年末年始のバタつきが一息つきましたので、これからも宜しくお願いします。
トレーナー試験から半年の月日が経過し、高校卒業を果たした眞一はトレセン学園の理事長室の中にいた。
『祝辞!久浜眞一君。無事の高校卒業おめでとう。そしてこの度のトレーナー試験にて無事合格した事をここに証明する。合格証明書並びにトレーナーバッチを授与させて貰う』
「はい。秋川理事長。わざわざありがとうございます。これから宜しくお願いします」
『久浜トレーナー。おめでとうございます。これで私も本格的にトレーナーさんの教えを受けられます』
眞一のトレーナーバッチを秋山から受け取ったたづなは、眞一のスーツのラペルにバッチを取り付ける。
『たづなさん。ありがとうございます』
『期待!久浜トレーナー。早速だがたづなと共に学園の確認と選抜レースを観てくるといい』
『選抜レースですか?ですが私はたづなさん、いやトキノミノルの専属トレーナーではなく?』
『うむ、たづなはトゥインクル・シリーズではなく1ランク上のドリーム・トロフィーリーグでの出走となる。だが君にはトゥインクル・シリーズを制するウマ娘を育てる事も仕事だ。その為に選抜レースで新たなウマ娘を見つけ、育て上げるのだ!』
「なるほど。、、、分かりました。では少したづなさんをお借りしますね」
『うむ!しっかりと務めを果たすように』
『ふふふ、トレーナーさん。これから宜しくお願いしますね』
「宜しく」
眞一とたづなは理事長室を退出して学園を廻り始める。
「たづなさん。他のトレーナーの方々に挨拶したいのですが」
『そうですね、今の時間なら教員室に揃っていると思うので、早速行きましょうか』
「お願いします」
たづなの案内のもと、学園にいる全てのトレーナーが集まる教員室。
ここには、専属トレーナーを始め、チームトレーナーも午前中は会議や打合せの為教員室に詰めている。午後になると各々のトレーナー室に赴き、トレーナーとしての仕事に邁進するのである。
そんな教員室にたづなが入って来たのを見たトレーナー達は少し驚いきながら息を呑む。
『トレーナーの皆様。お疲れ様です。今年も選抜レースの時期が来ましたこと、各位のご健闘をお祈り申し上げます。さて、今年のトレーナー試験にて歴代最年少で見事合格しました新人トレーナーさんの久浜眞一トレーナーを皆様にご紹介しようかと思います。久浜トレーナーこちらへ』
「えー、皆様。お忙しい中手を止めて頂きましてありがとうございます。只今駿川秘書長より紹介にあずかりました、久浜眞一と申します。高校と大学を飛び級しまして、本日よりトレーナーとしてこちらに所属致します。今だ不慣れな所があり、ご迷惑をお掛けするかと思いますが、ご指導とご鞭撻のほど、宜しくお願い致します」
パチパチパチパチパチパチパチパチ
眞一の挨拶を聞いたトレーナー達は拍手をもって歓迎の意を評した。
拍手が収まると複数の先輩トレーナーから挨拶を受ける。
『おう。新人!お前さんが静一の倅か、なかなかに元気な挨拶ご苦労だった。俺は六平銀次郎だ。今後とも宜しくな』
「こちらこそ、六平さんの事は父から聞いております。何でも、中々の頑固で意地っ張りとか」
『ふんっ、あいつめ、余計な事教えやがって。ここを出ていっても相変わらずか』
『新人君。私は東条花。チームリギルのチームトレーナーをしているわ。今後チームを創った時は互いに頑張りましょう』
「はい。こちらこそ宜しくお願いします」
『おう、若いの!俺は沖野晃司ってんだ。チームスピカのチームトレーナーをしてる。おハナさん。東条トレーナーと同じだ。何か分からない事があったら遠慮なく言えよ』
「はい。その時は宜しくお願いします」
その後も、先輩トレーナー達とも挨拶を交わした後、再び学園内をたづなと共に歩き回る。
『久浜トレーナーさん。ここがこの学園の生徒会の面々が集まっている生徒会室です』
コンコンコン
『どうぞ』
『失礼しますね。あらちょうど皆さんお揃いでしたか』
生徒会室の中には複数のウマ娘が揃っていた。
『フム、ミノ、たづなか。こんな時間に珍しいな』
『はい。シンザンさん。新人トレーナーさんに学園を案内しているところです』
