午前十時より少し早い時間帯。人里の入り口の門に上白沢慧音は背を預けていた。特にめかしこんでいる訳でもなく、いつもの服装で特に化粧もしていない。親友である妹紅に少しはお洒落していけとせがまれたが、頑なに拒否したのだ。あまり気合を入れてしまうと、デートだという自覚ができてしまって恥ずかしくなるからである。
「……そういえば、彼はどうやって来るつもりなのだろうか」
待ち合わせ場所を特に決めていなかったので、とりあえず人里の入り口で待っていた慧音。ほんのり顔を赤らめながら空を見ていると、幻想郷では聞きなれないエンジン音が微かに聞こえてきた。そして空に小さな黒点を見つけたと思えば、それが段々と大きくなる。否、近づいてくる。
キィーーーーン、という甲高い飛行音と共に、ジェットパックを装着したレヴァンが慧音の元へと急降下する。地面が近くなったところで減速し、頭から飛び込む姿勢から直立へと体勢を整えて着地した。
「やあ上白沢、待たせたな」
「……いや、今来たところさ」
発生した衝撃波に帽子とスカートを押さえながら慧音がお約束の台詞を答える。レヴァンの体を覆う黒光りする装甲を物珍しそうに眺める慧音が、ふと疑問に思った事を訊いた。
「まさか、このまま人里に入る気か?」
「んなわけないだろ」
カシャン、カシャン、と装甲が外れて背中へと戻り、ジェットパックは元の小さな戦闘機のような姿になって空へ飛んでいった。それを唖然として見ていた慧音の顔の前で、レヴァンが手を振って正気に戻させる。
「おーい、行かないのか?」
「……はっ!す、すまない。見慣れない光景だったからついな…。さて、行こうか」
「おう」
正気に戻った慧音が先導して門をくぐり、レヴァンもそれに続く形で人里へと入った。
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道行く人が肩を並べて歩く二人の人物に目を向ける。人里の守護者である上白沢慧音と、外来人レヴァン。この珍しい組み合わせはかなり多くの人目を引いていた。慧音はどうも落ち着かずにそわそわし、逆にレヴァンは平然と歩く。このままではいけないと覚り、慧音が話題を切り出した。
「さ、最初はどこから見ていこうか?見たい場所とかはあるのか?」
「……あ、じゃあここで…」
レヴァンは慧音に数枚の紙を渡した。
「ん?これは?」
「いやな、土地と家を買おうと思って知り合いに調べてもらったんだが、やはり実際に見てみたいと思ってな」
「……は!?家!?」
突然のカミングアウトに慧音が絶句する。
「い、家って……誰かと住むのか…?」
「いや、一人だが…。ホームカプセルのままだと出来ない事も多いからな。どうせしばらくは帰れそうにないし、どっかに拠点を作っておきたいんだよ」
「あ、ああ…そういう事か…」
誰かと一緒に住むわけではないと知って胸を撫で下ろし、何故ホッとしたのか自分の心境に疑問をもった慧音だったが、取りあえずはレヴァンの要求に答える事にしようと切り替える。資料に一通り目を通した慧音は渋い顔をし、少し重い声でレヴァンに告げた。
「確かに安い物件ではあるが、あまりオススメできないな…。どれも人里の外れの位置に属している。妖怪に襲われる危険が多いんだよ…」
「それは分かっているが、安いんならそれくらい目をつぶっても良い」
またも自分を危険に晒すような事をしようとしているレヴァンに対し、頭に血が上って怒鳴りそうになったが、前もこれが原因で揉めたのでどうにか抑える。
「まあ、すぐに決める事でもないだろう。家が欲しいなら私も調べておくから、それを見てからでも遅くはないんじゃないか?」
「……いいのか?」
「なに、大した手間でもないし構わないさ」
「……すまんな」
