東方奇才伝   作:サンダーボルト

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上海―Xの表記方法ですが、アリスの上海と一緒に居る時は上海―X、いない時は上海と表記させていただきます。


幻想郷のスキマから(後編)

「チルノちゃん、起きて。もう朝だよ?ほら、ルーミアちゃんも!」

 

「……う~ん…」

 

「うみゅ~…もう少し…」

 

 

ここは霧の湖の近くに建てられているチルノの家。といっても人間が住む家ほど大きくは無く、木の葉や木の枝などの自然の材料で作った簡素なものだ。大妖精とルーミアは昨日、チルノの家に遊びに来てそのまま泊まり込んでいた。朝になって目が覚めた大妖精は、まだ寝ている二人を起こそうとしていた。

 

 

「サルベージだオラァ!!!!!」

 

「シャンハイシャ、シャンハイ!!!!!」

 

「きゃっ!?」

 

「「……ほぇ?」」

 

 

スキマから現れたレヴァンと上海に驚いて大妖精は尻餅をつく。だがチルノは寝ぼけているせいか反応が薄く、ルーミアは一度目をこすって改めてレヴァンを見て、ぱあっと嬉しそうに笑った。

 

 

「レヴァンだ!わーい!」

 

「……えっ、台詞違くね?僕スキマから出てきたんだけど、その反応おかしくね?もっと他に言う事あるだろ?」

 

「言う事?う~ん……」

 

 

一生懸命、真面目な表情で首をひねって考えているルーミア。そして答えが思いついたようで、笑顔で導き出した答えを言った。

 

 

「おはよ~!」

 

「うんそうだな、挨拶は大事だな。お前はそういう奴だよな。ずっと純粋なままでいてくれよ」

 

「?」

 

 

レヴァンの言っている事が分からくてきょとんとするルーミアだが、レヴァンに撫でられると気持ちよさそうに頬を緩めた。

 

 

「…んえ?レヴァン?なんであたいの家にいるの?昨日一緒にいたっけ?」

 

「いねえよ。今来たばかりだ。わざわざこいつを自慢しに来てやったんだから、皆褒めてください」

 

「シャンハーイ!」

 

「わ、お人形さんだ!この子はレヴァンさんが作ったんですか?」

 

「その通りだ大妖精。こいつは上海―Xっていってな、なんと魔力で動いてるんだ。どうだ凄いだろう?」

 

「あたいの名前はチルノ!幻想郷最強のチルノよ!」

 

「バーカバーカ!!」

 

「なっ、あたいはバカじゃないもん!バカって言う方がバカなんだから!」

 

「そーなのかー」

 

「…聞いちゃいねえ」

 

「あはは…」

 

 

早速打ち解けたチルノ達を見ながらレヴァンは呟き、大妖精は困ったように笑う。

 

 

「まあいいや、お前ら朝飯食ったか?」

 

「え?いえ、まだですけど…」

 

「だろうと思ってやってきたのよね。これから紅魔館行って朝飯食おうとしてたんだけど、お前らがここらに住んでたの思い出して、どうせならついでに連れて行こうかと思ってな」

 

 

厚かましいにも程がある話をしながら、レヴァンは紅魔館の方角を指差す。勿論、事前に連絡などしていないアポ無し訪問だ。だが今のレヴァンには、紅魔館側の迷惑を考える思考力は残っていなかった。

 

 

「朝ごはん?行くー!お腹空いたのだー!」

 

「あたいも行く!大ちゃんも行くよね?」

 

「うん…でも大丈夫かな?迷惑じゃないかな…?」

 

「大丈夫だ。行くとかまったく伝えてないけど大丈夫だ」

 

「えっ、それって不味いんじゃ…」

 

「十六夜の料理は美味いぞ。はい三人追加ね、八雲紫」

 

「はいはい…」

 

「わはー♪」

 

 

心配そうな大妖精と、無邪気に笑うチルノとルーミアがまとめてスキマに呑みこまれ、レヴァンと上海もそのスキマに入り込む。向かう先は、まだ主は眠っている紅魔館である…。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

紅魔館の主、レミリア・スカーレットは吸血鬼である。なので本来なら夜行性なのだが、彼女は普通に夜になったら眠りにつく。その理由は明らかになってはいないが、親友であるパチュリー・ノーレッジは、この紅魔館の住人の中で唯一の人間、十六夜咲夜を気遣っているのではないかと予想している。いかに時間を操れても、基本的には人間なのだ。いくら吸血鬼の従者とはいえ、常に昼夜逆転の生活をさせては体に障るかもしれないと考えたレミリアは、ならば自分が人間の生活サイクルに合わせればいいと考えたのだ。

 

無論これはただの予想であり、本当は違うのかもしれない。本当だったなら、これを聞いた咲夜は泣いて喜ぶだろう。

 

しかし理由がどうであれ、今朝ばかりはこれが災難の元になってしまった。

 

 

「おはようお姉様ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「シャンハイシャンシャンハーーーーーーーイ!!!!!」

 

