今話で邂逅シリーズ終了です。
この後に情報をまとめた資料を出したのち、
店長とドロシーでの修羅場を書きます。
投票してくれた方々本当に許しません(ありがとうございました!頑張ります!!)
ファイトは俺の勝利で終わった。
負けた者はカードになるというアンティだったがまだ時間の猶予はあるらしい
今のうちに聞かなきゃいけない
「お前名前は?俺だけ茂札と呼ばれるのはフェアじゃないだろ?」
―名前?今の名前と前の名前どっちを聞きたいの?
「前の名前ってやっぱり俺と同じ」
―そ。転生者ってやつ。転生得点もないからオレツエーもできないハズレだよ
「それを言うなら俺も得点なんてないんだけどな」
思わず苦笑する。エニグマを得点だと思われるのは心外なのでそこだけは説明しておこう
―あ、そのデッキが得点じゃないのは分かるよ?正真正銘この正解のカードだけで作られてるのは雰囲気から判断できるし
「あっそう。え?そんなのわかるものなの?」
―これでもカード創造してたからね。ま、この後は俺からカードが創られて連続失踪事件は終結する。警察やらあの面倒な管理組合やらは安心するんじゃない?
これから死ぬからなのか他人事のように言い切る
「で、肝心の名前についてはどちらも教えて欲しいかな?その上で呼ばれたい方で呼ぶよ」
―案外律儀なのね?ハァ、今の名前は宙閉〈ソラト〉 前世は開海(ヒロミ)だったよ
「なんというか前世は女の子につくのが多そうな名前だったんだな」
―そうだね、昔の俺も同じこと考えてたよ。でも、俺のために親が考えてくれた大切な名前だった。転生して、メモに書かれてるだけだった名前を聞いて初めてそう思ったよ
「メモに書かれていたって、親はどうした?」
―いないよ?正確には赤子の俺を捨ててどこかに蒸発した
絶句するしかなかった。同じ転生したのだからどこか自分と同じように育てられて生きてきて、何かしら道を間違えたのだと勝手に思い込んでいた。
―あー別に気にしなくてもいいし、何度も言うけどこの後カードになるからどうでもいいんだよねw
「どうして?どうしてそんな態度でいられるんだよ…」
一度経験したからわかる。死ぬということの恐怖、二度と経験したくないあの感覚。それをコイツは、開海はこれからもう一度味わうことになる。それなのにまるで気にしていないというように語る様子にどこか寒気を覚える
―自分の生に何の関心も無いからだけど?茂札、考えたことある?誰からも必要とされない状態を。自分の居場所がどこにもない恐怖を。一度でも考えたことってある?
「いや、ないな…」
―だろ?人間ってさ?自分が経験したことがないことに無関心なのよ。例えば孤独を感じたことがない奴はその苦しさを文字で理解した気になっても上辺だけで本心ではどうでもいいし、怪我したことがない奴は他人に簡単に暴力を振るえる。だって経験したことがないからなんも考えられないしさ?
元より俺と茂札じゃ境遇が違いすぎて相互理解なんて不可能に近いのよ。
「返す言葉もないな」
本心からそう思う。転生してからも両親は愛情を注いでくれた。近所のおじさんおばさんは昔と比べれば関りが薄くなったけど、気にかけてくれた。今は難しくなったけど小中高と学校に行けばファイトをする友達がいた。それが当たり前だったから、目の前にいるそうじゃなかった相手も自分と同じなんだと決めつけていた。
それがどれほど酷いことなのか理解する。
でも、それでも
「ファイトをする時はお互い対等じゃないか?」
カードゲームで「遊ぶ」時だけは、そういうしがらみを取っ払って望むことができると尾は考えている。
ー本気で言ってる?それは恵まれた とまではいかなくても世間一般で言う普通の子どもにしかできないことだ
孤児院で育った 親に捨てられた 自分とは違う それだけで子どもってのは差別してくる。そして、カードをやるときでもその差別はぶつけられるんだよ。
新しいカードを買ってもらったやつはそのカードを使いたくてサンドバックとして、自分が勝てそうな相手にファイトを仕掛ける。そう、孤児院でまともにカードも手に入れられないと決めつけている相手にね
「まさかその標的になったのって」
容易に想像できるいじめとして受け取ってもらえないだけのいじめ
―俺だったよ
そんなことが日常茶飯事だったのなら闇のカードに魅入られるのも仕方ない
そう考えた直後
ーまぁ、返り討ちにしたけどね?
