元魔王と勇者と姫と幼なじみの|四角関係《カルテット》が始まる夏至前夜   作:SOD

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まだ直してる途中なんですが、行き詰まったし人の目に触れさせてみたくなったので初投稿です。

いや、この前公開停止したもののリメイク番なので再投稿かもしれない。

 思ったことを適当にコメント書いていって貰えると嬉しい


【エピローグ】 出涸らしの弟、完璧超人の兄

 

 

 

 

 

 

 その日は血に濡れた夜になった。マチも、夜空を照らす月も。道も建物も人もヒト()()()もの。みーんな赤かった。血肉と臓腑を塗料に変えて、マチ一帯というキャンパスを彩る悪趣味。血なまぐさいにも限度がある。

 ……だが、ソレを平気で轢き潰して前に進んでいるバイクとドライバーこそが、今夜最も血なまぐさい赤だろう。

 

 

 「あーくっそ……走り辛いったらないわね。

 どうせ惨殺するんならもっと綺麗にミンチにして行きなさいよね! 腕やら脚やら胴体やら頭やら斬っては捨ててで、邪魔過ぎるのよ気持ちよく走れないじゃない!!」

 

 ハンドルを握る女がグチグチ言いながら、道に散らかる命だったものを轢き潰していく。

 

 「血で塗装されたコンクリ道路とバケモノの被害に逢ってバラバラにされた被害者たちの遺体のパーツ多数が転がっている。おまけに周囲は家族や友達を無くして泣き叫ぶ声の合唱。

 気持ちよく走れない理由が満因怨霊(まんいんおんれい)。ソレで気持ちよくバイクを走らせようと思えるその神経が信じらんねーな。ハハハ」

 

 「喧しいわよ小僧? 外出禁止令があんだけ叫ばれてる中で、ワタシみたいな美人なお姉さんがケツの青い中坊のガキと二ケツして夜のマチを走ってやってる。これがどんだけワタシの今後の人生に悪影響を与えるか分かってんの? 

 パクられたらオワリなの。だって言うのにクソガキを運んでやってることにもっと感謝しなさい」

 

 「担任のババアセンコーもそうだけどよお、三十越えたオバサンって、何でお姉さん自認してんの? 現実逃避か? 止めとけよ痛々しい……戦わなきゃ。現実と」

 

 「ブッ殺されてえのかクソガキ」

 

 「あっ!? オイ腰を沈めるのは止めろ。ウィリーしようとしてるだろ! サツから逃げてる最中でソレは正気の沙汰じゃねえぞ!!」

 

 このオバサンの言う通り、現在マチは外出禁止令真っ只中。

 にも関わらずオレたちは現在『ノーヘル』『違法改造を施し時速百五十㎞は出ているバイクで爆走中』『背後にはパトランプを点灯させて追走してくるパトカーが数台停止指示を出しているが無視』。文句無しのトリプルスコア。運転免許には詳しくないが、もしこれで免許取り消しにならないのなら、もう運転免許の安全性と信用は無いも同然だろう。

 

 《そこのノーヘルバイクー! 止まりなさーい!!

 

 この非常事態にテメエらみてえなDQNの相手してる暇なんかねえんだよ!! 止まれコラァ!! ドタマに鉛玉ブチ込まれてえのかゴルアアアアアアアアアアアーーーー!!!!!》

 

 「……ポリ公共が煩いわねー。お巡りが言ってはいけない言葉のトリプルスコアじゃない」

 

 「今夜だけはやむ無しだろ。

 生まれてこの方。この平和な日本で生まれ育った純国産の国家の犬共が、ある日突然フィクションの存在だと思っていた人型のバケモノ退治に駆り出されてんだぜ? 仲の良かった同僚や家族が殺された者もいるだろうに。

 更に少し視線の向きを変えれば、クマの群れが人里に降りてお誕生日会(ビュッフェバイキング)開いたみたいな損壊死体の展覧会。

 

 これて正気でいるなら、きっとそいつは気が触れてる」

 

 「ったく、しょうがないわねぇ……!!

