虚宙、駸々   作:スワンプ2

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自滅者、アイマ
防衛戦/1


ステーション・ヘルタのある一区画。

剣戟とビームの砲撃が反物質レギオンを押し返していた。

 

「アーラン、アスターのところに迎え」

 

仮称9号、アイマは戦友に指示を出す。

 

「何を言ってる! まずはコイツらを──」

 

「ここは私一人で十分だ、自分の意義を忘れるな」

意義、その言葉をアーランはかみしめる。

 

「……消えるなよ」

 

「その許可はまだ与えられていない」

 

アイマの答えに微笑み、彼はナビ座標からアスターの居場所に走り出す

 

「ならいい! すぐに戻る!」

 

ビームの音が背後から鳴り響く。

託された戦友の言葉に、アーランは背を押されるような、そんな気持ちになるのだった。

 

 

//

 

 

「……数が多いな」

眼前には3体のレギオンが新たに湧き出している。

途方もない消耗戦、アーランの帰りが遅いのも気がかりだ。

 

「左に避けろ!」

 

突如響く声、体を転がしながら回避する。

 

起き上がると目にしたのは、氷漬けになったレギオン。そして脳天に突き刺さる槍。

さらに、その頭上から思いっきり振り下ろされるバット。

 

「……星穹列車のナナシビトか」

 

そういえば、今日は客人が来るとアスターが言っていた、彼らがそうなのだろう。

 

「動けるか」

 

「ああ」

短髪の男が砕けたレギオンからその槍を抜き取る。

一目でわかる、相当な手練れだろう──そんなことを考えていると、いきなり後ろから後頭部を触られた

 

「何この髪! すっごい綺麗!」

ピンク色の髪をした少女が私の髪をわちゃわちゃにしていた、「ピカピカだ~!」やめてほしい。

 

「……こいつのことは気にするな、俺は丹恒だ」

「ちょっと! うちは三月なのか!あんたは?」

 

戦士の言葉に反発しながら名乗られた、誕生日みたいな名前だ。

 

「自滅者、ステーション防衛戦力761番。アイマだ」

 

「……なんだと?」

 

……聞こえにくかっただろうか?

もう一度言い直そう。

 

「……自滅者、ステーション防衛──」

 

「そうじゃない……お前は俺達の味方か?」

言葉を遮られ、彼は少女二人を庇うように腕を伸ばす。

 

「ねぇ丹恒先生、自滅者って何?」

灰色の髪をした少女が顔を乗り出してこちらを見つめる。

あのバットは……ヘルタが所有していたものではないだろうか?

 

「説明している暇はない、とにかく。俺の仲間に手を出すならこのステーションの職員だろうと……」

丹恒と名乗った戦士が槍をこちらに向けてくる。

 

私は反物質レギオンではない……

 

「私はアイマ、このステーションを守るためにアーランから指示を受けてここにいる」

 

レギオンに見えるだろうか……? そうだろうか……

 

「……彼の言ってることは本当だったようだな」

丹恒が槍を下ろす、後ろにいる二人が飛び出して私の髪を触り始めた。止めてくれ

 

「どういうことだ?」

 

「防衛課長からおまえのことは聞いていた、疑うような真似をして済まない」

 

謝意と共に二人をどかしてくれる。髪がボサボサになってしまった……

 

「……よくわからないが、手を貸してくれるのならそれでいい」

湧き出すレギオンの音に、私は武器を構えなおす。

 

「ああ、手早く終わらせよう」

丹恒は槍を素早く回し、持ち直した

おぉ~と灰色の少女が拍手をする。

 

彼らの協力で、自体は一時収束した。

 

 

 

//

 

「ケガをしたのか」

アーランの包帯を巻いているところに、アイマがやってきた。

「笑いに来たのか?」

 

アーランは拗ねたように言うが、アイマは相変わらず仏頂面で答える。

 

「そんな機能は私にはない」

 

確かに、機械みたいに表情は動いていない。

 

「あなたと星穹列車の客人による尽力で、当面は何とかなりそうよ。 ありがとう、アイマ」

 

私は彼にそう伝えるが、いつもの変わらない表情が少し厳しくなった。

 

「それは彼らに。それと、まだ終わりじゃない」

その言葉は、私にとって衝撃だった

 

反物質レギオンはすでに撤退した、後はステーションの補修を行えばいつも通りの日常に戻れると──そう思っていた。

 

 

「え?」

「どういうことだ?」

アーランが剣を支えに立ち上がる、アイマは宙の向こうを見つめていた。

 

 

「何か来る、このステーションにいる誰かを狙って」

アイマは自滅者だ、ほかの運命の行人と比べて何かを感じる力は薄いはず。

そんな彼が感じるほどの強い存在が来ている……?

