取りあえず、折角付いた評価を下げないように頑張りたいです。
~レミリアサイド~
……私は、馬鹿だ。八雲紫に対してつまらない対抗心なんかを燃やして、どうにか言い負かしてやろうと考えて、挙げ句に口から出てきたのは私の恩人が侵略者かもしれないという言葉。
本気で言ったんじゃない。レヴァンは無愛想だし口は悪いけど、人を思いやる心をもった人間だ。人どころか吸血鬼を、私の妹を助けてくれたんだ。恩人である彼を自分勝手な理由で侮辱した私を、八雲紫は威圧感を放ちながら軽蔑した目付きで睨んでいる。私と私の同胞を貶す言葉が飛んでくる。怒りが沸々と湧き上がるが、自責の念と紫の怒気に呑まれて何も言う事が出来ない。
……いや、言う資格など無いのだ。幻想郷に攻め入った頃の私は、他者の尊厳を踏みにじる事を何とも思っていなかった。世界で一番偉いのは私だとでもいうように、傍若無人な振る舞いをしていた。
でも八雲紫に負けて、自分の小ささを思い知った私は変わろうと決意した。勝負を挑んできた美鈴を倒して紅魔館の門番として雇い、自分の魔法に磨きをかける過程でパチェと知り合い親友になり、『運命を操る程度の能力』の作用によって頭に浮かんだ場所へ行って、幼きながら素質のあった咲夜を拾い、前と比べて私も随分変わったと思っていた。しかし、それは勘違いだった。
私の本質は変わっていなかった。妹のフランをずっと閉じ込めたまま過ごしてきたし、今だって私の尊厳の為に恩人を辱めてしまった。紫に言われてそれをどうしようもなく自覚してしまい、思わず泣きそうになってしまう。
駄目だ、泣くな。咲夜に、パチェも見ているんだ。これでも紅魔館の主なんだ。彼女達の前で情けない姿を見せてなるものか。小さなプライドだけど、それすら守れないなら、私は主を名乗る事はできない。
「…成程、だから僕を呼んだのか」
――――必死に涙を堪える私の耳に、寝ている筈の男の声が聞こえた。
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「……起きたの?」
「あんなどぎつい空気の中で寝てられるほど呑気じゃねえよ」
肩をぐるぐる回してほぐしながら紫達を見ているレヴァン。レミリアは潤んだ目を急いで拭って普段通りの顔に戻った。
「……それよりも、今の言葉はどういう事かしら?」
「ハッ、とぼけなさんな。お前、こういう事態を解決させる為に僕を連れてきたんだろ」
紫が訊くと、レヴァンは鼻で笑いながら自信満々に答えた。レミリア達三人は、訳が分からないという表情をしている。
「基本的にお前や博麗は、人間同士や妖怪同士のいざこざに首を突っこまない…いや突っこめないと言った方が正しいかね。何でもかんでも出張って解決してたら、お前達に頼り切りの世界になっちまう。だから異変……幻想郷全域を巻き込むような規模の事件が起きた時だけ、博麗の巫女やお前の出番ってわけだ。
だけどお前は管轄外の連中も助けたかった。しかし幻想郷にはそういう人材はいなかった。だから僕を連れてきたんだろう?人間とも妖怪とも戦える僕を」
全員が紫の顔色を窺っているが、当人は涼しい顔でレヴァンの話を聞いている。傍から見れば、見当外れな話を聞き流しているように見えるだろう。事実レミリア達もそうだと思っている。ただ一人、レヴァンだけは確信していた。表面上は何ら変化していない彼女の内心が揺さぶられている事を。してやったり、とニヤリと笑い、レヴァンは更に話を続ける。
「口ぶりからするに、フランドールの事も知ってたんだろう?そしてこいつらの紅い霧の計画の事もな。お前はこれを利用して、二つの問題を同時に解決させた」
「二つ?」
「ああ。一つはスペルカードルールを幻想郷に広める事。もう一つはフランドールの問題の解決だ」
レヴァンの方を見て訊いたレミリアが勢いよく紫の方へ向き直った。紫は少し気まずそうに眼を逸らす。
「新しくスペルカードルールを考案したところで、所詮は数ある決闘方法の一つに過ぎん。実際にやってる奴も少なかったんだろう。多くの人間や妖怪にやらせるには何か強烈な起爆剤が必要だった。だから異変を弾幕ごっこで解決させる事によって、スペルカードルールの存在を広めようとしたんだろう。本来一般人である筈の魔理沙が異変解決に行くのを黙認してるのも、そこらへんが理由だろう?」