 だったら、美人のお姉さんが慈悲の心でアクセル全開にして、バックミラーから消してやるわよ!!」

 

 ノリノリでアクセルを全開にしていく自称美人のオネエサン。バイクからは排気音……いや、もう爆発音と言って差し支えないソレを街全体が振動するほど鳴り響かせる。

 

 「もう真夜中だってのに。こりゃあご近所で寝てる赤ちゃんとか仮眠中の社畜とか起こしたなろうな。可哀想に……」

  

 しかし国民の皆さんの安眠を犠牲にしたおかげで、パトカーは無事にバックミラーから消え去った。バイクのナンバープレートは普通に付いていたので、どの道パクられるのは時間の問題だがオレはノーダメなのでヨシ。 

 

 「どんなもんよ! これがワタシの愛車のジツリキよぉ!!」

 

 「それまで落ちてた肉片の影響でこぼこの道を走るような跳ね方をしてたバイクが、突然雪を弾いて走るような挙動に変わった。

 

 通行人とかに激突した時の被害を考えるに、やっぱり良い子は道交法を遵守した方が良いなと思いました。まる」

 

 「アハハハ! まだまだケツが青いわねぇ坊や〜?

 そんなんじゃ、お目当てのお姫様のハートを射止められないわよぉ?」

 

 「犯罪者がモテると思ってんのは、割と切実に脳が足りてないと思う。

 

 それに射止める気はねえよ。ただ、恋するお姫様が王子様にはしたない姿を見せて失恋するのが忍びないだけだ…………」

 

 「なぁに辛気臭いこと言ってんだか! 前世で結ばれなかったお姫様と現世で再会します。なんてロマンチックなことが実現するってんでしょう!? 何が何でもゲットするぐらいの気持ちで行かなきゃダメだぞ少年! 草食系なんてクソ喰らえ。女ってのはねえ、安定よりも飽きさせない魅力を求めるもんなのよ!」

 

 「未婚の売れ残り独身女さんの貴重なご意見ありがとうございます。貴女の来世でのますますの婚活をお祈り申し上げます」

 

 「お前、そこのライン越えてきたらグーで行くよ?

 来世まで持ち越してたまるかアホンダラぁ!! ワタシは現世でいい男見つけて結婚して幸せな家庭築くぞぉ!!」

 

 「はいはい。もう良いからそろそろ止めてくれ。目的地に到着する」

 

 「チクショウ……っ!! 危険を背負ってまで運んでやったお姉さんに何でこんな辛辣になれるんだよこのクソガキはよぉ!!」 

 

 バイクの後ろから小さなパラシュートが開いてバイクの停止を補助する。補助出来ているのかは疑問だがどうでもいい。とにかくこうして、目的の()()に着いたのだから。

 

 

 「んっ……くぅ〜〜! 流石にあんな爆走バイクに乗ってっとカラダしんどかったわ。

 

 ま、着いたからサンキューな」

 

 「帰りは歩いていくこと。迎えとか来ないからね!?」

 

 「大丈夫だよ母校だぞ」

 

 バイクに座って少し固まったカラダを解すついでに屋上を見上げる。

 そこには真っ赤な月を背景にした、真っ白いドレスの美しい……月からやって来たお姫様が夜空を見上げていた。

 

 「綺麗だな……前世も現代も(ずっとずっと)綺麗だ」

 

 「何であのお姫様、わざわざ少年の学校に降りたわけ? ほんとは脈有りなのでは?」

 

 「………………あの姫の目的は、(ひじり)光輝(こうき)の方だ」

 

 「ああ、双子のお兄ちゃんね。

 アンタも大変ね。デキの良いお兄ちゃんに軒並み全部才能持っていかれて、しかも惚れた女までそっちに行っちゃうなんてさ」

 

 「ハッ、出来の良いおにーたまの出涸らしですんませんでしたとさ」

 

 「それは違うぞ、少年。

 聖光輝は確かに男女にモテるし、勉強もスポーツも出来るし性格も良いし顔もビジュアルも良い。お前と違ってな」

 

 「フォローする素振りを見せてからズタボロに貶して来るじゃん」

 

 「だが、人間はみんな生きてるだけで偉いから気にすんな!」

 

 「せめて貶したのと同等くらいの補填は欲しかったな……」

 

 さて、固まったカラダもほぐし終わった。そろそろ行くとしよう。

 

 

 ピーポーピーポーピーポーピーポー!! 

 

 

 「げっ!? まだポリ公が追っかけて来てた!?」

 

 「あーあ。オレは在校生の権利によって学校へ行くから、アンタは頑張ってどうにかしてくれや」

 

 「お前ホントに感謝とか気遣いとかないんだな!!」

 

 「ああ。なんせオレは、モテないし勉強もスポーツも出来ない。性格も悪いんでね」

 

 「根に持ってんなよ悪かったって! じゃあ私は行くからな!」

 

 「はいはい」

 

 ブオンとアクセルを吹かしてバイクに跨がるオバ……自称お姉さんが、思い出したようにこちらへ向き直ってフェイスガードを上げた。

 

 

 「人の善意を無駄にしてまで早死にしに来たんだ。せめて相打ちには持ち込めよな少年!

