マキマさん『総理大臣!消費税を100%にすると言いなさい!』   作:バケギツネ

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デンジくん。わたしの考えを聞きなさい。

 

 

『わたしは別に、今の状態を“窮屈”だなんて思ってないよ。』

 

 デンジとのじゃれあいを止めたマキマは、再び前を歩き始めて、そう溢す。迷わず進むその姿に、虚言の気配は無い。

 

 デンジはますます、マキマという女が分からなくなっていく。

 

「でも、今のマキマさんは、まるで“支配”されてるみてえで、」

 

『そう、支配!』

 

 クルリと振り返ったマキマは、その言葉に同意する。渦を巻いたその瞳は、真っ直ぐにデンジを射抜いていた。

 

『わたしは正直、心地いいよ。』

 

 その声色は透き通るように純粋だった。

 

『好きの反対は無関心っていうでしょ。支配したいって思える程、強い気持ちを向けてもらえるのって、すっごく幸せなことだって思わない?』

 

 それこそが“今の”マキマの支配論。

 

「俺はぁ、よく分かんないです!」

 

 素直な感想を口にするデンジに、マキマも自分を譲らない。

 

『わたしも相手を支配したくて、相手もわたしを支配したい。だからこれは、何より素敵で“対等”な両思いなんだよ!』

 

 マキマは無邪気に頬を緩め、嘘も虚飾ない心からの笑顔を見せる。

 

「やっぱぁ、よく分かんないです!俺はぁ、支配っつぅーのが、どーも好きになれません。正直、クソだと思ってます!」

 

 思い出すのは、ヤクザに顎で使われていた不自由な過去。あの時で、嫌な支配の経験はお腹いっぱいだ。

 

「うええええええん!』

 

「ん?」

『んん??』

 

 甲高い声が森に響き、デンジ達は首を捻る。

 

「マキマさん、今のって!」

『うん!攫われたっていう女の子かも!先に気付いたのわたしだから、わたしの手柄ね!』

 

 声の方に全力ダッシュするマキマは、茂みの向こうへ消えていく。デンジも慌ててその後ろを追いかけた。

 

『やっと見つけた〜!』

「お!」

 

 2人が目にしたのは、不安そうに啜り泣くワンピース姿の少女。その特徴は、父親から事前に聞いていたものと完全に一致しており、目立った傷も無い。

 

「無事でよかったっすね!」

 

 デンジは胸を撫で下ろす。だがそれと同時に、当然の疑問が湧いてきた。

 

「悪魔の方はどこ行ったんですかね?折角の獲物ほっぽり出して。」

 

 少女を不安にさせないよう、小声で疑問を口にする。それに対し、エッヘンと不自然な巨胸を揺らす上司は、自信満々に返答した。

 

『わたしが来るのを知って、逃げ出したんでしょ!わたしは悪魔達から、ちょー恐れられてるからね!だから雑魚悪魔は、狩る前に逃げちゃうんだよ!』

 

「じゃあマキマさん、デビルハンターの才能ないんじゃ」

 

『とにかく!もう心配はいらないよ!!』

 

 都合の悪い話を遮り、マキマは女の子の背中へ手を回す。

 

「あ、いいなぁ!!!」

 

 押し付けられ、むにゅりと歪む膨らみを見て、デンジの口からは本音が漏れた。

 

『安心して泣き止みなさい!もう、なんの危険もないからね!』

 

「ほ、ほんとにぃ〜?』

 

 力強く宣言するマキマに、少女も泣き腫らした顔をあげる。

 

 マキマの根拠なき自信は、事情を知らない人からすれば、頼り甲斐のあるモノなのかもしれない。デンジはほんの僅かだけ、マキマの評価を見直していた。

 

「ありがとう、デビルハンターさ・・・・・・ん?』

 

 だがしかし。少女はマキマの目を見るなり、その言葉を途切れさせる。そしてダラダラと、滝のような汗を流し始めた。

 

