長夜月(偽)   作:四末説最後の一つは均衡ってマジ?

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3.3のストーリーをやった時の感想「美しい……これ以上の芸術作品は無いでしょう」って感じだった。なんかこう、絶望と終わりが一気に押し寄せて来ながら、最後にキュレネが出てきた時「え、ここから希望があるんですか!?」ってなったなぁ……。


エスカトンって大体終末的な意味合い

『じゃっじゃーん! 黄金裔健闘物語観賞会ー!』

 

 本体を起点に見る景色と、出力された自らの身体から見る景色。その二つを分割思考で眺める事に成功する。こうすれば、アナクサゴラスも一緒に二つの場所で起こる出来事を見られるという寸法だ。

 まぁこうしないと、セファリアの死を観測出来ず、開拓者御一行に教えて上げることが出来ないから仕方ないのだが。

 

『随分と低俗なネーミングセンスですね。もう少しマトモな名前は付けられなかったのですか?』

 

『うるさいよ華やかな大地獣。名前なんてどうでもいいんだから』

 

『随分とテンションが高いようですが……もしかしてそれが貴女の素ですか?』

 

『そうだよ。猫被りするのって疲れるよね』

 

 いやほんと。ありのままの自分を曝け出せる空間はまさにオアシスだ。自分を偽り続けた千年ではあるが、内心と外面のテンションの違いに何度風邪をひきそうになった事か。

 

『どうやらヒアシンシアは天空に至る道を見付けたようですね』

 

『医術の腕が優れただけの、ただの凡人。たまたま天空をルーツに持つ黄金裔であっただけの、極めて良心的なだけの人間。でも、そんなヒアシンシアだからこそ紡げる物語があるんだよね』

 

『凡人、ただの人間……ははは、貴女は彼女の事を何も理解してないようですね』

 

『残念ながら、神悟の樹庭に近寄れなかった私は、ヒアシンシアと関われる機会が殆ど無かったからね。知ってるのは表面的な部分だけ……でも、物語の観測者とは大体そんなもんだよ』

 

『ええ、そうでしょうね。起こった出来事だけに目を向ければ、その人物の内面的なものまでは見抜けない』

 

『忘れないでね、アナクサゴラス先生。観衆を気取る傍観者は、いつだって表層しか見ていない。それは人物をプロファイルして、情報だけを見ても同じ事』

 

『分かっているのですか? 貴女は自らをただのデータと自認していながら、データ世界に存在する全てを正しく生命であると認識している』

 

『分かってるよ、そんな事……あ、セファリアがスティコシアに来たね』

 

 暗黒の潮である我が身は、実は長夜月の見た目に拘る必要は無い。とは言えその姿を借りており、ライコスの視線を釘付けにする必要がある以上容易に姿を変える訳にはいかない。

 だが逆に、ライコスに正しく長夜月はそこにいると認識されている限り、その他の認識はどうでも良いと言える。

 まぁつまり、暗黒の潮によって変質された壁や床の中に潜んでいるだけなのだが。

 

 ケファレの火種を持っていると、欺瞞の権能で世界を騙しているセファリア。今ではあまり深く考えられず、プログラム通りに動くだけのようなカスライナは兎も角、彼女が持つ火種は偽物であると知ってしまっている私がいる限り、その嘘は真実にならない。よって、私も劣化版欺瞞の権能で騙す側に回っておく。

 

 セファリアの吐いている、私も知らない嘘ならば問題無いのだが、物語に絡んでくる重要な嘘は嘘であると知ってしまっている。ほんと、居るだけでシナリオブレイカーだよ私は。

 

『詭術の半神の力、凄まじいですね。千年間半神として生きてきたノウハウもあるのでしょうが、あのフレイムスティーラーを相手に良くやりますね』

 

 そう言うアナクサゴラスだったが、どうも彼が本当にファイノンだった場合、教え子としてもう少し何とかならなかったのかと、そんな表情をしている。

 

『飛翔する幣、欺瞞。トリッキーな力ではあるけれど、それは使い方次第では無敵にもなるからね……使い手の詐術の上手さによって振れ幅が激しいけど』

 

 セファリアはフレイムスティーラーを釘付けにする為に、敢えておちょくるような動きを見せているが、反応の鈍さからフレイムスティーラーがどのような状態にあるのかを察していく。

 彼女の故郷――ドロスを焼いたと言われているが、本当にカスライナがやったのだろうか?