 

 いややっぱ死ぬな! お姫様のハートを射止めろ。

 駄目だったら今夜の恩返しとして、ワタシが婚活に失敗し続けたらワタシをお嫁さんにしてウェディングドレスを着させてお姫様だっこして共働きでも良いから生涯ワタシを幸せにしろ!! 以上!」

 

 

 

 怖気が走る凄まじい寝言を遺してバイクが去る。だが。

 

 「悪いね。楽しいおひとり様人生の檻からは自力で飛び立ってくれ。オレの愛は、一人の女に二生分予約済みだ」

 

 走り去るバイクを見届けきった。あとは自分の用事に集中しよう。

 オレは被っていたフードを脱いで、月の光を浴びていく。やがて黒かった髪は銀色に変色し、黒い瞳が紅く染まっていく。まるで兎のようだ。

 

 いいや、違うな。現実から目を背けるなオレ。オレは月の兎なんて可愛いもんじゃなかった。

 オレにあるのは、前世の【魔王】の力の残りカス。そして現世のか弱い人のカラダだけ。

 

 目的は前世で恋したお姫様に再会し、愛を注ぐこと。

 

 あわよくば、彼女の恋が実ることを祈る。

 

 

 さあ、準備は整った。出来ることは全部やって来た。払える代償は払ってここまで来た。

 

 

 

 

 「待ってろよ月のお姫様。今、アンタに(会い)に、(オレ)()ぶ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生物学上でオレの双子の兄に当たる男こと、(ひじり) 光輝(こうき)は主人公タイプだ。

 こんな一文がラノベで出たらオレは二・三行くらい飛ばして説明文を端折る。

 でも説明がラクなので使っていこうと思う。

 正義感が強く、皆に優しく、努力を惜しまぬ才気溢れた文武両道。

 無理矢理難癖をつけるなら、フィクションの設定としてありきたりで魅力がない。そんな人間(キャラクター)だ。

 

 そんな負け惜しみを並べたところで、オレたちの生きる世界は創作(エンタメ)ではなく現実だ。才能も頭脳も性格も容姿も完璧ですなんて奴が凡人からつまらなく見えるはずも無く。周囲の人間は飽きもせず、聖光輝という光に蛾のように群がる。

 

 そんなこんなでオレらは中学2年生。現在一学期終了のHRが終わってこれから当分自由の身。あとついでに本日オレのお誕生日であーる。

 

 あ、そうそう。オレ、(ひじり)月兎(げっと)っす。しゃす。

 

 

 

 「んーっ! やっと放課後だ〜!」

 

 「ねえみんなーこれからカラオケ行かない? 今日は光輝の誕生日だし、お祝いしようよ。ドリンク無料券があるんだー」

 

 「おーマジか陽香! ってか光輝君、誕生日オメー! いいじゃんカラオケ。最近あっちーもんな。クーラーの利いた部屋サイコ―!」

 「え〜光輝君おめでとうー! ウチ、光輝くんとデュエットしたーい」

 「おめでとう光輝君。アタシもーデュエットするー!」

 

 「じゃあ、順番に歌おうか」

 

 「やったー! 光輝君優しい~好きー」

 「ちょっとー光輝くんはウチの彼ピ(予定)なんだけどー」

 「はー? 光輝君はアタシの彼ピだし~」

 「「キャハハハハハハハハハー!」」

 

 1秒で頭空っぽというフレーズが脳内に沸いてくる虚無的な会話だ。オレはあくまでも部外者なので関係無いのだが、それでもネットの広告動画のような頻度でこんな内容の話を聴覚に入れられ続けていたら、勘弁してくれと思ってしまうオレを誰が責められようものか。ネットなら閉じれば良いが、人生は閉じたら開けないので対処法は不登校オンリー。それもお兄ちゃんである男があれやこれやと干渉しようとしてくるので、オレの人生は常にストレスとウンザリとの戦いを強いられている。辛い。

 ただ、あの定型文縛りのチャットのような会話を当事者として毎日毎日聞かされて心を病まないお兄ちゃん精神力はソンケーしますね。イヤホントホント。

 オレは端から聞いてても『ストレスが辛い』なのでヘッドホンを耳に装着してノイキャンをオンにする。

 

 「あ、みんなちょっとごめんね〜」

 「え? 陽香どこいくの―? って、陽香!?」

 

