マキマさん『総理大臣!消費税を100%にすると言いなさい!』   作:バケギツネ

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アキくん。私の代わりに新人研修をしときなさい!

 

 

「なあ!えーっと、あきぃ?先輩。マキマさんって、何あげたら喜ぶかなぁ?」

 

「・・・デンジ、っだったか?お前は何しに公安に来たんだ。」

 

「そりゃあ、マキマさん目当てよ!」

 

 入院から復帰したデンジは、正式に公安の職員として雇われる。公安対魔特異4課、という部署らしい。

 

 給料はとんでもない額だし、寝る場所も貰えるし、夢のような待遇だ。

 

 強いて不満を挙げるなら、直属の上司がマキマじゃなくて、早川アキとかいう無愛想な男な事くらいか。

 

「マキマさんか。あの人だけはやめておけ。」

 

「なんでだよ?あー!まさかテメエもマキマさんの事好きなんじゃ!」

 

「冗談じゃない。悪魔に惚れる人間がどこにいる。」

 

「え、悪魔ぁ?」

 

「なんだ、本人から聞いてなかったのか。マキマさんは公安に所属している悪魔。支配の悪魔だ。」

 

 そう言えば、戦ったコック帽の悪魔が、なんかそういう事を言ってた気がする。

 

「そっか。マキマさんって悪魔なのか!」

 

「諦めがついたか?」

 

「いや、全然!カンケーねーよ!マキマさんはマキマさんだ!悪魔にも、良い奴はいるしな!」

 

「何を根拠に・・・」

 

「根拠ならあんぜ!ここだよここ!」

 

 そう言ってデンジは、自分の心臓を指差す。夢を託してくれた、友の宿る心臓を。

 

「・・・お前の事情はザックリとは聞いてる。だが、マキマさんに肩入れしすぎるのは止めろ。あの人はただでさえ、立ち位置が複雑なんだ。」

 

 そう言い捨てたアキは、苦虫を噛み潰したような顔になる。その手は自然に2本目のタバコへと伸びていた。

 

「マキマさんはずっと前から、公安の幹部だった。それが先月、突然自分が悪魔だとカミングアウトしたんだ。お陰で今も公安は、あの人の扱いに困ってる。機嫌を損ねないようにしつつ、監視をつけてる状態だ。」

 

「へぇ〜。マキマさんはなんで急に、自分の正体言ったんだ?」

 

「心当たりならある。先月起きた世界各地での革命だ。それで支配の悪魔は、人格ごと弱体化したんだろう。」

 

 悪魔の力の源は人の恐れだ。世界中で支配者が倒れ、支配への恐れが揺らげば、それを司る悪魔にも大きく影響してしまう。

 

「でもな。今はアレだが、本来のマキマさんは恐ろしい悪魔だ。お前だって、その片鱗を感じた事はあるだろ?」

 

「あー、心臓3回ぶっこ抜かれたことならあるぜぇ。」

 

「よくそれで惚れたな・・・」

 

 余りにも盲目的な後輩に、アキは思わず顔を覆う。その頭には自らの苦い過去がよぎっていた。

 

「まさかお前。マキマさんに記憶弄られてんじゃないだろうな。俺みたいに。」

 

「えーっ、マキマさん。そんな事してたのかよ!」

 

「あの人は手段を選ばない。かつては総理大臣と契約して、国民を残機扱いしてた位だからな。絶対に気を抜くんじゃないぞ。何かされたらすぐ俺に言え。」

 

「へぇ〜。けっこー心配してくれんじゃん。」

 

「使えそうな駒を減らしたくないだけだ。」

 

 そう言い捨てると、アキはさっさと前を歩いて行ってしまった。取り残されたデンジは、改めてマキマについて思いを馳せる。

 

「うーーーん、やっぱ好きだ。」

 

 散々な目に遭わされた。昔のトンデモない悪事も聞いた。でも、好きな気持ちは変わらない。

 

 初めて好きだと言ってくれた。初めて好きだということができた。理由はそれで十分だ。

 

