防衛戦/1
ステーション・ヘルタのある一区画。
剣戟とビームの砲撃が反物質レギオンを押し返していた。
「アーラン、アスターのところに迎え」
仮称9号、アイマは戦友に指示を出す。
「何を言ってる! まずはコイツらを──」
「ここは私一人で十分だ、自分の意義を忘れるな」
意義、その言葉をアーランはかみしめる。
「……消えるなよ」
「その許可はまだ与えられていない」
アイマの答えに微笑み、彼はナビ座標からアスターの居場所に走り出す
「ならいい! すぐに戻る!」
ビームの音が背後から鳴り響く。
託された戦友の言葉に、アーランは背を押されるような、そんな気持ちになるのだった。
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「……数が多いな」
眼前には3体のレギオンが新たに湧き出している。
途方もない消耗戦、アーランの帰りが遅いのも気がかりだ。
「左に避けろ!」
突如響く声、体を転がしながら回避する。
起き上がると目にしたのは、氷漬けになったレギオン。そして脳天に突き刺さる槍。
さらに、その頭上から思いっきり振り下ろされるバット。
「……星穹列車のナナシビトか」
そういえば、今日は客人が来るとアスターが言っていた、彼らがそうなのだろう。
「動けるか」
「ああ」
短髪の男が砕けたレギオンからその槍を抜き取る。
一目でわかる、相当な手練れだろう──そんなことを考えていると、いきなり後ろから後頭部を触られた
「何この髪! すっごい綺麗!」
ピンク色の髪をした少女が私の髪をわちゃわちゃにしていた、「ピカピカだ~!」やめてほしい。
「……こいつのことは気にするな、俺は丹恒だ」
「ちょっと! うちは三月なのか!あんたは?」
戦士の言葉に反発しながら名乗られた、誕生日みたいな名前だ。
「自滅者、ステーション防衛戦力761番。アイマだ」
「……なんだと?」
……聞こえにくかっただろうか?
もう一度言い直そう。
「……自滅者、ステーション防衛──」
「そうじゃない……お前は俺達の味方か?」
言葉を遮られ、彼は少女二人を庇うように腕を伸ばす。
「ねぇ丹恒先生、自滅者って何?」
灰色の髪をした少女が顔を乗り出してこちらを見つめる。
あのバットは……ヘルタが所有していたものではないだろうか?
「説明している暇はない、とにかく。俺の仲間に手を出すならこのステーションの職員だろうと……」
丹恒と名乗った戦士が槍をこちらに向けてくる。
私は反物質レギオンではない……
「私はアイマ、このステーションを守るためにアーランから指示を受けてここにいる」
レギオンに見えるだろうか……? そうだろうか……
「……彼の言ってることは本当だったようだな」
丹恒が槍を下ろす、後ろにいる二人が飛び出して私の髪を触り始めた。止めてくれ
「どういうことだ?」
「防衛課長からおまえのことは聞いていた、疑うような真似をして済まない」
謝意と共に二人をどかしてくれる。髪がボサボサになってしまった……
「……よくわからないが、手を貸してくれるのならそれでいい」
湧き出すレギオンの音に、私は武器を構えなおす。
「ああ、手早く終わらせよう」
丹恒は槍を素早く回し、持ち直した
おぉ~と灰色の少女が拍手をする。
彼らの協力で、自体は一時収束した。
//
「ケガをしたのか」
アーランの包帯を巻いているところに、アイマがやってきた。
「笑いに来たのか?」
アーランは拗ねたように言うが、アイマは相変わらず仏頂面で答える。
「そんな機能は私にはない」
確かに、機械みたいに表情は動いていない。
「あなたと星穹列車の客人による尽力で、当面は何とかなりそうよ。 ありがとう、アイマ」
私は彼にそう伝えるが、いつもの変わらない表情が少し厳しくなった。
「それは彼らに。それと、まだ終わりじゃない」
その言葉は、私にとって衝撃だった
反物質レギオンはすでに撤退した、後はステーションの補修を行えばいつも通りの日常に戻れると──そう思っていた。
「え?」
「どういうことだ?」
アーランが剣を支えに立ち上がる、アイマは宙の向こうを見つめていた。
「何か来る、このステーションにいる誰かを狙って」
アイマは自滅者だ、ほかの運命の行人と比べて何かを感じる力は薄いはず。
そんな彼が感じるほどの強い存在が来ている……?
