忘却アーカイブ   作:アポカリプス

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 数々の曇らせの先人たちに触発されて書きました。
 書きたいことを書ききれるように頑張ります。


記憶喪失

 俺がそれに出会ったのは、登校中のことだった。

 

「初めまして、浅桜シュウさん。私のことは⋯⋯そうですね。黒服とお呼びください」

 

 一言で言えば、不気味な奴。

 黒いスーツから見える肌は黒く、顔には亀裂が走っている、人の形をしたナニカ。

 丁寧な物腰のせいで不気味さに拍車がかかっている。

 

 名前を知られているのは困ったことだが、それ以上にこいつの相手をしたくなかった俺は、喋ることなく黒服の横を通り抜けようとして⋯⋯。

 

「アリウスとの和解交渉は順調ですか?」

 

 黒服の言葉を聞き、足を止めた。

 それは、ミカと俺しか知らない筈の情報だった。

 

「なんでお前がそれを知ってる?」

 

 情報が漏れているのだとしたら、その情報源を確かめる必要がある。

 俺は振り返り、黒服に問いかけた。

 

「実は、現在のアリウスの生徒会長と知り合いでして。聞いたのですよ」

「⋯⋯本題は?」

「話が早くて助かります」

 

 半ば脅しのようなものだったろうに、黒服は白々しい態度だ。

 込み上げてくる恐怖と怒りを抑え込みながら対話を続ける。

 

「私の実験に協力していただきたい」

「⋯⋯実験、ね。何の実験だよ?」

「私は知りたいのです。あなたのような人間型の男子生徒を、ヘイローを持つ彼女たちに近しい存在にできるのかを」

「⋯⋯実験台(モルモット)になれってことか」

 

 黒服はゆっくりと頷いた。

 嫌な汗が、背中を伝った。

 

 ミカたちに近しい存在になるということは、人体構造そのものを変えるという事。体を作り変えるのだから、当然だがとてつもない痛みやストレスが俺を襲うだろう。

 何より、成功すると思えない。

 

「俺がその提案を受けるメリットは?」

「アリウスとの交渉が上手く進むよう、取り計らいます。また、交渉のことが外部に漏れないようにしましょう」

 

 メリット、なんて聞こえの良い言い方をしている。だが実のところ、これは「提案を受けなければ、アリウスと交渉している情報が外部に漏れるぞ」という脅しだ。

 

 アリウスとの交渉は完全にミカの独断だ。

 これが外部に伝われば、ティーパーティーとしてのミカの立場が危うくなるし、アリウスとの和解に反対していたナギサや、静観していたセイアとの関係にもヒビが入る。

 ミカたちには、笑っていて欲しい。仲良くしていて欲しい。

 

 ならば、俺に残された選択肢は一つ。

 

「その提案、受けさせてくれ」

「クックック、その返事を待っていましたよ」

 

 

 

 

 

 

 黒服の指定した研究室に足を運び、実験を受ける日々が始まった。

 実験は過酷なものが多く。

 

 手足を拘束され、変な薬品を投与されたり。

 耐久性を試すと言って銃で撃たれたり。

 身体能力を試すといって、生身でロボットと戦わされたり。

 

 人を人と思っていないような、非人道的な行為を散々された。

 おかげで、最近は眠れない日が多い。

 

 今日はセイアの体調が良い日だということでお茶会が開かれているというのに、強烈な眠気のせいで今にも眠ってしまいそうだ。

 

「⋯⋯くん、⋯ウくん。シュウくん!」

「おわっ!?」

 

 いや、実際に一瞬眠ってしまっていたらしい。

 

「ねえ、大丈夫?寝不足?」

「よろしければ、疲労回復に効く紅茶をお入れしましょうか?」

「ふむ⋯⋯ならば、私の部屋で一眠りするかい?ベッドは品質の良いものを使用しているし、シュウもきっと気にいるはずさ」

「⋯⋯ねえ、セイアちゃん。ベッドならティーパーティーの仮眠室にも良いのあるよね?なんで、わざわざセイアちゃんの部屋のベッドを貸そうとしたのかな?」

「⋯⋯まぁ、あわよくば一緒に、とは考えていたよ」

「セイアさん、抜け駆け禁止ですよ」

 

 俺の前で繰り広げられる、いつも通りのやり取り。

 ⋯⋯そうだ、決めたじゃないか。この光景を守るって。

 

「ミカ、ナギサ、セイア」

「「「⋯⋯?」」」

「俺、頑張るわ」

 