魔理沙は霊夢とは違い、異変を解決する役目は無い。ただ魔法が使えるだけの普通の少女なのだ。異変解決は博麗の巫女の仕事であり、本来なら魔理沙が介入する事は許されない。しかし、魔理沙は弾幕ごっこをこよなく愛していた。普通の少女だからこそ、この美しい決闘方法に魅せられたのである。魔法を駆使して綺麗な弾幕やスペルカードを編み出した魔理沙は、幻想郷にスペルカードルールを広めたい紫達にとっては貴重な存在であった。
「弾幕ごっこが大好きで、しかも戦える。こんな奴はそうそういない。魔理沙を解決役として使う事で、少しでもスペルカードルールを広めたかった。……まあ、そう上手くはいかなかったようだがな」
「……狂気異変ね」
ここでパチュリーが口を挟む。狂気異変の名が出た瞬間、紫の表情が悔しそうに歪んだ。
「お前、それ知ってたの?引きこもりなのに?」
「異変の情報くらい普通に入ってくるわよ。どこかの鴉が勝手に落とす新聞とかね…」
「ああ成程…まあお察しの通り、その狂気異変ってのがヤバかった。本当なら弾幕ごっこで解決したかったんだろうが…博麗も魔理沙もそんな余裕は無かった。狂った妖怪どもは弾幕など使わないで本気で殺しにきていたからな。そんなのにスペルカードルールで挑んでられなかったんだろう」
スペルカードルールは双方が了承しないと使えない。たとえ人間側の霊夢や魔理沙が弾幕ごっこをやる気でも、妖怪側にその意思が無ければ成立しないのだ。狂気異変の場合は、元々スペルカードルールを理解出来る程の知能を持ち合わせていない妖怪がこぞって狂暴化して人里に襲来。弾幕ごっこどころではなかったのだ。
「……ちょっと待ちなさい。何故あなたが狂気異変について知っているの?」
「あれ、言ってなかったっけ?僕一回そん時に幻想郷に来たんだけど」
「……初耳よ」
「そうだったか…まあいいや。兎に角スペルカードルールを大きく広めようとするのに失敗。起死回生の為に次に目を付けたのが紅霧異変ってわけだ」
大事な事を教えてもらえていなかった事に不満げなパチュリーだが、話の続きが気になるので追及はしなかった。
「紅霧異変の計画を知ったお前は、僕を誘拐同然で幻想郷に連れてきた。理由なんかはすっとぼけて誤魔化してな。本当ならお前が唆して僕を異変解決に駆り出すつもりだったんだろうが、幸いにも紅魔館の連中が自分から挑発してきた」
「待って!どうして紫はレヴァンを異変解決に行かせようとするのよ!?」
「さっき言っただろう。フランドールをどうにかするためだよ。妖怪同士の問題だから博麗はノータッチだろうしな」
「しかし、フランお嬢様は地下にいらっしゃいます。異変解決に来たからといって、お会いになるかは分からないのではないでしょうか…?」
「異変解決と同時にやる必要は無いだろ。異変中に会えなかったとしても、異変が終わった後にでもレミリア辺りが相談に来ると踏んだんじゃねえの?」
「……どうして八雲紫がフランの為にそこまでするのよ?」
「元々どうにかしてやりたかったってのもあるだろうが、一番はスペルカードルールを広めるチャンスをくれた事に対するお礼だろうな。もっとも、僕の予想に過ぎないが…」
ここでレヴァンが紫を見る。やはり飄々とした表情であったが、レヴァンは何かを読み取ったらしくニヤニヤし始めた。
「……でも、レヴァンが来る前に霊夢が異変が解決する可能性は無かったの?そうなれば、私達とレヴァンが出会う事は無かったし…」
「はは、笑えるジョークだな。あいつが?紅い霧が出始めても催促されるまで動かなかったあいつが?」
レヴァンの答えを聞いて、レミリアは思わず苦笑いを浮かべた。あのぐうたら具合まで計算の内だったというのか。
「なら逆に、あなたが異変を解決しちゃったらどうするの?あなたとまともに戦えば、レミィは負けてたでしょうし」
「えっ、パチェ!?」
