自称『一般旅人A』の異世界放浪記 作:哀上
にしても。脛の太そうな家に生まれて、このまま一生脛を齧って暮らすつもりだったのに……。はぁ〜、思い返していたらますますこれまでの生活が惜しくなってきた。って、もうなくなった脛を惜しんでも仕方がないのだけれど。
これで、女神や勇者相手に復讐だとか。そんな気はさらさらない。んな元気があるなら、そもそもこんなことを惜しんだりもしないだろうし。肉親失ったの差し置いて何を考えてるんって話だ。
それに、聖剣の欠片なんて置き土産もくれたしね。換金に手間はかかる。が、うまいこと捌けば普通に生きる分には人生何度繰り返しても使いきれないほどの大金を得られる。私は魔族、それも魔王の娘だ。おそらく人間よりだいぶ長生きするはずで。これさえあれば、その間の資金の心配もなくなるって寸法よ。
いくら脛が太くとも、ずっと齧ってられる保証もないしね。魔王の娘ってことで、引きこもってから周囲の視線は冷たくなりつつも衣食住は保証されていたけど、実力主義な魔族社会でいつそれが破綻するとも限らなかったし。むしろラッキーだったのかも?
なんて、そろばんを頭の中で弾いていると。背後で何かが軋む音が聞こえた。
「!?」
……気のせい、か?
一瞬、人の気配がした気がして振り返ってみたものの誰もいない。もしかしたら勇者や人間の兵士が戻ってきたんじゃないかという思考がよぎり、ヒヤリとしたものだが。どうやら杞憂だったらしい。ほら、不安定な瓦礫を踏んじゃってとかあるあるじゃん?
私に勇者の相手なんて不可能だし、一般兵士の相手も出来ればご遠慮したい。そもそも戦闘の経験自体がほぼ無いのだ。応援とか呼ばれても困るし。とりあえず、誰もいないようで良かった。
ま、反応したのが異世界に転生しただけで特段鍛えてもいない引きこもりの勘である。ハードは魔王の娘なんてハイエンドモデルだが、ソフトは前世の一般人以下。そんな人間の勘なんて当てになるはずもなく。視線の先にあるのは戦闘の余波でボロボロになった魔王城の内壁、ただただ見る者に悲壮感を想起させるのみ。
音の原因だが、なんてことはない。おそらく魔王城自体が限界なのだ。勇者と魔王、互いの種族の頂点同士の戦闘。城自体にかけられていた魔法も床の魔法陣を見る限りほぼ機能していないし。もともと古い城であちこち経年劣化もあったはず。これ、崩れるのも時間の問題だな。
そうか……、この城ともお別れか。
こんなボロボロになってる時点で既にほぼ廃墟みたいな物だったけど、それでも倒壊ってのは少々寂しい。この世界に転生してからの付き合い。城の外に出たことすらないし、本当にずっとだ。箱入り娘、いや自分で引きこもっていたのだが。それでも人生、前世を含めても半生と言っていい時間を共にしてきたからね。愛着、というよりは執着だろうか? 特別な想いはある。
まぁ、巻き込まれても嫌だし。別に最後まで一緒にとかそこまでの感情はない。いつまでも油売ってないで、さっさと済まして出るとしますか。
空間魔法のおかげで、仮に巻き込まれても死にやしないだろうが。だからいいってものでもない。物色するにも手間増えるし。
1人こんな場所にほっぽり出されたのだ。しかも、転生して結構な年月経ってるくせに転生したてと何も変わらない引きこもりが。これは酷い。持ち物によっては即詰みレベルの状況である。
幸い、金目の物はある。金目っていうか、高価すぎて扱いづらさすら感じるレベルの代物が。これからの指針としては、ひとまずこの金属片の売り先求めて三千里ってところかね。私に、安定した労働をこなして生活費を稼ぐなんて芸当、土台無理な話だし。換金は必須事項である。
となると、路銀もそれなりに欲しい。道中も出来れば働きたくないし、この金属片価値が高すぎて換金難易度かなり高いからね。私自身の日々のキャパシティも考えると、結構な長期戦を想定する必要がある。引きこもりは基本1日1ターンしか動けないのだ。
……そこで物色である。
ちょうど金目のものが大量にある廃墟にいることだし。路銀になりそうなブツをいくつか貰っていこうかと。
泥棒だって? 人聞きの悪い。どうせここに置いてっても私じゃない盗人に持ってかれるだけ。仮に残っても、もう数日もしない内に人間の国の軍隊やらが来て金目のものは根こそぎ持っていかれるに決まっている。なら、私がもらっても構わんだろう。
ってか、魔王の娘なんだからその遺産は普通に考えて私の物のはず。どれが個人の持ち物でどれが国の物とかは知らんけど。魔王なんだし、全部父のものだったってことでいいよね?
え、相続税? んなものは知らん。ってか、税金に関しても魔王なきいま私は取り立てる側である。権力万歳!
勘当するとかなんとか、魔王本人に言われていた気もするが。あくまで脅しだしね。実際にされたわけじゃない。はず。ま、そもそも城がこのザマじゃ国自体破綻してるようなものだし、どのみち取られようも無いのだけれど。
side:??
っ……お嬢様、なにを