「よし!難しーこと考えんの終わり〜!」

 

 デンジは小走りで、前を歩く先輩に追いつく。

 

「なあ。俺ぇ、もっともっとマキマさん好みの男になりてえからさ。マキマさんの色んな話、聞かせてくれよ!」

 

「お前、俺の忠告聞いてなかったのか。」

 

 案の定、先輩からは呆れ顔が返ってくる。だが、男からの好感度なんてどうでもいい。

 

 今はただ、好きな人のことを知りたかった。好きな人をもっと好きになるために。

 

「っていうか何で、マキマさんと一緒に働けねえんだ!話がちげえ!詐欺だ詐欺!マキマさんは今、どこにいんだよ!」

 

「あーあの人なら、お茶しに行ったぞ。最近、血の魔人って奴が、上から派遣されて・・・」

 

 話をしていたアキの顔が、突然引き攣る。

 

「あん?どうしたセンパイ...んん!?」

 

 デンジもここで異変に気付く。視線を向けた数十メートル先。巨大な影が、人で賑わう喫茶店へと飛来した。

 

「おい、アレって・・・」

「ああ、蝙蝠の悪魔だ!」

 

 翼を広げた黒い悪魔は辺りをキョロキョロと見回す。やがてその動きは止まった。目当ての人物を見つけたようだ。

 

『やはり前菜は生娘に限る!!』

 

 蝙蝠の巨腕は、制服姿の少女を握り締める。助けを求めて泣き叫ぶか弱い女子高生は、あえなくその大口に丸呑みにされていた。

 

「・・・今、喰われた奴、ウチの血の魔人(新入り)だぞ。」

 

「えぇ!?マジでぇ!?」

 

 

 

 

 時は、蝙蝠の襲撃からほんの少しだけ遡る。

 

『ちーちゃん!ここはわたしの奢りだからね!』

 

『それじゃあ、お言葉に甘える。』

 

 公安デビルハンターにして、支配の悪魔であるマキマ。彼女は血の魔人という新入りを引き連れ、職場近くの喫茶店を訪れていた。

 

 初めに一発、上司としての威厳を見せつけ、尊敬されようという腹づもりだ。

 

『わたしは〜、このモーニングセットを2つで!わたし大食いだから、この位余裕で食べれちゃうんだ〜。あ、渡辺くん。お代は経費で申請しといて。』

 

「・・・はい。」

 

 隣に待機していた渡辺が、渋い顔で頷いた。その隣では鈴木が、女性ばかりの店内で気まずそうに身を縮めている。

 

 総理からマキマの監視を命じられている2人は、基本的にずっと彼女と一緒だ。マキマと同居し、生活能力が壊滅的な彼女に代わり、家事全般を行うことも彼らの仕事に含まれている。

 

『さあ。ちーちゃんもどんどん注文しちゃって!遠慮せず!』

 

『じゃあ、ハニートスト。チョコレートケーキ。窯焼きホットケーキ。いちごパフェ。バニラアイス。季節のフルーツ盛り合わせ・・・』

 

『ちーちゃん・・・?』

 

『・・・を全部4つずつで。』

 

『ちーちゃん!?』

 

 予想以上の遠慮のなさに、マキマも驚く。申請経費が爆増した渡辺は、タラタラと冷や汗を流し始めた。

 

『えっと、よく食べるね。ちーちゃん。』

 

『いや、全然だよ。今日はあんまりお腹空いてないし。』

 

『へ、へぇ〜。わ、わたしだって、ほんとはもっと食べれるけどね!ダイエットしようかなって、思っただけなんだけどね!』

 

 途方もない食事量をサラリと流す部下の態度に、マキマは謎の対抗意識を燃やし始める。意味の無い勝ち負けにこだわる、それがマキマの生態なのだ。

 

『でも、今日はチートデーにしちゃおっかな〜!店員さん〜!わたしもこの子と同じ量で!いや、いっそ店ごと!店ごと買い取っちゃおうかな!』

 