 まぁ、知りようがない事なので考えるだけ無駄だが。

 

『どうやらヒアシンシアは、セネオスの仲間達と天空の末裔の真実を見たようだね』

 

 晨昏の目に渦巻く記憶から、埋もれた歴史を掘り起こす。そしてヒアシンシアは自らのルーツ……その本当の歴史を知る。

 彼女は偉大な天空の民の末裔などでは無く、タイタンと融合したセネオスの戯れのような慈悲により見逃された、逃げただけの民の末裔だった。

 しかしルーツなどは関係ない。約束を果たし天空に戻ってきたヒアシンシアは、世界を癒すという信念の為に立ち向かう。

 

 彼女はただの優しい医者だった。しかしその信念は、数多の黄金裔達と比べても見劣りするどころか輝きを放つようなものだった。

 ヘリオスという自らに適した武器を得たファイノンと、幾度も開拓を乗り越えてきた列車組、その力を借りてエーグルの討伐に彼女達は成功した。しかし、天空の要塞は戦闘の余波で崩れ、何もかもを溶かし尽くす黄金池へと落ちそうになる。

 すんでのところでアグライアの置き土産が力を放ち、彼女達を救う。しかしブレスレットは取り戻せず、アグライアは神託通りの最期を迎える事になった。

 

 火種を確保し、後は帰るだけに思われた一行だったが――

 

『どうやらエーグルが変質したようですね。暗黒の潮を取り込んで、火種の代わりの動力としたようですが……貴女の仕込みですか?』

 

『残念ながら違うね。あれはセネオスの意志でもあるし、暗黒の潮の意志でもあるかな。暗黒の潮としては、たまたま利用出来る強い個体があったから利用しただけで、セネオスは人間にそれなりに強い恨みがあったから』

 

 しかし再起を果たしたエーグルも、再度討伐されてしまう。っぱイカルンさんまじぱねっすわ。

 

『セファリアの方も追いかけっこは終わったね』

 

 オンパロスにおける生命体の中で、もっとも速いと言えるセファリア。しかし彼女にとっては、振り切れないというのは初の体験となる。まぁカスライナにも詭術の力があるんだから当然と言えば当然である。

 

 逃げられないなら適度に戦おうと、立ち向かう彼女だったが……千年の経験があるからメデイモスよりやれるとは思い上がりだ。カスライナの過ごした時間は千年では済まないし、積み重ねた経験はもっと重い。彼は一人で全部のタイタン討伐とかを成し遂げている男なのだ。

 

 分身、幻術、高速移動。それらを駆使して戦闘を優位に進めつつ、機を見て脱出したセファリアはしてやったりと言った表情をしていたが……カスライナの方も、同じくしてやったりと言った表情――仮面で見えないので雰囲気だが――で、セファリアの大切にしていた飛翔する弊を見せびらかし、落とす。

 

 取り返そうと、今まで全てを振り切ってきた速度で手を伸ばしたセファリアだったが、カスライナの攻撃をモロに受けて壁へと叩きつけられた。

 血を吐くセファリアと、ケファレの火種をその手に収めたカスライナ。時間稼ぎの鬼ごっこと戦闘の勝者は、何も知らない観測者としては意外な事にカスライナに軍配が上がった。

 戦闘の感じとかフレイムスティーラーをおちょくる感じとか、サフェル鬼強ぇー! ってなって絶対逃げおおせると思ったよ私は。でも現実は非情であるし、フレスティくんの正体知っちゃうと残当なのだが。

 

 しかしカスライナの手にあるケファレの火種は、結局欺瞞の権能でそう見せられていただけのガラクタであり、怒っている風のカスライナによってセファリアの命は絶たれてしまう。

 