 

 

 

 

 それはデンジ達が、攫われた少女を発見する数分前のこと。

 

『畜生、しくったかぁ〜。』

 

 筋肉の悪魔は一人ごちていた。

 

 美味そうなメスガキを手に入れるまでは良かった。だが、父親の方を逃してしまった。

 

 運が悪ければ、すぐにデビルハンターがやってくる。こっちは早く、捕まえたメスガキと楽しい事がしたいというのに。

 

『仕方ねえ。また、いつものでいくか〜。』

 

 筋肉の悪魔は、触れた相手の筋肉を自在に動かせる。それを応用して、少女の身体を操るのだ。

 

 やはりガキの筋肉は良い。実にしなやかだ。それでいて味にもクセが無いのだから、狙わないわけにはいかない。

 

『だからこれは、何より素敵で“対等”な両思いなんだよ!』

「やっぱぁ、よく分かんないです!」

 

 呑気な会話が聞こえてくる。軽口を叩き合う2つの足音が続いて近づいて来た。草むらの影から、そっと対象を観察してみる。

 

 男の方は、下品で知性も無さそうで臭くて不味そうな筋肉のチンピラ。論外だ。食う価値なし。

 

 だが、スーツ姿の女は悪くない。何故だか、胸部に偽の筋肉を入れているようだが、芳醇そうな肉付きをしている。

 

 おっと、しかしあの格好と佇まいを見るに、職業はデビルハンターだろう。奴らは、悪魔と見るや即座に殺しにかかってくる、野蛮な連中ばかり。

 

 オマケに他の悪魔と契約しやがるせいで、可食部も少ない。やはり皆殺しコースで行くか。なんにせよ、姿は隠しておいた方がいいだろう。

 

「うえええええええん!』

 

 少女の中にスッポリと隠れ、鳴き声を上げさせる。奴らを誘い出し、返り討ちにするために。

 

 卑怯だとは思わない。騙される方が悪いのだ。

 

『やっと見つけた〜!』

 

 ノコノコとやって来た女の方が、身体を抱きしめてくる。

 

 俺の擬態に気づかれた様子もない。余りにも呆気なさすぎる。笑いが漏れてしまいそうだ。

 

 では、そろそろネタバラシといこう。

 

「ありがとう、デビルハンターさ・・・・・・ん?』

 

 顔をあげて初めて、女と目が合った。真紅の闇を湛え、見るモノの魂を絡め取るような、禍々しい瞳に射抜かれる。

 

『わたしの顔に何かついてる?』

 

 女は首をコテリと傾け、柔らかな微笑を浮かべる。

 

 コイツ、悪魔か?しかもただの悪魔じゃない。この気配、恐らくは相当高位の悪魔だ。

 

『あー、わたしが可愛すぎて見惚れちゃったのかな?』

 

 クッソ、どうして気づかなかった!同じ種族といえど、同士討ちや共食いは当たり前。それが悪魔だ。

 

『まったく、しょうがないなぁ〜。気が済むまで見させてあげる!ほら、どうぞ!』

 

 一体、何を考えている?どうして悪魔がデビルハンターの皮を被っている?この状況とは?狙いは?

 

 ダメだ!脳みそまで全身筋肉の俺には、いくら考えても分からない!狩られる側とは、こんな気分だったのか...?

 

『キミのこと(悪魔に攫われた女の子だって事)はぜーんぶ知ってるよ。』

 

 目を細めて、女はそう呟く。

 

 やはり!人間に寄生している俺の正体は、とっくに看破されていた。

 

 当然だ。こんな初歩的な擬態を同じ悪魔が見破れないはずが無い。ましてや高位の悪魔ともあろう者が、そんなアホみたいな凡ミスをするなど、あり得るはずもないのだ。

 

『安心して。キミを狙う奴(悪魔)は、わたしと彼が皆殺しにしてあげるから!』

 

 その言葉にギョッとする。

 

 俺を狙う奴(デビルハンター)を皆殺しにしてくれるだって!?

