マキマさん『総理大臣!消費税を100%にすると言いなさい!』   作:バケギツネ

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デンジくん。わたしに車を運転させると言いなさい。

 

 

『なるほどなるほど。そんな事があったんだね。』

 

「はい!そうです!!!」

 

『まあ、わたしには全部分かってた事だけどね。うんうん。』

 

「はい!マキマさんは最高です!!」

 

『そう、わたしは最高!』

 

「マキマさん最高!マキマさん最高ーーーーっ!」

 

 脅威、いや、胸囲の7枚パッドで懐柔したデンジから、マキマは全てを聞き出した。

 

 人並みの幸福を夢見ながら、ポチタと過ごした借金塗れの日々。そして、死に際の彼と交わした契約についてを。

 

『あ、渡辺くん。今のデンジくんの話、全部メモしといて。わたし、また忘れちゃうかもだから。』

 

「・・・はい。」

 

 渡辺は、慣れた手つきでその指示に従う。

 

『それじゃあデンジくん。とりあえずキミを、本部に連れてく事にしたから。着いてきて。』

 

「はーーーーーーーい!どこまでも着いてきますぅ、地獄の果てまででもぉ!」

 

 デンジはすっかり従順だ。首輪の付いた子犬のように、マキマに引っ張られていく。死体と腐敗臭の残る廃倉庫を、彼が振り返る事はなかった。

 

『ほらこれ!わたしのマイカーなんだ!すごいでしょ?』

 

「すげーです!高そうで!!」

 

『でしょ?わたしがお給料貯めて買ったんだ〜。名付けて“マキマカー”。』

 

 マキマが指差したのは、悪魔の攻撃にも耐えうるよう、特殊加工が施された公用車。断じて、マキマの私物では無い。

 

『この車、結構快適なんだよ〜。お姉ちゃんの送り迎えもできるしね。』

 

「へぇ〜、お姉さんいるんすね。やっぱ、家族揃って美人なんですかぁ?」

 

『え?わたしに家族はいないよ?』

 

「えぇ?」

 

『ん?ほら、とにかく乗って乗って!』

 

 困惑するデンジは、そのまま後部座席に押し込まれた。そんな彼に、途切れる事ないマシンガントークが浴びせられる。

 

『デンジくん、デンジくん。わたしね、ゴールド免許持ってるんだ!』

 

「流石っすね!」

 

『しかも4枚も!』

 

「半端ないっです!......ん?」

 

『わたしの運転するとこ、見たい?見たいよね?見たいってずっと言ってたもんね?』

 

「いや、俺ぁ」

 

『仕方ないなぁ〜。わたしのドライビングテクニック、見せてあげるよ!鈴木くん、渡辺くん。これは命令です!わたしに運転を代わると言いなさい!』

 

「「絶対にダメです!!!!」」

 

 運転席に飛び込んだマキマは、大慌ての部下2人に取り押さえられる。

 

『ちょ、離してぇ!助けてデンジくん!鈴木くんと渡辺くんが、変なとこ触ってくるぅ!』

 

「「いい加減にしてください!!」」

 

『・・・はーい。』

 

 頬を膨らませたマキマは、不服そうに、デンジの隣へと押し込められていた。

 

『全く、そんなに運転がしたいの?2人もお子様だな〜。』

 

「マキマさんが何百台、公安の車をお釈迦にしたと思ってるんですか!」

「貴女の出した損害額、私の年収超えてるんですよ!!」

 

『ち、違うのぉ!アレは、何もしてないのに、車とか船とかヘリとかがぁ、勝手に走り出してぇ!』

 

「「マキマさん!!!!!」」

 

 本気めのお叱りを受けたマキマは、口を窄めてシュンとしていた。

 

「・・・あの2人、マキマさんの部下なんすよね?態度悪くねえですか?」

 

 上司と部下の関係を、デンジは以前から嫌というほど見てきた。

 

 それは圧倒的な“支配”の概念。彼自身もヤクザ親分の部下、いや、それよりずっと下の存在だった。命令は絶対。何でも死ぬ気で従うし、逆らえば死ぬ。それこそ痛みと恐怖から学んできた、これまでの世界の常識。

 

 だからこそ、余計に気になってしまう。

 

「マキマさんみてーな最っ高な人が、部下に舐められてていいんですか?」

 

『チッチッチ。キミは分かってないな〜。』

 

 下手くそに舌を鳴らしながら、当人は問いを否定する。

 

『この世界の全てはね、わたしの支配下にあるの。これ常識ね。だから、鈴木くんも渡辺くんも、圧倒的にわたしの格下なの。オッケー?』

 

「あー、はぁい!」

 

『だから、多少生意気でも許してあげるの。だってわたしは、天使のように優しいからね!』

 

「天使のように優しい、...っですか。」

 

 デンジの脳裏には数話前の非道な仕打ちが蘇る。だがソレは、彼女の胸に包まれた記憶に塗り潰された。

 

「はい!天使です!マキマさんは天使ぃ!!!」

 