 ふう……静かになった。やはりノイキャン機能は素晴らしい。

 安物を買ったせいか、何故か音楽も流してないのに御経が流れてくる呪いと供養のセット売りになっていやがったがまあ良いだろう。実害は薄いし、車とかに轢かれて死んでも間髪入れずに御経が流れるのだからタイパ最強だ。死ぬほど不謹慎。

 

 「ーーねえねえ、月兎。今日これからみんなで--」

 

 「ちょっと陽香、やめなよ……(ヒソヒソ)

 

 (さてと。今日の放課後は何をしようか……月見でもしようか)

 

 「カラオケ行くんだけど、月兎も一緒に行こうよ!」

 

 (うん。それが良いかもな。裏ルートで仕入れた情報によると、今日はお母さんは夜勤、お父さんは明後日まで出張だ。そして()()()()はカラオケで居ない。

 誰もいない家の屋根の上でグリーンラーメンでも啜りながら月を見上げて時の流れに身を任せて微睡む。

 うむ、実に素晴らしいじゃないか。今年は良い誕生日になりそうだな)

 

 学校から解放された放課後、何をして遊ぶか決める時間はとても楽しい。これは旅行先の名所チェックとか遠足前のおやつの準備とかに匹敵する楽しさだ。つまり、家につけばめんどくさくなって、やらなくなるタイプの完全な無駄骨。夏休みの宿題をする計画と同類。やった気になるのは楽しいのだ。

 

 「今日ってさ、月兎の誕生日でもあるでしょ。だからボク、月兎のお祝いしたいなって…………どうかな?」

 

 「…………」

 

 さて、お兄ちゃんはリア充ライフ。俺は誰もいない自宅にて邪魔なし金無しのおひとり様お月見。

 未来予想図も描けたことだし、そろそろ帰ろう。

 

 …………いい加減にこの耳に付いているノイキャンイヤホンを外さないと、オートで流れてくる御経がリピート再生されてしまうからな。そろそろ覚えそう。

 

 「あとね、月兎。今日月兎達お父さんもお母さんもいないから、久しぶりにお泊まりに行っても良いかな?」

 

 「…………」

 

 (あ、グリーンラーメンの材料を揃えねえと)

 減らされたなけなしの小遣いでクロレラを買いに行こう。オレは出口へ向かった瞬間、不意に腕を引っ張られた。

 

 「ーーっっ!?」

 

 完全に油断していたところを不意打ちされたことで、耳に付いてたヘッドホンが外れてしまった。

 チーンと音が鳴った。ちょうどリピート再生が開始されたところらしい。

 

 「月兎もいっしょに行こうよおおおーー!!」

 

 「ーーうるせえっ!?!?」

 

 ノイキャンヘッドホンが外れて、至近距離での大声が耳にヒット。思わず手で耳を覆う。

 

 

 「キャッ!?」

 

 「ーー!? どうした、陽香!」

 

 その拍子にオレの腕が当たって、声の主が尻もちを着いた。

 この女の名前は日野(ひの)陽香(ようか)。家の近所に住む、()()()幼なじみ。2人で遊んでればいいものを、何故かこちらにも絡んでくるので大分ウザい。

 こいつ単品であればまだいい方だったのだが、今回はオマケの付いてくるアンハッピーセットになってしまった。店員さん、それ注文してないです。返品したいです。

 

 「ううん、何でもないよ。光輝」

 

 「でも今の悲鳴……月兎、お前はまた陽香と喧嘩してるのか?」

 

 「……………………」

 

 お兄ちゃんが声を聞きつけてやって来てしまった。どうにもこの男は日野陽香に対してデカめの感情を抱いているらしく、ちょっと不穏そうだとす〜ぐやってくるのだ。 

 にしても『また』とは何だこっちが被害者だぞ。

 

 ダルいから言わないし、オレは今度こそ帰るけど。

 ヘッドホンを拾って回れ右。そして教室の外へと……。

 

 「おいテメエいい加減にしろよ! 陽香が話しかけてんだろうが、ガン無視してんじゃねえよ!!」

 

 なんて思っていた俺の肩に、誰かの手が乗る。怪奇現象の類かな? とか思っていたのもつかの間。そのままぐいっと引っ張られて、バランスを崩した俺は思いっきり尻餅つくことになった。

 

 超いてえ。

 

 「ちょっとトオル! 何するの!?

 月兎、大丈夫?」

 

 コケたオレに、日野陽香が駆け寄ってきた。

 別に大丈夫なんでお家帰してもらっていいっすか?

 

 「だって陽香よお! こいつムカつくだろ!?

