自称『一般旅人A』の異世界放浪記   作:哀上

6 / 9
人券

side:??

 

 いやー、面白かった。まさか魔王があそこまで善戦するとは、完全に予想外。戦力差的に勇者側の圧勝だと思ってたんだが、実際掲示板の予想もそんな感じだったし。それを覆しかけたのは見事。

 

 ま、リアルタイムじゃんなこと考えてる余裕もなかったんだけど。

 

 ポケットに手を突っ込み、カードサイズの金属板を取り出す。デフォルメされた勇者のイラストの描かれた、緋緋色金(ヒヒイロカネ)の板。表面をそっと撫で、うっとりと眺める。思わずくちづけまでしてしまった。ひんやりとしていて存外悪くない。

 

 ってのも、勇者側になけなしの預金を全額突っ込んじゃったもので。手に汗握りすぎて危うく人券(じんけん)握りつぶしそうに……。勝敗関係なく、俺の全財産がただの緋緋色金クズになるところだった。

 

 熱くなりすぎるのも考えものである。それだけ楽しめたってことでもあるのだが、決着がついた後ちょっと曲がった板を見て猛省。これで換金不可とかになったら数十年は引きずっていただろう。幸いなことに対応してくれた。ちょっと怒られたけど。

 

「にしても。ほんと、楽しかった……」

 

 あれから数日経ってる訳だが、まだまだ熱が残ってるのを感じる。俺だけじゃないのだろう。その証拠に、何かイベントが発生してるってわけでもないのにウィンドウの右下に表示される数字は未だ高い水準を維持していた。

 

 流石にピーク時には劣るけどね。それでも、平時でこのスピードのコメント欄は異常である。皆語り足りないのだろう。普段は過疎り気味の掲示板も、全盛期を取り戻したかのような活気。普段まとめ派な俺も、今回ばかりはリアルタイムで眺めてたし。それぐらい、今回の人間と魔族の戦争は素晴らしいものだった。

 

 とは言え、だ。何も起こってないのを理解しつつ、この前の予熱で配信を見ているものの。本当に何もないってのは違うっていうか。

 

 __お前に言ってるんだぞ、引きこもりっ娘。

 

 魔王を討伐し、勇者一行は人類全体の英雄に。これから世界中を回ってパレードをするらしい。初回こそ、そこそこ楽しめたが、毎回同じ絵面というのも飽きる。あいつらは飽きないのだろうか?

 

 観客の話ではない。見てる庶民どもは初見なのだから飽きるも何もないと思う。コバンザメのようにゾロゾロついていってる王侯貴族も、おこぼれを取り逃がすまいと必死なのだろう。だが、勇者一行。お前らは飽きないのか? まぁ、飽きないんだろうな。人類の為に命をかけて魔族と戦い、魔王の討伐まで成し遂げて、ようやっと手に入れた平和を祝ってのパーティー。いくらやってもやり足りないってところかね。

 

 それはいい。ずっと見てきたからな。聖剣を授かった、いや正確に言えば聖剣を授ける候補に上がった段階からずっと。

 

 正直、勇者がそういうタイプなのは分かっていた。平和になったら見てて退屈するような、そんな男だろうなって。それでも今日まで楽しませてくれたし、甘んじて俺らもその見飽きたパレードを眺めながら予熱をさまし日常に戻っていこう。そう思っていたんだけど、そんな時コメ欄に鳩が大量発生した。

 

 マナー違反もいいところ。だが、自治厨が出る前にその文言を読んだものは片っ端から枠を移動した。

 

『魔王城に魔王の娘が戻ってきたぞ』

 

『何が起こるんだ!?』

『そもそも魔王に娘なんていたのか!』

『第二ラウンド?』

 

 落ち着いていたチャット欄が一気に加速。予熱だったはずのそれは、新たな燃料に熱をあげ発火。期待させて、想像させて、その結果がコレである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。