕って頂きたいのですが…」
復活した魔理沙を軽くいなして十六夜が僕に聞く。だが、ティーカップなんて洒落た物がここにあるのか?
「霖之助、お客様はティーカップをご所望だ」
「奥の部屋のどこかに埋もれてる筈だから、探してきてくれ」
「……お前、仮にも口付ける物を埃まみれの場所に…」
「埃っぽいだけでまみれてはいないよ。それに食器やカップは袋に入れてあるから平気さ」
「……十六夜、会計九割引きな」
「まあ♪」
「ちょっ、レヴァン!?」
霖之助がなんか叫んだが、知った事か。せめてそういう物は清潔に保つべきだろうが。売る方も買う方もいい気分しないだろう。どうせ利益なんて出さなくてもいいから、思いっきりサービスしてやれ。
袋に包んであるという特徴のおかげであっさり見つかったティーカップを、念のために熱湯消毒してから十六夜へ渡す。十六夜は本当に九割引でいいのか霖之助に視線を送っていたが、僕が霖之助を睨んで承諾させる。十六夜は笑顔でティーカップを受け取ると、お辞儀をして帰ろうと……あっ、やべ。
「十六夜待った。これ持ってけ」
「え?」
そう言って僕は十六夜に小包を渡す。
「…これは?」
「お土産。ティーカップ探すついでに見繕った。ちなみにこれの料金ならちゃんと払うからな?文句は無いだろ?」
「まあ、別に構わないけれど…」
「なら良し。あ、ちゃんと紅魔館の連中全員の分あるから。独り占めすんなよ?」
「……私のも、あるんですか?」
「……ハァ?当たり前だろうが。何言ってんのお前?」
何故十六夜だけ外さなきゃならんのだか…。あ、もしかしてメイドだからか?なんて事を考えていたら、十六夜が僕の渡した小包をギュッと抱きしめた。……えっ、何してんの。
「……ありがとう、大切にするわ。またね」
「…お、おう」
急にタメ口になった事に驚いて、一瞬反応が遅れた隙に十六夜の姿が消えた。恐らく時間を止めたんだろうな。手を振って送り出そうとしたものの、相手がいなくなったのでその手を引っ込める。気付くと博麗と魔理沙がジト目で僕を睨み、霖之助が苦笑いを浮かべていた。だが、特に何か言ってはこなかったので、僕は仕事に戻った。
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結局、それからは客も来ず、魔理沙が人一倍騒ぎ、それを博麗がスルー、霖之助が無視、僕がシカトしながら仕事を片付けて終わりになった。最後あたり魔理沙が涙目だったような気がするが気のせいだろう。
あれだけの数を一日で終わらせた事に、霖之助はひどく驚いていた。約束通り勘定が半額になり、僕は香霖堂にある使えそうな物をありったけ購入して帰った。
これだけあれば充分だな。待ってろよ、上海?
次回は遂に、上海が…?