 何気ない日常は、俺に力を与えてくれる。

 この景色が守れるのなら、俺はいくらだって頑張れる。

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯今日で、実験は終わりなんだな?」

「えぇ、短い間でしたが、お疲れ様でした」

 

 実験開始日からちょうど一ヶ月後の今日、ついに実験が終わる。

 この一ヶ月で俺の肉体は、随分と化け物になってしまった。

 

 身体能力の向上、肉体の自然治癒力の向上、耐久性の向上。これだけ上げると良い事だらけに思えるかもしれないが、当然悪い面もある。

 

 まず、味覚に異常が出た。何を食べても味がほとんど感じられない。

 次に、痛覚が薄れた。銃が腹部を貫こうとも、痛いと思えない。

 最後に、物忘れが酷くなった。ミカとの約束や、ナギサのお願い、セイアとのやり取り等を忘れていてショックを受けたのを覚えている。

 

 だが、今日を乗り越えれば、それも終わる。

 これ以上、症状が悪化せずに済む。

 

「今日は、いわゆる仕上げです。今日まで薬品の投与等で強化した肉体に、人工ヘイローを接続します。ヘイローの定着を確認できれば、実験は終了です」

「確か、経過観察で何度か俺の体を見せに来るんだよな?⋯⋯すまん、何ヶ月ごとにだっけ?」

「⋯⋯昨日も申し上げましたが、二週間に一回の頻度です」

 

 どうやら、また忘れていたみたいだ。

 これからはメモ帳に書き込むようにしていかないといけないな。

 

「⋯⋯まぁ、詳しい話は書面にでも書き出しておいてくれ。さ、早くやろう」

「では、服を脱いでこちらの中へ」

 

 黒服の指示に従って服を脱ぎ、鉄でできた棺桶のような機械の中へ入った。

 それを確認した黒服によって機械の棺桶の蓋が閉められる。

 

「ヘイローの接続を開始する前に、シュウさんの意識を失わせる必要があります。準備ができましたら、目を閉じてください」

「あぁ、分かった」

 

 これでようやく実験も終わりだと思うと、感慨深い。

 最近は実験でミカたちに付き合えてなかったから、これが終わったら思う存分付き合おう。

 

 確か、ミカはショッピングに行きたがっていたと思う。

 ナギサは良い茶葉が手に入ったから一緒に楽しみたいって言ってて、セイアは確か⋯⋯俺の好きそうな本を買ったから一緒に読まないかって誘ってくれてたんだっけか。

 

 あぁ、楽しみだ。

 

 目覚めた後の日常を思い浮かべながら、俺は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 数時間後。最後の実験であるヘイローの定着が終わったというアナウンスを聞き、黒服はシュウよ入った機械のある実験室にやってきた。

 

 黒服は、機械の中に眠るシュウの姿を確認する。

 

(⋯⋯髪の色が黒から白へと変化していますね。ヘイローの定着時にかかったストレスによるものでしょうか。それと、体が一回りほど大きくなりましたね。それ以外には⋯⋯これといった変化はありませんか)

 

 シュウの姿を確認した黒服は機械を開けて、中にいるシュウを揺する。

 数秒後、シュウの瞳が開かれた。瞳の色も黒から赤へと変化していたが、それよりも大きな問題が黒服にはあった。

 

(定着したはずのヘイローがない⋯⋯何故?)

 

 通常、ヘイローは意識の目覚めと共に現れる。

 しかし、今のシュウは目覚めているはずなのに、ヘイローが現れていないのだ。

 

(ヘイローが定着していない?いえ、定着自体は行われたはず。となると考えられるのは⋯⋯ヘイローの吸収、でしょうか?)

 

 シュウには申し訳ないが、研究期間をもう少し延ばす必要がありそうだ。

 そんなことを考えながら、黒服はシュウに問いかける。

 

「お疲れ様でした。気分はいかがですか?」

「⋯⋯?えっと、その」

「おや、何か違和感がありますか?でしたら、その原因を探りますので⋯⋯」

「あっ、いえ、その、そういうわけじゃなくてですね⋯⋯」

 

 黒服は気づいた。シュウの態度の明らかな変化に。

 普段なら敬語は使わないし、声には怒りが込められているはず。

 

 なのに、今のシュウはどうだろうか。

 

 敬語を使い、声から怒りは感じられない。

 まるで、別人になったみたいな変化だ。

 

 困惑していた黒服だったが、シュウの次に放つ言葉に、さらに困惑させられることになる。

 

「その、あなたは誰ですか?そもそも、僕は誰ですか?」

「⋯⋯これは、予想外でした」

 

 浅桜シュウは、記憶を失っていた。




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