長夜月(偽)   作:四末説最後の一つは均衡ってマジ?

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感想、誤字報告いつもありがとうございます!

大して本来のストーリーと変わる所無いからサラッと流そうとしたけど、なんか普通に長くなっちゃった……。


これが我等の英雄譚

『どうして、どうしてヴェルトとベロブルグ組を会話させないんだよぉ……』

 

『いきなり嘆くな、やかましい。さてはお前、ありのままに思いの丈をぶつけられる相手を得られて昂ってないか?』

 

『ああ、後はもう何かを誤魔化す必要が無いから枷が外れたのだろう』

 

『私に開示された情報からは、貴女が何をそんなに悲しんでいるのか理解出来ませんね』

 

 うるさいなこの三人。前作を知ってるプレイヤー達ならみんな思ってるんだよここは! 並行同位体だとしても! 何故か関わりが無いようにされていても! ヴェルトとブローニャの会話を求めてるんだよ!

 

 とまぁ、こっそり天外からの来訪者である姫子と協力者達との通信を眺めていた訳だが、私の目的は巡海レンジャーとの通信用識刻アンカーだ。設置して通信を試みたものの彼等は通信に応えてくれなかった、という悲しき産物を頂戴し……もとい有効活用させてもらう。

 

 それは一種のデータ保存媒体、それがあれば意識体は何やかんやで保護されるという天才の渡してくれた凄い道具だ。所有者の保護に通信にと万能機器かよ。それを用いて私自身の本体データを保護しよう、という目的でいただいた。

 悪いね、後で覚えてたら多分きっと返すから!

 

 どうやら創世の渦心での通信も終えたようで、姫子は他のメンバーと合流して雲石の天宮へと向かった。

 

 なんで再創世された後の世界なのに、火種が返還された証の星座が灯ってるんだろうね……?

 まぁ難しい事は考えなくてヨシ! 多分再創世の必要が無いから、今のタイタンが最後の十二柱のタイタンだから、って事なのだろう。

 

『お前、流石にはっちゃけ過ぎじゃないか? この調子で彼等と顔を合わせた時、いつもの調子に戻れるのか?』

 

『ふふ、問題ないよカイザー。私にとって、何かの振りをする事やそれらしく振る舞う事は、もはや染み付いた習慣と同じだよ』

 

『聞かされる此方からすれば、その落差で風邪をひきそうだがな』

 

 

 

 辿り着いた雲石の天宮には、誰一人として居なかった。つい先程まで人が居た痕跡はあるものの、その姿は何処にも見えない……まるで、神隠しにでもあったかのようだった。

 

「ヴェルトさん、率直に申し上げますが――この光景を見て、ワタシは「調和」に関する不吉な噂が脳裏をよぎりました。すべてが静まり返るとき……」

 

「神が降臨する前触れかもしれない」

 

 ナナシビト達の前に現れたのは、歳月の手足となる赤い海月だった。そしてそれは本物の長夜月の扱う力でもあり、苦い思い出のあるサンデーとブラックスワンは警戒をあらわにする。

 

「……皆さん、気をつけて下さい」

 

「来た来た、星穹列車のナナシビト」

 

「長夜月? そんな、彼女はもう……」

 

 想定されていた通りに再創世が行われたという現実が、本物の長夜月が折れた事を表している。彼女が三月なのかに身体を返したかは不明でも、少なくとも当初考えていた形での再創世は諦めている筈だと、ナナシビト達の認識ではあった。

 故に、怪しい雰囲気を纏って現れたそれらに、警戒と同時に困惑も抱いていた。

 

「呼んだ? 私のスワンちゃん」

 

 ので、三月なのかの迫真の演技を台無しにしようと思う。私は隠蔽を解除して、ホログラム体でブラックスワンの背後に現れた。

 

「ちょっとー、ウチが頑張って怪しい雰囲気出してるのに台無しにしないでよー!」

 

「ふふ、久しぶりね三月ちゃん」

 

「どうやら、オンパロスで演劇文化に感化されたようだな」

 

「でも、出来ることなら……もっと穏やかな状況で再会したかったわ」

 

