長夜月(偽)   作:四末説最後の一つは均衡ってマジ?

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いつも誤字報告感想ありがとうございます!
PVとか見て思ったんですけど、キュレネが毎ループの最後に語りかけてた存在と、実装されるキュレネの名前伏せられてる記憶の精霊。これ侵食ちゃんの並行同位体の可能性ありそうですよね。
違ってたら桜の木の下に埋めてくれて構わないよ!

ちなみに偽夜月が遊戯王でデッキ握るとしたら破戒ヌメロンです。


人外魔境壊滅決戦編

 丹恒がカスライナの足止めを担い、ファイノンが創世の渦心へと向かい、それを見届けた星ちゃんは二人の衛兵と共に丹恒と合流する。その時カスライナは動かなくなっていたが、それはスクリューガムの手伝いによるものだった。

 列車へと向かいオンパロスの外へと脱出する為に雲石の天宮から出た四人だったが、そこで待っていたのは天外の存在であり天才クラブに名を連ねるスクリューガムだった。あくまで投影された存在ではあるものの、久しぶりに会った盟友とも呼べる存在に安堵し、情報交換を行った彼等は二手に別れる事になる。

 識刻アンカーと呼ばれる天才の創造物を持ちオンパロス内部に残る星ちゃんと、一時的に列車でオンパロスの外へと脱出する丹恒。

 

 そして、我らが開拓者は創世の渦心へと戻る事になる。

 暗黒の潮の影響を受け、創世の渦心へと向かう為の水は全て枯れている現状、唯一そこへの扉を開けるのはヤーヌスの半神であるトリスビアスのみであり、力を使いカスライナの足止めに加わったトリビーは既に役目を終えていた以上、それが出来るのはトリノンだけだった。

 そして彼女もまた、そこで力を使い果たす事になる。

 

 辿り着いた創世の渦心では、これからファイノンが返還の儀式を行う所であった。星ちゃんがライコスは黒幕だと、スクリューガムから教えられた事を言ったところで、ファイノンが取るべき行動は変わらない。

 神礼の観衆として、彼は儀式を執り行う。語った言葉は真実ではあるものの、全てを語ってはおらず、かと言って嘘は言わない詐欺師の話術。黒幕である事も、狙いも何もかも有耶無耶にしたままに、ファイノンと星ちゃんは返還の儀式を行った。

 

 返還の瞬間に、世界の時間は歩みを止める。本体が星ちゃんの所にある私だからこそ知覚出来た事だが、まさに世界の間隙とも呼べる時間の間にライコスは救世主の旅路を星ちゃんへと見せた。

 カスライナという存在を最も熟知していると語るライコスが見せた、ファイノンの過去。そこで彼が常に思い描いていた無名の英雄と、隣を歩んでいたキュレネという少女の存在を知る。

 そして知るのは、無数の輪廻の中で繰り広げられてきた再創世間近の瞬間だ。オンパロスの運命が停滞し、何度も姿は違えど同じ事を繰り返してきたという事実が明かされる。

 

 時間にすれば一瞬。これはライコスがこのオンパロス内部で行える自らの思考速度と同等と言って良いのだろう。無理矢理自分の世界に星ちゃんを引きずり込み、そして多くの記憶を見せ付けた。

 

「まだ回収されていない伏線が数多く残されていますが、ここで一度舞台裏へと退かせていただきます。私の代わりに解説を務めるのは、33550336回目の火を追う旅の結末をもたらす方です。どうか盛大な拍手でお迎え下さい――彼こそ、先程の無数の記憶の持ち主であり、今この瞬間、渦心へと足を踏み入れたもう一人の賓客にして、自らを炭になるまで燃やし尽くした――フレイムスティーラーです!」

 

 恐らくヤーヌスの門の力でやって来たカスライナは、ノリノリで解説するライコスを一太刀で断頭した。その音に、ファイノンと開拓者の二人はこの場への乱入者を知る事になる。