 私が思うに、彼女の物語は一種の芸術作品だ。

 ドロスに生まれ、善人が食い物にされる様を見せつけられ、自分のせいで親代わりだった人間が死に、面倒を見てくれるアグライアへ親愛を抱く。彼女の役に立ちたい、尊敬する彼女の隣を歩めるようになりたい、他の黄金裔達のように誇れる自分になりたい。そんな思いで戦った彼女は黎明のミハニの真実を知ってしまい、嘘でオンパロスを騙した。しかし、そんな嘘を見破られる訳にはいかないからこそアグライアの下から離れる必要があり、彼女は孤独に戦い続けた。そして最期に見たのは、自分が望んでいた光景の幻影。セファリアが心配で放っていたアグライアのエンドモだと思っていたそれは、ただ普通のエンドモでしか無く、誰にも見られず願いすら叶えられず、彼女はひっそり息を引き取った。

 

 悲しくも美しい物語がそこにあり、せめて誰にも見られていない最期くらいは寄り添ってあげたくもなる。しかし、セファリアが求めているのはアグライアなのだから、私が看取ったところで救いにはならないのだ。

 

『セファリアが死んだ事で、一つの偉大な嘘が暴かれる事になる』

 

「黎明のミハニは、七百年前には既にその光を失っていた」

 

 劣化版の欺瞞の権能を解除する。黎明のミハニに関して私も一枚噛んでいたという、世界に対する嘘をネタばらし。

 感覚として分かる。黎明のミハニは、世界を守る最後の壁が失われた。暗黒の潮が活性化し、世界の全てを呑み込まんとしている。千年間地道に世界を侵食し続けて分かった事だが、どうやら暗黒の潮の侵食域に応じて私の扱える力も増減するらしい。

 つまり、世界全てを呑み込めばカスライナにワンチャンかすり傷くらい付けられるかも……いややっぱ無理だわ。

 

 ともあれ、ここで見るべきものはもう無くなった。

 

「おやすみセファリア、良い夢を」

 

 

 

 ♭

 

 

 

 黎明のミハニが効力を失った事を、火種を通して知ったヒアシンシアは、水を操る能力を持つ丹恒の協力を得て創世の渦心へと向かい、火種を返還。そのままセネオスとソラビスとルネビスに認められたヒアシンシアは試練を既に乗り越えたとして、天空の半神へとなった。

 彼女は空に戻り、虹をかけてオクヘイマの人々に祝福を授ける。それは襲い来る暗黒の潮の造物から人々を守る盾となるが、燃える空を繕う事は彼女にも出来なかった。

 暗黒の潮は、既に空を呑み込んだ。残されたのは、もはやオクヘイマの一部のみ。これこそが最初のファイノンが目撃した黄昏であり、世界の終末だった。

 

 守るべき人がいる限り、ヒアシンシアが折れることは無い。人の姿を捨ててまで、生き残った全ての人を守ろうとする彼女に対してかける言葉を私は持ち合わせていない。

 

 黎明のミハニから絶えず隕石が降り注ぎ、オンパロスを破壊していく。絶望的なエスカトンを前に、ファイノンはアナクサゴラスの提唱した再創世に一縷の望みをかける。

 ケファレの火種を取りに行く道中でカイニスと出会う彼等だが、イカれた狂人然とした彼女を無視して火種の匣を開き、火種を取り出そうとするが……そこにあったのは火種に見せ掛けた偽物だった。サフェルが自らの仕事を果たした事に希望を託し創世の渦心へと向かおうとするファイノン達相手に、まるで自らが率いているかのように暗黒の潮の造物を連れたカイニスが立ち塞がった。

 

「何、まるで自分はもうどうでもいいです、みたいな顔してんの?」

 

 お前だけ安らかな最期を迎えられると、果たして本当に思っているのか?