『新人トレーナーか。資料を少し見たが、あのみちのくトレーナー、久浜静一トレーナーの子息とはな。君がそうなのだな』
「宜しくお願いします。新人の久浜眞一です。こうして皆さんのご尊顔を見れて嬉しく思います。シンザンさん、テンポイントさん、トウショウボーイさん、そしてシンボリルドルフさん」
『本当に久浜トレーナーのご子息なのだな』
「はい。久浜静一は私の父になります」
『そうか、あいつは、グリーングラスは本当に母になったのだな。ボーイよ。どうやらあの惚気話は本当のようだね。おっと紹介が遅れてしまったな。私はテンポイント、宜しくトレーナー』
『そうね〜テンポイント。まさかグリーングラスが母親とはね〜。トレーナーさん。私はトウショウボーイです。宜しくお願い致します』
「はい。宜しくお願いします。母は今、父とクラブチームでウマ娘達の指導をしてますよ」
『そうか。幸せそうで何よりだ。、、、おっと呆けてはいかんな。久浜トレーナー。今後とも宜しく頼む。と言っても、再来年頃には我々はこの学園を退き、URA本部務めになる。その際はルドルフに会長職を託す。何かあったら支えてやってくれ』
「それは勿論です。ルドルフさんも、今後とも宜しくお願いします」
『こちらこそ、宜しく頼むよトレーナー君。改めてシンボリルドルフだ』
挨拶も程々に眞一とたづなは生徒会室を退出する。
『お前たち、見たか、あの体つき』
『えぇ、勿論。あのトレーナー、私たちと同じ肉体ね』
『私も"バ力症"の男性を見たのは初めてだわ』
『会長。バ力症というと。あの』
『あぁ。ウマ娘から産まれる男児に極稀に見られるウマ娘の身体能力を持った男性と言うことだ。しかも男だから我々ウマ娘よりも体付きも力も凌駕すると言われている』
『あのトレーナーが走っている姿を観てみたいわね。そうは思わない?シンザン』
『そうだな、、、今度朝練に来てもらうか?朝練なら他のウマ娘達には見られないだろう』
『『『賛成』』』
そんな生徒会の企みなど露知らず、眞一は引き続き学園を廻る。
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たづなと共に学園を一通り見て廻った眞一は最終目的地のコース練習場へと到着した。
コース練習場はウッドチップからダート、芝がしっかりと整備されている。
「流石、中央の練習場ですね。しっかりと整備が行き届いている」
『はい。ここの整備士さん達は皆、優秀ですから』
たづなと眞一がトレーナー達が観覧する席で話していると周囲にいたウマ娘達がコソコソと話始める。
『ねぇ見て。たづなさんと一緒にいるあの人、噂の最年少トレーナーさんじゃない?』
『うそぉ。高校在学時に試験受けて合格してから高校と大学課程を飛び級で卒業したっていう』
『でも、この時期にここに来るということは、選抜レースの見学だよね』
『うんうん。絶対そうだよ。さっき廊下でリギルとスピカのトレーナーさんも来るって言ってたし』
『よし、良い所見せられるように頑張らなきゃ』
『そうだね。頑張ろう』
眞一はこの場にいるウマ娘達を自慢の眼で観察した。それを隣で見ていたたづなは少し微笑む。
『ふふふ、トレーナーさん。そんな眼で他の娘達見ていたら私、妬いちゃいますよ』
「何を言い出すかと思えば。リハビリは順調に来ているのだから焦らず地道にやってくださいよ。そうじゃないとあの娘達みたいに走れませんからね」
『もう。そういう事言っているわけじゃないです。フン、トレーナーさんの意地悪』
「はいはい。意地悪で悪かったですね〜」
そんな会話をしていると後ろから東条と沖野達、トレーナーの先輩達が話をしながら観覧席に近づいてきた。
チームリギルとチームスピカ、そして実績のあるトレーナー達が姿を現すことで、練習場の雰囲気は緊張感を増す。
「さて、たづなさん。皆さんも来たみたいですし、真面目になってくださいね」
『ふぅ。そうですね。甘えるのは今度にしましょう』
たづなは普段通りの秘書としての雰囲気に戻って眞一と観覧する。
「(さて、先ずはどのウマ娘に焦点を絞るかな。出来れば三冠路線の娘を育てたいが、力を秘めている娘はそうとも限らないからな。あの娘は、、、そこそこか。あの娘は、、、2勝位までは行けるか?、、、お、これは)ふむ。あの娘とあの娘は、中々だな」