「そーーーーーなのかーーーーー!!!!!」

 

「あーーーーーたいーーーーーー!!!!!」

 

「わ、わーーーーーーー!!!」

 

「ぐふぅっ!!!?」

 

 

豪華なベッドで寝ていたレミリアの真上にスキマが開き、五人が叫びながら落下してきた。レヴァンはベッドの傍らに着地し、他の四人はレミリアに着地した。無防備な状態で子供三人と人形一人を受け止めたレミリアの体は悲鳴を上げたものの、持ち前の再生力ですぐに回復した。

 

 

「な、何よ誰よ!?この私の眠りを妨げる愚か者は……って、レヴァン?え、あなた今お姉様って…」

 

「おいおい何だよ、こんな良いベッド使いやがって羨ましい」

 

「ふかふかなのだ~…」

 

「う~…あたいの家のより気持ちいいな~…。悔しい……でも気持ちいい…」

 

「……ふわぁ~…さっき起きたばっかりなのに、何だか眠いや…」

 

「シャンハーイ…」

 

「おいこらお前達、私の上で寝るとはいい度胸ね?」

 

「朝飯食いに来たけど…なんかもうこのまま寝てもいい気がしてきた…」

 

「ちょっとレヴァン?首謀者っぽいあなたに寝られると、この状況の収集がつかなくなるんだけど?」

 

「おやすみお姉様~…」

 

「起きろぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

寝室にレミリアの怒号が響き渡ると同時に、異変を察知した瀟洒なメイドが現れた。

 

 

「レミリアお嬢様!いかがなされましたか!?」

 

「咲夜…悪いんだけれど、朝食を追加してもらえるかしら?四人……いえ、五人分かしらね」

 

「はあ…それは構いませんが、一体どういった状況なのか理解できないのですが…」

 

「私だって知らないわよ…」

 

 

そう言ってレミリアはベッドにもたれかかっているレヴァンに目を向ける。それに気づいたレヴァンは、気怠そうにしながら説明を始めた。

 

 

「こいつを自慢しに来たついでに飯食いに来た。ちっこい連中はそのおまけ……あっごめん、お前もちっこかったな」

 

「ねえ、謝られる意味が分からないんだけれど?喧嘩売ってるのかしら?」

 

「おいお前ら、飯をご馳走になるんだ、運ぶ手伝いくらいするぞ」

 

「「「はーい!」」」

 

「え!?お客様にそのような事をしてもらう訳にはいきません!あの、レヴァン様!?お待ちください!」

 

 

レヴァンを筆頭に部屋から出ていったチルノ達と、それを慌てて追いかける咲夜。部屋には呆然としているレミリアと、彼女を慰めるように肩に手を置く上海、そしてスキマからにゅっと上半身を出した紫が残された。

 

 

「ありがとうレミリア…私の分も用意してくれて…」

 

「フン、もののついでよ。あんたには聞きたい事もあったしね…」

 

「……レヴァンの事、かしら?」

 

「それ以外のあんたの話なんて興味無いわ」

 

「ひどいわ…」

 

 

およよよ…と、わざとらしく目元を拭う仕草をする紫に、レミリアは呆れながらも着替えようとする。それを察知した上海は、紫をスキマから引きずり出して部屋を出ようとする。…紫を引きずりながら。

 

 

「シャンハーイ!」

 

「痛い痛い!この子見た目より力が強いわね!?じ、自分で歩けるから離して!?」

 

「あははははっ!良いわねあなた!さっさとそのスキマ妖怪を片付けて頂戴!」

 

「ハイハイサー!!」

 

「いや、だから自分で歩けるって…きゃあ!?」

 

 

レミリアの声援を受けて張り切った上海は、紫をおぶって一気に飛んでいった。紫の悲鳴を聞いてひとしきり笑ったレミリアは、改めていつもの服に着替える。ナイトキャップを被り、いざ食堂へ行こうとしたレミリアだが、ふとその足が止まった。

 

 

「……あ、そうだ…」

 

 

ベッドのすぐ横のテーブルの上に置かれた、お洒落な装飾が施された小さな箱。それを開けると、中にはいくつかの小物が入っていた。フランが地下室から出てきた記念に、紅魔館の皆で撮った写真が入っているペンダント。パチュリーが錬金術で作った蝙蝠型のクリスタル。美鈴が日頃の感謝だと言ってプレゼントしてくれた、虹色のリストバンド。他にも、レミリアにとって大切な物がこの中に入っている。

 

この小さな宝箱の中から、レミリアは紅いヘアゴムを取り出した。これはこの前、咲夜が香霖堂に行った時にレヴァンから渡されたお土産である。レミリアは鼻歌まじりに、自分の髪を二つ結びにちょこんとまとめた。

 

 

「……えへへ」

 

 

少し頬が赤くなり、嬉しそうにおさげを指に絡めながら、レミリアは足取り軽く食堂へ向かった。




次回は紅魔館での食事と、紫がレヴァンをさらった理由……が分かるかもしれません。
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