 “天使の悪魔”がここに居れば、マキマと自分を同列扱いは、流石に名誉毀損だと、抗議していたに違いない。

 

『つまりね。さっきまでのやり取りは、強者のよゆーの現れってやつなんだよ。分かった?』

 

「はぁい!分かんねえけど、分っかりましたぁ!」

 

『まあ,デンジくんは馬鹿だからね。完全に理解できなくても仕方ないよ。うん、馬鹿なんだし。』

 

「はい、俺ぇ馬鹿なんで分かりませええん!!」

 

 マキマからの馬鹿扱いは何やら腑に落ちなかったデンジだったが、胸が大きい美人の言うことなので気にしない。

 

『それに、今時、流行らないよ。一方的な支配なんて。』

 

 マキマがポツリと呟く。

 

『キミ、ニュースとか見ないでしょ?』

 

「はい!んなもん見たって、楽しい気分になれねえんで。」

 

『じゃあ、知らないか。先月ね、66の国で、悪魔の力を使ったすっごい革命が起きたの。』

 

 その場の空気が重くなる。鈴木と渡辺も、その顔を動かさぬまま強張らせていた。

 

「なんか、すっげーヤバそうな話ですね。」

 

『革命で、独裁国家が次々倒れて、“自由”が強く叫ばれた。今、それで世界は揺らいでる。』

 

 いつにも増して真剣になるマキマの鮮やかな瞳は、どこか遠くを見つめていた。

 

『だからね。すっごく弱くなっちゃったんだよ。今の“支配”は。』

 

 

 

 

 

『...って言うのが、今の世界情勢ね。分かった?』

 

「いや、あんまし!頭こんがらがりました!面白ぇー話じゃなかったし。」

 

 頭をボリボリと掻きながら、デンジは正直に答える。

 

 昨日までの彼の世界は、ポチタと悪魔とヤクザで、大体完結していたのだ。さっきまでの話は壮大過ぎる。難しすぎて、難しいという事しか分からない。

 

『まあ、わたしが全世界最強で、全部の国の大統領から契約を迫られてる、モッテモテな存在!っていうのだけ憶えてればいいから!知ってる?第一次世界大戦は、わたしを巡って起きたんだよ!』

 

「へぇ〜!初めて知りましたぁ!今ので、俺ぇ、賢くなった気がします!!」

 

『よろしい!これからも、デンジくんには沢山のことを教えてあげるよ!えーっと、わたしは全てを支配し操る、ふぃくさーって奴だからね。実は先月の革命だって、わたしが裏で糸を引いてたんだ。世界中に悪魔をばら撒いて、現地人に契約させて・・・』

 

 話を聞いているデンジに、疲労がどっと押し寄せる。虚言癖との会話がしんどいのもそうだが、思えば昨日は一晩戦い通しだった。

 

「ヤベ〜。マキマさんの前だし、かっこつけてえのに...!」

 

 腹も減った。腹の虫も情けなく鳴き声をあげている。

 

「カッコ悪い...!こんな、ダセー姿じゃ、俺ぇ、マキマさんに嫌われ・・・」

 

『ねえ鈴木くん!わたしお腹空いた!飢餓の悪魔の攻撃だと思う!このままだと死んじゃう!世界の損失だよぉ!助けて!』

 

 隣の腹の虫は、デンジより遥かに情けなく、騒々しい。狭い車内でバタバタと手足を動かし、シートを軋ませていた。

 

『ステーキ!ステーキ食べたい!』

 

「はいはい、わかりました。」

「パーキングエリアで、適当に食べましょう。・・・ステーキあるかな?」

 

 深いため息と共に、渡辺は慣れた手つきでカーナビを弄る。

 

「ステーキ?ステーキって、あのステーキぃ?」

 

 手足バタバタ中のマキマにベシベシされながらも、デンジは考える。

 

「んなすげー高そうなもん、今まで食ったことねえな。って言うかここ何年か、店で売ってる肉、食ってねえや。」

 

 100円で3日を凌ぐことなどザラだった彼には、道端の草や、食パンがせいぜい。ステーキ。もはやそれは、ファンタジーに近い存在。

 

「噛みごたえ、あるんだろうなぁ。」

 

 食感と味を想像し、垂れそうになった涎を慌ててごくりと飲み込む。今もデンジに金はない。つまりは、関係のない話なのだ。

 

『デンジくんも、お腹空いてるよね?わたしの分の朝ごはん、デンジに分けてあげるよ。』

 

「えーー!?」

 

 差し伸べられた救いの手に、デンジの顔がぱあっと晴れる。

 

「俺、100円しか持ってなくてぇ、」

 

『大丈夫、わたしに任せて!わたしは世界一のお金持ちだから!この間、長者番付にも載ったんだ!』

 

 デンジの目には、さっきまで駄々を捏ねていた目の前の女が、女神のように映っていた。

 

『遠慮しないでいいよ。今日は、公安からボーナスも出たことだし!』

 

 マキマはそう言って、懐から血まみれの財布数個を取り出し、ジャラジャラと中身を漁る。

 

 どう見ても、ゾンビになった組長達の遺品だ。

 

