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「私はこの
アイマのその言葉に、三月なのかは強く反対した。
「そんなことしたら、アンタ死んじゃうじゃん!」
なのかにとっては半日にも満たない戦友だが、だからとはいえそんな言葉に賛同できるほど大人ではなかった。
「私は最初から生きていない」
そして、アイマは彼女以上に幼く、捨て石になる理由があった。
「何言ってるの!? 今こうやって……」
なのかは迷わず彼の手を掴むが……何も感じなかった。
虚無。それに呑まれてしまうようで、驚いて手を離す。
「冷たいだろう」
的外れだが、間違ってはいなかった。
彼の体温は周りの温度と変わらない、ステーションに設定された24℃とまるで同じだ。
「心臓も、この装置が代替している」
そう言って、アイマは胸の衣服をズラして液体に満ちた装置を見せつける。
「私は
少し残念そうに笑いながら、アイマは続けて呟いた。
「だから、誰も死ぬことはない」
「影がまた一つ、消えるだけだから」
静寂が空気を支配した。
丹恒も、星も、アーランも。
そして、今日初めて出会って一番彼と話していたはずの……死ぬなと叫んだ三月なのかさえも。
誰も、口を開くことはできなかった。
それが最適だと思い知った。
命ではないものを捨てて誰も傷を知らずにこの危機を逃れうる。
この目の前の、意思だけの″何か″を見捨てることさえできれば。
そんな諦めに近い停滞を、強い言葉が遮った。
「話しているところ悪いけれど、時間は迫っているわ」
赤い色の髪、なのかの一番尊敬する女性が武器を携えて現れる。
「姫子! ねぇこの人を止めてよ!」
顔色を変えてなのかは嬉しそうに姫子に縋りつく、彼女にとってアイマが死者か生者かなどは関係なかった。
もう彼女の記憶の中に入ってしまったのだ、戦闘から帰る途中、一緒に写真だって取った。
それを見るたびに、消えて行った少年のことを思い出すのなんて絶対にゴメンだから。
「三月、落ち着け。 彼の言ってることは嘘ではない、確かに死者は一人も出ない」
丹恒がハイテンションになるなのかを咎める。
だが、今日この時に限っては……いつだって落ち着いている彼のその冷静さが、どうしようもなく腹立たしかった。
「丹恒もふざけないでよ!」
「ふざけていないし、そんなことを見過ごすつもりもない」
なのかの言葉を半ば遮るように、丹恒は彼女の目を見つめていた。
音がなるほど、その槍を握りしめていた。
「なら!」
「……最終決定権は、俺達にはないんだ。三月」
「大丈夫、星穹列車が手を貸すわ、ステーション内で迎え撃つ」
姫子がにこりと笑いながら、三月の頭をなでる。
なのかは落ち着きを取り戻しながら、でもそんなことができるのか? と焦りもまた消すことは出来ずにいた。
「……その権限がお前たちにあるのか?」
アイマは変わらず、ボーっとした顔で姫子に問いかけた。
その質問を待っていました、と言うように彼女が胸を張る
「あるわ」
「何?」
懐から取り出したデータパッドにはステーション防衛契約と記された契約書に、アスターとヘルタの名前が添付されていた。
「これって!」
なのかが目の色を変える。
てんで理解をしていないが、姫子がこういう書類を取り出すときは、たいていの物事が何とかなる時だとなのは知っていた。
「ステーションの管理人と指導者からの両著名よ」
「今回の防衛は星穹列車が主体で行うわ、あなたたちは手を貸す側」
そしてその言葉も、また同じようになのかの心を照らしてくれるのだ。
「……だってさ」
絶望から戻ってきたアーランがアイマの頭を叩く。
「……わかった」
ぐらり、とのけぞりながらもアイマは返答する。
どうやら、彼なりに諦めがついたようだ。
