忘却アーカイブ   作:アポカリプス

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全ての始まり

「原因は調べないと分かりませんが、今のあなたは逆行性健忘症⋯⋯つまりは、記憶喪失ということです」

「はぁ、なるほど⋯⋯?」

 

 目の前に立つ黒いスーツの人?が、僕にそう教えてくれた。

 

 数分前のことだ。僕は目の前にいる黒いスーツを着た人?に起こされた。

 目覚めた僕は自分の名前や、どんな境遇にいたかも覚えていなかった。それで目の前の黒スーツさんに問いかけたところ、返ってきたのが先ほどの返答である。

 

 正直なところ、全く実感がない。

 記憶がないので、自分のことだと思えないのだ。

 

「困惑しているでしょうが、少しよろしいですか?」

「あ、はい」

「記憶がないというのは、どれぐらいの程度なのでしょうか?」

 

 黒スーツさんに問われて、僕は答える。

 

「えっと、本当に何も思い出せないんです。自分の名前も、ついさっきまで何をしていたのかも、あなたの名前も、全部」

「⋯⋯なるほど。では、本当に少しばかりではありますが、私が知っているあなたの情報をお伝えします。何か聞き覚えのあるものがありましたら、お教えください」

 

 そう言った黒スーツさんは何一つ覚えていない僕に対して、色々と教えてくれた。

 

 僕の名前が浅桜シュウであること、トリニティ総合学園という学校の三年生であること。

 トリニティ総合学園ではティーパーティーという部活動の生徒と特に仲が良かったこと。

 黒スーツさん――もとい黒服さんは研究者であり、僕の体を強くしようとしてくれていたこと。

 

 僕の身長や体重、趣味なんてものまで、黒服さんが知っていることを全て教えてくれた。

 

「⋯⋯いかがでしたか?」

 

 話し終えて、僕に問いかける黒服さん。

 色々と話してくれた彼には申し訳ないが⋯⋯。

 

「すいません⋯⋯正直、何も⋯⋯」

「そう、ですか⋯⋯」

 

 僕の返答を聞いた黒服さんが、俯いた。

 そんな黒服さんを見ていると、申し訳なく思う気持ちが込み上げてくる。

 

 僕のことなのに、こんなに落ち込んでくれるんだ。

 さぞかし良好な関係を築いていたのだろう。

 

 忘れてしまったのが申し訳ないな⋯⋯。

 

 

 

 

 

 

(⋯⋯素晴らしい!まさか、本当に何も覚えていないとは!)

 

 黒服は、歓喜に打ち震えている。

 俯いたのは、思わずニヤけてしまいそうな顔を隠すためだった。

 

(シュウさんとの契約の期限は、実験の終了まででした。新しい契約を結ぶこともできませんでしたし、彼を使った実験は今日で終わり⋯⋯そのはずでした)

 

 目の前のシュウにバレないように、彼を見る。

 

 今の彼を一言で表せば、純粋無垢。

 人を疑うことも、人に騙される事も知らない、ただの子供。

 

 記憶を失う前の、黒服を警戒していたシュウとはまさに別人。これなら簡単に騙せるし、騙してしまえば実験の継続も可能だ。

 

(記憶を失うのは計算外でしたが⋯⋯それが、こんなにもいい方向に転がってくれるとは)

 

 黒服は研究者である。

 自分の手から逃げ出す予定だった実験台(シュウ)が今、逃げ方と逃げる理由を失っている。これを利用しない手はない。

 

 黒服は思考をまとめると顔を上げて、シュウに告げる。

 

「⋯⋯シュウさん、あなたの記憶喪失はこちらの過失です。どうか、記憶を取り戻す手伝いをさせては頂けませんか?」

 

 黒服の言葉に、シュウは嬉しそうにしながらも。

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいんですけど⋯⋯その、申し訳ないですよ。だから、記憶が戻るかは分からないし、色んな人にも迷惑をかけることになると思いますけど⋯⋯僕は、トリニティ総合学園って所に戻ってみます」

 

 そう言って、黒服の提案を断った。

 しかし、純粋無垢な今のシュウならそう言うだろうと、黒服は予想していた。

 

「⋯⋯シュウさん」

「は、はい?」

「先ほども申し上げましたが、今回の件はこちらの過失なのです。手伝いと言いましたが、正確には違います。私にはあなたの記憶を取り戻す義務があります。どうか、大人としての責任を果たさせてはくださいませんか?」

 

 故に黒服は、シュウの善性に訴えかけた。

 今のシュウは純粋無垢で、自身のことを(表向きは)考えてくれている相手の頼みを断ることはできない。

 