 

 よく観察すると、隣のチンピラからも僅かだが、悪魔の気配を感じた。

 

 たった2人で、デビルハンター全てを相手取るなど、余程の実力者か、余程のバカかのどちらかだ。

 

 だが、一端の悪魔である俺のために、どうして奴らがそこまで・・・

 

『わたしはキミを(仕事として)守りたい。(評価に差し障るから)キミを誰にも傷つけさせたくないんだ。』

 

 その優しい言葉は、存外、心地がよい。

 

 仮初の身体を抱きしめられたまま、不思議と胸の奥には温かいものが滲んでいく。

 

 こんな感覚は初めてだ。弱肉強食。それが悪魔の唯一の掟。

 

 そのせいで、悪魔として生まれてから、現世にも地獄にも、信用できるものなど誰1人としていなかった。人間も他の悪魔も、自分を傷つける害としか見れなかった。

 

 だが、

 

「今までよく頑張ったね。もう大丈夫だよ。これからは、わたしがついてる。」

 

 自分の中で固まっていた何かが解けていく。

 

 知らなかった。誰かに抱きしめられることが。1人じゃないという実感が。他者からの愛情が。

 

 こんなにも心地よかったなんて。

 

「俺っ、俺っ...!』

 

『え、俺...?まあ、そういう女の子もいるか!』

 

 言葉にならない声が、喉の奥から漏れ出していく。なんせ初めての感情だ。仕舞い場所など分からない。

 

 目の前の女に、いや、初めての悪魔の友達に。例え醜くても、肉と筋の本当の姿で挨拶をしておこう。

 

 そして、本当の俺を抱きしめてもらいたい。

 

『俺は、ずっと、ずっとぉぉぉぉ!』

 

 必要なくなったメスガキの身体を捨て、ありのままの姿を晒す。

 

 その身体はチェンソーで真っ二つになっていた。

 

 .........え?

 

「マキマさんあぶねえ!コイツ悪魔ですぜ!きったねえ手ぇ、使いやがってよぉ!』

 

『えぇ〜!?い、いや、別に最初から気づいてたけどね!騙し討ちなんてさいってい!悪魔の面汚し!わたしはね、嘘つきが一番嫌いなの!』

 

 え、いや...

 

『い、いや、実は、全部わたしは気づいてて、逆に罠に嵌めてやったんだよ!騙し討ち最高!騙される方が悪いんだもんね!』

 

「とにかく死ねぇぇぇぇぇぇ!』

 

『かぁぁぁーっ、ぺーっ!』

 

 な、なん、なんでぇ...!?

 

 

 

 

 

「おっしゃあ、おミンチ完了!ギャハハハハ!』

 

 エンジン音と勝利の雄叫びが、森の中に響き渡る。変身したデンジの足元では、筋肉の悪魔の細切れ肉が、ぐちゃぐちゃになっていた。

 

 無事に保護した女の子も、意識を失ってはいるものの外傷は無い。任務としてはなかなかの出来である。

 

『よし。それじゃあ最後に、悪魔の死体処理ね!』

 

「お、それなら任せてください!今まで、死ぬほどやってきたんで!」

 

 デンジにとっては少し前までの飯の種。無免許ながら経験だけは1人前の状態である。

 

『あ、でも先に、女の子は渡辺くん達のとこに運んじゃおっか。』

 

「はぁい!じゃあ、俺が担いで」

 

『いや、それには及ばないよ!』

 

 腕まくりをしていた部下を、マキマはビシッと制止する。

 

『わたしには、忠実で可愛い部下がたっくさんいるからね!』

 

 マキマがパチンと指を鳴らした、その瞬間。無数の足音と共に草むらが波打ち、黒い流れが押し寄せてきた。

 

 ネズミの大群である。

 

