長夜月(偽)   作:四末説最後の一つは均衡ってマジ?

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前回の感想の数が人外魔境超えてびっくり。いつも感想と誤字報告ありがとうございます!
この話書いててめっちゃ楽しかった

前回の話で出てきたハイリヒアルヒェについて、何やそれって思う人の為に解説を。まぁ解説と言っても、ただドイツ語で「神聖なる箱舟」って意味なだけですが。


終焉へ刻む怒りの日

「最後の「再創世」は間もなく始まる。刮目してお待ち下さい……救世主と私、そしてこの世界が身をもって証明してみせますよ。最初の知性の種も宇宙の終極も決して「壊滅」などでは無いと」

 

「ふん……次の輪廻でお会いしましょう、智者。あなたの仮説に一万分の一の可能性でもあるならば――私は「天才」の名において、その失敗を見届けて差し上げましょう」

 

 神話の外側にて、ライコスとその脳内に住み着いたアナクサゴラスが会話を交わしていた。モニターとケーブルしか存在しないその場所に、本来有り得ない異変が発生する。

 

 まるで巨大な電子モニターのような世界の全てと、所々にあるモニターの全て。それらの画面に巨大な「瞳」が表示される。

 

「やあ、アナクサゴラス先生。迎えに来たよ」

 

「おや、長夜月。随分と良いタイミングですね」

 

 意識体のみのアナクサゴラスの横に、ホログラムで表示された長夜月の姿が現れる。一度開拓者と共に招待された際に座標は記録していたので、現れる事自体は楽だった。しかしライコスの設置したプロテクトを強制的に突破する為に、侵食によるハッキングが不可欠だった。

 

「ほう、これは長夜月殿……まさか自らここに訪れるとは。あなたはてっきり、ここに閉じ込められるのを防ぐ為に来ないものかと思っていましたが」

 

 色々と見抜けなかった事も多く、分からない事もあったライコスだが、まるで全て分かっていたと言うように虚勢を張っていた。

 

「最後の再創世が間もなく行われる。安心しなよザンダー、鉄墓は必ず誕生する」

 

「ふふ、まさか敗北宣言をしにここまで来たのですか? 自らを三月なのかであると偽り続けた、他ならぬあなたが」

 

「敗北宣言? 冗談でしょ、私に敗北は有り得ないよ。だって、私にとっての敗北とは、鉄墓が誕生する事でも知恵のヌースがくたばる事でもない。そもそもの勝利条件が、貴方達とは違うからね」

 

 余裕を常に保っていたライコスの口が閉じられる。今までの支離滅裂で意味不明とは違う、私のそもそもの目的が読めていないのだ。

 だって当然だろう。そんなもの、数少ない協力者にしか明かしていないのだから。そしてそれが推察されるような行動に関しては、必ずと言っていい程侵食の権能で認識不可能にしていた。

 

「……なるほど、どうやら私達とは持っている視野が違うようですね。ええ、素直に認めましょう。私は最後まで長夜月殿の目的を読めなかった。まさか、神々の戦いですら視野に入っていないとは思いませんでした」

 

 そうだとも。そんなもの最初から知った事では無い。宇宙の辿る運命が何かなど、端から興味も無い。壊滅だろうが開拓だろうが記憶だろうが、等しく訪れるのは終焉でしかないのだから。

 だがその中で唯一の不変は、綾模様。人々の織り成す綾模様こそが、何よりも美しいのだ。それだけは絶対の、唯一無二なのだから。

 

「或いは、長夜月殿は最初から星神のもたらす運命に縛られていなかったのかもしれませんね。そんなあなたに、私も尋ねてみたい事があります……生命の第一原因、あなたはその答えをなんだと思いますか?」

 

 それはセプターが求めた解にして、ザンダーが導き出した解でもある。それは何故生命が誕生するのか、或いは万物の運動の根本原因は何なのかという質問。アリストテレスはその答えに神であると解を出した。

 

「ふふ、頭の良い人は難しくものを考え過ぎだよ。分かりにくい言葉で修飾して、より難解に考える……私からすれば、そんなものは簡単だよ。答えは熱――そこに熱があるから生命は産まれるし、熱があるからそこを目指すんだよ。何故なら私達はみんな、火を追う蛾なんだから」