 

「どうやら、お前が勝ったようだな……処刑人」

 

 無数の輪廻と同じ様に、全く同じ台詞を吐いたファイノンはヘリオスを構えた。カスライナは残骸のようになったヘリオスとキュレネの儀礼剣を重ね合わせる。

 

「「この身を薪に……次の輪廻の暁を――燃やそう」」

 

 開拓者とファイノン、それに対峙するカスライナだったが……その勝負は、カスライナが押される形となった。

 

『あの二人とフレイムスティーラーであれば、苦しい戦いになると思っていたのですが……不可解ですね、彼が押され気味なのは』

 

「終わりだ! お前の屍で――黎明を灯す!」

 

 ファイノンの一撃が、カスライナの仮面を弾き飛ばす。今まで隠されていた仮面の下にあるのは、何処かファイノンと似たような……それでいて砕けた石膏のようにも見える顔。そんな姿に「そんな……馬鹿な」と思わず声を漏らすファイノンだったが、カスライナは構わずに再び戦闘を継続した。

 あの顔、ファイノンと言うよりケビンに近いんだよね……。

 

『理由は単純だよ、アナクサゴラス先生。カスライナは既に灰になってるんだよ……意志力だけでその姿を保っているだけで、本来なら既に崩れて死んでてもおかしくない状態なの』

 

 分身、幻影、瞬間移動、鍛え上げられた絶技とも呼べる剣術。それらを駆使して戦うカスライナだが、その動きはもう精彩を欠いている。存在を保つ事に割く力が大きすぎるのだ。

 

『それに、カスライナの目的は瑕疵の無い状態の自分に、自らの抱える全てを託す事。万が一にもこの輪廻のファイノンを殺す訳にはいかないからね……ついでに、天外から来た希望である星ちゃんもだけど』

 

 ファイノンは、素で自らの力を解放するだけで周辺一帯を焦土にする事が出来る。ヘリオスはその熱を注ぎ込める、彼にとって必要不可欠な武器である。

 カスライナはそれに加え、推定4億8千万以上の火種すら持っているのだ。力を解放するだけで、この場の全てが粉微塵となるだろう。

 無論、あの身体で力の解放など行えば自らも塵芥になる諸刃の剣ではあるけれど。

 

『火種の継承ですか……確かに、あの状態で次の輪廻に向かえる筈もありませんが』

 

『ついでに記憶もね』

 

 33550336回にも及ぶ輪廻の中で蓄えた火種も、その全ての記憶も、本来ならば一人で抱えられる筈もないものだ。人間の脳の容量から考えても覚えていられない気もするが……そこは黄金裔という特別な存在だからか、或いはデータ世界の存在だからか。

 

「人々は一人と別れを告げ、その者だけが奇跡を目にする事になる……これぞまさしく運命……その者は……お前でなければならない――」

 

 ヘリオスで腹を貫かれ、そこから黄金の血が滴り落ちる。カスライナは自らの手に握っていた、キュレネの儀礼剣をファイノンへと手渡し、ファイノンは――

 

「「『神礼の観衆/鏖滅の使徒』の名において私は見ました――」」

 

「「――「壊滅」これにて完成!」」

 

 ――それをカスライナへと突き刺した。

 

 その瞬間、溢れ出るのは彼の内に収められていた膨大な記憶の欠片達。様々な記憶が星ちゃんの目に映り、キュレネの声が脳内に響き渡る。思わずテンション上がって私も声を出しちゃったけど、まぁその場の雰囲気的にあんまり気付いてなさそうだし良いか。

 

「持っていけ……私が背負ってきた全てを。燃え……続けろ。私達の炎が消えぬ限り、火を追う旅は終わることは無い……其に、屈するな――」

 

 火種は継承され、カスライナは灰となって崩れ去る。そしてファイノンは新たなカスライナとなって、壊滅に目覚めた。

 