 だからこそ、シュウの返答は決まっていた。

 

「⋯⋯分かりました。そこまで言ってくれるなら、お願いします」

「⋯⋯ええ、全力を尽くします」

 

 何に、とは決して言わないが。

 

「それでは、しばらくはこの研究室で生活してもらうことになります。食事や衣服等、生活に必要なものはこちらが用意します。また、シュウさんのお知り合いの方々に関しても連絡を取った上で事情を説明しておきますので、ご心配なく」

 

 大嘘、決して連絡はしない。

 トリニティにおけるシュウの立場は、ティーパーティーとの関係の深さも相まって相当なもの。助けに来られては困るのだ。

 

 シュウはそんな黒服の考えはつゆ知らず、「至れに尽くせりだなぁ」なんて言って笑っている。

 記憶喪失だから仕方のないことだとはいえ、この危機感のなさは異常だ。それも全て、黒服の計算のうちなのだが。

 

「それじゃあ、黒服さん。これからよろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 こうして、シュウは黒服に捕まることとなった。

 

 

 

 

 

 

 シュウが記憶を失った、次の日。

 

「⋯⋯いない、ですか?」

「はい。正義実現委員会にも協力を仰ぎましたが、トリニティ自治区内ではシュウ様の姿は確認できませんでした」

 

 シュウが登校してこないことを不思議に思ったナギサたちはティーパーティーの権限を使ってシュウの捜索を指示し、その結果の報告を部下から受けていた。

 

「新たに情報が入り次第、再度報告に参ります」

「⋯⋯分かりました。ありがとうございます」

 

 部下を下がらせる。

 そうして三人だけもなったテラスで最初に声を発したのは、ミカだった。

 

「どこ行っちゃったのかな、シュウくん⋯⋯」

 

 普段は明るいミカの声だが、明らかに沈んでいる。

 それだけ、シュウのことが心配だということなのだろう。

 

 そんなミカを見ながら、ミカと同じで普段とは明らかに様子の違うセイアが言う。

 

「最近のシュウは少し変だったからね。それが関係しているのかもしれない」

「あ、やっぱりそうだよね?いつもならショッピングとかに誘ったら絶対に着いてきてくれるのに、最近は断られてばっかりだったもん」

「ええ、それは私も感じていました」

 

 三人とも、程度や状況は違うものの最近のシュウの様子に違和感を覚えていた。

 

「シュウさんの事です。誰かを助けようと、何か良からぬことに巻き込まれているのでは⋯⋯」

 

 ナギサの予想は当たっている。

 まぁ、その「誰が」が自分たちだとは思っていないだろうが。

 

「なら、私たちがシュウくんを助けてあげないと!だからまず、シュウくんを探さないとね」

「ミカ、まだシュウが良からぬことに巻き込まれたとは確定していないよ。だが⋯⋯シュウ探すという意見には私も賛成だ」

 

 普段は性格の違いもあり、中々意見がまとまらない三人。しかし今、想い人のためということもあってか、普段からは想像もできないほどスムーズに意見がまとまっていく。

 

 そして、三人が話し合うこと数分後。

 

「⋯⋯では、シュウさんに関する情報提供者への情報提供料は一千万。この事はトリニティだけでなく、ミレニアムやゲヘナ等、キヴォトス全域に告知することにしましょう」

「おっけー!⋯⋯まぁ、ゲヘナの連中にシュウくんのことを教えるのは不愉快だけど」

「ミカ、そうも言っていられないのは分かっているだろう?今はシュウを見つける事が最優先だ」

「もー⋯⋯冗談だよ、セイアちゃん」

 

 そんな軽口を叩きながらも、ナギサたちは方針を固めた。

 この時の彼女たちは「これだけしているのだから、すぐに見つかるだろう」と、この事態をあまり深刻に考えていなかった。シュウを見つけた際には迷惑料として色々とお願いしてやろうなんて、そんな明るい未来を想像するぐらいには。

 

 しかし、彼女たちは知らない。

 浅桜シュウが巻き込まれてることは、そんな簡単ではないと。

 

 彼女たちは知らない。

 

「それでは早速、身体検査を開始しましょう」

「はい!黒服さん、よろしくお願いします!」

 

 シュウが記憶を失って、彼女たちの元には簡単に戻っては来れないことを。




 少し早いですが、次からは少し飛んで原作入りしていきます。
 ナギサたちの状況も簡単にですが書いていきますので、ご了承ください。

 最後に、たくさんのお気に入り登録、ありがとうございます!励みになりますので、今後もよろしくお願いします!
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