 光輝くんの弟だか何だか知らねえけど、話しかけられてガン無視とか完全にオレらのこと舐めてんぞ!」

 

 いや、全然全くオタクらに興味ないんで……。

 

 「だからって暴力を振るうの? そんなの最低じゃん!」

 

 「こうでもしなきゃ話も聞かねえコイツにも問題があんだろ!

 だいたいコイツには入学の時からムカついてんだよ。何を話しかけてもひとっことも話さねえし! 流行の話題振ってもシカトしてきやがるし、鉄板ネタも笑わねえし。何なんだよテメェ!!」

 

 「…………」

 

 うるせえ……怒鳴り声と金切声の悪魔合体でただ(うるさ)い。何か言ってるらしいが日本語として聞き取る余裕もないほどにマジ騒音。なんなんだこのチャラ男A。

 

 「そんなの、トオルが……!」

 

 「ーーねえ、それってさートオルがダダ滑りしながら絡んでたやつのこと言ってんのー?」

 

 そのまま行けば喧嘩になっていたであろうタイミングで、別の女の声が聞こえた。そのままにしといてくれればオレはそっと逃げ出せたのに。

 いや、むしろ今なら行けるか。いっちゃえ。

 

 「三咲…………え? オレ、滑ってた?」

 「滑ってたっしょ。友達いない無口君がアレ返事すんのはハードルヤバいわ。よってトオルのが悪い」

 「……え、マジか…………ショックなんだけど」

 「マジ。だからアンタ頭冷やしなって」

 「あ、はい……」

 「だいたいトオルさー陽香が弟君のオカンやってんのとか、いつものことじゃん? 嫉妬すんなし~」

 「べ、別に嫉妬とかしてねえし!?」

 「あとさ、アンタ謝った方がいいんじゃん?」

 「あ、おう。ごめん。陽香」

 「そっちじゃねえ」

 「………………月兎に謝ってくれなきゃ、トオルには無料券あげない」

 「わ、わかったって! 謝るからさ! 弟君もわるかった……ってあれ? いねえんだけど!」

 「え? 嘘、月兎どこ行ったの!?」

 「陽香とトオルが喧嘩してるうちに帰っていったし。こっち見もせずにね。おら、さっさと追いかけて来いし」

 「なぁあああー! やっぱしあいつムカつくってえええーー!! 普通あんなに話しかけてんのに帰るとかナシだろ!?」

 「トオルが喧嘩腰になるから悪いんだよー! ばかあー!!」

 「いやごめんってー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 「ふう……」

 

 リア充ってあれよね。迷惑だよね(主語デカ)。主に自分の主張ばっかし通そうとする辺りが。ないわー。

 おかげで下駄箱に付くまでちょっと時間ロスったし。

 

 さあ、さっさとお家に帰りましょう。満月とグリーンラーメンがオレを呼んでるぜ!

 

 「月兎―! ちょっと待ってよー!」

 

 「…………」

 

 お家に、帰りたい……。

 

 「あの、月兎。さっきは大丈夫だった? どこもけがしてない?」

 

 「…………」

 

 いやもうダルいて。

 なんだろう、そんなことでいちいち呼び止めないでもらっていいですか?

 

 「あ、あのね。さっきのこと、トオルが謝りたいって言ってて……少しだけ付き合ってあげてほしいの。お願い……」

 

 知らねえよそんなこと。何で被害者のオレが加害者の自己満デモンストレーションの為に貴重な時間を消費させられなきゃならんのさ。壁にでもやってろよ。

 

 「あーえっと、ごめん! さっきは悪かった。勘弁」

 

 「…………」

 

 はい、発言者の頭によく似た中身空っぽの謝罪ありがとうございます。じゃあもう良いね。

 

 靴を履き替えていざ、自由の空の下へ……。

 

 「あの、それでね月兎。改めて、これからボクたちと一緒にカラオケ行かない?

 月兎と光輝の誕生日のお祝いも兼ねていっしょに遊ぼうよ」

 

 「………………(絶句)」

 

 行くわけがない。何でいじめを受けた加害者が一芸披露させられるようなトコに出向かにゃならんのか? いい加減にしろ。

 

 海より広い私の心もここらが我慢の限界よ。オレは帰る。まわれー右。

 

 「……あのさあ、さっきのこと蒸し返して悪いんだけどさ。何でキミはしゃべらないわけ?」

 

 今度はチャラ男Aが俺に話しかけてきた。もう立ち止まらずに進んでしまおうか? 

 駄目だわ肩掴まれてる。進もうとしたら引っ張られる。

 

 「…………」

 

 「いやさーオレと喋りたくないのは良いよ? ウザいんだろ、ごめんなしつこくてさ?