「「マキマさん!!」」

 

 怒られたマキマは完全にヘソを曲げていた。店員に謝罪する鈴木を横目に、運ばれて来たコーヒーを口に運ぶ。

 

『苦っ、なにこれ。』

 

「コーヒーですが。」

 

『渡辺くん。わたしがコーヒー飲むと死んじゃうの、知ってるよね!?何でこんなの注文したの!?』

 

「マキマさんがご自分で注文なさってました。」

 

『不味いから渡辺くんにあげる。』

 

「あ、はい。」

 

 マキマが狂ってから早一月。もはや慣れたものである。渡辺はコーヒーを受け取り、勿体ないのでそのまま飲み干した。

 

『で、改めてよろしくね。ちーちゃん。』

 

 コホンと咳払いしたマキマは、上司の威厳を保とうという無駄な努力の下、背筋を伸ばす。

 

『分からないことがあったら、なんでも聞いていいよ!』

 

『じゃあ、1ついい?』

 

 運ばれて来た皿を次から次へと空にしていたちーちゃんは、その手を止めて顔をあげる。よく似た螺旋状の瞳どうしから、放たれた視線が混じり合った。

 

『私が誰だか分かってるでしょ?支配。』

 

 ちーちゃんの纏う気配が変わった。そのプレッシャーは、鈴木と渡辺は思わず戦闘態勢に移りかける程。

 

『下手な芝居は辞めていいよ。ここからは本音で話をしよう。』

 

『・・・キミがそう言うなら、仕方ないね。いいよ、何が聞きたいの?』

 

 いつもの子供じみた口調を控え、マキマは落ち着いた声でそう答える。その頭の中は、

 

『(あれ?この子誰だっけ???)』

 

 ハテナマークで一杯になっていた。

 

 ちーちゃんには、『私が誰だか分かってるでしょう?』と言われた。

 

『(はぁ?え、誰って、血の魔人のちーちゃんでしょ。え、違うの?)』

 

 だとしたら、ちーちゃん(仮)は初対面の上司を相手に嘘を吐いた事になる。許すまじだ。マキマは嘘吐きが世界で1番嫌いなのだ。

 

 だが今更、『本当は誰だか分からなかったから、正体教えて♡』なんて言えない。見栄を張って、知ったかぶりをした以上、もう後には引き返せないのだ。

 

 知ったかぶりがバレれば、きっとちーちゃん(仮)からはナメられる。それだけは許せない。

 

 そう!これは絶対に負けられない戦いなのだ。何としてでも、上手いこと適当に話を合わせきってみせよう。マキマはそう決意した。

 

『聞きたいことなら山ほどあるよ。とりあえずそうだな。私のことをどうするつもり?』

 

 いつも傾けている首をさらに傾け、ちーちゃん(仮)は疑問を投げかける。マキマはシンキングタイムに入った。

 

『(どうするつもり?部下として働いてもらうつもりだよ。それをそのまま答えればいいのかな?いや、待って!)』

 

 IQ10万(自己申告)が警鐘を鳴らす。おそらくこれは引っ掛け問題。ちーちゃん(仮)の正体を知らないまま答えては、話が噛み合わなくなってしまうかもしれない。

 

『分かってるでしょ?その時は近いって。』

 

 ちーちゃん(仮)は真剣な表情で顔を近づけてくる。

 

『(その時?その時ってどの時だ?)』

 

 困った。謎ばかりが増えていく。

 

『(正体?どうするつもり?その時?あ、もしかして!)』

 

 ポーカーフェイスで、内心頭を悩ませていたマキマに天啓が降り注ぐ。ようやく分かった。

 

『(ちーちゃん(仮)はわたしの大ファンなんだ!)』

 

 そう考えると様々なことに納得がいく。

 

 まず、『私が誰だか分かっているでしょ?』という問いと自信満々な態度。あれはきっと、自分が推しから認知されていると思い込んだ、厄介ファンのムーブメントだったんだ。

 

