自称『一般旅人A』の異世界放浪記   作:哀上

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一般旅人A

 __さま、お嬢様」

 

 声が聞こえた気がした。が、おそらく空耳だろう。

 

 見るからにボロボロ、家鳴りもするってものよ。それがたまたま人の声のように聞こえただけ。うん。この城、人っ子ひとりどころか、ネズミや虫の類だっていやしないのだ。

 

「お嬢様! ご無事で何よりです」

 

 ……よそう。現実逃避するにしても、流石に視界のど真ん中にこんな筋骨隆々の大男に人取られてはな。流石の私でもちょっと厳しい。どうやら勘違いではなかったらしい。

 

 頭のご立派な角を見る限り魔族。人が変装してる可能性もあるが、戦時中ならともかく戦後、それもコテンパンに魔族が負けた後。多分、魔族の目を誤魔化す効果より同族に勘違いされるリスクの方がデカい。

 

 人間じゃなかっただけセーフか。まぁ、別に魔族にだって会いたくなかったのだけど。

 

 なんたって、引きこもりである。そりゃ人間と出会って残党狩りだと言わんばかりにバトル開始も困るが、自分のことを知ってる奴に会うのも気まずくはある。どんな目で見られてたのか、理解はしてるつもりだし。しかも、魔族のピンチににもそれは変わらず。

 

 その上で引きこもってたんだろって? それはそう。でも、相対したいかと言われれば別なのよ。逃げた結果の引きこもりだからね。その影響を直視する覚悟はないというか、そんな覚悟もないままからに閉じこもるからこその引きこもりというか。

 

 まぁ、私の場合は何かがきつかったというより引きこもる為に自室に篭った面が強い。逆転現象というか。ってわけで事情は少々違うのだけど。

 

「あー、あなたは無事だったんだね」

「恥ずかしながら……」

 

 魔族、特に魔王城に詰めてたようなエリートは実力主義が多い。こいつもその手のタイプなのだろう。これだけボロ負けで生きてるってのも立派だとは思うが、彼にとっては恥らしい。

 

 昔の武将みたいな価値観だな。いや、実際どうだったのかは知らないけど。ドラマや小説じゃそんな感じだった気がする。

 

 ……

 

 何を話そう。気まずい。向こうから声をかけてきたくせに、会話を広げようって気はないらしい。いや、立場的に私の方が上なのかもしれないけど。上の身分の者相手にそれは一般的に考えて不敬、なのだろうか? そんなことよりこの空気をなんとかして欲しいんだが。

 

 お嬢様とか言ってきたし、向こうは私のこと覚えてるのかもしれない。が私は覚えてないのだ。

 

 人のこと覚えるの苦手なんだよね。顔と名前が一致しないってのは前提として、そもそも顔も名前もあまり記憶に残らない。前世から、クラスメイトに名前も名字もわからんやつが複数いたレベル。

 

 城の魔族なんてそれ以上に多く関わりも薄い。当然、覚え切れるはずもなく。すまんね。

 

「じゃ、私はやることがあるから」

 

 まぁ、考えてみれば別に話すこともないが話す必要もない。このままぶつ切りにするのも、それはそれで気まずいとこがないわけではないけど。仮にも後継なのに全部投げ出したわけで。

 

 が、全部終わった話だ。

 

 城がこの状況。王座も旗も、それを示すかのように律儀に切り裂かれている。この国は無くなったのだ。滅びた国王の娘。もはや一般人と言っても過言ではない。

 

 私はこれから聖剣の欠片を換金しに、三千里ほど旅に出る予定なのだ。具体的に三千里がどれくらいかは知らんが、どちらにせよ長距離の旅路になるのに違いはない。そんな長旅をしてるだけの一般旅人A。魔王とか魔族とかんなことは知らん。

 

「お待ちください! そもそも、お嬢様はここで一体何をなさっていたのですか?」

 

 って、そう許されるわけはないか。

 

 どうしよ。まさか火事場泥棒してたっていうわけにもいかないし。いや、正確には遺産を物色してただけなんだが。どちらにしても印象が悪すぎる。

 

 お嬢様とか呼ぶぐらいだ。多分、魔王に忠誠心マシマシの魔族なのだろう。その後継が、聖剣の欠片を換金しに人間の街へ。しかも、魔王の遺産を路銀にして。明らかに地雷を踏む予感。

 

 人間とも魔族とも、戦いたくないんだよなぁ。経験なんてないのだ。かと言って、こいつと一緒に行動ってのも。亡国の姫がかつてのエリートと一緒に、やることなんて想像がつく。国復興、魔王の復権。

 

 そんなの私のキャラじゃないし……

 

 

 

side:一般天使

 

 この脳筋、なんであんなところで寝ていたのかと思ったけど。なるほどねぇ。最終決戦の前哨戦、魔王城近くに陣地を築いた勇者に奇襲を掛けるべく少数精鋭での作戦。その現場指揮を取ったのがこいつ。

 

 が、作戦は失敗。早々に負けて、まだ城が機能してたから医療室へ運ばれる。そのまま戦争終結と。

 

 勇者は残党狩りまではしてない。兵士の中には傷を負った魔族にとどめを刺して回ったのも居たようだが、魔王城内は最後まで激戦だったからね。んな、隅々まで見て回る様子もない。そして、魔王と勇者の決着がつくと同時に魔王の最後っ屁。両軍かなりの犠牲者を出し、特に城内は余程の実力者以外は軒並み。

 

 最後っ屁を耐えるぐらいには魔力ある。でも、早々に負けるぐらいの実力。それで生き残って、最後っ屁のせいで自己治癒もあまり進まず、こんなタイミングで目覚めたらしい。

 

 ……うーん。なんか、こいつも微妙じゃね?

 

 引きこもりっ娘と脳筋のコンビ。ここからの逆転どころか一波乱も起きなさそう。まぁ、一応天使としては喜ばしい事か。こうやって気楽に鑑賞出来てるのも人類が安泰だって保証ありきだしね。




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