 さて、いよいよ私の晴れ舞台だ。このまま放っておけば彼は星ちゃんとミュリオンを歳月の空間に保護し、オンパロスを壊滅させ――そしてナヌークとの決戦に向かう。だから、その前に……私という壊滅を、この舞台に刻み込もう。

 

 

 

「ああ、そこに居たんだね……壊滅の手先。ナヌークに壊滅をくれてやる前に、まずは君との約束を果たすとしよう」

 

 世の混沌を背負う者、カスライナ。顔立ちこそファイノンであるが、その髪色は金となり、瞳の特徴的なケファレの模様も変化した。何より特徴的なのは、首から上下が分かたれたかのような衣装をしている事で、首より下はナヌークのように裂傷を負っていて内側は黄金に染まっている。更にはケファレを象徴するようなヘイローと、金と黒の翼を持ち、肉体から構造物のような何かが突き出ている。

 人を捨て半神となった姿と言われればそれまでだが、その姿は何処か怪物のようなものにも見えた。これこそが、壊滅の星神より寵愛を受けた特徴であり、壊滅の力に適合した果てに得る姿だった。

 

「……次に会う時は、キミの存在を細胞一つ残さずに焼き尽くす時だ。覚えているかな? この輪廻で交わした、君との約束だ」

 

「勿論覚えているよ、救世主……最期に一つ、聞いておきたい事があるんだ」

 

「共に黄金裔として肩を並べて戦ったよしみだ、聞こうか」

 

「鳥は、何故飛ぶと思う?」

 

 ピノコニーにおいて、開拓者達は似たような質問である「生命体は何故眠るのか?」について問いかけられ、そしてそれぞれが答えを見出した。

 

「……それは、飛ばなければならないからだ。それこそが役割だからであり、そして後に続く者たちの為にもその必要がある」

 

 ああ、そうだろう。カスライナ、貴方ならそう答えるだろうとも。この哲学的な質問に、答えなんてありはしない。けれどその人物が何を思い、どう考えるかを浮き彫りにするものだ。そして貴方は既に、精神の世界で開拓者に救世を託したのだろう。

 だからこそ、先駆者として貴方は飛ぶのだから。

 

「……じゃあ、この輪廻に終止符を打とうか。見物客は神礼の観衆と開拓者、私達が刻み込む壊滅を見せつけようじゃないか」

 

 カスライナが開拓者とミュリオンを、謎のバリアで包み込む。彼等が巻き添えを喰らわないようにとの配慮が出来る、なんていい男なのだろうか。

 

「私は世界を壊滅に導く暗黒の潮の化身にして、全てを騙し続けてきた偽りの黄金裔。救世を背負う者よ、其に挑もうとするならば、私と言う鏖滅を越えて見せろ!」

 

 世界に宣言する、私こそがオンパロスを破滅に導く壊滅の使徒であると。ファイノンに、カスライナに、私を殺せと声高く宣言する。狂笑をあげろ愉悦の星神、私が無様な喜劇を踊ってやる! さあ世界よ、グランギニョルの幕開けだ!

 

 長夜月の顔を、黒い仮面が覆う。彼女が常に差していた傘はかつて見た天火聖裁へと変化した。そこから放たれる灼熱の劫火は、バリアに守られた開拓者達すら焦がしてしまう勢いだった。

 創世の渦心を侵食するように、暗黒の潮が入り込む。記憶を抜かれた構造物達が呑み込まれ、生み出されるのは壊滅の造物達。ヴォイドレンジャー、終末獣、暗黒の潮の造物に抜け殻のニカドリーとボリュクスとエーグルと、侵食されたセイレーンの成れ果て達。

 膨大な数と質量で、創世の渦心すら圧迫する。その造物達の強さは語るまでもなく、ただのファイノンと開拓者なら秒殺だ。そしてその造物達すらも一瞬で溶かすような熱量が、長夜月の持つ天火聖裁から放たれる。

 