素直にお礼を言ったレヴァンに慧音は微笑みを返す。根は悪い人間ではないのだから、ちゃんと話せば理解してくれるし譲歩もしてくれる。慣れない土地で焦りもあるのかもしれない。少しずつレヴァンを分かってきた慧音は嬉しく思いつつ、渡された資料の中で比較的近い場所を選んで下見へ行った。
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「……思ったよりボロかった」
「ははは……」
下見を終えたレヴァンは落胆を隠せなかった。家の状態が想像していたものより酷かったのだ。人里の中心から離れているせいなのか、掃除があまり行き届いておらず、あちらこちらに爪か何かを研いだような傷跡が残っていた。頻繁に人が訪れていないらしい。現代ではあまり見られないことである。
「あの有様なら、もう建て替えた方がいい気がするな……どうせなら地下室とか作ってみっかな…」
「ま、まあ良いじゃないか。じっくり考える時間ができたと思えば」
「そうだな…」
慧音のフォローに強引に納得して相槌を打つ。不機嫌そうに歩くレヴァンだったが、ふと立ち止まって後ろを見る。人ごみの中から何かを探すように目を細めていると、慧音が声をかけてきた。
「…どうかしたのか?」
「……いいや。気のせいだったようだ」
何も見つけられなかったようで、レヴァンは人ごみを見るのを止めて再び歩きだした。またお互いに無言になって歩いていると、向こうから着物を羽織ってスカートをはいたセミロングの少女が手を振りながら近づいてきた。
「こんにちは、慧音さん!」
「おお、阿求殿。こんにちは」
にこやかに挨拶を交わす慧音とセミロングの少女。レヴァンが慧音に誰だ?と視線を送ると、慧音は彼女の紹介を始める。
「レヴァン、紹介しよう。彼女は稗田阿求殿といって、この人里の名家である稗田家の当主殿なんだ」
「初めまして、稗田阿求と申します。あなたがレヴァンさんですね?お噂は伺っております」
「どうも…」
どうせ碌な噂ではないんだろうな、と若干滅入った気持ちになりながらもレヴァンは阿求と握手を交わした。
「阿求殿、どちらかに行かれる途中でしたか?」
「あ、はい。借りていた資料を返しに、鈴奈庵へ」
「そうでしたか。レヴァン、鈴奈庵というのは人里の貸本屋でな、主に外から流れ着いた外来本を取り扱っているんだ」
「へえ…霖之助以外にもそういう商売してる奴がいたのか」
「もしかしたら、君の知っている本があるかもしれないぞ。行ってみるか?」
「……そうだな」
「決まりだな。阿求殿、ご迷惑でなければご一緒させてもらっても?」
「迷惑だなんてとんでもない!私もレヴァンさんのお話を聞いてみたいと思っていましたから」
「話す事なんて無いが…」
「心配するな、私が君の代わりに君の武勇伝を阿求殿に伝えてあげよう」
「武勇伝?」
「勘弁してくれ…」
鈴奈庵へと向かう道すがら、阿求は慧音からレヴァンが幻想郷に来てからの事を余すことなく聞いていた。特に気になったのは妖怪と渡り合ったテンプルアーマーの存在。話を聞き終わった阿求は、幻想郷に新しく現れた勢力に対して興奮に似た感情を抱くとともに、レヴァンとテンプルアーマーを自身が書いている書物である幻想郷縁起に記すべきかどうか悩んでいた。
阿求が話を聞いてみて感じたのは、レヴァンが自身の存在を大きく広められるのを嫌っているという事。自分の技術が他人に悪用されるのを防ぐためだと言われれば、それなりに多くの人間が読む幻想郷縁起に記すのはためらわれる。しかし、異変解決や妖怪退治等、人里にとっては見逃せない程に貢献しているのも事実なのだ。未知の存在に対する好奇心や探求心もあり、はっきりとどちらかに決められずに阿求はもやもやしていた。そうしているうちに鈴奈庵に着いてしまったので、阿求はこの事はひとまず保留しておくことにした。ある意味、それよりも面白いネタが目の前にあるのだから…。
またまたロリが増えそうな予感…。