マキマさん『総理大臣!消費税を100%にすると言いなさい!』   作:バケギツネ

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デンジくん。手柄はわたしに寄越しなさい。

 

 

『それ行けデンジくん!悪魔退治に出発だー!!』

 

「おーーー!」

 

 上司からの掛け声に合わせ、デンジは拳を振り上げる。またマキマさんに抱かれる。そのついでに、悪魔に誘拐された少女を救出し、その悪魔をぶっ殺す。それこそがデンジに与えられた初仕事。

 

『あ、親切で有能な上司のわたしは、デンジくんに大切な事を教えてあげる!だから心して聞いてね!』

 

「はい!ちょー親切で有能な、マキマさんのお話、ちょー聞きまーーーす!」

 

 2人で森を歩き、悪魔を捜索している最中も、絶えずマキマはデンジへ話しかけていた。(発言の内容と知性はともかく)透き通るような美しい声が、デンジの耳をくすぐって、心地いい。

 

『使えない公安の犬は、殺処分されちゃうんだって。』

 

 しかしその一言で、場の空気は最悪に。

 

「......え?」

 

 数々の修羅場を潜って来たデンジすらも、マキマのプレッシャーに気圧されていた。思わず喉は音を鳴らし、冷や汗が顔を伝う。

 

『だからデンジくんは、すっごく頑張って、悪魔を狩らなきゃいけないの。自分が処分されない為に。』

 

「は、はい...!」

 

『そして、わたしが処分されない為に。』

 

「は、はい?」

 

 マキマの溢した一言で、その場の空気はまた変わる。よく見ると、マキマの額からもタラタラと冷や汗が流れていた。

 

『言ったでしょ?使えない公安の犬は、殺処分されちゃうの。』

 

 マキマはその場にしゃがみ込み、両膝を小さく抱えて丸まる。そしてガタガタと震え出した。

 

『殺処分は嫌、殺処分は嫌、殺処分は嫌、殺処分は嫌、殺処分は嫌、殺処分は嫌、殺処分は嫌・・・』

 

「マキマさん、(ソッチ)側なんですか!?あんだけ偉そーだったのにぃ!?ホントは下っ端なんですか!?」

 

『は、はぁ!?わたし偉いしぃ!』

 

 マキマは大人びたその顔立ちを、子供のようにぷくーっと膨らませていた。

 

『日本の総理大臣とはズッ友だし、アメリカの皇帝とだってマブダチだもん!ホワイトハウスって、実はわたしの別荘だし!だからわたし、めっちゃ権力あるんだけど!』

 

 大きな身振り手振りで、マキマは自分がいかに偉大かを説き始める。

 

『今だって、ズッ友のよしみで、ほんのちょっとだけ首輪をつけて国家で管理させてあげてるだけだから!わたしは、友達思いなだけだから!』

 

「そ、そうっ、ですね!マキマさんすっごくスッゲーです!」

 

 ぐずる子供をあやすように、デンジは相槌を打っていた。

 

『とにかくデンジくんは、超頑張って、悪魔を狩ってね!デンジくんの手柄は全部、キミをスカウトしたわたしの手柄になるから!!』

 

「っ、はぁい!頑張りまぁす!」

 

 そうはならないというツッコミを、デンジはそっと飲み込む。

 

「マキマさんが死んだら、あの気持ちぃハグしてくれる人、いなくなるし!」

 

『デンジくんありがとう!そこまで言うなら、わたしが処分されそうな時、身代わりに死なせてあげてもいいよ!』

 

 着いていく相手を間違えた。デンジは心中でそっと後悔し始めていた。

 

『それが嫌ならね、デンジくんも本気を出さないと!例えば、黒いチェンソーマンに変身して・・・』

 

「そういや、マキマさんって強いんですか?」

 

 世間話の延長で、何気なく振った1つの問い。しかしそれに、マキマは肩をビクリと震わせる。

 

『...と、ととっと、当然だよ!』

 

 その歯切れは驚くほど悪かった。

 

「え、弱いんですか?」

 

『む、昔はすっごく強かったの!い、いや、今でも普通に最強だけどね!奥の手もあるし!で、でも、その準備に時間がかかったり、その代償も重かったりで、あんまり使いたくないっていうか・・・わ、わたしが本気を出しちゃったら、地球が爆発しちゃうからな〜。』

 

 高速で言い訳を詠唱するマキマを、デンジは戦力としてのカウントから外す。彼は改めて、公安におけるマキマの立ち位置が、よく分からなくなるのだった。

 

 

 

「っていうか、マキマさんの部下2人は、俺らに着いて来ないんですか?」

 

 デンジは、ずっと気になっていた事を口にする。今、彼らのそばにマキマの部下(?)の黒服2人はいない。

 

『あー、あの2人はね。』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「我々は被害が拡大した際に備え、民間人の避難所を警護します。」

 

「マキマさんは、この周辺に強力な悪魔は居ないと仰ってましたが、その、マキマさんの予想が当たった試しがないので。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『だってさ。』

 

 マキマは部下2人から、驚くほど信頼されていなかった。残当である。

 

『渡辺くんは娘さんを、鈴木くんはお姉さんを、悪魔に殺されてるんだって。』

 

 マキマはただ、その事実を淡々と告げる。

 

『だからあの2人。悪魔被害には、人一倍敏感なんだよ。』

 