 ここに顕現せしは地獄の様相、修羅の覇道。並の黄金裔なら息をする権利も無い戦いの舞台だ。その中で、常に何者かの振りをし続けた偽物が、殺意と憎悪に塗れた絶叫を上げた。

 

「死ね! 死ね! 死ね! 死に絶えろよゴミクズ共が! 星神だ? 神を気取る操り人形共が! お前ら全員宇宙を滅ぼす事しか能が無いカスだろうが! 消え去れよ虫ケラ共が!!」

 

 落ち着いた、怪しい雰囲気を常に纏っていた長夜月から、とても本人とは思えない様な激しい怒気と憎悪、殺意と狂気が噴き出す。造物共がカスライナに襲い掛かり、その造物共ごと叩き潰すように剣技も技術も欠片も無い振り下ろしで天火聖裁が叩き付けられる。

 カスライナはその身に秘めた莫大な憎悪を表に出さず、冷静に造物を切り伏せる。そして棍棒を叩きつけるかのような長夜月の大剣も的確に弾き、彼女の心臓を抉ろうとヘリオスで突く。しかし、ニカドリーの偽物がその盾となり、届かない。

 たった一瞬の隙があれば、狂気を振り撒く壊滅の使徒は無闇矢鱈な連撃を繰り出す。けれど、カスライナには届かない。当たっても弾かれる。痛痒を与える事すら出来やしない。

 

「莫迦が」

 

 エーグルが流星群のようなエネルギーを降らせ、ボリュクスが生気を殺し尽くす死の花畑を作り出す。そしてその全てを、カスライナが一太刀の元に消し飛ばす。

 

「この程度の壊滅で、世界を焼き尽くす? ナヌークを消し滅ぼす? お前は何処まで愚かな阿呆なんだよ、救世主」

 

 襲い来る有象無象の全ては瞬く間に焼失し、地獄すらも焼き尽くす熱量同士がぶつかり合って世界は悲鳴を上げる。

 暗黒の潮は、よくオンパロスにおける本質だと言われているが、それは遍く全てがデータである事を見せ付けているからにすぎない。存在も変質も、その本質はただの0と1。無数の2つの組み合わせによって生まれたものでしかない。

 

 では、この二人の対決が起こす現象とは何なのか?

 

 世界がうねる、ひび割れる、弾けて消えて、何も無い空白地帯すら生まれる。世界全てを構成する0と1すらも残らず消える、壊滅の嵐。世界の意志によるフォーマットとも違う、たった二人の意志力で生み出される強制削除。それは世界すらも侵食するような強大な意思や力の元に行われる制御権、覇権の奪い合いだ。

 

 数瞬すら姿を保たないオンパロスの神の似姿達、その隙間を縫って長夜月がカスライナに迫る。けれどその劫火を纏った大剣は、叩き付けられる前に逸らされる。そこにあるのは純然たる技量、億を越える年数積み重ねられた剣技だ。ただでさえ、ファイノンの時点で黄金裔における二大アタッカーとも呼べる存在だった彼が、その上で永劫回帰の数だけ積み重ねてきた至高の領域。対するは武術を齧ったことも無いような長夜月の、子供のソレと同レベルの振り回し。まさに大人と子供、月とスッポン……そんな比喩表現すら烏滸がましい程の、銀河と原子レベルの格の違い。

 

 苛烈にして暴虐とも呼べそうな長夜月の攻撃は、一撃すらもカスライナに届かない。彼女の率いる壊滅の軍勢すらも同様に、ただの視界を遮る壁にしかなっていない。絶望的なまでの力量差、天地がひっくり返っても勝ち目の無い無謀な戦い。しかし劫火の大剣を持つ偽物の黄金裔の攻撃は、心が折れて弱まるどころか勢いを増していく。

 