 

 うん。まあソレは良いよ。

 

 けどさあ、陽香を無視するってのはなんなの? さっきもめちゃくちゃ話しかけてたじゃん。シカトかましてテクテク歩いてたけどさあ。光輝くんと陽香が幼馴染ってことはさ、二人の関係も、幼馴染なんじゃねえの? 何でシカトしてんだよ」

 

 「…………」

 

 「やめてよトオル。月兎が無口なのはいつものことなんだから」

 

 「だったら猶更だろ。そりゃあお前らの関係性なんて知らねえけどさ、いつまでも陽香に心配かけてんなよ。

 陽香はお前の母ちゃんじゃねえんだぞ」

 

 「だから止めてよ! トオルには関係ないことでしょ!」

 

 「関係なくねえよ! コイツがこんなんだから、陽香も時々浮かない顔してるんじゃねえか! オレだってさ……その、お前のこと心配なんだよ」

 

 「そうだったんだ……心配かけてごめんね。ありがとう」

 

 おーおーラブコメしとる。肩を掴んでた手が照れ隠しで後頭部に行ったよ、おあとがよろしいようで。

 

 「ああ、良かった。ちゃんと仲直り出来たんだな。陽香とトオル」

 

 (主人公の登場だよ……)

 

 「あんまし遅いからさー様子見に来たし」

 「もうお話終わったー? アタシ早く光輝君とデュエットしたーい」

 (俺も放課後とソロでランデブーしたーい。せっかくお友達も付いて来たみたいだし、もう解散でいいだろ)

 「ああ、光輝君からも言ってやってよー。ってか、彼はマジで光輝くんの弟なわけー?」

 

 「なーにー? トオルまだうだうだやってるわけー?」

 「だってこいつ、マジでありえないんだってー!」

 

 「ああ。ごめんなトオル。月兎は間違いなく俺の弟だよ。生まれてからずっと二人一緒。幼稚園の頃からは陽香も加わって、俺と月兎と三人家族同然だ」

 

 「んじゃあ何でこんなに塩対応なわけ? 超無言なんだけど!? 根暗なの!?」

 

 「月兎は根暗じゃないよ! 今ちょっと人生に疲れてるだけで……!」

 

 「陽香も落ち着いて。それじゃあんまり月兎のフォローになってないから」

 

 「いや人生って……オレらまだ中学生なんですけど。何があったの弟くんの人生」

 

 

 人生には疲れてるとこありますね。主になう。今。現在。

 

 

 

 「トオル、確かに月兎の態度は良いものではないと俺も思うよ。

 

 けど……それでも、俺にとって間違いなく月兎は弟で、大切な家族だよ」

 

 ーーっっ!?!?

 

 「光輝くん……っ(お目々うるうる)。やっぱ光輝くんマジでいいやtーー」

 

 

 

 

 「ーープフッ……!!」

 

 

 思わず吹き出してしまった……。

 

 

 

 

 「え?」

 

 「月兎……」

 

 

 

 「プ……っ、くっ…………ふっ、フフハハハハハハハハーー!!」

 

 

 堪えきれずに大爆笑しちまった。あーもう滅茶苦茶だよ。

 

 

 何かクサイセリフを吐くお兄ちゃんに、何か感動してるっぽい反応のチャラ男A。うっかりツボに入ってしまったのが運の尽き。まるで悪質な宗教団体にハマる奥さまのようだった。目ぇキラキラさせてもうさぁ。

 

 

 「………………………………はぁ〜あ。ふう。

 

 あーもう、良いかな? 解放してもらっても……」

 

 「え……?」

 

 重いおもーい口を嫌々開くと、その場の三人が揃って俺の方を振りむいた。

 

 「げ、月兎が……喋った……?」

 

 何で信じられない感じになってんのお兄ちゃん?

 

 「……オレ、マジで初めて弟君の声聞いたんだけど」

 「えー喋ると結構アタシ好みかもー」

 「んじゃそっちはあげるから光輝君もらってくわー」

 

 チャラ男Aは宇宙人を見る目をしている。あと新たに追加されたギャルAとBは……どうでもいいか。

 

 「月兎……月兎が…………しゃべってる。う、うう……ぐすっ、嬉しいよぉ。二年ぶりくらいの『ん』以外の言葉だよぉ!!」

 

 「ーー二年!?!? 嘘だろそんなんフツー精神科とか行くレベルじゃね!?」

 

 「って言うか、どーして陽香はそんなヤバい物件に骨身を削ってんの……??」

 

 「……………………」

 