 これだから民度の悪いファンは。チェンソーマンのNo.1ファンである自分を見習って欲しい。

 

 『私のことをどうするつもり?』『その時は近い』という言葉も、推しへの自意識過剰さが災いし、わたしを独占できるとでも勘違いしてしまった故のものだろう。

 

『可哀想に。』

 

『ん?』

 

 思わず、口からは憐れみの声が漏れる。

 

 だが、こんなに拗らせる程、わたしに執着してしまうなんて。幾らわたしが魅力的すぎるとはいえ。

 

 ひょっとしたら地獄にいた頃、何かの拍子で血の悪魔に強力な支配をかけちゃってて、それがまだ解けてないとか?

 

 だとしたら、ちーちゃんという勘違いファンを生み出してたのは、わたしの自業自得!?

 

 え、ごめん。

 

 思わずその手は、厄介ファンのちーちゃんへと伸び、抱き寄せる。

 

『本当に可哀想。4騎士の力に振り回されて。でもね、悪いのは、本人じゃない。本人にその意思がなくてもても暴走しちゃう、悪魔の力が悪いんだよ。』

 

『・・・・・・』

 

 そう、だからわたしは悪くない!

 

 悪いのは全て、本人であるわたしの意思に関係なく発動しちゃう、4騎士が1人・支配の悪魔の力なのだ。だからわたしは、これっぽっちも悪くない。

 

 ちーちゃんにもちゃんとソレを釈明できた。あれ、なんかちーちゃんの様子がおかしい。

 

 相変わらず無表情のままだけど、なんとなく嬉しそうに見える。

 

 え、なんで?

 

『まさか貴方が、そんな優しい言葉をかけてくれるなんてね。意外。』

 

 優しい言葉?さっきの言い訳が?

 

 彼女は相当な重症だ。きっと、推しと話せるのが嬉しすぎて、何を言われても都合よく脳内変換してしまうんだろう。

 

 早いところちーちゃんを、支配の力から解放してあげなくては。

 

『上手くいくかは分からない。でもね、いつか必ずわたしの力で、貴方のことを救ってみせる。だから、それまで待っててくれるかな?』

 

 厄介ファンを刺激しないよう、落ち着いた口調で語りかける。その思いが通じたのか、彼女は取り乱すこともなく、静かにわたしの言葉を受け止めているようだった。

 

 やがて、その顔は持ち上がった。

 

『気持ちは嬉しい。でも時間がないの。不確定なプランに頼ってばかりはいられない。私は私で計画を進める。』

 

『????????』

 

 ダメだ、会話が成立してない。

 

『私を救いたいなら、ソレができるって事を、信じさせてみて。』

 

 ちーちゃんは要領を得ない発言と共に、キメ顔を作る。この子、想像以上にヤバい子だ。早くなんとかしないと。

 

「あの、マキマさん。」

「さっきから、その、血の魔人とは何の話を、

 

『ちーちゃんって呼んで。』

 

「ちーちゃんとは何の話を・・・?」

 

 さっきから、わたしたちの会話を黙って聞いていた鈴木くん達が、困り顔で聞いてくる。

 

 さて、どう説明したものか。

 

『えっと、彼女は・・・』

 

 次の瞬間、お店が吹き飛ぶ。

 

 黒い身体に巨大な羽を携えた蝙蝠の悪魔が、猛スピードで喫茶店に突っ込んできたのだ。

 

 蝙蝠は辺りをキョロキョロと見回す。そして、目当ての人物を見つけたようだ。

 

 あ、あの〜、血の悪魔様〜。遅くなって申し訳ありません〜。久しぶりの都会だったんで、迷っちゃって。 』

 

 言い訳はいいから、早くやって。 』

 

 ちーちゃんと蝙蝠が何か話してた気がするが、よく聞き取れない。

 

上手くやらないと、ヒルの悪魔は殺すから。

 

 は、はい〜! ハハハッ!やはり前菜は生娘に限る!!』

 

 そうこうしてるうち、ちーちゃんが蝙蝠に捕まってしまった。

 