否定された
「いや返り討ちできたのかい!」
しんみりとした気持ちを返して欲しい
―いや、考えてみなよ?前世で俺紙オタクよ?紙の使い方を理解してればある程度性能に差があっても戦えるでしょ。その上相手はシナジーとかも考えていない、まぁ、共鳴力のおかげで纏まってはいるけど正直紙束にレアカード入れただけの相手なら簡単にボコれるよ。まぁ返り討ちにしすぎてファイトの時はサマやってるだの共鳴力だよりだのいろいろ言われるようになったけど。
「…それが闇のカードを創るようになった理由か?」
―いや?俺がこうなったのはこの世界のどこにも自分の居場所がないって気づいたから
「それはどういう」
ー中学に入った頃かな?前世と同じように定期試験でちゃんとした順位を取るために勉強に力を入れるようになった。カードゲームは遊びなんだからやるべきことをやってから遊べばいいと当時の俺は考えてたわけ。
でも周りは勉強もせず、ファイトばかり。意味が分からなかったし、周りも俺のことを異端者を見ているようだった。でも、当たり前だったんだよ。
だって定期試験にファイトの科目あったんだから。最初目を疑ったよね?
「いや俺が通ってた中学校には無かったな。それっていわば強豪校と言われてる学校にしかないんじゃ?」
―偶然俺が通ってた学校がそうだったってわけ。そりゃ周りはファイトに力を入れる。
そんな中で勉学に力を入れている俺は、ファイトが弱いから勉強で頑張っている落ちこぼれみたいな扱いを受けた。
「・・・」
絶句する。境遇が違うと本人の口から聞いていてもあまりにもかけ離れていて口を挟むことすらできない
―ところが蓋を開けてみれば見下してたやつはファイトで無敗。それもレアカードが入っていない彼らからしたら寄せ集めのデッキ擬きに負け続けることになるわけだ。
面白くないよね?さらに言えば勉強面でもファイトに力を入れていれば日ごろからしっかり授業を受けてたやつに勝てるわけがない。プライドだけは高いガキが多かったから、日に日に嫌がらせはエスカレートした。
「学校の先生はなにしてくれなかったのか?それこそ証拠を掴んで提出すれば」
ーガキの中に学校に多額の支援をしている家庭の子がいた
これでいいか?
「地獄そのものだな」
―地獄の方がまだちゃんとルールがあるんじゃない?
そんなわけで俺へのいやがらせは減ることはなかった。
ただ、俺は気にしなかったから無視してたけどね。
で、これが拙かった。先生からすればいじめを無視しているから動かなくていい。担当すれば授業はまじめに受けてくれてその上勝手にファイトも強くなると良いことづくめだ。
そうなると贔屓が始まる。不平をいう生徒や保護者には俺の成績と学校生活での態度、ファイトの様子を見せる。そうなるとなにも言えなくなり引っ込むしかなくなる。
何も手が出せなくなった相手にすることは1つ 無視だ
語られる過去にもはや言葉も出ない。自分が同じ境遇だったら壊れていたかもしれない。
いやほぼ確実に壊れていただろう。今の自分があるのは周りに恵まれた奇跡そのものなのだと実感させれる。
―好きなデッキも組めず、成績のためにプレイするカードゲームなんてただの作業だ。
大好きだった、唯一己のアイデンティティとして確立できていた趣味がただの作業になり果ててもうすべてが嫌になったときアイツが現れた。
「それが開海が闇のファイターになった理由か」
―・・・茂札はそっちの名前で呼んでくれるんだな。
俺に話を持ち掛けてきたのはカードの精霊だった。高圧的な態度で自分の下僕になるなら今の環境から解放してやると告げてね
「!そのカードは今どこにある!?いや、それ以前にその精霊の名前は!?」
もしもあいつが関わっているのなら居場所を突き止めるチャンスになる。
そう考えて矢継ぎ早に質問するが
―もうない。
「なっ!?もういないってどういうことだ?」
―正確にはもういないっていうことになるな。だって俺のカードの素材になったんだから
「精霊も素材にできるのか?」
本日だけで何度目になるか分からない衝撃を受ける
―あいつに俺が望んだのは、俺の理想のカード つまり前世で俺が使っていたカードをこの世界で創りだすこと。それを代価に求めたら手付金にでもしたかったんだろうな?俺の記憶を勝手にみて、苦しみだした
「苦しみだした?まさか創りたいカードの性能をみて頭抱えるなんてことはないよな?」