「よかったぁ! じゃあ早速準備しないとね」
なのかはそういって自身の愛弓を取り出し、いつでも準備完了! と気合いを入れなおす。
「お前のここを守りたいという気持ちは伝わっている、自分を犠牲にするな」
丹恒がアイマの肩を叩き、傾いていた槍を迎撃方向へ向けた。
「つまり、来た奴ボコればいいんだよね?」
そして開拓者──星はバットをフルスイングしながら丹恒に目線を向けていた
「星、お前は無茶をするな」
目線の先の彼は呆れた顔をしながら終末獣の方向へ、三人で歩みだした。
「姫子さん、私は」
アイマは彼女に何を伝えたいのか分からなかった。
ただ、何か言わないといけないんだという気持ちだけが先行して……いつも自分はそうだな、と自己嫌悪に陥る。
「最後の手段は、やっぱり最後に切らないとね」
姫子も、彼なりの決意を尊重するように三人の後を追いかけて……彼に手を差し伸べた。
「……わかった」
アイマは一度目を閉じて、大きく息を吸う。
そして、世界をもう一度見るのだった。
青い宇宙を汚す、あの獣と相対する為に。
「私は
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「来るぞ!」
宇宙ステーションの最外縁。搬入口付近で戦闘が開始される。
アーランが叫び、各員がポジションに付く。
丹恒と星が前衛を行い、姫子を中心にアイマとなのかが後衛だ。
「左を頼む」
「任せて!」
今朝からの付き合いである二人は、意外と少ない言葉でも息が合っていた。
なのかが六相氷で皆を守り、獣の足止めを行う。
そしてその隙をアイマが砲撃し続け、終末獣の各部は既に穴だらけになっていた。
「アイマ、狙いを外すなよ」
傷を負ったアーランは指示役だ。
一応は大剣を持って戦場には居るが、それは予備もいいところの戦力に過ぎない。
「了解」
アイマは端的に答え、繰り返し攻撃を行うが──
「手が邪魔で、核に届かない!」
なのかはアイマの焦りを感じていた。
あのレギオンを一瞬で消し炭にできたビームが、終末獣にとっては致命傷にならない。
当たってはいる、被害も今のところは抑えれているし、傷だってついている。
なのに、あの存在にとっては少し経てば再生できる程度のダメージにしかなっていない。
このままでは、ステーションの奥に被害が出てしまう――それは、アイマにとって一番許してはならないことであり、切り札を切らせてしまう危険性をなのかは感じてしまうのだ。
「星、下がれ!」
なのかの言葉に無理やり手をどけようと前に出すぎてしまった星は、頭上に迫る終末獣の左腕に気付かなかった。
死ぬ。
そう直感した星は恐怖で動けずにいた。
「きゃぁっ!? あれ?」
突如、突き飛ばされる感覚と同時に金色の光が戦場を駆け抜けた。
「無事か」
無表情に聞くアイマに、星は相変わらずきれいな髪色だと惚れ惚れする。
「うん、ありがとう」
「行動に戻れ」
礼を言う星を気にせず、彼は落ちていたバットを彼女に差し出してバックラインへ帰還する。
「ちょっと、今の何!?」
隣に居たはずのアイマが一瞬にして前衛の星を庇った動きになのかは驚きを隠さない、一瞬金色に瞬いて……気が付いたらいなくなっていた。
「虚無ステップじゃない?」
星は命の危機だったことを忘れてあっけらかんと捏造した。
「虚無ステップ!?」
なのかもそれが正式名称かと誤認し
「勝手に名前を付けるな」
丹恒が頭を抱えながらツッコミを入れた。
「……虚無ステップか」
そして、アイマはまた何も知らず自身の技名を決められることとなった。
だが、つかの間の平穏を獣は許さない。
今度は右腕を大きく振り上げ、全員を叩き潰そうとする。
「全員避けて!」
姫子の叫びに、皆が呼応する
「うわぁ!」