「判るのか!?」
アーランは倒れそうな体を持ち直して問い直す、その答えはすぐに分かった。
『!!! ステーション内に警告、強力な存在の接近を検知 !!!』
「……奴が来る」
アイマは変わらずに宙の向こうを見つめていた。
いつもは動かないはずの、眉をひそめて。
『!!! 対象……終末獣を検知 !!!』
「終末獣!? 危険すぎるぞ!」
「アスター、あれは正面からくる。保護区域に急げ」
左手の武装をチェックしながら、アイマが私にそう言った。
「アイマは!?」
「私はお前たちに与えられた役割に従い、このステーションを防衛する」
変わらない表情。でも、事態は悪化している
壊滅の獣、古き黄昏の存在に悪意を流し込んで生まれた傀儡。
使令ほどではなくとも、その運命の力は絶大だ。
「……お嬢様、行ってください。 俺たちはそのためにここにいます」
アーランが包帯を巻き終わる、有無を言わさない表情が私を押し殺した。
「……わかった」
私は、彼らを見捨てた事になる。
たとえ誰もそう言わなくても。
それが、ステーションの所長である。
その立場が、怖くなった。
//
お嬢様は既に去った、残ったのは防衛課の人員だけだ。
「それらしいことを言うようになったな。アイマ」
「お前も行け」
「なんだと?」
突然の提案に聞き返す。こいつは何を言っているんだ
「あれは強大すぎる」
ならなおの事、人員を裂かなくてはならないだろう。
言葉が出る前に、後ろから声がした。
「ちょっと待って、うちらも手伝うよ!」
「あぁ。終末獣の相手をするなら、それなりの戦力が必要だ」
桃色の少女に、黒い髪短髪の青年。
星穹列車の客人だ。その手を借りるのは忍びないが、手を貸してくれるなら間違いなく戦力になる。
「必要ない」
だが、コイツはそれを拒絶した
「何?」
「迎え撃つのなら、ステーション内に侵入を許すことになる」
アイマは変わらない表情で窓の向こうに目を向ける。
顕現前の壊滅の兆しがはるか向こうで揺らいでいた。
「それはそうだが……事前の対応はもう間に合わない」
「まだ間に合う」
アイマは目をこちらに向けなおしてそういった。
「アイマ、まさかお前……」
そんなことは許されない、コイツのやろうとしていることは……
「そうだ」
まるで、当然かのように
「やめろ!」
その手段は、取ってはだめだ。
「ちょっと待って! 二人で何言いあってるの!?」
少し黙ってほしい、このバカを何とかして止めないと。
「勝手に消えるつもりか! 誰もそんなこと望んでない!」
こいつは、自分の虚無を使って──壊滅の兆しを閉ざそうとしてしまう。
「いいや、望んでいるよ」
アイマはまた窓に目を向ける、まるでその獣を慈しむ様に。
「あの巨獣は苦しんでいる、何千もの死者の憎しみと悔恨を流し込まれて」
「そして、他ならない私がだ」
その言葉は、聞きたくなかった
たった10日、それでも……俺たちは友人になったと思っていた
彼が存在する理由に、なれたと思い込んでいた。
「……アイマ、よせ」
言葉が出ない、もっと言いたいことがあるはずなのに
「いいんだ」
諦めたように、うれしいように。その言葉が、俺の心に突き刺さる。
言葉が、出ない
「よくない。お前のことはさっき知り合ったばかりだが、ステーションの皆はお前を頼りにしていた」
丹恒と名乗った男がアイマを制する
「ここに来てから今日で10日目になる、私のことはすぐにでも忘れるだろう」
なんだ、それは
「ふざけるな! お前──」
とっさに出た言葉を、アイマが塞いだ
「きっと……」
「私は、こうするために戻ってきたのだと思う」
遠い目で、どこを見ているのかわからない、あの瞳で。
「理由は分からない、お前たちの誰かを守りたいと思う残響だったのか、ただ無意味に生まれただけなのか」
滔々と、彼が語りだす。
「それを見つけられなかったのは、少し残念だ」
やめろ、″それ″は持っていないって自分で言っただろう。
「なら……!」
絞りだす、彼を止めるための。言葉を。
「これが僕の″答え″なんだ、アーラン」
笑うなんて機能、ないって言っただろう。
「私はこの
なぁ、アイマ。
名称:アイマ
性別:男性(を模倣している)
年齢:不明、外見は20代程
出身:
黄金の髪を称えた青い瞳の青年。
ステーション・ヘルタの防衛課の一員であり、意思を砲撃として打ち込む砲手。
その正体は虚無の運命に侵された″自滅者″であり、存在の意味を求めて放浪する。