自称『一般旅人A』の異世界放浪記 作:哀上
side:??
薄暗い地下室、1人の男が目を覚ました。
なぜ急に魔王城内に反応なんて出たのかと思ったが、それまで寝ていたかららしい。寝てるやつのことなんて見ていても面白くないからね。調べれば出てくるが、ネームドだとしても基本ポップアップまでされることはない。
筋骨隆々。その言葉がピッタリな見た目をしている。おまけに髭も豪快で、漢らしいとでもいうのか。ひと目見て汗臭そうなんて感想が浮かぶ。あまり近くにいて欲しくはない人種だ。いやまぁ、実際どうなのかなんて知らんけど。
寝起きで思考がぼやけているのだろうか、少し呆然としていた。天井を見つめたまま、頭の中の整理でもするように。が、見るからに脳筋である。その行為にいったいなんの意味があるというのか。
しばし固まった後、頬を叩いて立ち上がる。やはり脳筋。どうも、考えてもわからなかったらしい。
ドアを開けようとして、予想外に固かったのか手がすっぽ抜ける。ガチャガチャとドアノブを捻るも、脳筋の想いは虚しく拒絶されるばかり。当然である。
懐に鍵でも入ってないかとひと通りまさぐって、そのまま自分の寝ていたベッド周りや部屋中を物色。しまいには必死に鍵穴を覗き込んで、小指が入らないかと悪戦苦闘。鍵穴に指なんて入るわきゃない。一般的な体型でもそうなのに、お前みたいな体格の奴なんて尚更だ。
ってか、その努力無駄だと思う。短い時間しか見てない俺がいうのもなんだが、俺だったらお前に鍵は預けない。自分が持ってる前提で探してるようだが、多分初めっから持ってなかったのでは?
そもそも、鍵がかかってるのかも怪しいしね。ガチャガチャ捻れてる時点で気づけ。鍵かかってたらドアノブ動かんやろ。強いてあげるとすれば、突っ張り棒でも挟まっているような。それに似ている。
まぁ、脳筋はまるで気づいてないようだが。
相変わらず、鍵を探して部屋中をひっくり返す勢いで暴れ回っている。これは酷い。
いや、一応そういうドアもあるんだけどね。内装を見るにんな面倒なからくりを使うような部屋には見えない。脳筋の寝起きの反応を見るに自室では無さそうだ。ベッドが複数に何やら液体の入った瓶、清潔そうな布。医務室ってところか?
んなとこに閉じ込められるって、暴れたりでもしたのかね。確かに、この脳筋が暴れ回ったら手がつけられなさそう。酒の一杯で簡単に暴走しそうだし。本当お近づきにはなりたくない。
そう脳筋の背景に思いを馳せていると、ふと物色を止めドアをじっと見つめる彼。どうも何か思いついたらしい。
ドアに向かって、拳を構え。……嫌な予感、その直後轟音が響き土煙で視界が覆われる。さすが脳筋。難しいこと考えるのはやめて暴力で解決することにしたらしい。にしても、ちょっと脱出ゲームっぽい雰囲気あったのに拳で解決とは、風情もへったくれもない。
ま、脳筋の脱出ゲームなんて見ててもしゃーないが。
しかし、今の音。魔王城自体がかなりデカいとはいえ結構響いたんじゃないか? 少し前までならそれこそ防音や耐震もしっかりしていたようだが、今じゃ崩れかけだし。あの気の抜けた引きこもりっ娘も気づくのでは。
頻繁な視点移動は没入感落ちるので御法度なんだが、これはあくまで複窓ってことで。こっちの視点を楽しむため。別に戻るわけじゃない。なんて理屈を自分の中でこねくり回す。誰に怒られるわけでもないが、オタクってのはそういう人種なのだ。
驚いて、それで? 気のせいかと言わんばかり、音源の方に向かうでもなく興味なんてないらしい。おい!
これだから引きこもりっ娘はダメなんだ。
と思ったら、動き始めた。さすがに気になるか? いや違う。何やら瓦礫を集めて山を作っているらしい。こいつ、んなところで何をやってるんよ。
……
瓦礫を集めて、登って? 部屋中央に吊るされたシャンデリア。手をかけたと思ったら激しく揺らし始めた。おいおい、何する気だ。耐久度がそれほど残ってなかったらしく無惨に崩れ落ちる。その破片を集め自室へ戻る引きこもりっ娘。
戻ってきたと思ったら、今度は部屋の隅に置いてあった金のカップ。当然カップの形を留めない程度にはボロボロだが。それもまた自室へと運ぶ。
こいつ、まさか……金目のもの持ってく気だ! やばい、なんて奴だ。魔王の最後っ屁のせいで、確かに手付かずのまま大量に残ってるけど。それがこいつに独占されるの、納得いかねぇ。
『っ……お嬢様、なにを』
目を離してた脳筋視点の方から声が。喉の奥から掠れるような、絞り出すような声。視線を戻すと、引きこもりっ娘の様子を少し遠く、彼女の自室につながるのとは反対側のドアの陰から覗く脳筋。
だよね、そりゃ衝撃だわ。
こいつは魔族で、魔王の最後っ屁が残ったままのこの城で生存出来てられることからそれなりのエリートだったと予想できる。きっと魔王の娘の存在は認知してるはず。今は亡き王の忘れ形見が火事場泥棒、そのショックは隠しきれない。
このタイミングで視聴者が一気に増える。画面を眺めてて、端に脳筋が映ってたとか。通知を全て切ってても気づいたとか。没入感削がれるからって距離縮めたり切ってたり、脳筋が目覚めた時点じゃあんま他の奴らは気づいてなかったらしい。
引きこもりっ娘の画面はつまらないが、肩書きだけは立派だからね。一応期待していた奴らも多かったらしい。それでもあまりに鈍いので流れてきたと。
「ん? へぇ、こいつ四天王だったっけ」
そういやいたな。そんな奴も。
ハマってるって言ってたくせに四天王を知らんのかって? だって存在感なかったんだもん。元々戦力的に人間側に偏ってたからね。勇者視点で見てたのもあって、正直魔王以外の魔族はあんま興味ない。
いや、他の3人はちゃんと覚えてるんだよ? なんかこいつだけ記憶から抜け落ちてたっていうか。正直印象が薄い。コメ欄でも『四天王最弱』とか呼ばれてるし、『こんなやついたっけ』なんてコメントも多数。俺が悪いんじゃない。皆んなこの認識なのだ。
にしても、四天王最弱って。それお前らがつけたあだ名だろ。揃いも揃って、二つ名みたいに呼びやがって。んな呼称で統一させてるんじゃねーよ。こんなゴツい見た目してんだからもっと良いのついてるだろうに。ったく、終わってんな。
ま、俺らがんなこと気にしても仕方ないのだけど。こんな配信見てるのなんて、普段から仕事サボってる堕落しかけみたいな天使ばっかやろし。