 

「判るのか!?」

アーランは倒れそうな体を持ち直して問い直す、その答えはすぐに分かった。

 

 

『!!! ステーション内に警告、強力な存在の接近を検知 !!!』

 

「……奴が来る」

 

アイマは変わらずに宙の向こうを見つめていた。

いつもは動かないはずの、眉をひそめて。

 

『!!! 対象……終末獣を検知 !!!』

 

 

「終末獣!? 危険すぎるぞ!」

 

「アスター、あれは正面からくる。保護区域に急げ」

左手の武装をチェックしながら、アイマが私にそう言った。

 

「アイマは!?」

 

「私はお前たちに与えられた役割に従い、このステーションを防衛する」

変わらない表情。でも、事態は悪化している

 

壊滅の獣、古き黄昏の存在に悪意を流し込んで生まれた傀儡。

 

使令ほどではなくとも、その運命の力は絶大だ。

 

「……お嬢様、行ってください。 俺たちはそのためにここにいます」

 

アーランが包帯を巻き終わる、有無を言わさない表情が私を押し殺した。

 

「……わかった」

 

私は、彼らを見捨てた事になる。

 

たとえ誰もそう言わなくても。

 

それが、ステーションの所長である。

 

 

その立場が、怖くなった。

 

//

 

お嬢様は既に去った、残ったのは防衛課の人員だけだ。

 

「それらしいことを言うようになったな。アイマ」

 

「お前も行け」

「なんだと?」

 

突然の提案に聞き返す。こいつは何を言っているんだ

 

「あれは強大すぎる」

 

ならなおの事、人員を裂かなくてはならないだろう。

言葉が出る前に、後ろから声がした。

 

「ちょっと待って、うちらも手伝うよ!」

「あぁ。終末獣の相手をするなら、それなりの戦力が必要だ」

桃色の少女に、黒い髪短髪の青年。

 

星穹列車の客人だ。その手を借りるのは忍びないが、手を貸してくれるなら間違いなく戦力になる。

 

「必要ない」

だが、コイツはそれを拒絶した

「何?」

 

「迎え撃つのなら、ステーション内に侵入を許すことになる」

アイマは変わらない表情で窓の向こうに目を向ける。

 

顕現前の壊滅の兆しがはるか向こうで揺らいでいた。

 

「それはそうだが……事前の対応はもう間に合わない」

 

「まだ間に合う」

 

アイマは目をこちらに向けなおしてそういった。

 

「アイマ、まさかお前……」

そんなことは許されない、コイツのやろうとしていることは……

 

「そうだ」

まるで、当然かのように

 

「やめろ!」

その手段は、取ってはだめだ。

 

「ちょっと待って! 二人で何言いあってるの!?」

少し黙ってほしい、このバカを何とかして止めないと。

 

「勝手に消えるつもりか! 誰もそんなこと望んでない!」

こいつは、自分の虚無を使って──壊滅の兆しを閉ざそうとしてしまう。

 

 

「いいや、望んでいるよ」

アイマはまた窓に目を向ける、まるでその獣を慈しむ様に。

 

「あの巨獣は苦しんでいる、何千もの死者の憎しみと悔恨を流し込まれて」

 

「そして、他ならない私がだ」

 

その言葉は、聞きたくなかった

 

たった10日、それでも……俺たちは友人になったと思っていた

彼が存在する理由に、なれたと思い込んでいた。

 

「……アイマ、よせ」

言葉が出ない、もっと言いたいことがあるはずなのに

 

「いいんだ」

諦めたように、うれしいように。その言葉が、俺の心に突き刺さる。

 

言葉が、出ない

 

「よくない。お前のことはさっき知り合ったばかりだが、ステーションの皆はお前を頼りにしていた」

 

丹恒と名乗った男がアイマを制する

 

「ここに来てから今日で10日目になる、私のことはすぐにでも忘れるだろう」

なんだ、それは

「ふざけるな! お前──」

とっさに出た言葉を、アイマが塞いだ

 

「きっと……」

 

「私は、こうするために戻ってきたのだと思う」

 

遠い目で、どこを見ているのかわからない、あの瞳で。

 

「理由は分からない、お前たちの誰かを守りたいと思う残響だったのか、ただ無意味に生まれただけなのか」

滔々と、彼が語りだす。

 

「それを見つけられなかったのは、少し残念だ」

 

やめろ、″それ″は持っていないって自分で言っただろう。

 

「なら……!」

 

絞りだす、彼を止めるための。言葉を。

 

「これが僕の″答え″なんだ、アーラン」

 

笑うなんて機能、ないって言っただろう。

 

「私はこの装置(心臓)を破壊して──無作為な虚無の放出により、終末獣とともに無に還る」

 

なぁ、アイマ。




名称:アイマ
性別:男性(を模倣している)
年齢:不明、外見は20代程
出身:抹消済み(■IX■■)

黄金の髪を称えた青い瞳の青年。
ステーション・ヘルタの防衛課の一員であり、意思を砲撃として打ち込む砲手。
その正体は虚無の運命に侵された″自滅者″であり、存在の意味を求めて放浪する。
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