 粛清者のトップにして、千年の憎悪を受け継ぎ続けた権力に目が眩んだクソ人間。政治家をやれるくらいには優秀であった筈だが、黄金裔の下に着く事が許せなかった心の狭い凡人でもある。そして黄金裔達に――カイザーの系譜に反発する為に、わざわざ千年も憎悪を溜め込みそれに思考を染められた、哀れな存在だ。

 そんな彼女の後頭部を、私は鷲掴みにする。

 

「長夜月!?」

 

 急な私の登場に驚きを見せるファイノン達だが、私の今の目的は彼等の相手をする事ではない。何せ、世界の破滅は刻一刻と迫っていて時間が無いのだから。

 

「貴様、裏切り者の黄金裔!? 何の真似だ!」

 

「もう全部どうでもいい? お前らも私も終わりだ? いやいやいや、カイニスちゃん。黄金裔が憎いなら正しく報復しないと……そうやって全て人任せで自分だけ満足して逝こうなんて虫が良すぎると思わない?」

 

「何だと貴様……ッ!」

 

「権力欲に塗れただけの凡人が、輝く英雄に弓を引いたんだからさ……最後までしっかりやりきろうよ。大丈夫、一矢報いる為の力はあげるから」

 

 暗黒の潮、つまり壊滅の祝福は相手を選ばない。そして相手が耐えられないのならめちゃくちゃにしてしまうだけ。

 

「ほら、貴方の大嫌いな黄金裔と同じだよ」

 

 祝福を与えよう。暗黒の潮を流し込み、壊滅の運命へと進ませる。残念ながら適性の無かったカイニスは暗黒の潮に書き換えられ、絶叫を上げて造物として新たな生を得た。

 

「時間は無いよ、救世主。オクヘイマの人々は黎明を望んでるよ」

 

 それだけを告げて、私は姿を隠す。もはやオンパロスの殆どは暗黒の潮に呑まれ、その全てが私の支配下も同義だ。その範囲内であれば、移動も隠蔽も自由自在。

 暗黒の潮と化したカイニス達粛清者の命を奪い、ファイノン達は駆けていく。しかしその道を阻むように現れたカスライナだが、ここでまさかの援軍となるメデイモスが現れる。キャストリスも冥界からの援護を行っており、まさに総力戦と言った様相を呈していた。

 紛争と死の半神にカスライナの足止めを任せ、トリビーによる百界門で永夜に呑まれた生命の花園へと向かい、ヒアシンシアの虹の奇跡に守られた人々を目撃する。自らの生命を燃やし栄光を残そうとする大工匠ハートヌスと別れを告げ、開拓者達が泊まっていたルトロへと向かう事になる。

 

『アナクサゴラス先生、カイニスをあのまま放置した場合安らかな死に顔をする事になったんだけど……一体どうしてなんだろうね?』

 

 これだけは分からなかった。カイニスという人物の表面上のプロフィールをなぞり、大体の心理を推測した。けれど、私の考えであればカイニスの死に際に浮かべる表情は絶望や悲壮、或いは狂笑のようなものだと思っていた。

 一体何に安堵し、どうしてこうも死を受け入れられたのだろうか。

 

『ふっ、そんな事私に知る由もありません……ですが、そうですね――何世代も積み重ねてきた憎悪からの脱却、今まで自らを縛ってきたそれらの感情から解放された事によって齎された表情なのではないですか?』

 

『……ああ、それは思い至らなかった』

 

 過去からの亡霊に縛り続けられ、意志も行動も全て握られた操り人形だったのだ。ならばその糸を断ち切られ、ほんの数瞬だったとしても自らを取り戻せたとしたのなら……確かに安らかに眠れるだろう。

 憎悪とは抱えるもの、その怒りの炎で宇宙すらも染め上げる……そういった考えが根ざしていた為に、本来負の感情とは魂に多大な負荷を与える事を忘れていた。

 

 なるほど、カイニスも苦しみ続けていたのかもしれない……まぁそれはそれとして、不快感を与える彼女を赦すつもりは無いけれど。

 

 反発するのは正常な反応だとしても、下らないプライドの為だけに憎悪を溜め込み続けるような悪役には、きっとこれこそが相応しい末路だろう。

 

『……追いかけようか。この輪廻の最後を見届けよう』




カイニスさんの不完全燃焼な感じは、勝手に満足して死んだ事ですよね。色々やってくれやがったのに、こちらから殴るまでもなく死にやがったって感じで。

ですので〜、皆様の為に〜、ちゃんと造物にして殺させてあげました。これが俺のファンサービスだ、受け取れ!
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