「ま、いっか!ご馳走になりまああす!」

 

 デンジは気にしない事にした。

 

 

 

『あ、もう着いたみたい!』

 

「よっしゃあ!ステーキぃ!ステーキまで、もうちょい!」

 

 アホ2人の弾んだ声と同時に、車は目的地へと到着する。

 

『デンジくん。待て!』

 

「わん!」

 

 飛び出そうとするデンジは、マキマの腕に制された。

 

『半裸だと目立っちゃうよ。渡辺くん、服を全部脱いで、デンジくんにあげると言いなさい!』

 

「マキマさん。それだと、私が全裸で目立っちゃいます。」

 

「俺もぉ!男の裸は見たくないです!」

 

「まったく何なんだ、キミたちは・・・」

 

 渡辺はブツクサ言いながらも、自分のコートを脱いで、デンジにそっと被せてくれた。

 

 

 

 

『デンジくんお待たせ!これがステーキだよ!』

 

「ステーキィ!」

 

 ニッコニコのマキマは、木皿に敷かれた鉄板を持ってやってきた。

 

『知ってる?ステーキって、わたしが発明したんだ!それで今度、ノーベル賞を貰う事になってて、』

 

「ステーキィィィ!!」

 

 鉄板では、香ばしい焼き色の肉厚ステーキが、ジュウジュウと音色を奏でている。ナイフを入れると、その薄赤い断面からは肉汁が溢れ出し、パチパチと弾け出した。

 

『約束通り、分けてあげる。』

 

「え、ホントにっ、マジでっ、いいんですよね!?」

 

『当然!わたしが今まで、一度でも嘘をついたことがある?』

 

「...あ、あー、そうっすね!!」

 

『はい、あーん。』

 

「あーーーーーーん!」

 

 デンジは目を瞑り、大口を開けて、初めてのステーキを待ち構える。そこには、マキマが手掴みした付け合わせの野菜が勢いよく投げ込まれる。

 

「野菜はーーっ、嫌いっ!!!」

 

『ぶっ!!!!!」

 

 熱々のお野菜を口道に投げ込まれ、思わずデンジはむせ返る。ただ、栄養はありそうだし、勿体なさそうだしで、とりあえず飲み込んでおく。

 

『約束通り、わたしのご飯を分けてあげたよ!』

 

「げほっ、ごほっ、はぁ!?」

 

『死、戦争、飢餓、野菜、残業、ブロッコリー、野菜。この世には、無くなった方が幸せになれるものが、沢山あると思うんだ。デンジくんもそう思うよね?』

 

「マキマさんそりゃないっすよ!」

 

 野菜をそこそこ美味しくいただきながらも、デンジは抗議の声を上げる。

 

「俺はっ、ステーキが!肉が、食いたかったのに!」

 

『デンジくんも、お肉が好きなんだ!わたしも大好き!』

 

 デンジの目の前で、マキマはステーキを一呑みで平らげる。

 

「あーーーーーー!!」

 

『美味しかった〜!でも、ステーキの気分じゃなかったな。生姜焼きの気分だったかも。あ、デンジくん、お野菜美味しかった?』

 

「マキマさんのっ、悪魔ぁ!!!」

 

『どどど、どうしてそれを!?』

 

 何故だか狼狽えるマキマをよそに、デンジは悔しさから、その拳を何度も地面へ叩きつけていた。

 

「うっ、うううっ...!」

 

 その様子に、不思議そうなマキマは、首をコテンと傾けてる。

 

『どうして悲しんでるの?確かに野菜は、その辺で拾い食いする悪魔の死体より断然不味いけどさ。デンジくんの昨日までの食事に比べたら、全然マシじゃん。』

 

「そうだけどぉ!そうだけど、そうじゃないんですよぉ!」

 

 デンジは腕をブンブンと振り回して、自論を展開する。

 

「確かに、ねえもんが無くても辛くねえけど、一回掴んだと思ったのに奪われんのは、死ぬほど辛えんですよぉ!!」

 

 そう、そうなのだ。一回期待してしまう分、失うショックが大きくなる。他者との温かな繋がりを半ば諦めていたデンジに、ポチタという家族ができて、それが奪われた時と同じだ。

 

『へぇ〜、そっか。デンジくんは、掴んだものを奪われるのが、死ぬほど辛いんだ。へぇ〜。』

 

 泣き崩れるデンジを見ながら、マキマはそれこそ悪魔のような笑みを浮かべる。彼女の脳裏に浮かんだのは、デンジから聞き出したポチタとの契約だった。

 

 

 

 

 

 一方でデンジには、鈴木と渡辺から、救いの手が差し伸べられる。

 

『えっとデンジくん。俺たちのステーキ、ちょっと分けてやろうか?』

『俺、最近高血圧気味なんだ。ステーキ全部食べたら、やばいかもな〜。誰かが、半分貰ってくれたら、助かるんだけどな〜。』

 

「っ!!神だぜっ、アンタら!」

 

 デンジの目には、むさ苦しい男2人が、女神のように映っていた。

 

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