「へぇ〜、そうだったんですか。」

 

『渡辺くんには、発破をかけられちゃったよ。今回、悪魔に攫われた女の子を絶対無事に助け出してって。自分の娘でもないのに、何であんなに必死なんだろうね?』

 

 マキマはコテンと首を傾げていた。まるでソレが心底不思議でたまらないという風に。

 

「・・・何ででしょうね。」

 

 デンジは、渡辺の気持ちを考えようとして、すぐに止める。そんな事、どーせ本人にしか分からない。なら、勝手に想像するだけ無駄だ。

 

 そんな事より、もっとハッピーなことを考えよう。折角今は、良い女と2人きりなんだ。

 

『デンジくん、わたしエスパーなんだ。今キミはこう思ってるでしょ?あの2人はアホ。地獄のアイドルであるこのわたしから、たとえ一時でも目を離すなんて勿体無いって。』

 

「え?あーはぁい!」

 

『ふふん、やっぱりね!』

 

 マキマはドヤ顔で結んだ自分の赤髪をかきあげる。

 

『でも安心して。今この瞬間だって、あの2人は私たちを見てるはずだから。』

 

「えぇ!?んなバカな、どっから!?」

 

『監視の悪魔の力らしいよ。』

 

 マキマはさらりと言い放つ。

 

『総理大臣がわたしの大ファンらしくてね。あの2人に頼んで、ずっとわたしを見張らせてるんだってさ。』

 

 衝撃的な告白だ。しかし日頃の虚言のせいで、デンジには嘘か本当かが、イマイチ判別がつかない。

 

『総理にも困っちゃうよね!きっと、わたしのトイレとか、着替えとか、お風呂(月一イベント)とかを覗いて、楽しんでるんだよ!』

 

「マジっすか!?総理の奴、とんでもねえエロじゃねえですか!許せねえ!」

 

 いつもの虚言。しかしその内容は、余りにも刺激的過ぎていた。彼の脳裏には、霰もないマキマの妄想が、次々と思い浮かんでしまう。

 

 焦らすように、その細い指で上着のボタンを一つずつ外し、鎖骨と胸元が少しずつ顕になっていくマキマさん。

 

 白を基調としたレースの布地で、豊かな胸の膨らみや引き締まった腰のラインを際立たせるマキマさん。

 

 湯気の中で一糸纏わぬ姿となり、水滴が伝う美くしい肢体を晒すマキマさん。

 

「っ、そぉ、頭がっ、マキマさんだらけでっ...!」

 

 デンジの息が荒くなる。彼の拳は、権力でエロを独占する総理(冤罪)への怒りで、震えていた。

 

「エロ総理がよぉ!職権らんよーしやがってよぉ!俺だってっ、俺だってぇ、見てえのによぉ...!」

 

『まあ、これも可愛すぎる私の罪って奴なんだけどね。しょうがないから許してあげてるんだけど。』

 

「でも、そんなの窮屈じゃねえですか!何とかして、あ!」

 

 デンジに電撃のような閃きが走り、頭にナイスアイディアが浮かぶ。

 

「マキマさん!俺、いい事思いつきました!そのエロ総理、ぶっ飛ばしましょうぜ!それなら、監視も無くなるし、俺たちは自由だ!」

 

 足りない事を自覚している頭を回し、デンジは自分なりに考え、その気持ちを言葉に乗せる。

 

「だから、逃げちゃいましょう!俺とマキマさんで、一緒に。」

 

 無謀ながらも真っ直ぐな願いと共に、デンジはマキマへと手を伸ばす。ポチタと共に悪魔を狩ると決めた、あの時と同じ。デンジにとっては、自分自身で生き方を定めた2度目の瞬間だった。

 

『デンジくん・・・』

 

 対するマキマは、迷わずデンジの手を取って、高く掲げる。

 

『渡辺くん〜!鈴木くん〜!ここに裏切り者がいるよ〜!わたしの手柄!わたしが捕まえたよ〜!』

 

 マキマは秒で裏切った。

 

「ちょ、マキマさん!?」

 

『総理を狙ってるって言ってた〜!グチャグチャに痛めつけて、生きたまま内臓を食い殺すって言ってた〜!恐ろしいテロリストだよ〜!わたし大手柄かも〜!」

 

「嘘嘘ぉ!じょーだん!今のなしでぇ!」

 

 デンジは必死に、自分を公安に売り渡そうとするマキマを宥めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 内閣総理大臣官邸。

 

「呼びかけに応じ、話し合いの場を儲けてくれた事に、感謝します。」

 

 その重厚な建物の奥深く。外界のざわめきから切り離された執務室には、異様な静けさが漂っていた。

 

「とは言っても、これはオフィシャルな場では無いのですが。」

 

 この国のトップであるはずの男は、ひどく慎重に自らの言葉を選んでいく。彼は今、目の前に立つ客人の機嫌を損なわぬよう、一挙手一投足に細心の注意を払っていた。

 

「それでは、私と貴女との間で結ぶ、“契約”について、今一度確認をしておきましょう。」

 

 恐る恐る、総理はその名を呼ぶ。この国にとって、第二のマキマになりうる可能性を秘めた客人。

 

 腰まで伸びた薄オレンジの髪をなびかせる、少女の名を。

 

「血の悪魔。」

 

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