まさかの親友から自分が負けると宣言され、軽いショックを受けたレミリア。レヴァンはレミリアを気にする事無く答える。
「そうだな、僕は美鈴も咲夜もパチュリーも倒したし、フランドールも一歩手前のとこまで持っていったな。で?紅霧異変を解決したのは誰って事になってる?」
「……霊夢、ね」
「そういうこった」
異変解決は博麗の巫女がした事にした方が都合が良い。が、それ以前にレヴァンは異変解決の名声に興味が無かった。紫はそれすら見越していたのだ。
「博麗が解決すればそれで良し。僕でもそれはそれで良し。万事解決さ。見事としか言いようがないな」
「……あはははははは!!」
レヴァンがそう言うと、今まで沈黙を保っていた紫がいきなり笑い出した。
「あっははははは!!!よく、そんな世迷言を自信たっぷりに言えるわね…!はーおかしー…!」
「……やっぱ図星か」
「あはは……聞こえてなかったのかしら…?そんなのあなたの妄想に過ぎないのよ」
「嘘乙」
「私が吸血鬼の為に?わざわざそんな面倒な事する筈がないじゃない」
「そういう奴じゃん、お前」
「…人間の分際で、あまり調子に乗らないで」
「とってつけたように凄むなよ、可愛い奴め」
紫が先程と同じように威圧感を放つも、レヴァンはまるで萎縮していない。それどころかいつもよりもフレンドリーとさえ思える。
「紫……今の話は本当なの…?」
「……」
「……答えてよ…」
威圧感に内心怯えながら、レミリアが意を決して紫に直接問いただす。紫の表情は先程と違って険しい。しかし引く姿勢を見せないレミリアの視線を受け続け、紫はそっぽを向いて小さく呟いた。
「……彼と私、どっちの話が信用できる?」
「……!!」
「……そういう事よ」
少し頬を赤く染めて、紫はレミリアから逃げるように立ち上がった。
「悪いけれど、もうお暇させてもらうわ。レヴァン、帰りは歩いてね。道中、妖怪に食べられないように気を付けることね」
「あいよ」
刺々しい言葉と恨みがましい視線をレヴァンに送った後、紫はスキマを作り出して中に入ろうと片手を突っ込んだ。
「八雲紫」
レヴァンが名前を呼ぶ。紫は入ろうとした姿勢のまま立ち止まった。
「……何よ」
「僕としては、お前の手の平の上で踊ってやるのも悪くないと思ってる」
紫は弾かれたようにレヴァンへ顔を向ける。その場にいた全員が、思いがけないレヴァンの言葉に耳を疑った。
「だから、お前もちょっとは本音をさらけ出してもらえると嬉しいんだがね」
口元を僅かに緩ませて続いた言葉に紫の頬は紅潮していく。
「……し、知らないっ!!」
怒りか羞恥か、はたまた喜びか、紫は衝動的に叫んでスキマへ逃げていった。唖然とするレミリア達をよそにケラケラと笑ったレヴァンは、掛けてあった毛布を畳んで咲夜に渡した。
「いきなり押しかけて悪かったな。僕も帰らせてもらう。あいつらとくれぐれも仲良くしてやってくれ。……起きろ上海。もう帰るぞ」
「……シャ、シャンハーイ…」
あいつらとはチルノ達の事を指すのだろう。肩で眠ったままの上海を起こし、立ち上がったレヴァンは帰ろうと扉に向かう。
「あ、ま、待って!」
急いでレミリアが帰ろうとするレヴァンを止めた。
「どうして……どうして紫の事をそんなに知っているの!?紫の言葉が嘘か本当か分かるの!?」
妖怪の賢者、八雲紫。レミリアでさえ計り知れない存在のこの大妖怪の心境を、外来人で付き合いも間もないであろうレヴァンが当たり前のように言い当てた。レミリアにはそれが信じられなかった。レヴァンは言って良いものか一瞬悩んだが、すぐにレミリアの疑問に答えた。
「あいつは胡散臭さを出来うる限り凝縮したような奴だが、僕はあいつの本心が出た時の顔を知ってる。だから、その顔以外の時のあいつの言葉は全て嘘だと思ってる。ただそれだけだよ」
事もなげに言うと、レヴァンは片手をヒラヒラと振って扉から出ていった。本日何度目になるか分からない衝撃を受けたレミリア達は暫くの間、ただ呆然と立ち尽くしていた。
紫も可愛く書いていきたいと思っています。というかもう全員可愛く書きたいです。
感想はいつでもお待ちしております。
次回もよろしくお願いします。