 久しぶりの再会に、三月なのかとヴェルトと姫子は束の間の談笑を楽しみながら、同時に開拓者達がどうなっているのかの状況説明も交える。

 会話も一段落ついてから、改めて三月なのか本人と向き合う。

 

「こうして会うのは初めましてかな? 三月なのか」

 

「うわ、ホントにウチにそっくりだね。初めまして、になるのかな? 実は二人と一緒に旅してたから、ウチはアンタの事ちゃんと見てたんだよ」

 

 微かな記憶だけで保っていた、僅かな魂のような状態。けれど三月なのかは、その状態でも二人の開拓者と共に旅をしていた。その姿の三月なのかが、私の行動を見て何を言っていたのかは想像出来る。

 

「ふふ、知ってる。あなたの居場所を奪わないように、ちゃんと三月なのかじゃないって否定してたでしょ?」

 

 見られてないところで、色んな人を混乱させそうな時に名乗りはしたが。あれはどちらかと言えば、この旅に同行しているのは三月なのかだよと知らしめる意味が込められている。

 33550337回目の輪廻は、殆ど開拓者の入り込む余地の無い輪廻だった。けれどその輪廻だって、黄金裔達からすれば確かに必要で、そして必死に生き足掻いた軌跡だった。なら、この世界に黎明を齎す開拓者の名前も添えるべきだろう。

 

 まぁ主目的はライコスを騙す事だったけど。

 

「うーん、アンタの事なんて呼べばいいのかな。偽物の長夜月じゃ長いし」

 

「何でも良いよ。親しみを込めて壊滅ちゃんとかどう?」

 

「それは可愛くないからダメ! ウチの見た目してるんだもん、どうせなら呼び名も可愛いのじゃないと」

 

 可愛いと思うんだけどな……もしかして、私が壊滅から生まれたのはセンスが壊滅的だったからか?

 まぁ、それはそれとしてだ。

 

「それは追々にして貰って良いかな? こうしてこのタイミングで姿を現したのは、受け取るべき物を受け取る為だから」

 

 ここに来た本来の目的、それは本物の長夜月との賭けの報酬だ。ついでに受け渡すべき相手も居るのだから都合が良い。

 

「ああ、もう一人のウチとの賭けの話ね。はい、これ――長夜月は愚痴ってたよ、アタシはこうなる事分かってたんだねって」

 

 記憶の力が込められた赤い海月が一匹渡される。とは言え私はホログラム体なので受け取れはしないけれど。

 

「勿論。ギャンブルなんて、負けないからするものだよ……そもそも、負けたらどうするのかって話を私はしてないからね」

 

 勝ちを確信してるから持ち掛けた話であるし、私が負けた場合を確認しなかった長夜月の不手際でもある。やはりお前もなのかか……。

 

「それだけウチを信頼してたって事? 照れるなー」

 

「信頼してたのは、長夜月の三月なのかに対する想いだけどね」

 

 長夜月は、何を犠牲にしてでも三月なのかを守るだろう。だって三月なのかは、長夜月が思う最高の自分でもあるからだ。同一人物である以上自己愛に分類されるだろうが、その愛情だけは本物だ。

 

「はい、スワンちゃん。これを託すね」

 

「任せてちょうだい」

 

 ブラックスワンがそれを受け取り、確かに頷いたのを確認して私は再び自らの存在を隠蔽する。ナナシビト達がオンパロスに訪れて離れるまでの短い間、少しでも多くこの地を目に焼き付けて欲しいから。そしてほんの少しだったとしても、良きものであると記憶に留めて欲しいから。

 私の姿や語った計画は、純粋な気持ちでの旅を邪魔するだろう。

 

 彼等は神託の導きに従い、黎明の崖へと向かう事になる。ナナシビト達の訪れと共に、眠っていたケファレは目を覚ます。

 目覚めた開拓者は神託を下す。ナナシビトとして人と共に歩むと。救世主の預言は自分にはもう何の意味も無い、だから相応しい人物――オンパロスに生きる全ての人々に託すと。

 