なのかの叫び声に、誰もが最悪の事態が脳裏をよぎる。
あの、金色の光が彼女を覆うのを見るまでは
「無事か」
彼だ、あの虚無を利用した移動法を使いなのかを攻撃位置からズラしていた。
「これさっきもやってたし……ウチは大丈夫、みんなは?」
ほっと息をついた一同に、彼女は安全を確認する。
「俺も問題ない、星?」
「うぅ……もう動けない……」
脇腹に抱えた星がギブアップ宣言するのを聞いて、丹恒は彼女を安全な位置まで連れて行く。
「アーラン、こいつを持っていけ」
アイマが後ろで指示をしていたアーランに撤退を指示する。
本来ステーション防衛課のリーダーはアーランだが、星穹列車主導での討伐である以上彼らは同等の立場だった、
「お前は」
星の肩を支えながらアイマに問いかける。
「奴が隙を見せたら、核を撃つ」
相変わらず端的な言葉だ、信頼してアーランはステーション奥へ駆け出した。
「消えるなよ」
何度も言った言葉を、もう一度投げかけて。
「まだ、そのつもりはない」
アイマは去り行く背中を見ることはなく、砲身を構え直し、丹恒の隣に立つ
「俺が腕をはねのける、トドメを頼めるか」
彼もまた、アイマを信じて深く腰を下ろし――自身の愛槍を獣に向ける。
「ああ、あの存在を消失させる」
武装の先端に、燐光が満ち溢れる。
意思を打ち出す武器、パンクロード星の灯台。
それを、虚無の内部からあふれるエネルギーが火を入れる。
「ウチが守るから、思いっきり行ってね!」
なのかが弓を構え直し、獣が叫ぶ。
そして、アイマだけが気付いた。
「――まずい」
瞬間。今まで見せていなかった攻撃──獣の頭上から、無数の光線が降り注ぐ
「えっ……」
「三月!」
「なのかちゃん!」
輝きが降り注ぎ、煙が一面を覆い隠す。
「なのかちゃん!? 無事!?──!!」
なのかの安否を探るため姫子は走り、霧の先をついに見つけた。
零れ続ける、金色の粒子が教えてくれていた。
「……無事、だな」
バチリ、と稲妻が心臓に走っている。
これは、これでは……
なのかの口から、絶望した表情と共に言葉が零れる。
「……アイマ?」
アイマは少しだけ微笑んで、なのかに背を向ける
砲身の落ちる音だけが、彼女の耳に強く響いた
獣に、アイマが歩いていく
零れ落ちる光だけが、なのかの目の前に遺って。
「……
アイマの目に覚悟が光る、無表情な筈の眉を吊り上げて
「私は。消え失せる、あの獣と共に」
歩いていく
「だめだよ……そんなの」
歩いていく
「ウチの、せいで」
自分の、せいで
頭の中が、ぐちゃぐちゃになる
気付いていれば、アイマごと氷で守れれば
自分がもっと早く、もっと賢く――もっと強く、あることができれば
「お前のせいではない」
アイマが振り向いた
「全て、私の意思だ」
相変わらず、無表情に、彼はまた笑っていた
「待って!」
姫子の言葉を聞かずに、アイマが走り出す
そのあとを、黄金の光が続いている
これが最後かのように、生きた道を、只記すように。
アイマが叫ぶ。なのかの耳には、何も届かなかった
ただ、息苦しさと悲しみと、よくわからない何かがずっと目の前と頭の中を掻きまわしていた。
「嫌だよ……」
「アイマ君!」
「アイマ!」
「うおおおおおおおおっッ!!!」
獣のコアに体当たりし、体勢を崩した終末獣が足場を無くす。
彼は少し笑って、左手で心臓を抉りだす。
「心臓部代替装置、最終安全弁解除……!!」
輝きが収束する、瞬きが訪れる。
「虚数エネルギー、最大解放……!!」
ただ、少女は止めることもできず。
「私と消えろ! かつて偉大だった獣!」
三月なのかは、いつも写真を撮るときのあの光のように
シャッターが、スクリーンに落ちるように
パシャリ、と
光が宙を満たした。
二話も連続で自爆しようとする異常者