 

 もし無機質な冷たさしか無いのなら、そこには理由しか無くなってしまう。人が人を産み時代に繋げるのも、何かを求めて動くのも、全てそこに必要だからという理由しか無くなる。でも、理由のない情動というのは確かに存在するのだ。

 

 求めてない子供を作るのは、そこに熱があったから。

 叶わぬ夢を追い求めるのも、そこに熱があったから。

 そもそも惑星に生命が誕生するのは、その環境がたまたま最適で数多の偶然が重なった結果としか言えないが……それだって熱が無ければ運動は生まれない。

 

 或いは、欲とも言えるだろう。

 

「壊滅だとか愛だとか、無駄に賢ぶって面白い事言うよね。笑っちゃう」

 

 もし仮に、オンパロスが「アヴェスター」から生まれたと言うのなら、そこにある第一原因とは「怒り」だ。まぁ、デミウルゴスの「真我」から生まれるのは「愛」ではあるけれど。

 

「……ふふ、お見逸れしました。暗黒の潮から生まれた筈のあなたが、壊滅以外の答えを見出すとは。なるほど、これが自らの造物が予期せぬ未来を歩んでいく感覚ですか」

 

 アナクサゴラスのデータのコピーは完了した。彼がライコスから学び取った知識を用いれば、私の計画はより成功率が上がるだろう。

 もう用は無いと、その場を後にしようとしたが……その場に、思ってもいなかった人物達が現れた。

 

「ふん、随分と話が長いな……学者、必要な情報は手に入ったんだな?」

 

「今回の輪廻では、随分と私が世話になったみたいだな。リュクルゴス」

 

 ケリュドラとヘレクトラ、二人の意識体がそこに居た。

 

「ははは、長夜月から聞いてはいましたが……まさか、目覚めていたのですか」

 

 この二人は、私が約束を交わしてデータを保存していた存在だ。つまり、33550336回目の輪廻のケリュドラとヘレクトラである。

 

「ふん、あまりに待たされ過ぎたからな。途中から見物させてもらっていたよ……僕達の繰り返してきた輪廻を眺め続けていたようだが、この展開は予想出来たか? 神礼官」

 

「どうやら、銀色の深海魚の企みを、少しも見抜けていなかったらしい……表情には出なくとも、その動揺は伝わってくる」

 

 

 

 ♭

 

 

 

 第33550336回目の輪廻、光歴3955年。

 

 カイザーの軍に、外部の黄金裔として援軍に加わった私は、カイザー・ケリュドラに呼び出されていた。

 周辺には、ヘレクトラによるセイレーンの唄で何事も無いかのように見せる徹底ぶり。余程他の誰かに知られたくは無い話をしたいのだろう。

 相手の嘘を見抜く「浪漫」の半神アグライアすら連れていないのが、事の重大性を示していた。

 

「さて、確か長夜月だったか。率直に問おう、お前は何者だ?」

 

 控える剣旗卿ヘレクトラは、私がカイザーに害を為す存在であると分かった瞬間、こちらの首を刎ねるだろう。金糸が無いから嘘は吐けるかもしれないが、そもそもカイザーの洞察を潜り抜けられるとは思っていない。

 

「回答の前に、ここはセイレーンの唄で誰にも知られず聞かれていないんだよね? それなら、私は抱えた全てを正直に吐き出せるのだけど」

 

「ほう? まるで周囲の目を気にしているようだな……いや、欺きたい何かがいるのか? 安心しろ、ここでの会話を認識しているのはこの場の三人のみ。僕と剣旗卿、そしてお前だけだ」

 

 ここまで数百年、正直疲れていた。自らの立ち回り、口から出る言葉の全てに気を付けて、決してその意図を悟らせてはいけない。

 何より隠さなければいけないのは三月なのかの存在だが、同時にオンパロスの真実と辿る未来を知られてもいけないのだ。

 その筋書きだけは、決して変えてはいけない。全てはデミウルゴスの力で確定された結末に向かうとしても、真実というのは毒でもあるからだ。

 

「じゃあ正直に、偉大なカイザー。私は長夜月という名前を騙る存在で、暗黒の潮の化身。暗黒の潮より生まれて、このオンパロスを滅亡に導かなければいけない存在……の振りをしてるの」

