自称『一般旅人A』の異世界放浪記 作:哀上
side:??
……しっかしこの娘。親が殺されて、城もこのざま、国も滅んだってのに。泣きもしなけりゃ嘆きもしないな。
あまりに変わり映えしないんで、ちょいとシークバーを戻してみたが。初めこそ城の変わりように多少固まっていたものの、呆然とかってよりはただただ驚いてただけって感じだったし。いや、そりゃ驚きもするだろうよ。自分の家がある日ほぼ廃墟みたいな有様になってたら。でも、他にもっと感じるべきところがあると思う。
鑑賞向きじゃないな、見ていてあまり面白くない。
俺みたいなのが存在を知らなかったのもそのせいだろう。歴は浅いが、戦争の雰囲気が濃くなった辺りから、結構どっぷりハマってる自覚がある。他の奴らも、鳩コメに魔王に娘なんかいたのって反応多かったし。古参は流石に知ってそうだが、掲示板でも触れてるやつ見なかったから記憶から消えていたってことかね?
となると期待も薄い。どんな奴でも見ていてたまたまつまらない瞬間なんてのはあるものだが、魔王の娘なんて美味しいポジションにいてこれ。さすがに察するところがある。
でも、戦争終わって今世界中平和ムードだしな。まだこっちの方が何かありそうな気はする。魔王の娘って肩書だけは立派だし。こいつに何かなくても周りにとか。少なくとも、こんな妄想が膨らむ時点でパレード三昧の勇者一行よりはマシ。
「お!」
変わり映えしない画面を凝視する気にもならず、脳内で軽い妄想でもしながら流れるコメントをぼんやりと眺めていると。掲示板にこの引きこもりっ娘の情報まとめてくれたやつがいるらしいとの情報。
なになに? へぇー、魔王の娘として生まれてかつては神童扱いねぇ。しかし英才教育を拒否して引きこもり、以後今日まで。なるほどね。いるよねそういうやつ。初等教育が全盛期、落ちこぼれのくせに無駄にプライドだけある残念な奴。
かつての神童がこのざまとは、人や魔族ってのはどうなるかわからんものよ。だからこそ見ていて退屈しないのだが。
魔王と勇者が種の雌雄をかけて最終決戦してる間。あぁ、あの魔王城での戦闘か。この娘、どうやら自室で食っちゃ寝してたらしい。やっば。城への反応からうっすら感じてたけど、こいつ親子の情とかないんかね。魔王の娘がこれじゃ、魔族の未来はないな。下剋上とか結構面白いんだけどねぇ。
にしても、優秀な魔王がなぜこの戦力差で大した時間稼ぎもせず全面戦争に突入したのか少々疑問だったが。これが答えか。戦力差が多少大きくとも今の方がマシだからと。
本当、娘が引きこもりで可哀想に。
……
ん? 自室で食っちゃ寝? あの状況で? 魔王と勇者がお互いに大技大量に撃ち合って、戦費なんて知ったこっちゃと大量の最高級ポーションを湯水のごとく使い込んだ。あの最中の魔王城の自室で食っちゃ寝?
俺以外にも疑問に思ったやつが多数。そりゃそうだ。突っ込まれて詳しく語り始める古参。
教育を拒否するも、魔族は実力主義な者が多い。特に城にいて彼女と接するようなエリートはそれが顕著。いくら魔王の娘とはいえそのわがままは許されず。魔王からのしごいてやれとの許しも後押し。
が、そんなことで諦める彼女ではなかった。そうか、諦めなかったのか。引きこもりっ娘。それで魔力の隠匿技術を習得ね。何がそんなにお前を突き動かすんだ。んな高等技術を教育を受けたくないために我流でとは。
これ、生まれて数年でしょ? 本当に才能はあったんだな。田舎によくいる神童(笑)みたいなのではなく、ガチで神童だったらしい。
とは言え、我流でそれも子供の魔力隠匿。魔王の娘の教育係に任命されるようなエリートには通用しない。通用はしないが、さすがエリート柔軟である。我流でんな高等技術を身に付けたのを見て、教育の仕方を変えたらしい。
逃げる引きこもりっ娘と探す教育係。この構図で実践形式での教育。上手い、と思ったのだが。初めはうまくいったようだがすぐに引きこもりっ娘が察したと。本当、こいつは優秀なんだか無能なんだか。
どうしても教育を受けたくない彼女は別の方法を模索。魔王城の図書室でとある魔導書を発見。
それで空間魔法を習得……は? 自室を物理的にとんでもない距離に設置……ん? ドアをゲート代わりにし自分だけで入り可能に、と。
「……え、えぇ」
離れ業。教育拒否るためにそこまでするかね? どんな執念よ。んで、そんな距離で戦闘の余波が伝わるはずもなく。だからなんも気にせず気付くこともなく食っちゃ寝できたと。なるほど、ねぇ。
とんでもない奴だな。こいつが最終局面にいたら状況変わった気がする。戦力的に劣り常に苦境に立たされていた魔王軍。もしもうちょっと早く戻ってきてれば、魔王と共闘して勇者を。そこまで行かずとも、少なくとも逃走はできそう。
まぁ、古参どもの書き込みとこのまとめを見るに。今のこの城がこのざまで魔王や魔族に無関心なのが通常運行っぽいからな。たまたま魔王城まで戻ってきて、戦闘に勘付いたとしても。そっと自室に戻り。なんなら、ゲート、ドアを介した接続すら一時切っちゃいそう。
「ん?」
魔王城。魔王の最後っ屁のせいで、生命がいない空間。なんでも城自体に魔法陣を刻んでたらしい。流石だ。魔族の長をしていただけある。負けるにしてもただでは負けない、これで結構な人間が犠牲になった。娘があれなのがいただけないが、そればっかりはどうしようもない。
そんな魔王城に反応があった。視点移動のアイコン。魔族と人間には全て視点移動可能ではあるが、自動ポップアップとなるとそれなりの大物。
いつまでもこいつ見てても動きなんてなさそうだし、別視点いくべ。