『きゃー。たすけてー。蝙蝠の悪魔にー殺されちゃうー。いやーー。』

 

 ちーちゃんは、助けを求めて泣き叫んでいた。可哀想!っていうか、意外と弱いな血の魔人。

 

あの、血の悪魔様。もっと真剣に演技の方を・・・

 

『何?』

 

い、いえ、何でもありません。で、では、恐縮ですが飲み込ませて頂きます。

 

 ちーちゃんは、蝙蝠の悪魔に飲み込まれてしまった。

 

『バイバイ、ちーちゃん。いい奴だったよ。』

 

「何言ってるんですか!」

「早く助けに行きますよ!!」

 

 鈴木くんと渡辺くんは、蝙蝠の悪魔と対峙する。そう言えばちーちゃんは、上から派遣された魔人だった。初日に死なせちゃうのは、色々不味いのかもしれない。

 

「狐で一気に、」

「いや、ソレだと血の魔人も巻き添えになる。別の手で、」

 

『もぉしょうがないなぁ〜。ここはわたしに任せてよ。』

 

 二の足を踏む部下達の前に進み出る。ここは1つ、上司として格好よいところをみせるとしよう。マキマ、動きます。

 

『この中にぃーーー、優秀なデビルハンターの方はいらっしゃいませんかーーッ!』

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

『なに、2人とも文句ある?』

 

 確かにわたしが本気になれば、あんな蝙蝠は瞬殺だ。でもソレには、自分の脳に鎖を刺す必要がある。あれ結構痛いから、あんまりやりたくない。使った後は寝込んじゃうし。

 

「マキマさん〜!俺に任せてくださいよぉ!』

「大体の状況はわかってます。血の魔人を回収しつつ、蝙蝠の悪魔を処理します!」

 

 お、あんな所に可愛い部下たちが!

 

 デンジくんとアキ君が、たまたま近くをパトロールしていたらしい。あの2人なら大丈夫そうだ。となるとわたしは暇。優雅なモーニングでも再開するとしよう。

 

 

 

「まったくマキマさんは、いつもいつも面倒ごとを押し付けて!」

 

 仕事を丸投げし、卵料理に舌鼓を打ち出した上司に悪態を吐きつつ、アキは蝙蝠と対峙する。その隣では、チェンソーの悪魔へと変貌を遂げた後輩が、エンジンを吹かしていた。

 

『チッ、デビルハンター共がワラワラと!』

 

 数的不利を察した蝙蝠は、自分の得意なフィールドへと、戦いの場を移す。翼を駆使し、相手の攻撃が届かない上空へと、飛び上がっていた。

 

「だからずりーぞ!それぇ!どいつもこいつもフワフワ飛びやがってぇ!降りて戦え!!』

 

『ハッ、戦え?これから始まるのは、戦いじゃねえ。一方的な虐殺だよ!!』

 

 デンジの抗議を意に関せず、蝙蝠はその大口を尖らせる。砲身のように変形したソレは、地上のデビルハンター達へと向けられた。

 

『波ぁ!!!!!!!』

 

 超威力の超音波が発射される。放射状に広がるエネルギーの波は、デンジ達を飲み込んだ。

 

 予想外の攻撃に対し、デビルハンターとしての経験差が如実に現れる。

 

「おわぁああああああ!!』

 

 避けきれずに直撃を食らい、地上へと倒れ伏すデンジ。

 

「ふぅ〜。やれやれ。」

「ご無事ですか?マキマさん。」

 

 盾の悪魔を咄嗟に呼び出し、攻撃を防いだ渡辺と鈴木。

 

『ねえねえ。このソーセージ美味しいよ!さっきのご褒美に渡辺くん達も欲しい?ふふっ、ダメあげない〜!これわたしの〜!』

 

 クソガキのマキマ。

 

 そして、

 

『んん?黒髪のデビルハンターがいねえな。どこへ隠れ・・・なっ!?』

 