 同時に、現実世界におけるセプターのカーネル層で天才達が謎を暴く。二人の天才が思い描くプランAとは、デミウルゴスを見付けセプターの身体と心を一つにする事。その為にデミウルゴスを探していたのだがその痕跡すら見つからず、また長夜月の言う記憶の星神の目的を考えても、記憶の運命エネルギーは微塵も存在せず謎が深まるばかりだった。

 そこから考えられるのは、セプターの心は檻を容易に抜け出せる程小さなものであり、つまるところそれを見つけ出した所で鉄墓には何の影響も与えられないというもの。

 プランAが頓挫したならば、プランBへと移行する。それは鍵が無いのなら錠前を鍵とする――つまり、ヘルタをセプターの頭(心)にするというものだった。危険極まりないその計画に、当然スクリューガムは反対するが、他の案を出せない限り鉄墓の自己戴冠は避けられない。

 よってその決定を、クラブ会議にて集まった他の天才――ルアン・メェイ、阿茶、ポルカ・カカム、原始博士の四名――へと告げる。

 ヘルタは自らを鉄墓の頭とし、ヌースと接続……そして、其の算出した第四の時を、ヘルタの好きなように書き換える。だから、それをお前ら邪魔するなよと。

 そして意外な事に、ザンダーがヘルタを支持した。他の全てのザンダーが、ヘルタに対する外部干渉を遮断する。これによって、ヘルタが行うプランBへの妨害は実質無くなった。

 そしてリュクルゴスは、ザンダーとの接続を完全に断ち切った。ここから先の彼は、劇中人物である「神礼の観衆」として、舞台の最後を眺める事になる。

 

 

 

 ヘルタとスクリューガムはセプターの深層、鉄墓のコアが眠る位置までの道を拓き、データ世界の中で開拓者が列車となり他の三人を乗せてその地へと向かった。

 

 そこは「葬られし記憶の彼岸」と呼ばれる、ファイノンが三重の封印で鉄墓のコアを抑え込む為に作った牢獄だ。

 灼熱の砂嵐が吹き荒れる廃墟と砂漠、その熱は開拓の力でも防げない程で、ファイノンの心火の凄まじさを物語る。

 

 その地で最初に出会ったのは、紛争のタイタンである天罰の矛メデイモスだった。三千万を超える今までの輪廻の全ての記憶が蘇った彼は、エリュシオンのキュレネや天外の英雄達をしっかりと覚えていた。どうやら一緒に旅した完全数輪廻の記憶は、特に鮮明に覚えているらしい。更に、十三柱目のタイタンについても知っているようだ。

 

「つまり世界は、彼女の努力も犠牲もちゃんと覚えててくれてる……って事で良いのよね?」

 

「ああ。最初のさざ波である彼女は、皆と共に物語の結末へと辿り着くべき存在だ。彼女に筆を託されたなら、綴れ――俺達と共に全ての決着が着くその時まで抗い続けるんだ。そして叙事詩のあとがきに彼女の名を刻むといい」

 

 ああ全くだ、私もそう思う。心から同意しよう。

 

「……ふっ、久しぶりだな。長夜月」

 

 うんうんと頷いていると、メデイモスが此方を見てそう言った。今この場に居る私は、デミウルゴスに託した本体のみで、その存在を出力してはいない。

 

『あれ、もしかして気付いてたの?』

 

 ホログラム体で現れると、列車組の三人は驚いた表情をした。

 

「当然だろう。今の俺は紛争の神そのもの、半神だった時とは知覚範囲も桁違いだ」

 

 確かに、神には善も悪も無い。ただ存在するだけで己が法を垂れ流し、細胞一つ一つが誰かの運命そのもののような規格外。ならばこそ、デミウルゴスに引っ付いた寄生虫にも気付けて当然か。

 

『また私が盾になってあげようか?』

 

「抜かせ。戦士として前に立つのは俺の役目だ。それに忘れたか? 最後の輪廻であっても、お前に任せたのは俺の背中だ」

 

 ニカドリーと戦う時はいつもと逆だった。私が前に立ち、隙をついてメデイモスが拳を叩き込む。火力の面で見ても、クレムノス軍の存続という点でも、それが最適の形であった。