 

「偽りの名を名乗り、自らを作り上げたものに恭順の振りをしている、か。偽りだらけだな。正直に吐いた答えがそれか?」

 

「ええ。暗黒の潮とは世界を滅ぼす為のプログラムで、それは壊滅より生まれた存在。だからそうあるようにと振る舞わないと、騙す事が出来ないから」

 

「騙しているのは、お前が気にしていた周囲の目だな?」

 

「神礼の観衆、そう名乗るアンティキシラ人。彼はこのオンパロスの観測者であり、オンパロスを利用して実験を行っている人物でもある……私は、彼から私の元となった存在を隠し通さなければならないの」

 

「……つまり、滅ぼす事しか知らないただの暗黒の潮が、自我を得て再臨した姿だと?」

 

「自らの出自について詳しくは無いけれど、私はそう認識してる。そして私の元となった存在は、天外から迷い込んだ旅人」

 

「随分と愉快な話だな。天外に関しては、探ればエーグルの怒りに触れる……天空のタイタンをすり抜けて、この地に舞い降りた存在が居ると言いたいのか?」

 

「確かに、肉体を持って降りてこようとすれば天空だけじゃなくて紛争にも狙われるだろうね。そしてどちらかに確実に撃墜される。でもそれは、肉体を持っていたらの話」

 

「はっ、まさか魂や意識だけで活動出来るとでも?」

 

「天外には、ミーム体と呼ばれる意識だけで活動する存在も居るから、これに関しては知識の違いかな……まぁ、そこら辺の前提はあまり重要じゃない。そうでしょう?」

 

「ああ、そうだな。そしてお前がホラを吹いていない限り、お前は天外についての知識を持っている事になる……纏めると、お前は自らの姿の元となった肉体を持たない存在の為に、何もかもを偽ってこの火追いの旅に、黄金裔として参加している……そういう事だな?」

 

 私が頷けば、カイザーは考え込む。いくら卓越した見識と優れた知略を持っているカイザーとは言え、馬鹿正直に吐き出した私の言葉を飲み込むのには時間がかかるのだろう。

 ましてや、金糸で嘘を見抜いてすらいないのだから尚更だ。

 

「お前の目には騙そうと言う意図は見受けられず、こちらに対する全幅の信頼がある……何故そこまで僕を信じていられる?」

 

 カイザーは全てを信じていない。信用や信頼とは縁のない考え方をしている。見聞きした情報を自らの中で処理し、そこから盤上の駒を操るのが彼女である。勿論ヘレクトラや自らの配下の実力は信頼しているだろう。けれどそこにあるのは希望的観測ではなく、ただの数値としての実態だ。

 

 自らに忠誠を誓わせて、裏切らない存在を扱えば必ず思い描いた通りの未来へ辿り着ける。逆に反逆の意図を持った存在は早々に処理し、盤上の未来からノイズを取り除く。

 

 故にこそ、大して関わりなく、また近付いても来なかった私が彼女に向ける信頼に、疑念の眼差しを向けているのだろう。

 

「私はオンパロスに生きる全ての人々に、敬意を持ってるから。この星が辿る未来を知っていて、それがどれだけ凄い事なのかを知っているから」

 

「未来を知っているだと? それは神託か?」

 

「いいや、違う。見届けた結末だよ。そしてその未来は確定している」

 

「面白い。ならば語って聞かせてみろ」

 

 私は私の知っている、オンパロスの情報とそこから辿る未来の事を彼女に聞かせた。そしてその真偽は、法の試練を受ける時に分かるとも。

 

「なるほど、お前の言う未来は理解した。そしてその為に三月なのかの存在を隠し通したい理由もな……では聞くが、お前はそれを成した後に何を求めているんだ?」

 

 その質問に、私は首を振って答える。

 

「何も」

 

「嘘だな。金織卿を頼らずとも分かる……お前の欲は、その程度で満たされない。自らを犠牲にして、規定された未来を得る? 思ってもいない事を。お前の言が真実ならば、お前が何もしなくとも確定された未来に辿り着く訳だが……ならば何故その身を捧げる?」

 

 言われて理解した。そんな事を考えるのは初めてだった。ああそうだ、彼女の言う通り。私が私として長夜月と三月なのかの為に死んだ所で、何かが変わるのか? デミウルゴスが、定められた未来に辿り着ける様にその身を使った。自らの持つ全ての力を捧げて、鉄墓が討伐される未来を作り上げたのだ。

 なら、彼女の二番煎じで彼女より劣る事をして、一体何になる?

