自称『一般旅人A』の異世界放浪記   作:哀上

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徒歩

 国家が破綻してタックスフリーって、これで喜ぶのもどうかと思うけど。ま、普通に考えて取られる金なんて少ないに越したことはないしね。少なくともこれまでの私の思考の中では健全な方だと思う。

 

 いや、正確なことを言えば? この辺りおそらく勇者の所属する国の国土にでもなってるはずだし、そこに収める義務があるのだろうが。わざわざ手間かけて申請してって、んな真面目じゃない。そもそも、魔王の娘が魔王の遺産を相続して納税とか、別の方向で問題が大きくなる予感しかしないし。面倒ごとを自分から起こす趣味もない。

 

 さて、と。今回物色させていただく魔王城ですが、一口にそう言っても金目の物なんて正味いくらでもある。宝物庫の中はもちろん、この部屋にある物だって大抵が庶民には手の届かない高級品ばかり。じゃあ手当たり次第に持ってけばいいのかというと、そういうわけにもいかない。

 

 あ、一応。勇者やら兵士に一部持ち去られている品もあるようだが、お互いに死闘だったらしく、その大部分が手付かず。よって、当てが外れて途方になんて様を晒す心配はない。

 

 で、だ。目的は路銀の確保だからね。聖剣の欠片を換金するまでの繋ぎにしようってのに、換金性の低い物を持っていっても仕方がない。換金性の高い、前世で言うなら時計とか? ほら、高級腕時計ってその所有目的に金持ちが海外に高飛びした際、身一つで行っても困らないようにって側面もあったと聞くし。あとは純粋に貴金属か。そういうのが欲しい。

 

 美術品とか。城には絵画や彫刻なんかも結構飾られている。見るからに精巧だし、実際高いのかもしれないけど。今回の目的には合わないって話だ。

 

 この旗とか、王座とか。勇者の斬撃で見事に斬られちゃってるけど、これも間違いなく高級品。素材はもちろんその来歴から。でも、そういうのじゃないのだ。やろうと思えば、バラして装飾の部分を貴金属として売っぱらうことも可能だろうが。いや、そこまでやるのは流石にやばいか。私のなけなしの良心が。こんなのもろ形見である。ちょっと絵面がよろしくない。

 

 ……え? 父の死以上に城の倒壊に心動かされてたやつが何言ってるんだって? 転生して以来ずっと一緒にいたからね。しゃーない。

 

 魔王ってのは忙しいのだ。転生して以来、親子の情を深めた記憶はない。よって、私があまり情を抱けていない責任の一端は父にもある。まぁ、仮にそんなふうにこられてたとしても転生した身でどう接していいかわからなかったので、そこに関しての文句はないのだけれど。

 

 うん、形見に手をつけるのは無しの方向で。

 

 その金属片も形見ではって? ……大金の前に良心なんてものは無力よ。ってか、これに関しては凶器だしね。関わりがあるのは事実で、魔王を殺すために作られた神器っていうハンドメイドならぬゴットメイドの一点物だけど。

 

 いや、殺人事件とか。凶器のナイフを形見とは呼ばんよな? やっぱこれは形見じゃないな。倫理面も問題なし。ついでに、私の良心も守られたと。そんなちっぽけなもの守っても仕方ない気もするが、引きこもりの中身なんてちっぽけなものしか入ってないので、意外と重要である。あっという間に空っぽになりかねないからね。

 

 んで私のターゲットとしては……、天井から釣り下がる崩れかけのシャンデリアに視線を向ける。趣味は悪いが、金銀をふんだんに使われ、別に形見って感じもしない。いや本当は思い入れとかあるのかもしれないけど、関係性がうっすいからねよく知らないのだ。

 

 例によって戦闘の余波でボロボロ、魔道具としての価値は無い。が、金やら銀の貴金属。どこでも売れるに決まってる。回路が生きてればな、やはり勿体無いと感じてしまう。

 

 でも、魔道具となると適正価格で売っぱらうのこの金属片ほどじゃないまでも手間かかるし。かと言って、安く売るのも癪。そういう意味じゃ壊れてて良かったかも。貴金属としてなら適当な大きさに空間魔法で切断してやれば、多分小さな町にあるような店でも買い取ってくれるだろう。買いたいけど金がないなんて問題も発生しない。

 

 街に降りたことはないが、本はそこそこ読んだ。貴金属の類が前世と同じく高級品なのは知ってる。ってか、じゃないと魔王城の王座の間、その天井にこんな堂々と吊るしたりしないだろう。

 

 何なら前世より高級品かも? ほら、銀の価値がかなり高いから。前世でもどこか高級なイメージのあった銀だけど、実際のところその価値って金と比べたら100分の1以下だからね。シルバーのアクセサリーも、ブランド物じゃなければ4桁前半がざらだったし。それが、この世界だと5倍とか10倍ぐらいな感じ。あくまで適当に選んだ本からの情報だけど。魔王城の蔵書だし、信憑性はそこそこある気がする。

 

 やっぱ書籍よ。引きこもりのお供、この世界にインターネットなんてないからね。読書万歳!

 

 まぁ、すぐに飽きたのだけれど。量としてはね、さすが魔王城の図書室ってことでかなりの蔵書。でも、娯楽の質が低いというか。私が好きな娯楽系の小説は前世のそれに遠く及ばなかった。魔法書とか歴史書の類も、真新しさで初めは楽しかったのだけど少しすればそれもなくなり。そこから先はただの勉強と変わらない。

 

 んな状況でよく引きこもってられたなって? 私が前世から引き継いだであろう数少ない才能の一つである。人間、あんま引きこもってられないらしいからね。私にはわからない感覚だが。前世の娯楽に溢れたあの環境で、1年持たない人が多いらしい。

 

 言うな。私が一番分かっている。役立たず、なんならデバフなのではってレベル。我ながら無駄な才能を引き継いだものだ。

 

 ちょっと苦戦しつつ、シャンデリアをゲット。瓦礫を積み上げて登ったので、思ったより重労働だった。王座が目に入るも、流石にと思い自重。これで当分の資金は問題ないとは思うが、私は自分の先延ばし癖を十分に熟知している。未来の自分に期待はしない。聖剣の欠片の換金、これがいつになるかわからないからね。路銀は多いに越したことはない。

 

 引き続き、魔王城内を物色。金目の物をせっせと自室に運ぶ。

 

 空間魔法で飛ばした方が時短になるが、疲れるんだよね。いや、別に魔力の量的には余裕あるのだが。そういう話でではなく。

 

 人間走れるけど普段は歩いてるでしょ? 例えば、鳥なんかもよく観察してればわかるが、奴らイメージに反してあんま飛ばないんよね。立派な羽つけて、その移動は徒歩が基本。一番飛ぶのは飛び方を覚えた直後だとか。人間も、子供はよくその辺を駆け回ってるが大人じゃそういない。つまりはそういうこと。

 

 魔法は使えるし、実際覚えたての頃はちょっとハマったけど。それだけ。魔力を消費した後の疲労感がどうにも、ね。そのまま夢中になれてれば、魔王後継者向けの英才教育も乗り越えられていたのだろうが。

 

 ……我ながら、もう少しぐらいハマっとけばよかったのに。

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