 しかし、本来の戦い方は違う。擬似的な不死と確かな戦力を持つメデイモスが前に立ち、後ろから私が支援をしつつ高火力を出す。出来るのならば、その形こそが最も適している。

 

『なら、後ろは任された。いつもの様に、存分に暴れなよ』

 

 ふっ、と笑ってからメデイモスは背中を見せる。

 

「我は天罰の矛、メデイモス。我が千の傷、百の命を以って――叙事詩に「壊滅」の果てなき終結を刻もう!」

 

 宣誓と共に、紛争の神として存分に力を見せつけたメデイモスは、他の面子が援護をするまでも無く暗黒の潮の造物達を秒殺した。それらをリソースとして回収し、私は千年ぶりとなる肉体を再構築する。

 

 メデイモスは記憶の素材として、クレムノスのシグネットリングを星ちゃんに託した。それさえあれば、隣にメデイモスが居るのと同じ事だと。

 

「人間の名のもとに「紛争の覇者モーディス」はここに宣言する――その者は栄光と自由の為に群星へと踏み出し、その願いを果たす者である! 進め、英雄達よ。深淵へと攻め入り、オンパロスの願いを叶えるのだ。そして――砕けた焦土の上に再び、活気に満ちた都市国家を築いてくれ」

 

 

 

 モーディスの願いを受け取り、一行が進んだ先に居たのは詭術のタイタンである飛翔する幣セファリアだった。

 彼女もまた長夜月と顔が全く同じ三月なのかの事も、デミウルゴスの事もしっかりと認識していた。

 彼女はこの地の地下でファイノンの金色の羽根を見付けていた。そこからこの地は三千万を超える自分の屍で作り上げたものだと教えてくれる。

 ファイノンに救世主達が来ている事を叫んで伝えれば、世界が壊れそうな程の地鳴りが返ってくる。

 丹恒が共に行こうと彼女に提案し、デミウルゴスが今度こそその太陽は嘘に頼る必要は無いのだと告げる。

 

「まさか、このあたしが英雄に仲間入りする日が来るなんてね。うん、一緒に行くよ。じゃあ、こんな感じに書いてくれない? 「詭術の漂客サフェル」って。その子の願いは――砂漠にいつも水があって、土にはいつも黄金が埋まってて、コソ泥だって英雄になれちゃうこと!」

 

 飛翔する幣を彼女はデミウルゴスへと託した。

 

 

 

 進んだ先に居たのは、死のタイタンである暗澹たる手キャストリス。彼女は三千万を超える輪廻を振り返ってみても、救いがあったのは一度きりであり、同時に救った命も一つだけだった。

 

 彼女の後ろには、フレイムスティーラーの残骸があった。それは最初の「カスライナ」であり、ファイノンの最も深い傷跡である。

 どうやらキャストリスの三千万の輪廻の中で、似た様な亡骸を何度も引き取ってきたようだが、最初のカスライナ程深い悲しみを抱えていた存在は居なかったらしい。

 

 災厄三人組が、最初のカスライナに声を掛ける。モーディスが悔いは捨てろと、サフェルがそう簡単には許さないと、そしてキャストリスが安らかに眠ってくれと。

 

 そうしてその地に残るのは彼への手向けだけとなり、その姿は無くなった。この地に張られた封印は消え、先に進めるようになる。

 

 キャストリスがアンティリン花を開拓者へと託す。

 

「死を象徴する二つ名に別れを告げ――「来生の侍女キャストリス」――この新しい名が星空に刻まれますように……そして、人と同じ様に生き……同じ様に死を迎えられますように」

 

 そして三月なのかが記憶の毛布を取り払って過去のさざ波を呼び起こし、進む為の道を開けた。なんだよ記憶の毛布って。でも不思議と、これ聞くと本来の祈言忘れるよね。

 

 先に進む一行の後ろで、敢えて速度を落とす。彼等は気付く事無く先へ進んで行った。

 

「それで満足なの? カスライナ」

 

 最初のカスライナの姿はもう何処にも無い。彼には安らかな眠りが訪れたのだから、もう休ませてやるべきだと思うだろう。

 