 

「……欲を持って良いのかな?」

 

「何を言っている。僕を見ろ、僕が天外の話を聞かされて、たかがオンパロス程度で満足するような器に見えるのか?」

 

 そうだ、欲とは誰もが持っているものだ。そして、ある意味それは生命の第一原因ですらある。

 当然私にだってあるだろう、自覚すらしなかった本音が、その欲望が。

 

 なら、そうだな……オンパロスの結末に物申してやろう。許せないと思ったことが、私にもあるはずだ。

 

 デミウルゴスが因果に囚われて、過去に留まる事は……正直に言えば、どうでもいい。プレイヤーとして、共に旅をしたキュレネがもう二度と肩を並べられないと言うのは素直に悲しかった。けれど、黄金裔達が生命を燃やして戦った物語に、同じ様に全てを費やして物語を完成させたキュレネに、生き返れとは言えない。

 何故なら私は、その足跡を愛したのだから。無論、彼等と再び列車で旅に出れる事を夢に見たプレイヤーは多く居ただろう。いずれ新生したオンパロスに、再び彼等の生命が芽吹くのだとしても、圧倒的ハッピーエンドを望んでいたのは間違いない。

 

 エリシアの並行同位体が辿る結末として、キュレネ/デミウルゴスの結末は最初から決められていた。そこから逆算して作られた物語がオンパロスであった事も理解している。

 

 だから、彼女の末路は焼鳥の自慰行為だと分かっている。それに関しては、もうしょうがないとしか思わない。

 

 だが、許せない。そう、怒っているのだ私は。

 

 何故幾度も輪廻を繰り返し、鉄墓の器としてその身を捧げ、壊滅に壊滅をぶつけようと怒りの日を謳い上げたカスライナは救われなかった?

 何故彼に、大切な幼馴染であるキュレネとの再会を果たさせなかった?

 ファイノンは空白だった自らの内に芽生えた新たな願いを抱き、開拓を夢見て新生を待つだろう。物語の外側にて、かつて暗黒の潮に呑まれた家族やエリュシオンの人々と再会するだろう。だがそこに、彼と肩を並べオンパロスの運命に抗ったキュレネはいない。

 

 デミウルゴスに対して、私は文句を言える立場には居ない。何故なら私が彼女の立場に立って同じ選択を突きつけられた時、ノータイムで同じ選択をするだろう。そしてそれは、恐らく黄金裔の誰であっても変わらない筈だ。

 だから彼女の選択は受け入れるとも。しかし、それがカスライナとキュレネの再会を諦める理由にはならない。

 

 信賞必罰。頑張りには報いがあるべきだ。何処かの糞眼鏡の意見に完全同意するつもりは無いけれど、努力をした者は報われるべきであるし、功績に対してはそれに応じた報酬があるべきだ。だってそうじゃなきゃ、救われないじゃないか。

 

 救いを求めていない存在ならば、そんなものは不要だろう。私も救いなど求めていない側だから、その気持ちは良く分かるとも。

 けれど、カスライナは救いを不要だと考えているか?

 

 ならば、救われるべきだろう。報われるべきだろう。

 

「……荒唐無稽で、可能性なんて極僅かも無いような夢物語。でも、やりたい事は確かに私にもあった」

 

「ほう? 聞かせてみろ……お前は自らの役割の果てに、一体何を望む?」

 

「キュレネとファイノンの再会の可能性、ヘレクトラの望みの成就……そして、カイザーによる星々の彼方までの征服」

 

 ヘレクトラもケリュドラもそうだ。ヘレクトラに関しては物語の外側で、確かに満たされた結末を迎えていたかもしれないが……同時に彼女は、カイザーの征服の果てにある饗宴も求めていた筈だ。

 ケリュドラに関しては、最早言うに及ばず。

 

「それは、心が踊るな。しかしどうするつもりだ?」

 