「カスライナ、教えてやるよ。お前が殺したくて仕方の無いナヌークはな、ただの傀儡なんだよ。ナヌークだけじゃない、星神全てがだ! 星神はどれもこれも、星神になった瞬間に我を失うんだよ! その運命を遂行するだけの機械に成り果てる! いいか? お前はそのままじゃただ自滅するだけの自殺志願者でしか無いんだよ! ナヌークに壊滅をくれてやるだと? 笑わせる、今のお前にはそんな事すら出来やしない!」

 

 もはや形を成さないような造物達が波となってカスライナを襲う。しかし近付く事さえ出来ずに、それら全ては蒸発して消え失せる。長夜月の作り出す海月も近付く前に、本領を発揮する前に壊滅する。

 

「オンパロスの天外に広がる星の海は滅亡の運命にある。オンパロスの悲劇を生み出したナヌークも浮黎もヌースも、その意思に従って決められた行動をしてるに過ぎないんだよ! いい加減に気付けよ間抜け、お前が本当に救世を成したいのなら、虚数の樹に連なる全てを壊滅させるしかない!」

 

 長夜月の振るった天火聖裁は、カスライナに触れること無く砕け散った。その破片を自らの手が損壊する程に握り込んで振るう。軽く顔を逸らして避けたカスライナだったが、その頬には一筋の傷がついた。

 

「宇宙の全てを怒りの炎で焼き尽くし、原初の無に還した後で理想の世界を創るしかない。憎いんだろ? 救いたいんだろ? 死にたいんだろ? なら死ねよ救世主。お前が望む全てを成し遂げて、壮絶な死を迎えろよ。それが出来ないなら今ここで死ね!」

 

 それは、長夜月を騙る偽物の持つ考え、その存在の隠された心の奥の本当の所だった。ああ、確かに魅入られた。美しくも悲しい、それでいて壮烈な物語に、そしてそんな過酷な世界で戦い続けるそれぞれの生き様達に、確かに感動しただろう。どの運命も、どの派閥も、それぞれの思いを胸に歩み続ける有様は、ただの凡人には成し得ない所業だ。

 例えば、ヴェルト・ヨウ。世界のコードを引き継いだ彼の人生は、本にするだけでも何冊も積み上がる程の厚みを持っており、英雄にはなれないと自称する彼が遂げてきた偉業は筆舌に尽くし難い。彼を知るだけで、有象無象共は自らが如何に矮小で無様な存在かを知るだろう。

 例えば、黄泉。殆ど語られることの無い彼女の人生だが、ほんの片鱗だけでも熾烈にして激烈、銀河の救世主とも呼べるメモキーパーはその一旦に触れただけで呑み込まれそうになる程の物が秘められている。

 例えば、エーテルアンカー。そう呼ばれる存在は、言わば世界そのものである。仮に世界の泡であろうとも、無数に分かれた枝葉の小さな世界であろうとも、テイワットに存在した龍王ニーベルンゲンを下して世界を手中に収めた天理であろうとも、語られることの無い物語の中には想像すら及ばないような地獄があるのだ。

 例えば、例えば、例えば――メタの視点で見れば、全ては一つの物語でしかない。けれど今を生きる存在として見てみれば、それら全てが持つ重みとは、凡人が言葉で語れる程に軽くないのだ。

 この宇宙は星神の司る運命によって支配されている。しかし、その運命とは全て宇宙を滅ぼす可能性を秘めたものだ。そして、星神に昇華する程の存在ですら、星神になった瞬間に自らの運命に呑まれ、ただそれを遂行するだけのプログラムになってしまう。

 

 では、悲劇の元凶とは何か?

 

 それこそ語るまでもない。世界の設定そのものだ。或いは綴り手こそが元凶と言える。

 

 では悲劇を喜劇にし、完全無欠なハッピーエンドにするにはどうするべきか?