「確かに、待ち望んでた天外の救世主は来たね。そしてその姿ももしかしたら見れたのかな? でも、託したから満足? 次の自分に全てを引き継いで、その自分が託した相手だから大丈夫だろう。本当にそう思ってるの?」

 

 カスライナは、もう思い残す事は無くなったのかもとデミウルゴスは言った。ああ、確かに自らの抱えた憎悪と火種を次の自分に託し、そして三千万の輪廻を超えた黄金裔達の強い光を見たのなら、自分の徒労に意味はあったのだと納得出来るだろう。

 

「けど、その憎悪は、赫怒の炎は本当に消えるの?」

 

 カスライナは激しい憎悪を抱いていた。それは繰り返される輪廻の中で連綿と受け継がれ続けて来た。そして最後のカスライナはナヌークに傷を与える程までにその炎を燃え上がらせた。

 けれど、それらの源は全て受け継がれた記憶によるものだ。

 

 記憶の中の憎悪、記憶の中の絶望、記憶の中の無力感。紛れも無く自分が抱いたそれらを受け継いで、それを自分のものとして燃やしていたに過ぎない。

 

 カスライナの絶望も、カスライナの怒りも、全ては最初のカスライナのものだ。

 

「安らかに眠りたいならそのままで良い。でも、その炎は未だに消えていないと言うのなら……連れて行ってあげるよ。その全てをぶつけられる相手の下に」

 

 

 

 浄世の黄金の血が導き、向かった先に居たのは天空のタイタンである晨昏の目ヒアシンシア。

 どうやら黄金の光を映し出していたのは彼女だったようだ。天空の力で見せられたそれはファイノンの神跡の名残り、家に帰ろうとする残留思念のようなもの。

 近くにある大きなハープの弦が震え、地上で皆が戦い叫びを上げているのだと告げる。

 

「これでわたしの小さな願いもちゃんと叶えられそうです……ハープを奏でましょう――「天空の医師ヒアンシー」は七色の旋律で虹を紡ぎ、人の子に薔薇色の黎明を届けます。空に虹が架かる時、どんな暗い運命にも、きっと晴れ間が訪れますように」

 

 そして奏でられるのは「nameless faces」だ。ほんま良い歌やでぇ、聞くだけで涙が出ますよ……と巫山戯無いと割りと本気で泣きそうになってしまう。あ、辞めてください変な目で見ないで……。取り敢えず泣きそうな百面相を隠す為に仮面を着けておいた。これでバレないな!

 

 天空の末裔の箱が開拓者へと託された。

 

「思ったよりも早かったですね」

 

 進んだ先で待っていたのは、理性のタイタンである分裂する枝アナクサゴラス。彼はデミウルゴスの正体が……と、私の知識で知っていた事をまるで知らなかったかのような迫真の演技を見せてくれる。色んな問題児を押し付けられているらしい、苦労人ですね。

 

『もう一人の自分を眺める気分はどう? アナクサゴラス先生』

 

『まずまずと言った所ですかね。しかし不思議な感覚ですね、同じ自分とは言え私は一介の黄金裔に過ぎず、もう一人の私は理性のタイタン……研究が捗りそうですね』

 

『まぁ、自分がもう一人居たらって気持ちは良く分かるよ。純粋に思考量と作業効率が倍になるからね』

 

『ちなみに、私に押し付けられた一番の問題児は貴女である、と言う事を正しく理解していますか?』

 

『え、ごめん分からないかな。問題児って言われる様な事したかな?』

 

『……はぁ』

 

 いやごめんて。でもさぁしょうがないじゃん! 私はそんなに賢い訳じゃ無いんだからさ! 餅は餅屋だよ、アナクサゴラス先生。

 

「炎はまだ不完全だ。もっと……もっと燃え上がらせないと。ただ炎を燃え上がらせる事でしか……あの絶望的な未来を溶かす事は出来ない」

 

 心の反響はまだ消えていないが、試練を突破して開拓者は「世負い」の願いを背負う。

 

 次の試験会場へと向かう為、アナクサゴラスは賢者の石を託す。

 