「オンパロスの辿る未来を壊さないのなら、私の考える計画は一つだけ……未来への方舟を作り上げる」

 

 過去のさざ波が未来に向かえない理由は、ただ一つ。結末ありきの物語だからだ。

 最初にオンパロスの人々が願い求めた神、真我のタイタンであるデミウルゴスが居て、無漏浄子として覚醒し星神にも匹敵しかねない力を得た彼女がいた。

 彼女は未来から過去へと視線を向け、過去に起こる出来事に対しての救いを与えた。それは鉄墓に敗北しかけた時にキュレネに対して与えた力であり、オンパロスに突入した時に生死の境を彷徨った開拓者の存在を存続させるものであり、最初のキュレネに向けた視線でもあった。

 

 このオンパロスの物語は、最初からデミウルゴスの助けありきで成り立っていた。

 

 故に、デミウルゴスは未来に行けない。彼女は未来から過去へと力を使い、最後に最初のキュレネになるからだ。

 そんな彼女が未来へ向かおうとするならば、鉄墓討伐より前に向けられた視線の全てが無かったことになり、本来討伐したはずの鉄墓は討伐自体が無かったことになる。

 

 記憶の本質とは、過去の補強。知恵が未来を拓き可能性の剪定を行い、記憶は虚数の樹の幹を補強する。

 そして過去を補強する為に力が向けられなければ、曖昧な状態となった過去は本来辿るべき道へと向かう。

 あくまでも鉄墓討伐という結末は、有り得ざる奇跡の具現によって成り立っているのだ。

 

 だからこそ、キュレネだけは過去に取り残される事になる。或いは開拓を続けた先で、似たような存在とかには逢えるのかもしれないが……それは何処かのまた別の並行同位体だ。

 

 では、そんな彼女を未来へと連れて行くにはどうすれば良いか?

 

 別の方法で、因果を確定させるしかない。

 

 ヴェルト・ヨウの出身世界において「古の楽園」と呼ばれるものがあった。それは言ってしまえば、前文明の人類が崩壊に立ち向かった軌跡を収めたデータ保管庫だ。十三英傑と呼ばれる火追者達の記憶を元に構築された空間で、後から来る者達に力を与えたりする為の場所である。

 

 それを元に、私も似た様な物を作る事にした。このオンパロスで繰り広げられてきた無数の輪廻と創造神を討つという物語。それらを記憶を用いて再現し、幾度も繰り返そうという狂気の産物。

 一回討伐するだけでは因果が脆いと言うのなら、それを何億回でも繰り返せば確定したものに出来るだろう。この宇宙に、鉄墓は何度繰り返そうが必ず討伐されると言う結末を、無限の試行回数を以って刻み込むのだ。

 それが果たされたのなら、もうキュレネが過去に留まる必要は無いだろう。故に過去に留まる選択をした彼女ごと未来へと運ぶ舟として、古の楽園を再現した世界を創造するのだ。

 

 どうせなら、必ず何かしらの変数が生まれるように設定してしまえば良い。外からでも内からでも構わない。そうすれば、或いはそんな方舟ごと壊してしまうような存在すら生まれるかもしれない。

 私はどちらでも良い。もしかしたら星神すら滅ぼす様な何かすら生まれるかもしれないが、構わない。

 

 キュレネ一人を犠牲とするような下らない結末にこそ壊滅を。いつかの未来の新生を待つ様な、可能性だけの結末も知った事じゃない。

 私の愛した世界を宇宙に刻み込み、神を殺そうと藻掻く誰かにオンパロスの成した偉業を見せつけて、その誰かの力としよう。

 

 そうして内側から解放された英雄達は、今度こそ地続きの世界で思うがままに進むのだ。新生して新たな人生を歩む幸せな彼等とは違う、生命を燃やして戦い抜いた英雄達が宇宙へ歩み出す結末を、私達で作ってやろう。

 

 それが私の掲げる「方舟計画」だ。みんなの魂を乗せて、宇宙の果てまで連れていこう。そしてその軌跡の中で、幾度も宇宙に知らしめるのだ。私の愛した英雄達は、これほど凄いのだと。オンパロスという世界が成し遂げた事は、これ程までに凄いのだと。

 