 

 簡単な話だ。悲劇を生み出す既存世界の全てを消し去って、自らこそが新たな綴り手となるしかない。つまりは、お前ら俺の理に従えよと、その他全てを跪かせるのだ。

 

 カスライナは文句なし、至高の存在だ。壊滅に壊滅をくれてやるとして、生命ですら無いデータが実体を得て、遙か格上な神に一撃を与えてみせた。

 

 なんと素晴らしい存在だろうか。掛け値なし素晴らしい。その憎悪の全てを注ぎ込んでナヌークをぶち殺し、そしてようやく手に入れた自分でいつもの笑顔を浮かべて欲しいとも。しかし、彼では不足なのも事実だ。

 最強の絶滅大君である風焔と戦い、ナヌークに傷を負わせる大偉業を彼は成し遂げる。しかしオンパロスを救うには、それでは不足なのだ。

 

 長夜月が誕生を待ち望んでいた絶滅大君とは、鉄墓などでは無い。

 それは壊滅を壊滅させる為の絶滅大君、即ちカスライナに他ならない。

 

 だからこそ、嗚呼、だからこそ声高に叫ばせて貰おう。私が高みへ導いてやると!

 さあイカロスよ、遍く天地を焼き払い、星々の彼方まで飛んでいけ。

 

「――壊滅を以って、この輪廻を幕引こう」

 

 カスライナが右手を掲げる。それによって引き起こされるは世界の終焉――無数の隕石群だ。

 

「――いいや、まだだ!」

 

 膨大な熱量に干上がるオンパロス中の水分、その全てが創世の渦心へと集い、暗黒の潮となって億千万の造物と姿を変える。自らが重力を持つ程の質量を持つ隕石が近付く事で物理法則がめちゃくちゃになり、バリアに守られた開拓者達はその場に立つ事すら不可能となっていた。けれど造物の津波は、その全てが長夜月の意志に従って天をも引き裂く巨大な矛となる。

 

「すべては勝利を掴む為に、今こそ創世の火に抗おう!」

 

 33550336回目の輪廻、このイレギュラーの起こった輪廻における暗黒の潮は、創世の渦心以外の総てを呑み込んだ。それは長夜月という異分子の功罪によるものだった。この輪廻における物語を見届けて、黄金裔達の最期を看取り続けた。そしてそれら全てを不変とする為に、彼女の意志に従い暗黒の潮が呑み込んだ。

 長夜月が今現在操る暗黒の潮とは、オンパロス総てに他ならない。つまるところこの戦いとは、鉄墓とカスライナの代理戦争だ。カスライナが鉄墓から飛び立ちナヌークと決戦に向かう為の必要な儀式だ。

 さあ、飛んでみせろイカロスよ。溶け墜ちて行く飛翔さえ、恐れるものは何も無いのだから。

 

「さよならだ、開拓者」

 

 一つの惑星を滅亡させるような流星群が降り注ぎ、創世の渦心は何もかもが崩れ去る。後に残るのは焦土と化した地表のみであり、これこそがカスライナの齎す壊滅の姿だった。

 

 

 

 開拓者とミュリオンは、既に歳月の力に守られた空間――即ち、輪廻の狭間へと送られた。何もかもが壊滅した世界において、残るのは三体の人外だけであり、その内の一体は間もなく消え去る状態だ。

 

 黄金裔を騙る者、長夜月。彼女を守る暗黒の潮は最早何処にも無く、その普通の少女と変わらない身体にはカスライナの持つヘリオスが突き立てられていた。そこから滴るのは、他の黄金裔達と同じ黄金の血だった。

 彼女の顔を覆っていた黒い仮面が割れて剥がれ、顕になった素顔はいつもと同じ薄い微笑みだった。先程まで撒き散らされていた憎悪も殺意や影も形も無い。

 指先から0と1に分解されていく状態で、長夜月は自らの胴体を貫くヘリオスをしっかりと握る。

 

「貴方は何に怒ってる? それを明確に思い描くの……この宇宙では、全てを焼き尽くす程の怒りこそがそのまま強さの指標に変わるの――」

 

 それはこの世界の真理では無い。けれど、カスライナが手にした力をこの場で増やす方法は無い。ならば、その指向性を明確に定めさせる事……それだけは、決して間違いでは無い。