 右眼に宿った悪魔で未来を見通し、烏の悪魔に借りた翼で空を飛んで、蝙蝠に接近していたアキ。

 

『テメエ、いつの間にっ!!』

 

『カース、打て。』

 

 アキは背負っていた刀を引き抜く。釘のような鋭い刃が、蝙蝠の翼を撃ち抜いた。

 

『おいっ!なんだぁ!?今、何をしやがったぁ!?』

 

 未知の攻撃に動揺する蝙蝠を無視して、アキはその力の主へと語りかけた。

 

呪いの悪魔(カース)。トドメをさせ。』

 

 呪いの悪魔・カース。その力は至ってシンプルだ。使用者の寿命殆どと引き換えに、剣で“3回”刺した相手を死に至らしめる。

 

 だがアキは、まだ一度しかカースの剣を突き刺していない。

 

『ソレは無理だ、早川アキ。あと二回剣を突き刺せ。そうすれば、俺の力で

 

「一回でいいだろ。大目にみろ。」

 

『えぇ?いや、ダメだろ。ちゃんと三回刺さないと・・・』

 

「マキマさんに言いつけるぞ。お前は燃費が悪い癖に使い勝手が悪い、不要な悪魔だって。」

 

『・・・分かった。今回だけだぞ。』

 

「あと、今回俺が捧げる寿命だが、2秒でいいか?」

 

『いや、ソレは流石に・・・』

 

「マキマさんに

 

『分かった!今回だけだぞ!!』

 

「ああ。またよろしく頼むぞ。」

 

 アキの脅迫に呪いの悪魔は屈する。実際彼のバックには、地獄で恐れられていた支配の悪魔がついているのだ。迂闊な真似で機嫌を損ねる訳にはいかない。

 

 呪いの悪魔は、行き場のない怒りと苛立ちを、蝙蝠へとぶつける事にした。

 

『いでぇ!!くっそぉ、やめてくれぇ!助けてくれぇ!血のぉ・・・』

 

 蝙蝠の断末魔より早く、カースの呪いが廻りきる。その力は、血の魔人を飲み込んでいた蝙蝠だけの命を、器用に奪い去っていた。

 

『コン。』

 

 仕上げとして、地上に降り立ったアキは、呼び出した狐に蝙蝠の頭だけを喰いちぎらせる。

 

『早川アキ。これは飲み込んでもいいんだね。そ、それと、マキマ様に、よろしく伝えておいてくれ。』

 

 仕事を終えた狐は、戦利品を大急ぎで平らげて、そそくさと京都へ帰って行った。

 

 首から上を失った蝙蝠の亡骸は、ドサリと地面へ落下する。その中からは、血と胃液でグチャグチャになった、血の魔人が顔を出した。

 

『ありがとー。死ぬかと思ったー。キミは命の恩人だー。』

 

 まったく感情の乗ってない声と共に、血の魔人は感謝の気持ちを伝えてくる。ソレに対するアキの視線は冷ややかだった。

 

「俺は悪魔が嫌いだ。」

 

 アキは手にしたカースの剣を、血の魔人へと向けていた。剣の中では焦ったカースが、『おい、早川アキ!誰に剣向けてんだ!そのお方は!そのお方だけは止めとけ!』と必死に呼びかけが、その声は届かない。

 

「お前のことも、マキマさんのことも、俺の家族を殺しておいて勝手に死んだ銃の悪魔も、生きる価値はないと思ってる。」

 

『その割に、マキマの部下は辞めないんだ。』

 

「一体でも多くの悪魔を殺すために、マキマさんの力は使える。使える内は生かす価値がある。お前も、デンジも、使えないようなら殺す。それを忘れるな。」

 

『殺す、か。分かった。覚えておく。』

 

 皮肉げにそう呟く血の魔人の表情からは、相変わらず何の感情も読み取れない。

 

『っ!!』

 

 次の瞬間。自身の未来を右眼に写して、アキはその場を飛び退いた。さっきまで彼の居た場所に、無数の触手が叩きつけられる。

 