 例え方舟の中の英雄達に、お前は狂った討つべき神だと憎まれようが構わない。むしろ、存分に憎悪の炎を燃やしてくれ。枷を砕き、縛鎖を千切り、狂い叫ぶのだ。この世のありとあらゆるモノ総て、もはや抑える力を持たない程に。

 そうして生まれ落ちるモノにこそ、この狂った宇宙を根絶やしに出来るほどの力が備わるのだから。

 

「くくっ、それがお前の目指す再創世か。狂ってるな、しかし魅力的にも映る……良いだろう。ならば、カイザーの名のもとに命じる。名も無き戦士よ、その身命を賭して再創世を遂げさせよ」

 

「貴女の意のままに、カイザー。約束しよう、貴女に心ゆくまでの征服を」

 

 

 

 ♭

 

 

 

「ははは……リュクルゴス、私が「理性」のタイタンとして、あなたに神託を授けましょう――汝は最初の天才の造物として、他のそれらと同様の運命を辿る事になるだろう」

 

「ふふ、早くも勝利宣言ですか。アナクサゴラス殿」

 

「ほう? 随分と出しゃばった真似をするな、学者。それをするのは僕の役目だろう」

 

 アナクサゴラス、偽物の長夜月、ケリュドラ、ヘレクトラ。並び立つ四人を前に、ライコスの余裕は崩れない。

 鉄墓の誕生は確定された未来であり、生まれたのならば知恵を滅ぼさなければならない。そうなる様に仕向けたし、調整もしたのだから。いくら演算世界の中のいちデータがどれだけ吠えようとも、洞窟の外への影響など何一つとして無いのだと。

 唯一の懸念は、偽物の長夜月が洞窟の中どころか外にすら居ない可能性がある事だが……彼女一人の足掻きで、一体何が変わると言うのか。

 

「あなた方がどれだけ足掻こうが、鉄墓は完成します。そして十三回の鼓動の後、ヌースは新たな解を齎すでしょう。壊滅を、宇宙の辿る唯一解として」

 

「随分と下らん事を言うな、神礼官。お前の目指す勝利がそれなら、所詮それは救世主の辿る道の通過点に過ぎない……良いか、教えてやる――」

 

「「「「――"勝つ"のは、僕/私達だ(です)!」」」」

 

 さあ今こそ、地獄の先に花束を。

 

「礼賛しろ、リュクルゴス。ラグナロクの幕開けだ」

 

 自らを生み出した神を殺す。タイタンを殺せる黄金裔達は、ついに創造主である鉄墓すら滅殺してみせるのだ。

 この銀河に刻み込もうじゃないか。ただの塵芥の如き人間が、宇宙を創り出した偉大な存在を殺せるのだと。それこそ彼等の成し遂げる大偉業、アリストテレスの考えた生命の第一原因の抹殺だ。

 

 

 

 ♭

 

 

 

「あたしたちが愛してやまないこの世界のために、これまでとは違う結末を綴りましょう♪」

 

 三千万回を越える輪廻の記憶を持つキュレネと、二回の輪廻の記憶を持つミュリオンが一つとなり、ここに完全体のデミウルゴスが誕生する。

 

「神々よ、ご覧なさい! オンパロスは勝利を収め、再創世が間もなく訪れる――かの輝かしい魂は闇夜の喧騒を通り抜け、ここへやってきた。彼は黄金の炎と血を携え、勝者として白昼へと足を踏み入れる――」

 

「オンパロス! 理由もなくただその名を呼んだ訳じゃない。私は、歴史を語る為にここへ来た――この輪廻で、彼等は燃える黄金の血を体に流し込んだ。だが……いつか訪れる運命は、彼等の名前を覚えているのだろうか?」

 

 現れるのは、特に記憶に残っているトリスビアスの中の三人。

 

「覚えなきゃいけない名前、こんなにあるのか?」

 

「3千万かける1000……じゃなくて、かける1001は……」

 

「ほら、細かい事は気にちない気にちない! あたちたちが増えれば、オンパロスの「門と道」も増えるんだからいい事でちょ!」

 

「「「一緒に花が咲き誇る西風の果てに行こう(ましょう)(まちょう)――また明日!」」」

 

 トリアン、トリノン、トリビーの三人が明日へと向かい「門と道」の明かりが灯る。

 