「じゃあ、こう書きましょう? 「開拓」が見届ける中、星々は記憶する――アナクサゴラスは神に反論し……」

 

「いえ――「理性の学者『アナイクス』」で結構。シンプルな方が後の人々も疑問を呈しやすいでしょう」

 

『どんな心変わり? あれだけ自分のちゃんとした名前に拘ってたのに』

 

『ふっ、そんなもの私が知る筈も無いでしょう。ですが……呼びやすさや分かり易さを優先すれば、皆が呼ぶそちらの方が良いのでしょうね』

 

『じゃあこれからはアナ先って呼ぶね』

 

『それは話が違うでしょう。そもそも、アナイクスと呼ぶ事を許したのはあちらの私です』

 

『自分の名前を持たず拘りも無い奴と、自分の正確な名前に拘る奴……正反対だな、お前ら』

 

 それを言うなら、誰も本名を知らないカイザーは何なのか。

 

 

 

「僕たちはどうやら隔離されているようだな」

 

「悪い事とも限らないと思うが」

 

 静かな空間に、ケリュドラとヘレクトラの二人が隔離されていた。そこにあるのは一つの机とボードゲームのみ。鉄墓を封印する為の空間で、彼女達は同じ黄金裔、けれどファイノンは彼女達を拒んでいた。

 

「今分かっている事をワタシから説明する。恐らくこの空間は――「壊滅」も含めて――ワタシとカイザーを本能的に拒んでいる。ファイノンが活躍していた時代と一回目の火を追う旅があまりにも離れているせいだろう。彼が理性を保っていた輪廻でさえ、ワタシ達は「協力」以上の関係を築かなかった」

 

 私が拒まれていない理由は、単純に本体が依然としてデミウルゴスの下にあるからだ。近いうちに回収はするが、今はこの方が都合が良い。

 

「檻に囚われてなお、警戒の心を持ち続けるのは感心だな。あの男の心は一見すれば空っぽだ。だが、憎しみだけは鮮烈に残っている。そんな男が世界の頂点に立つ皇帝とその剣を受け入れるはずがあるまい」

 

 それでは二人は一緒に行けないのか? となのかが問えば、記憶にして連れて行くつもりなのかとカイザーが質問で返す。いくら法の試練でオンパロスの全てを知ったとしても、私から大体の真実を聞いていたとしても、そんな細かいところまで教えてはいなかったので当然彼女は知らなかった。

 

「ええ。そうすれば、星空は偉大な君主とその臣下の物語を永遠に刻む事になるわ。法の君主ケリュドラ――そして海洋の剣士セイレンス」

 

「その本を通してでしか、僕たちは歴史に名を残せないのか?」

 

 紡がれた物語に記さなくとも、記憶の力で歴史を凝縮する方法は幾千万とある。その答えに対するカイザーの返答は、やはりカイザーと言うべきものだった。

 

「そうか、では……断らせてもらう。また戦場で会おうではないか。定義づけられるくらいなら、忘れ去られたほうがいい。もしお前の言葉が真実なら、僕たちはきっと……後世でまた会える」

 

「ならば、ワタシが迷う必要はないな。灰色の小魚よ、その胸に渦巻く波で、暗黒の潮の罪を洗い流せ。星々を戴くあの海は、キミが凱旋の楽章を奏でるのを待っている」

 

 二人はそのまま背を向けて消えていこうとするが、カイザーが足を止めることでヘレクトラもその場に留まった。

 

「長夜月。この際だ、僕もお前の目指す未来に連れて行けとは言わん。だが、他の誰もが思っていながら言ってない事を、敢えてこの場で言ってやろう」

 

「何かな? カイザー。私は貴方から言葉を貰える程の功績を挙げてはいないけど」

 

「下らん。誰かが評価した功績など僕の知った事では無い。僕がこの目で見て、そして判断したからこそ与える言葉だ。心して聞け――お前は、紛れも無く僕たちと同じ黄金裔だ。そしてそれは、他の誰も言っていなくとも、みなが同じく思っている……その事を忘れるな、そして僕をくれぐれも失望させるな」