『お目当ては見つかりましたか?』
『えぇ。俺のこの眼に適った逸材がいましたね』
≪これより。選抜レースを開催します≫
アナウンスが鳴り響き、練習場には歓声が上がる。
新入生や在学生を含め、この選抜レース(トレーナー達はスカウトレースと呼ぶ)で結果を残し、トレーナーの指導を受けられるかどうかで、ウマ娘としての人生が決まると言っても過言ではない。そしてそれはトレーナーも同じ、活躍出来るウマ娘を育てGⅠレースで勝利を掴ませる責任がある。その為にウマ娘とトレーナー達は全力でこの選抜レースに挑むのである。
『(ふぅぅ。選抜レースか。皆気合い入ってるな〜。私は早く終わらせて旅に出たいのだけど。とりあえずレース楽しもうかな)』
『(私と楽しいダンスをしてくださる方はこの中にいらっしゃるかしら?さぁ、私といっぱい競いましょう)』
「(このレース出場者の中では欲しいのはあの2人だな)たづなさん。あの娘とあの娘をスカウトしようかと」
「あの娘とあの娘ですか?レース前で判断してもよろしいので?」
「大丈夫です。その辺はちゃんとこの眼で観てますから」
≪選抜レース第1レースを始めます。番号札1〜8の生徒はゲートに入ってください≫
第1レースの案内が流れる。眞一の狙うウマ娘はまだのようだ。
≪ゲートイン完了≫
バゴンッ
ゲートが開かれると同時にウマ娘達が走り出す。やはり中央に入学、編入してくるウマ娘達の脚は優秀である。
「ふむ、1番手の娘は、、、2番手は、、、3番手は」
眞一は走るウマ娘の特徴を、その卓越した眼で判断している。これもバ力症の恩恵でもある。眼で観た内容を瞬時に手にしているノートに勢いよく書き綴る。それを間近で見ていたたづなや東条、沖野達は目を見開いている。
『『『なんて、速さで書いてんだ(のよ)』』』
そしてその作業は最終レースまで続く。
≪選抜レース最終組のレースを始めます。番号札90〜100の生徒はゲートインしてください≫
最終組となり、ようやく眞一が観た2人がゲートに入る。
≪ゲートイン完了≫
バゴンッ
最終組がスタートして最初のコーナーまでの直線で件の2人は中団から後方の位置で走行する。
「ほうぅ、そう来たか」
『何かありましたか』
「いえ、あの2人はどちらかと言うと先行向きかなと思ったのですがね。あの2人はどうやらこのレースを後方から楽しもうとしているみたいですね」
『なるほどな。お前さんはそう見えるのか。中々面白い所見てるな』
眞一の観察眼を丁度聞いていた沖野は眞一の会話に加わる。
「まあ。これまでこの眼で観てきましたからね」
『お前、まだ17、8だろ。何でそんなの分かるんだよ』
「そう言えば言ってなかったですね。実は私、"バ力症"持ちなんですよ」
『『『は!!!』』』
この時、その場にいたトレーナー達及びウマ娘達は驚愕の表情を浮かべる。それもそのはず、バ力症という絶滅危惧種並の人種が本当に存在しているという事実にだ。
『なるほどな。おめぇ、バ力症だったのか。そう言われちゃその体格といい、耳と目の良さといい納得せざるを得んな』
「六平さん。久浜以外にバ力症の男を見たことあるんですか?」
『数年前に何回かだな、だがそいつらはバ力症とは分からず普通の一般人で過ごしている』
『でも本格化したら流石に分かるんじゃないですか?』
沖野と六平の間に東条も話に加わる。
『それが本格化せずに普通に過ごしているんだよ。おそらくだが、彼奴等はそこまで遺伝が薄かったのと、ウマ娘達と余り接点がなかった事で普通の成長期のみで終わったというのが俺の推論だがな』
『なるほど。、、そうなると久浜は幼少期から両親やウマ娘達とで過ごしてきた事。母親の遺伝子が濃く遺伝したことで、本格化並みの成長期をしているという事になるわね』
「まぁ、そんな所です。さて、レースは後半ですよ」
トレーナー達との話の中でも眞一はレースをじっくりと観ていた。眞一が観ている件のウマ娘2人は後方から少しずつ中団へと押し上げている。
『(ふぅぅ。皆頑張ってるね〜。これくらいのペースなら楽だね。でも隣のお嬢さんが楽させてくれなさそう)』