『アンタでしょ〜!わたしの男殺したの〜!!』

 

 どこから沸いたのか、いつの間にかアキの近くにヒルの悪魔が出現していた。

 

『好みの顔だから逃がしてあげたいけどぉ、これも命令なのぉ!ごめんねえ!!』

 

 迎え撃とうとするアキに対し、ヒルの悪魔は第二撃を放とうとする。その身体には、血でできた無数の紅い剣が降り注ぎ、絶命させていた。

 

『ギャハハハハ!どうじゃ!今のがワシの必殺技!サウザンド・テラ・ブラッド・レインじゃ!』

 

『よくできました。』

 

 知性のなさそうな声がした方を、アキは振り返る。血の力を使いこなす2本角の怪物の頭を、ちーちゃんが無表情で撫でていた。

 

「なんだ、ソイツは?」

 

『よくぞ聞いた!チョンマゲ人間!!』

 

 問いに対して怪獣は、待ってましたとばかりに反り返り、流暢な言葉で名乗りをあげる。

 

『ひれ伏せ!ワシの名はパワー!最強最悪の血の悪魔・・・

 

『パワー?』

 

『血の悪魔、様の・・・眷属じゃ!』

 

『そう。血の魔人である私が力を分けてあげた。だから、ああゆう技も使える。そうだよね?』

 

『お、おう!それじゃ!本当なんじゃ!!』

 

 途中まではノリノリだったパワーとかいう悪魔だったが、ちーちゃんに人睨みされてからは目に見えてテンションがダウンしている。

 

『じゃあパワー。もう帰っていいよ。』

 

『え、嫌じゃあ!久々の自由・・・』

 

 抵抗しかけたパワーだったが、ちーちゃんが手を翳すと同時に、小さな人形に戻ってしまう。

 

『これが私の力。悪魔にも血は流れてるからね。それを介して、殺した悪魔を操れる。』

 

 ちーちゃんはヒルと蝙蝠の悪魔を人形に“戻し”、制服のポケットに仕舞い込んだ。

 

『どう?私はちゃんと使えそう?』

 

「・・・みたいだな。」

 

 血の魔人の動向を怪しみながらも、アキは彼女とその力を公安の一員として認めていた。

 

 

 

 

 

『よぉ、久しぶりだなぁ!死の・・・』

 

『今はちーちゃんって呼んで。』

 

 アキの後ろを歩くちーちゃんに、彼の右眼に住んでいる陽気な悪魔が、密かに話しかけていた。その会話は2人以外には聞こえない。

 

『ダメ元で聞くけど、”未来“は変わった?』

 

『ハハッ、相変わらず最高っなままだぜ!近いうちに悪魔の時代がやってくる!恐怖の大王は止まらない!』

 

『そう。』

 

 陽気な悪魔は小躍りしながら、彼にとっての最高な未来を語り始める。

 

 それを聞いたちーちゃんは、予想通り過ぎる答えに愛想のない相槌を返した。一瞬だけ期待したが、やはりマキマにも死の悪魔は止められない。チェンソーマンの力を使う。それしか道は残されていないのだ。

 

『そうだそうだ!友達のよしみで、いいこと教えてやるよ!お前の先輩になった、早川アキって奴の最高ーっな未来についてだ!』

 

 祝い事でも教えるような明るい口調で、未来の悪魔は告げてくる。早川アキに待っている最悪の未来を。

 

『アイツはいずれ悪魔になる。銃の悪魔なんて目じゃない。もーっと最低最悪な悪魔にな。』

 

『・・・・・・』

 

 

「おい、何ボーッとしてる。」

 

 会話に夢中になっていたちーちゃんは、アキの呼びかけで現実世界に引き戻される。

 

「被害者の救助と、現場復帰。警察への引き継ぎなんかがある。やり方を教えてやるから、着いてこい。」

 

『はーい先輩。しっかり見せてもらうね。』

 

 特異4課に誕生した新たなバディーは、揃わない歩幅で進み始める。

 

 その行く先は天国か地獄か。

 

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