虚宙、駸々   作:スワンプ2

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アスターの手記

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初めてあの人を見た時、自滅者とは聞いていたよりもしっかりと人の形をしているのだな。と思った

 

金色に輝く髪が目について、でも生きているとは思えなかった

息をしていない、培養液につけられた死体……ちょっと違うかも?

死体と言うよりは、標本に近かった

 

それが目を覚ましてアーランと会いに行ったとき、とても怖い思いをしたけど……それが彼の本質ではない、と思う。

 

どこかに自分自身を置いてきたというのが尤もらしい表現。

 

アーランは危険だからしばらく私にはかかわるな、と釘をさしてきた。

 

確かに、少し危うさを感じるけど……そこまで警戒することはないと思った

 

だって。私が話を聞いてほしいと言ったら──。

あの人は確かに、無理をして自分を押し戻したから。

 

 

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自滅者。仮称9号のことは、アイマっていう名前にしたの

 

九番目のアルファベット、それと、自分自身って言う意味。

 

名前を付けることは特別なことだと思う。

 

少なくとも、誰かにつけてもらった名前があって、誰かにそれを教えてもらうということは

自分自身が、誰かに存在させてもらっているという証だ。

 

もし彼が自分の過去を思い出した時には捨ててしまうのかもしれないけど

覚えていてほしいなと、願った。

 

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アーランがミスヘルタから奇物をもらったらしい、アイマに渡すための特殊な調整を施した物だって

自我と自分の状況に対する理解を持った自滅者は稀だとは聞いていたが、あの人がそんなにも入れ込むものだろうか?

天才の考えることはわからない。

でも、ミスヘルタは少なくとも人間を大切に思っている

だからきっと。アイマもミスヘルタと同じように誰かとちょっと違うだけの、──人間なんだと

 

そう思った。

 

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アイマが目覚めてから三日目。

まさか、もう一度消えてしまうところだったと聞いて驚いた。

 

消えかけている存在の中、彼は花を掴んでいたらしい。

それが彼をこの世界に繋ぎとめていた楔なのだと、ミスヘルタが教えてくれた

 

アスター、私と同じ名前の花。

アーランに頼んで、彼の枕元に置いていた見舞いの花だった。

それが、私はなぜかうれしかった

 

取り替えた花を、アーランが栞にしてくれた

茎の部分が歪に曲がっている

それがどこか、愛くるしかった。

あの天才が人々に向けるのも、同じものなのだろうか?

 

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確かに少しおざなりな管理だったかもしれないけど、あそこまで怒らなくてもいいじゃない

ステーションにいる自滅者はアイマだけだし、連鎖して消えて行くなんてことは起こらないじゃない?

とりあえず、嗅ぎまわっていた職員たちは減給することにした。

 

アイマ自身に隠れるように伝えてはだめだとミスヘルタに言われた

なおの事、どうすればいいものかと頭を悩ませる。

天才の言うことはやっぱりよくわからない。

 

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今日はアイマに歩行トレーニングを実行。

 

アーランが肩を掴んで一緒に歩く練習をしてくれた。

 

私自身が彼と接触することは彼が許してくれなかったけど……

 

すぐに自立歩行可能なレベルまで回復したと聞いて、拍子抜けした。

 

あの天才は報告を聞いても。「そう」としか言わなかった

 

「物を掴めて歩けるのなら、もう外出しても大丈夫そうだね」

そういって、通信を切断した彼女の言葉に浮足立ってアーランに伝えると「ほかにも教えなければいけないこともあります」だって。

 

確かに、この世界のことをちゃんと理解しているのか──それを私たちは知らない。

 

 

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改めて、彼にこの世界と星神(アイオーン)のことを伝えることにした。

それと、その道を歩む行人のことを。

 

彼の踏み入れてしまった運命と、このステーションの指導者が進む運命の事。

彼が窓の外を見て呟いた言葉がまだ耳に残っている。

 

ヌースと呼ばれる星神が本当に全知だというのならば、存在の理由を教えてはくれるのだろうか。と

 

私にはわからない。きっと、あの天才なら教えられるのだろう

それを隠したのはなぜだろう。

 

彼が消えて行くような気がして。

私は、「明日また会おうね」と言った

 

 

 

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折角の休日だから、アーランと一緒に彼を誘ってステーションを巡る事にした。

 

はじめてみる区画や人々に、彼はきょろきょろと視線を向けていて。

まるで物を知る前の子供みたいだと思った。

 

 

青色の瞳がこちらを見つめて問いかけてくる。

休みの日なのに働く人はどうして存在するのか

答えづらい質問に悩んでいると、アーランが耳打ちをしてくる

まぁ間違いではないから、そのまま伝えることにした。

 

彼らはほかの人とは違う周期で生活しているだけで、ちゃんと休んでいるのだと

支え合っているからステーションは成立している。

 

彼はただ、そうか。と呟いた。

 

 

 

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休みの日があったのだから、彼にも働いてもらうことにした──というのは私の言い分だ。

 

実際には、ミスヘルタから彼を社会に溶け込ませようと指示されて、その一環だ。

 

彼女はなぜかステーションのタスクの中から一つをすでに手配していた。

天才だ、そういうこともあるだろう。

 

簡単な搬入作業だよ、と付け加えていたが……戻ってきた時の彼の顔を見るに実際はそうではなかったのだろう

 

何を見たのかは聞かないことにした……

アーカイブによれば、超覇王コマという奇物を運ばされたらしい……

 

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労働してもらうにも自分を守る術が必要だ、とアーランが言っていたので。

折角だし、彼にアイマの指導を頼んでおいた。

 

前にミスヘルタが与えた奇物は、アイマの存在維持装置と共鳴しているらしい。

 

かつて心臓だった所と繋がり、彼の意思に応じて攻撃と防御を行えるのだと

天才にもなると、そういうものを片手間で作れるらしい。

 

筋はよかったですよ、とアーランが教えてくれた

ステーション外壁に撃ち損じなければ、きっといい防衛力になってくれるだろうとも。

 

後々になってみた録画では、ターゲット用のダミーが塵のように消え去るのを見て……私はあの時の恐怖を思い出した。

 

人に撃つものではないのだと理解していたようなので、そこは安心した。

 

っていうか、アーラン。

私よりもアイマと仲良くなってない?

 

 

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今日、彼はもういない。

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