自称『一般旅人A』の異世界放浪記   作:哀上

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バカは死んでも治らない

 まず、見た目の美しさである。完全に素人判断ではあるが、それでも一目見て金銀を超えると言い切れるレベルの輝きというのは相当な評価ポイントではなかろうか? こんな金属片程度の量では大それた物にはならないが、指輪なりペンダントなり、身につければ周囲の視線を惹きつけること間違いなし。

 

 次に、この欠片が持つ物語としての評価。勇者と魔王。その世紀の一戦と呼んでも何ら大袈裟ではない戦いで使用され、戦闘の際に欠けた金属片。両者のファンは勿論、王族や貴族だって喉の奥から手が出るほど欲しいはずだ。知人に自慢するなんてもんじゃない、大衆を相手に権威の裏付けにすら使える代物。

 

 そして、これが女神より授かった聖剣の欠片だというのも捨てられない要素。まごう事なき神器なのだ。神器と呼ばれるものはそれなりの数存在はするものの、時の流れ故いずれもその由来には多少の疑問は付き物。しかし、こと聖剣に限っては疑義など存在しない。女神自らの神託、その上勇者本人も健在だ。然るべき人物であれば念書を得るのもそう難しいことではない。聖剣の所有など夢のまた夢なれど、その一片なら。となれば、女神を信仰する信者、特に上層部になればなるほど是非とも手に入れたい一品に違いない。

 

 貴金属としての価値、歴史としての価値、宗教としての価値。

 

 私にとってはただのやたら光り輝く金属片に過ぎないが、その価値は計り知れない。おそらく、天文学的数字に到達する事だろう。そう思うとワクワクして仕方がない。私の手の中には、今、巨万の富が収められているのだ。

 

 ……まぁ、どこでそんなものを売るんだって話になるんだけどね。少なくともこの何にもない平原じゃ売れなさそう。

 

 勝敗から言って、魔族より人間の方が高く買い取ってくれるのは間違いない。そもそも今の魔族にそんな余裕のある奴なんていないだろうし。だが。人間の街であればいいってものでもない。誰でも買ってくれるが、誰もがそんな大金を出せるわけじゃない。

 

 売るとしたら王族か上位貴族、高位の聖職者、もしくは豪商なんて選択肢もあるか。何にせよ、換金するにしても一筋縄じゃ行かないって話。私が魔族だって問題もあるしね。

 

 薄情? 金の話ばっかり?

 

 私にも事情があるのだ。外から眺めてるであろう、私をこの世界に送り込んだ元凶とそのお仲間たちよ。古参には周知の事実。この魔王と勇者の一戦なんてビックイベントにつられて見始め、ひょっこり現れた私に目移りした新参でも、察しのいい奴は気づいていると思うが。

 

 そう、私は転生者である。前世で平凡……とは少し言い難いかもしれないが、一生を終え。気がついたらファンタジーな異世界、それも魔王の娘に転生していた。

 

 スクスクと成長し、転生者のテンプレらしく年に見合わぬ賢さなんかも見せちゃったりして。元凶がチートでもくれたのか、血が優秀なのか、規格外の魔力が秘められてたり。あれよあれよと後継者と目され。順調な滑り出し。そして、引きこもった。

 

 ……しゃーない。

 

 人間、そう簡単には変われないのだ。バカは死んでも治らないなんて言葉もあるが、実際その言葉通り、私も治らなかったわけだ。

 

 前世は中学時代からの筋金入りの引きこもり。転生なんて大袈裟なこと言っても、所詮中身は私のまま。何か特別な事があった訳でもなく、今世も当然のように引きこもった。それだけ。

 

 異世界に転生して人生やり直し、大逆転! そんなのが出来るのは根が真面目なやつだけで、そもそも前の人生がダメだったのも単に巡り合わせが悪かっただけなのだろう。私みたいな筋金入りの引きこもりは、多少の才能があったところで、環境が変わったところで、結果は変わらないらしい。

 

 ま、そんな悲しい現実を見つめていても仕方がない。こういうところが諸々の原因な気はするが、転生しても治らなかった時点で私は諦めがついた。むしろ、これを治してしまっては私じゃない。

 

 んな事より……である。目下の大問題、引きこもっていた家がなくなったのだ。はてさてこれからどうしたものか。

 

 こちとら、筋金入りの引きこもりなのだ。転生前も合わせりゃそこそこ年もくってるのだが、生憎なことに社会経験なんて物は皆無。正社員どころかバイトだってしたことない。手伝いでお小遣いを稼いだのも数えるほど。

 

 それが、家が突然廃墟になって唐突な一人暮らしの開幕。頼る相手は居らず、明日の飯の保証も無し。グレーな引き出し屋だってここまで強引な事はしない。

 

 ね? 薄情なのではなく、金の話が今いっちゃん大事なのだ。

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