 「……なあ、月兎。お前、何でずっと喋らなかったんだ? 俺たちはてっきり何か喋れない事情があるのかと思ってたんだが」

  

 「何でもいいだろお兄ちゃんよぉ。いいから帰らせろよ。休ませろよ自由にさせろよ」

 

 「弟くん、喋ると結構イケメンしてるね。これは光輝くんの血入ってるわ」

 

 「不幸にもDNA(設計図)が聖光輝と同じもので構成されてるからな。何かしら足りなかったのか、最低限の下位互換的な性能しかないけどよ」

 

 「下位互換なんかじゃないよ! 月兎は世界でたった一人だけの月兎だよ」

 

 「一点ものがイコールオンリーワンであっても、必ず何か秀でたものが有るとは限らねえんすけどね〜」

 

 「あ〜難しいことは分かんねえけどさぁ……つーかさ、弟くんそんだけ喋れるなら歌もいけるんじゃね? 

 

 カラオケ一緒しよーよ。陽香もめっちゃ気にしてるしさあ。こうりゅーしようぜ!」

 「さんせー!」

 「まあいっか別に」

 「ボクも久しぶりに月兎と遊びたいな。一緒に行こうよ、月兎!」

 

 何でそうなる。帰りたいって言ってるじゃん。オレが話してる時だけ聴覚を失ってるのかこいつら。もしくは発言権とか無い扱いなの? 人権認めてあげてよ。

 

 「答えはNOだ。行くわけないだろ。帰りたいって言ってるじゃん」

 

 「さっきからずっと急いでるみたいだけど、何か大切な用事があるのか月兎?」

 

 「あるよ。家に帰って一人でダラダラするっていう、外せない用事がな」

 

 これを大事な用事に含めないようなやつとはマジで関わりたくないよね。

 

 「なぁーんだ。全然用事なんてねーじゃーん。じゃあ行こうぜ~」

 

 これだよ。こいつら日本語で話している筈なのに会話にならない。口を開くのも馬鹿馬鹿しいってもんよ。

 

 「それなら月兎。日を改めて俺達と遊ぶ約束をするっていうのはどうだ? トオルもさっき言ってたけど、月兎と話をしてみたいって言ってる人も結構いるんだ。

 新しい友達ができるかもしれないし」

 

 さすがのお兄ちゃんは秒で妥協案を出してきた。伊達に頭いいって言われてないわ。つっても、根本的な部分で誤解があるから、やっぱり俺たちは致命的に相性が悪いんだけれどもさ。

 

 「…………突然だけどもさ、お兄ちゃんよ。

 アンタにとって『友達』って何よ?」

 

 「友達が何か?

 それはもちろん。仲良くしている大切な人たちだよ。家族とも恋人とも違う、大切な存在だ」

 

 「へえー大切ねえ~? それって、家族や恋人とどっちが大切なんーおにいちゃーん?」

 

 「それはもちろん。みんな大切だよ。一番とか、そんな格差は無いさ」

 

 「耳心地の良い模範解答どうもありがとう。道徳の授業なら100点だ。たぶん」

 

 「……それじゃあ、月兎にとっての友達って何なんだ?」

 

 「さあ? 

 生憎、友達がいないんで。『無いものは知らない』これが俺の模範解答だ。

 友達なんて都市伝説です」

 

 「それはおかしいだろう。

 月兎、俺とお前は双子の家族だから友達じゃない。っていうのは分かる。けど、陽香はどうなんだ? 生まれた時から親同士が仲が良くて家も近所。最近ではテストで赤点取ってお小遣いまで減らされたお前に毎週勉強を教えに来てくれてる。

 家族同然な付き合いだけど、俺達にとって陽香は、幼馴染であって大切な友達でもあるはずだよ」

 

 「陽香、あんた最近ぜんっぜん週末遊びに来ないのってそれが原因だったん?」

 

 「うん。月兎は昔から学校の勉強が苦手なんだよ。

 でも、もうボク達中学二年生だし、来年は受験もあるから。将来のこと考えないとって、光輝に頼んでけっこう強引に勉強会をしてたの。

 

 ねえ月兎。やっぱり無理やり勉強会してるの、すごく嫌だったのかな……?」

 

 「別に。

 訂正があるとすれば一つ。オレは日野陽香を『親の友達の娘』あるいは『ご近所さん』くらいにしか認識していないってことかな」

 

 「なっ!?」

 「……あ?」

 

 俺の訂正に対して、お兄ちゃんは驚いた顔をして、チャラ男Aはなんか眉間にしわを寄せてる。コワーイ。

 

 そして、当の日野陽香はと言うと。

 

 「……………………げっと……??」

 