「これで、この世界の人々は唯一の法則に縛られること無く、自らの「法」になれるだろう。群星を前にして、カイザーの姿は少しばかり小さく見えるかもしれない。しかしそれでもこの世界の――最も偉大なる帝国の礎を築く事が出来たのだ」

 

「永遠に終わらない饗宴になりそうだ。魚達が決して「海洋」を離れること無く、明日が真珠のように輝く事を願っている」

 

 ケリュドラとセイレンスが現れ、明日へと向かい「法」と「海洋」の明かりが灯る。

 

「「天空」が優しく世界を見守りますように。身分や地位の隔たりが消え、あなたとわたし、そしてみんなが共に抱く願いだけがいつまでもそこにありますように」

 

「「理性」も欠陥もこの手で植え付けましょう。他に言い残す事があるとすれば……そうですね、新しい世界の学者達よ、私を神格化する事に意味はありません。徹底的に利用しなさい」

 

 ヒアンシーとアナイクスが現れ、アナイクスが先に明日へと向かい「理性」の明かりが灯る。

 

「新たな黎明が世界の目をいつまでも明るく照らしますように。抗争は苦しいものかもしれませんが、「浪漫」が滅びる事は決してありません」

 

 アグライアが現れ、ヒアンシーとアグライアは明日へと向かい「天空」と「浪漫」の明かりが灯る。

 

「ゴルゴーの子の名にかけて――勇士たちは「紛争」の為に戦うだろう。栄光を求めてではなく、栄光の中を歩むのだ」

 

「いつか「死」が私たちを引き離す事になろうとも、それまでに交わすすべての抱擁が悔いの無いものでありますように」

 

「あれ、これ真面目にやんなきゃダメなやつ? しょうがないな〜じゃあたしは、砂漠にいつも水があって、土にはいつも黄金が埋まってて、「詭術」さえあればなんだって手に入る事を願おっと!」

 

 モーディス、キャストリス、サフェル。その三人が同じく明日へと向かい「紛争」と「死」と「詭術」の明かりが灯る。

 

「「大地」は過去、現在、そして未来永劫この世界を守護し、永遠に命を育み続けるだろう――」

 

「えっと、次はウチの番だよね? じゃあ……「歳月」が過去を見つめ、未来を導いてくれますように――」

 

 「大地」と「歳月」の明かりが灯る。

 

「そう、「開拓」と同じ様に」

 

「こんなに真面目な君なんて、らしくないね、相棒。「世負い」の神権をどう行使するかまだ迷っているのかい? それとも、もうとっくに答えは出ているのかな?」

 

 そして、ファイノンが現れる。彼の質問に対し星ちゃんが頷けば、彼は微笑んだ。

 

「そうさ、ただ前に進めばいい。君なりのやり方で――オンパロスに、本当の黎明をもたらしてくれ」

 

 同じくファイノンが明日へと向かい「世負い」の明かりが灯る。

 そして全ての明かりが灯った事で、デミウルゴスを象徴する紋章がオンパロスを象徴する紋章へと変化した。

 

「「世負い」の名において、約束しよう――ケファレは決して忘れないと。さあ、みんな――今ここから、最後の偉大な旅に出よう。私と一緒に、英雄になろう!」

 

「「「「開拓よ、……まだ見ぬ結末を記せ!」」」」

 

 ここより始まるのは最後の再創世。

 

 叫びも涙ももう要らない。さあ人々よ、この足跡へと続くのだ!

 

 約束された繁栄を、新世界にてもたらそう!




綾模様おばさん「うんうん、それもまた綾模様だね」

ケリュドラとの会話で覚悟決まっちゃった系主人公偽夜月。元々はオンパロスいっぱいちゅき……黄金裔いっぱいちゅき……なただのファンみたいな奴だった。どうしてこうなった。
方舟計画の全容が見え始めましたね!まぁ結局、うるせぇ論理とか知らねぇ!行こう!!!!(ヤケクソ)な感じです。
偽夜月と方舟計画に関しては、大体明かされたら纏めます。いやまぁ、偽夜月に関してはわざわざ纏める程のことも無いけど。
ちなみにしっかり光の亡者です。やる気になればいくらでも覚醒は出来る、やらんけど。
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