自称『一般旅人A』の異世界放浪記   作:哀上

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風邪をひかない娘

 __まぁ、別に情があるわけでもないのだけれど。

 

 もしそんなものを持ち合わせているなら、多少なりとも期待に応えるために頑張るんじゃないかなって。少なくとも、何があったわけでもないのに当然の流れのように引きこもったりはしないはず。

 

 私には期待するだけ無駄なこと。そもそも、前世の生みの親に対してすら多少の後ろめたさは覚えつつも、結局最後までこの姿勢を貫いたわけで。転生なんて妙な状態で生まれて、中身は前世のまま。そんな私が、体の関係だけの今世の親に対してそこまで思い入れがあるかと聞かれると……ね?

 

 我ながら酷い言い草。客観的に見て、どうしようもないクズな自覚はあるが、実際そう思ってしまっているのだから仕方がない。

 

 人生ってのは上手くいかないものだ。魔力はたっぷりあったらしいんだけどね。間違いなく才能はあった。転生で引き継いだ“中学で引きこもった人間の知識チート”なんてのは無用の長物ではあるが、それでもこの身体なら変わろうと思えば変われたはずで。実際、期待もされてたっぽいし。

 

 が、それは机上の空論。転生しても勉強嫌いで努力が苦手な性質までそのまんま。むしろ、中に私がいない方が上手くいったまである。

 

 おかしいな、夢にまで見たファンタジー世界のはずなんだけどね。ヒキニートなオタクがこんな世界に来たら、好きこそ物の上手なれ理論でむしろ成長に補正すらかかるはずなのだが。なかなかどうして、テンプレ通りとは行かない。

 

 ま、よくよく考えてみればだ。前世でも学校の勉強には興味なかったが解説系の動画は好きだった覚えがある。ゆっくりしかり、えだまめしかり。学校をサボってやることが、一日中偉人の解説動画を見続けるなんてこともあった。

 

 これが答えなのだろう。楽しいことは好きだけど、努力はしたくない。魔法もファンタジーも好きだし、異世界系のアニメを見て憧れさえ抱いたものだが。それは全部表面だけをなぞった、娯楽としての話。本格的な教育、魔王の娘に施されるような英才教育となると、私には無理だったらしい。

 

 といっても、魔法が全く使えないわけじゃない。才能のおかげか、簡単な基礎魔法なら努力せずとも使えたし。それに、さっき金属片をつまむのに使ったような空間系の魔法。これは私の唯一の得意魔法である。

 

 なぜって?

 

 ……いや、ね。教育係から逃げるのに便利で。魔族、特に魔王軍ってのは実力主義なところがあるらしく。魔王の娘で特権階級ではあるものの、サボりは許されないらしい。

 

 それに流され渋々教育を受けるような人間なら、転生してまで引きこもりを続けたりしていない。当然、全力で拒否した。前世の感覚で単純に隠れただけだと、魔力を探知されてあっという間に見つかる。魔力で強化された身体能力相手にそこからの逃走は不可能。よって隠れ方をどうにか工夫する必要があった。

 

 初めは前世の漫画の知識を活かして、魔力を体内に閉じ込め探知を避けることを考えた。仮に見つかったとしても、圧縮していた魔力を一気に解放して身体能力をブースト。こうすれば、まだ未熟な私の魔力操作でも瞬発力の差で振り切れることも多かった。

 

 そんなこんなで日々が過ぎていったのだが。ある日、ふと「本当に私なんかが教師を振り切れているのか」と疑問に思った。魔王の娘の教育係なんて、そんなものとんでもないエリートに決まってるのに。冷静に考えてみると、この行動を訓練がわりに利用されてる気がしてきて。日常が訓練になってた系の話は見る分には楽しいが自分がやられるとストレスが溜まる。事実、教育係が諦めるころにはかなりヘロヘロだったし。こんなんじゃ毎日訓練してるのと変わらない。

 

 そんな折、逃げ込んだ図書室で面白い魔法を見つけた。それが空間系の魔法だった。魔力を隠すだけじゃ結局物理的に見つかってしまうし、やってることは前世の隠れんぼと一緒。魔力を隠すなんて手間をかけてるのにそれはいただけない。

 

 空間を拡張して、そこら辺の棚の中に隠れてみたり。短距離の転移で自室とトイレを行ったり来たり。実際、教師は手加減をしていたらしく、隠しきれてない魔力を探知され、逃げきれないほどの強化された身体能力で追い回されたりもしたが……

 

 最終的に、自室を魔王城から物理的に隔離してことなきを得た。しばらくは侵入を試みられ、防衛戦をすることも幾度か。数ヶ月もすれば完全に諦めたのだろう。教育係からの干渉も無くなった。

 

 ……つまり、私の勝ちだ!

 

 真面目に教育を受けないと勘当するだとか、親子の縁を切るとか。教師から話を聞いたらしい魔王に色々と小言をもらいもしたが、その脅しには屈しなかった。いくら魔族が実力主義とはいえ、私が魔王の娘だという事実に変わりはない。周りの目線は冷たくなったものの、別にご飯がなくなったり着る物がなくなったりということもなく。そんな現状に何の不満もなかったのが主な理由である。

 

 そうして、私の平和な引きこもりライフが幕を開けたのだ。勇者のせいで吹き飛んだけど。いや、負けた魔王のせいか? まぁ、そこはどっちでもいい。

 

 改めて金属片から視線を外す。窓からの景色も、部屋の中の光景も、この前見たそれとはまるで別物。見慣れていた景色が変わるのはやはり不思議な感覚だ。が、いつものことでもある。

 

 現役の引きこもりなのだ。この前と言っても、はて何ヶ月前だったか。もしかしたら年単位かもしれない。自室から出て飯を取ったりなんて事はあったが、なんせこの部屋は近寄り難かったもので。だから、案外戦争が激化した頃にはかなり変わっていたのかもしれない。少なくとも明確に劣勢になってからは。

 

 そもそも、魔王城がこんなボロボロになってるのになんで私が無傷でここにいるんだって話だしね。自室を空間的に隔離して引きこもっていたら、いつの間にか戦争になって、いつの間にか魔族が負けていた。

 

 その間、私は何ら異変に気づくこともなく。ご飯が出てこなくなって、飯を寄越せと文句を言いに久々に自室から遠征してみればこのザマだった……と。

 

 馬鹿は風邪を引かないなんて言うが、死んでも治らない私レベルのバカになると、こんな事態にすら気づかなくなるらしい。愚かすぎる。流石に、初めは何かのドッキリかと疑ったよね。まぁ、この城にそんな親しい相手はいないのだが。

 

 魔王の娘がこれでいいのだろうか? 我ながら酷い親不孝者である。

 

 でも、親子の縁を切るとか言い出したのは向こうの方だし。そういう意味じゃセーフか。……うん。そんなこと言われてる時点で論外って意見は聞きません。私の耳はかなり都合のいいように出来ているので。具体的に言うと、親の愚痴は聞こえないけどご飯をドアの前に置いた音は聞き逃さない。神仕様である。

 

 そんなこんなで、実は魔族への仲間意識薄かったり。魔王の娘でもニートだからね。穀潰しの倫理観なんてそんなもん。結果、この光景を見ても金の心配ぐらいしかすることがないのだ。

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