「こんにちは。私はアスター、この宇宙ステーションの所長を務めているの」
「俺はアーラン、お嬢様の使い走りだ」
色が薄い、だけど見えている。
「……私は」
手が″在る″
「あぁ、気にしないで。名前はまだわかってないはずだから」
少女が私の瞼を掴み、手に持った明かりで眼孔を照らす。
すこしだけ世界が明るくなり……また色が消えていく。
「……なぜ、存在している?」
疑問だ、私は……私はなんだ?
「あぁ……えーと、貴方は事件に巻き込まれて……」
少女が人差し指を頬に差し、考え込んだ様子を見せる。
「事件?」
「あぁ、この宇宙ステーション・ヘルタに壊滅の軍勢が攻め込んだ時にお前がみんなを守って……その時に気絶したんだ」
「だから、記憶とか名前は攻め込まれたアーカイブから引き出すまでわからないけど、とりあえずはありがとう? っていうこと」
理解ができない。
そんな記憶は存在しない。
「……守った?」
何故だ?
「そう、みんなを……」
何故?
何故……
『″皆、凡て消え果てるのに″』
「……!」
恐怖を浮かべる少女の前に、剣士が立ちふさがる。
「お嬢様!」
何故だ。
『″埋火、還ることはない″』
言葉とともに、指が伸びる
あの子の方へ。
「貴様……!!」
切先が首元に触れる、感じている。
「は、話を聞いて!」
……なんだ、それは
聞く、それはなんだっただろうか
「聞く、聞く……ああ、これか」
理解した、私は二人の声を聴くことにした。
「……なんだったんだ、今のは」
「……わからない。ただ、そう囁かれている。そうだ……囁きだ」
問いかけに答える、それが理由だから。
「……ミスヘルタ。……事態は、思ったより深刻そうよ」
少女が、胸元でこぶしを握り、そう呟いた。
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「正直に話そうか」
関節が人間のそれではない少女と狭い部屋に閉じ込められた。
「……私の事か」
「うん、貴方みたいな存在には……ちょっとショッキングな事を言えば、厳密には存在ではないけれど」
その言葉に、私は反証した。
「……だが、存在している」
「そう、貴方は存在していた誰かが至上の存在に足を踏み入れてしまったなれの果て」
「至上……あぁ、あの大洞のことか」
あれの事なら知っている、嫌なほど溶け合っていた
「憶えてるの?」
「わからない、ただ……誰かを見た、だが存在しない」
刀、女、光の環。
「……そう、大体自分のことは理解しているみたいだね」
「無意味だ、私は──」
呟く言葉に、彼女が殴りつける。
痛みを感じた。
「残念だけど、まだ消えてもらうわけにはいかないから、存在してもらうよ」
上目遣いで怒る彼女に体をくっつけられる
「何故だ」
「
「自己言及による存在維持、まずはそこからね」
彼女が体を離し、私の頭に軽く指を指す。
「……わかった、私はお前たちの要請のために、存在を試みる」
無意味だ、だけれど
「上手ね、じゃあ自己紹介をしようか。私はヘルタ、貴方を実験材料として管理する─────今は、リモートで動作する人形だよ」
だけれど、必要とされるのなら、そうしよう。
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それからのことは、この手記に書き記すこととする。
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1日目、私のことを知った。
わたしは、自滅者というらしい
端的に言えば。
ある神の視線を受け、存在の意味を失った……はずだった
理由は不明だ(私は、その意味を知ろうとは思わない)が、その神の力を利用し、この世に戻ってきた。
時代を、或いは空間を超越し、この宇宙に彷徨う塵として
アスターという少女が。便宜上、私に名前を付けてくれた
私は
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二日目、
護身用、というものらしい
左腕に取り付ける装置で、私の意思(そんなものは存在しない)に応じて攻撃と防御を行うらしい、何も反応しなかった
アーランは安心したのか困ったのか、よくわからない顔をして帰った。
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三日目、意識が薄れていた。
人形のヘルタが私に薬剤を投与し、自我(存在しない)を安定させた
勝手に消えることは許さない、と怒っていた
次からは、消えないように気を付ける
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四日目、ステーションの人々が私に気付いた。
私は特別、隔離されているらしい
目を付けた職員は減給されていた、次からは気付かれないように……それはだめだとヘルタに怒られた。
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五日目、私は歩くという動作を与えられた。
思い出したのだ。とアーランは言うが、私に思い出せるほどの過去があったとは思えない。
……きっと。人はみな、言われずとも立ち上がるのだろう。
すこし、存在の安定を認識した
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六日目、私は世界を教えられた
星々を紡ぐ神々。その道を行く人々。
私を、
あれは……
私はあの中に落ちて、そして零れ落ちた。
ヘルタが歩む道は
もし、真に全知がいるのならば……私の疑問に答えを返してくれるのだろうか
存在がゆらいだ気がした。だから、このことは忘れることにしよう。
どうやら、私は忘れるのが得意らしい。
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七日目、休日というらしい。
休むとはなにか。と問うと、アスターはアーランと一緒にステーションを遊び歩こう、と言った。
ステーションを渡ると、道端で端末を操作したり、食事を売っている人々を見かけた。
働かない、と言う日ならば、なぜ彼らは働いているのだろう?
そう聞く私に、アスターは苦い顔をしてそういう人もいるのだと教えてくれた。
そういうものだろうか。
代わりに別の日に休んでいるのだと、人々は支え合っているから生きていけるのだと。
……私は、なぜ存在できているのだろう。
誰も支えていない私が。
この疑問も、書き記したら忘れることにしよう。
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八日目、仕事を与えられた。
ステーションに入ってくる物資を確認する、簡単な作業だとヘルタは言ったが。
……あの無限に回るコマを見た時、頭の中がぐちゃぐちゃになった気がした。
ヘルタは嘘つきだ。
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九日目、戦闘訓練をしろと言われた。
アーランからもらったあの機械……パンクロードIIというらしい
ターゲットが飛び出てきた。
狙って撃つと、標的が消滅した。
アーランが怖い顔で、「人には撃つなよ」。と言われた
これは人に撃つものではない、そう答えた。
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十日目、私の研究は終了した。