『(ここまでは順調。この中で私を楽しませてくれるのは隣の、、、何となく旅人の様な雰囲気を出している彼女ね)』
「(さて、レース後半だが。君達は何を観せてくれるのかな)」
レースも中盤から後半に差し掛かり、ウマ娘達は少しずつスピード上げて第3コーナーへ入っていく。この時には後方集団も先行集団へ距離を詰め始め、追い抜きの準備に掛かる。
そして先行集団に肉薄する形で第4コーナーから最後の直線に入る。
「そこ」『『ここ』』
眞一と2人がほぼ同時に呟くと同時に最後のスパートを掛ける。
その一瞬の判断で先行集団を抜き去り、2人の一騎討ち。
双方全力であろう脚をフル稼働させてゴールへ駆ける。
『『はあぁぁぁぁぁ』』
2人の激走をその眼で観た眞一は何かを確信するように何度も頷く。
「ここ」
そう呟いた眞一をたずなは聞き逃さなかった。
その瞬間、件の2人の片方がさらに加速し僅かに先行する。そしてそのままゴールを駆け抜けた。
『(はぁぁ、はぁぁ、はぁぁ。やっぱりレースは楽しいな。負けたのは癪だけど、自由に気儘に全力を出せたよ)』
『(はぁぁ、はぁぁ、ふぅぅ。勝てましたわね。素晴らしいレースでしたわ。彼女とは良きライバルになりそうです)』
お互いにレースを終えて満足した表情でスピードを落としていく2人。そしてその脚が停まった時。
『『楽しかった(わ)』』
互いに向き合い同じ言葉を発したのだった。
『ふふ、貴女もでしたのね』
『君も同じ気持ちとはありがたいね』
『また走りましょう』
『そうだね。次は負けないよ、お嬢様』
『あら、その様な呼び方は感心しませんわね、旅人さん』
『ふふ、君もじゃないか』
『そうですわね。ではこれから宜しくお願い致しますね、ステイゴールドさん』
『こっちこそ。宜しく頼むよ、メジロラモーヌ』
メジロラモーヌとステイゴールド、2人が話している場所に眞一が近付いていく。
革靴が芝を踏みしめる音に気付いたステイゴールドとメジロラモーヌは音の方へと目を向ける。その方向にはスーツに遮光メガネ。180cmを有に超える厳つい体格の男が近付いてくるとなるとさすがのウマ娘である2人もたじろいだ。
そんな事も露知らず、2人の眼の前で立ち止まった眞一は遮光メガネを外して2人に声を掛ける。
「さて、お二人共。先ずはレースお疲れ様でした。観ていて楽しいレースでしたよ」
『あら、そうでしたか』
『まあ、ボクは普通だったかな』
「まぁ、君達にとって満足のいかないレースだったことは確かだろ」
『あらあら』『へぇぇ〜』
「そこでだが、君達2人をスカウトしたい。君達2人が楽しめるレースをぜひとも紹介させて欲しい」
眞一のスカウト発言を聴いた2人は少しばかり不敵な笑みを浮かべる。
『私にはメジロという家名が付いていますがそれでも宜しくて?』
『ボクは自由気ままな旅に出たいのだけど』
「先ずはメジロラモーヌ。確かに君はメジロ家の令嬢だがそれが何か問題でもあるのか?確かにメジロ家はこれまでURAに貢献してきた実績はあるだろうが、そんなものレースでは関係ない。勝つか負けるか、君で言うと美しいか美しくないかの二択しかない。家名なんてただの飾りと思いなさい」
『くっ、』
「そしてステイゴールド。君が自由奔放な性格なのは分かっている。しかし、その実はとびっきりの負けず嫌いだということもな。世界への旅に出たいのなら、それ相応の実力をもって世界と戦わなくてはならない。それは君自身もわかっているな」
『そ、それは、』
「君達2人の実力は確かな物がある。それを生かすも殺すも己次第だ。それを俺はトレーナーと言う立場で支えたいと思っている。3日後の16時までトレーナ室で待っている。それでは」
眞一はそう言って練習場を後にした。
『久浜トレーナー。良いのですか?あんな言い方で』
「たづなさん。何も問題はありませんよ。それにスカウトは彼女達のみではありませんから」
『え!それはどういう』
「まぁ、その内わかりますよ」
眞一はそう言うと練習場を去っていく。
他のトレーナー達はそれをただただ見ていることしかできなかった。
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