―そのまさかだったけど?精霊からすれば理解できない性能で殴りあう修羅の世界だったんだろうな前世の紙環境は。到底作れないと思ったのか俺から離れようとしたが、俺は先に話に乗ったからなのかカードが創られ始めた。が、リソースが足りなかったんだろうな途中で止まってしまった。
「だからお前が素材になれ。とでも言ったのか?」
―その通り。精霊の周りを闇が囲い始めたら段々薄くなっていってな?苦しそうに俺に罵詈雑言を投げかけながらどんどんカードが完成し始めて、やがて1枚のカードが俺の手元に飛んできた。同時にカードになるときに苦しんでいる姿を見ていたらもっと見たいって衝動が沸き上がってきた。出来上がったカードを確認して心臓が跳ねたのを今でも思いだす
そういう開海の顔は紅潮していた
生きていると実感できたのがその時が最初ならどれだけの時間を藻掻きながら歩んできたのだろか…
もはや会話ではなく開海の独白を聞く状態になっている
―その時初めて俺はこの世界に生きているって実感した。そして、あの苦しむ姿を見ながら俺の理想を完成させた後、俺も終わろうと決めた。そのためなら何でも犠牲にしようと思った。
でも、ダメだった。初めてカードの素材にするためにファイトを挑もうとした時、前世の両親や周りにいた人たちの顔が思い浮かんでくるんだ。そして言うんだよ止めろって。
幻聴のはずなのずっと耳に残って消えやしない。
それが聞こえないのは悪人と呼ばれる相手だけ。俺は堕ちることも中途半端にしかできなかったんだよ。
だから救世みたいな大言を吐いて己を正当化するしかなかった。
この世界に生まれて一度たりともカードゲームが楽しいと思えなかった。
転生なんてしたのは俺だけだと思っていたから
―でも今日茂札に出会えた
エニグマは前世で何度も対戦したから止めどころも分かってたはずで、なんどもマスカン当てたのに負けた。負けたのに楽しかった。
あぁ、楽しかったんだ俺は ただの作業のはずだったのに楽しめたんだ…!
「俺も楽しかった!最初は闇のファイターだから潰す気しかなかった。
でも、あの一言で何が何でも勝ちたいと思ったんだ!俺の、俺たちのエニグマを苦しみからの逃げに使おうとしている相手に絶対に勝ちたかった!」
―茂札は俺を、普通と違う俺をちゃんと対戦相手として見てくれたんだな
「当たり前だ!あんな、縦横無尽に魔法を使うデッキは中々当たれない。この世界じゃ特にそうだ。だから俺もあんなに手に汗握り対戦は本当に久しぶりだった!!」
―初めてそんなこと言われたな…
「だからまたやろう!カードから元に戻す方法はあるはずだ。それで被害者を元に戻して、全員に謝罪して罪を償って今度は何のしがらみもなくただのカードゲーム好きとしてファイトしよう!」
―本当に勿体ないことしたなぁ 茂札みたいな紙オタクに闇のファイトなんざ仕掛けなければよかった。ただ、1戦ファイトしませんかって、カドショに遊びに来ていた君に言えればよかった…
ごめんな?その提案はすごく嬉しいけど、叶うことはないよ
「なんで・・・」
―俺が素材にした人たちは元に戻る可能性がある。俺に精霊を差し向けたやつを仕留めれば俺が使ってる闇も無力するから
でも、最初に契約した俺だけは違う。俺の存在は完全に消えカードとしてこの世界を彷徨うことになる。
それが俺が払った代価だ
「ようやくエニグマを語れる同士が出来たと思ったのに、こんな結末なのかよ…!
納得できるわけがない」
―なぁ、茂札。お前に守りたい人はいるか?
「いる。両親に友達、あとバ先の店長と同僚と遊びにくるお客さん」
―なら、お前が守りたいもののために全力を出すときに俺を使え。
共鳴力なんざなくとも力を貸してくれると思うからな。
エニグマでも採用できるようなカードになってみせるからさ?
茂札のいけるとこまで俺を持って行ってくれ
…もう意識も朦朧としてきた。俺の声まだ届いてるか?
辛うじて聞き取れるくらいの音量。それが残り時間を示していた
「聞こえてる!言いたいことがあるなら早く!!」
―もっとはやくであいたかった
も・しもうい・ちど・・あ・える・・・な・ら ふぁいと しよう な
そう言って開海を闇が包んでいき、闇が晴れた後には1枚のカードが落ちていた
~fin~
ハッピーエンドになんかなりませんよ?
最後に生まれたカードはたぶん
ルーターの役割とコードの終着点になれる2つの役割があるカードでしょうね