 信じられないという顔をしている。

 

 「アンタがどう思ってんのかは知らないけどさ。オレ、一度たりともあんたを友達とか幼馴染とか思ったことないんだよ。オレとアンタの関係性はご近所さん。つまりは『他人』だ」

 

 

 「たに…………ん…………」

 

 

 「そりゃあ、勉強会も正直止めて欲しい。

 将来を見越してって言うけど……オレ的にはソレもう無駄だから。

 

 善意の押し売りなんてされても迷惑なんだよね」

 

 「………………で、でも。勉強全然出来ないと、月兎が後で困っちゃうから……」

 

 「オレが後で困っちゃうから何? 困っちゃう頃にはもう顔も合わさないであろう()()には関係ないじゃん」

 

 「げっとぉ…………!」

 

 ついに彼女の目尻から決壊した涙がこぼれ落ちた。ボロボロと流す滴で制服が濡れていく。

 嗚咽を漏らして鼻を啜る。泣いている。悲しんでいる。

 それでも彼女の潤んだ瞳は、逸らすこと無くオレを見つめていた……。

 

 

 「ーーっっ!! 月兎おおおーー!!!!」

 

 「ーーッ!?」

 

 

 激昂した光輝にブン殴られた。握り締めてた拳が直前にパーに変わって。それでも頭が吹っ飛びそうな衝撃が襲って来て、オレは背後の柱に後頭部を打ち付けた。

  

 「グッ!? 

 ………………う、ウゥ……ッ」

 

 「…………あ、月兎…………っっ」

 

 「…………何コイツ。マジでありえないじゃん」

 「だからそう言ってんだろ三咲。なあ、お前さマジで頭おかしいんじゃねえの」

 「あーあ。一瞬アリかと思ったのになー。これはナシだね」

 

 

 「……………ウエッ、痛ぇ……」

 

 頭がクラクラする。吐き気もして来た。

 振り抜いた平手は、直前の理性を持ってしてなおクリティカルにヒットしたようだ。

  

 「…………月兎。お前、どうして……どうしてそんな考えになっちまったんだよ!!」

 

 「…………ハァ……ハァ……っ。よ、世の中おひとり様ブームだろ? そういう人間が一定数いるってことさ。ハァ……ハァ……っ。

 

 アンタらとはノリが合わない。オトモダチとか、ないわー……」

 

 「…………………………そうかよ」

 

 脳が揺れて気持ち悪い。殴られたダメージが膝にまで来てて吐きそうだ。

 

 

 「ハァ……ハァ……くそっ、時間無駄にした…………頭いてえ」

 

 

 「………………すまん。保健室まで送る」

 

 

 「ハッ、ヒャハハハ……! マッチポンプかよ。

 偽善は被害者がいなきゃ成り立ちませんってか?」

 

 

 「………………そうかよ。ひとりぼっちになって後悔するからな! それでもいいならもう好きにしたらいい!!」

 

 

 「好きにしてる。もうずっと……」

 

 

 「………………っ」

 

 

 「何アレ……マジでサイアク」

 「アリエナーイ」

 

 

 

 「月兎…………」

 

 

 何か背後で声が聞こえた。今まで泣いていた日野陽香の声だ。まだ何の用があるんだろうか。

 恨み言でも言うのかな? 呪怨的な? 御経いる?

 

 「陽香、もうほっときなよ、あんなの。ありえないって!」

 「そうだよ、あいつどうかしてる。ほっときなよ!」

 

 「ーー月兎!!」

 

 オトモダチの静止も振り切って、一層ハッキリ声を出す日野陽香。

 さて、どんな呪言が湧き出すかな?

 

 「あし、明日。いつもの勉強会の日だから、ね。

 忘れないで、ね。

 

 ボク。いつもの時間に、行くっ、から……っ。ちゃんと、家に、いて……ね!」

 

 「………………」

 

 

  

 ……………………………………………………………………………………。

 

 

 

 「偽善もそこまで行くと、ホラーだわぁ」

 

 

 背筋がゾッとするほど悍ましい呪怨を浴びた気がした。きっと気の所為ではない。

 

 彼女の方を振り返ると、正気のままの瞳が真っ直ぐにオレを見つめている。

 

 

 「グスッ……ひっく。待ってる、から……っ。ボク、月兎を待ってるから。

 他人になんか、なってやらない……!」

 

 

 

 「………………怖い怖い。まるでストーカーだ」

 

 

 

 

 今度という今度こそ、なんの邪魔も引き留めもなくなったオレは、気の向くままに歩を進めて自由の時間へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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