「うげぇっ、キモォ!!』

 

 ネズミ達は統率の取れた動きで、少女の身体を包みこむ。そして、再び散り散りになった。

 

 するとあら不思議。少女の身体はマジックショーのように、その場から消失する。

 

「えぇ!?すげぇ!でもこれ、あの娘、トラウマってヤツになりません!?』

 

『はい、お疲れ様〜!その女の子は、渡辺くんのところに運んでね〜。』

 

 指示された方向へと、ネズミ達は一斉に走り出す。デンジはそれを唖然とした表情で見送った。

 

「どういう原理なんすか?』

 

『わたしもよく分かんない。』

 

「じゃあ、難しい事は考えねえでいいかぁ!っとぉ、」

 

 頭のチェンソーがドロリと解け、デンジの視界は歪み始めた。自分の腕を斬りすぎて、貧血になったらしい。

 

『デンジくん、平気?』

 

「ちょっと、キチーかもです!」

 

『じゃあデンジくんも、ネズミさんで運ぶ?』

 

「やっぱ平気です!!!!」

 

『それか、わたしが抱っこで運ぶ?』

 

「やっぱ平気じゃないです!あークッソォ、立ってらんねえなぁ〜!」

 

 わざとらしく倒れ込んだデンジを、マキマの胸(パッド7枚入り)が受け止める。その弾力で、疲れはすっかり吹き飛んでいた。

 

「俺ぇ、こうやってぇ、マキマさんが抱いてくれんなら、何でも頑張れる気がします!」

 

『デンジくんは、抱きしめられるのが、よっぽど好きなんだね。』

 

 優しい声で頭を撫でられ、思考は微睡んでいく。ポチタと一緒に暮らしていた時もそう。デンジは彼を抱きしめて眠りについていた。

 

 あの小さな温もりがあれば、辛い過去も、不安な未来も、誤魔化せたから。

 

 ちょっとは、マシな夢を見れたから。

 

『わたしもね、デンジくんを抱きしめるの、だーいすき!』

 

 そう言って、マキマは腕の力を少しずつ強くする。2人の距離はピッタリとくっつき、彼女の心の音は鮮明になっていく。そのリズムが堪らなく心地よい。

 

『だって、デンジくんを抱きしめるとね。』

 

 柔らかい感触もデンジの顔へと広がっていく。柔肌(パッドの素材はポリエステル)に包まれ、天にも昇る心地よさだ。

 

 というか実際、デンジは天に登っていた。

 

「あ〜!身体がぁ、空に落ちていくよぉ〜!!!」

 

『え、ちょ、デンジくん〜!?』

 

 重力の理に逆らって、デンジは青空へと吸い込まれていく。慌てて伸ばしたたマキマの手も、彼を掴むには間に合わない。

 

『一体、これって・・・まさか、わたしの隠された力が目覚めて!?』

 

 急変した事態にとち狂うマキマの耳には、聞き慣れぬ声が届く。

 

『遅くなって申し訳ありません。』

 

 森に響いたのは、美しく、それでいて、聴く者を凍りつかせるような威厳と重みを備える、悪魔の声。

 

『素材を選ぶのに、少し時間が掛かってしまいました。』

 

 その主は、雪のように白い調理服と漆黒のエプロンを身につけ、糊の効いたコック帽を被った女だった。その異質さを証明でもするかのように、背中には蜘蛛のような無数の奇腕を生やしている。

 

『主人よりリクエストを受け、参上しました。本日のメインは、“支配とチェンソーの赤ワイン煮”です。』

 

 彼女の視線は、マキマとデンジに。料理の素材となった珍味へと向けられた。

 

『そして私は、その調理を担当する、落下の悪魔、と申します。』

 

 デンジ達は対峙する。

 

 恭しくお辞儀をする根源的恐怖と。

 

 抗いがたい畏怖の忌名を持つ、超越者だった存在に。

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