 カスライナだけでなく、神権を引き継ぐものとして設定されている黄金裔達は全員壊滅の影響を受けている。どんな波乱万丈な道を歩もうが、どれだけの大義を掲げていようが、その果てにあるのは自己犠牲による破滅だ。その中でも、カスライナはかつてアナクサゴラスが見抜いたように、飛翔の果ての墜落こそを望んでいる。

 

 だからこそ、彼が真にナヌークの壊滅を望むのならば、それを成す為の原動力が必要だ。憎悪こそがそれだと言うけれど、そんなものはただの不定形のエネルギーに過ぎない。ガソリンとエンジンがあって初めて動力を生み出せるのだ。ガソリンだけで出来ることは揮発する事だけ――彼に不足しているのはそれなのだ。

 

 お前は何に怒り、何を望むのか。それは渇望でも良いし、不変でも良い。絶対に成し遂げるという意志力でも良いし、何でもいい。そうして彼の世界を焼き尽くす程の怒りに形と指向性を与え、それを鏃としてナヌークに放つのだ。

 

「――だから、貴方の願い、その理想である「みんなの願いが叶う世界」……それを成し遂げる為に、何が必要なのかを見定めて」

 

 ずるりと、ヘリオスを掴んでいた手が落ちる。暗黒の潮の造物であり、壊滅の手先、そして黄金裔の裏切り者であった筈の長夜月。その彼女の表情は慈愛に満ちた優しい笑みだった。その笑みのまま、力を失って項垂れた。身体を支える力が失われ、ヘリオスによってその身体が少しずつ斬れていく。

 しかし、その前に存在の全てが空間に解れるように消えていった。まるで最初から、長夜月という少女は何処にも居なかったかのように。

 

「――心に刻むよ」

 

 そうして残ったのは、救世主の殻を脱ぎ捨てた一人の怪物と、神礼の観衆を名乗る知恵の囚人の成れ果て……その二つだけだった。

 

 後の事は語られることは無い。強いて言うならば、本来のあるべき姿として、ファイノンはナヌークに一撃を与える事に成功するも、敗北して鉄墓に統合された。




鏖滅の使徒(偽夜月)
弱点:物理 氷 虚数
エネミーの特徴としては、アルジェンティと同じ様に自分の左右に二体ずつ眷属を出してくるし、眷属が居る時は被ダメを軽減する。眷属は基本的に暗黒の潮の造物シリーズだけど、高難易度とかになると多少ナーフされたニカドリーとか出してきたりする。
本体の行動は遅いけど攻撃には2パターンあって、天火聖裁で全員攻撃か海月で単体攻撃してくる。
多分プレイヤー達のヘイト買うタイプのボス。

実際は暗黒の潮が範囲増加したお陰でその勢力を増しているだけで、本人自体には何のバフも入ってないのになんか凄い何でも出来そうな気がしてるだけの可哀想な奴。どうせファイノンに負けるから色々盛っちゃえって凄い強そうな顔してるけど、強いのは本体以外だし全部借り物の力。まさかの再登場した劣化版天火聖裁をしっかりと使うだけで全身グズグズになっているけど、欺瞞の権能で無事な様に見せてるだけ。まあ擬似的な不死不滅だから出来る技。
作劇上凄そうな感じ出してるけど、実際はケビンに瞬殺されるレベルなので当然使令級が相手なら勝ち目は無い。何ならヨウおじにすら封殺される。
凄い千劫モチーフみたいな顔してるけど、元ネタは狂剣だったりする。狂剣に関しては分かる人は分かるかなーって奴なのであまり気にしないでね。

ちなみにファイノンの神託って、多分輪廻を繰り返す毎に少しずつ変わってるんですよねー。星ちゃん来た時は「灰白の黎明が――」なんだけど、元々は「銀灰の――」だったり、ヒアンシー倒す時のループだと所々三点リーダーになってたり。
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