 

「――心に、刻むよ」

 

「ふん。ではまた戦場で会おう」

 

「またな、銀色の深海魚。全てが終わったらキミともメーレを酌み交わしたい」

 

 それだけを告げて、今度こそ彼女達は姿を消した。例え記憶となって連れて行かれずとも、征服すべき戦場があるのだから彼女達は必ず決戦の場に現れる。

 

「あれ、アンタいつの間に仮面なんて着けてたの?」

 

「ふふ、五月蝿いよ三月なのか」

 

 いやぁ……ほんと、仮面着けといて良かった。それに私は演技は得意なのだ、任せてくれ。

 

 

 

 進んだ先に居たのはトリスビアスの断片の二人、トリノンとトリアンだった。彼女達は湧いて出てくる巻物や記憶の残響をひたすら片付けていた。

 その中でも、ザンダーがファイノンを諦めさせようとする記憶は、彼の陰湿さを見せつけてくれた。いや、陰湿さと言うよりは実験を成功させようとする熱意だろうか。

 

「へへっ、グレーちゃん――今度こそ、思いっきりやってやろうな!」

 

 更に進んだ先に、アナイクスの示す第二の試験会場があった。今度はここで、ファイノンの絶望と向き合う事になる。

 

 願いを受け取り、絶望を背負う。そうして光と影が取り払われ、ファイノンの本質が現れることになる。

 『空白の彫像』が解き放たれ、無邪気な声をあげて扉の向こうへと走っていった。

 そのまま先へ向かい、背負ったファイノンの願いと絶望を溶かし先に進む。私達が辿り着く前に空白となったファイノンとザンダーとの接続を断ったリュクルゴスの会話が行われる。

 そこでアグライアとトリビーとリュクルゴスの会話が行われるが、その内容は私達に聞くことは出来ない。

 

「やっと来てくれましたね、救世主達」

 

「みんな、久ちぶり!」

 

 これでこの地で戦ってきた十二柱のタイタン全員と合流する事が出来た。後はもう門を開くだけとなった。

 

「鉄墓を封印する為の最初の障壁は、ファイノンが己の骸で築いた戦場だったな」

 

「うん。二番目の封印は、あの子が渇望するものの投影――つまり『願い』と『絶望』だった」

 

「ファイノン様の後悔と怒りと嘆きで繋ぎ合わせられた道でした……」

 

「その全てが取り去られた今、どうやって『壊滅』を封じ込めているのでしょう?」

 

「答えはもう目の前ですよ」

 

「あのね、ここにはファイちゃんの痕跡があちこちに散らばってるの。遠くから鼓動も聞こえるけど、一つだけ欠けてるものがあるんだ……」

 

「ええ。それは彼の……「自我」です」

 

「殞落したと思われていたケファレは、僅かな「自我」を頼りに千年もの間、人々を暗黒の潮から守り続けてきた。ファイノンがやってる事も、それと同じだよ。私達がやるべき事も、同じなんだ」

 

「さあ、記憶を流れ星に変えてもう一度、眠りに落ちた長い夜を切り裂きましょう」

 

「セプターは私たちに温もりなき名前を与えました」

 

「神託は変わらない運命を、幾千万も告げてきたね」

 

「でも、開拓と創世の筆のもと、星々は明日をこう語り継ぐ……「門と道の聖女トリスビアス――浪漫を織る者アグライア」」

 

「火追いの果てに、彼女たちは再び黄金を浴び……」

 

「幾千万の門と道をくぐり抜けた後に、失ったすべてを取り戻すだろう」

 

「「黎明に届かぬ者」カスライナ、あなたは覚えているかしら? 輪廻の果てですべてが消え去る。夢の中であなたは再び目覚めて、笑顔のよく似合う少年の姿に戻るのよ。でも目を凝らして昨日を振り返ってみれば、運命の足跡がはっきりと見えるはず。最後にはその「憎悪」の炎も風に吹き飛ばされて……「愛」だけが残って、時を刻み続けるわ」

 

 アグライアとトリビーの姿も消え、いつかの腕輪とトリスビアスの人形が託される。そして託された黄金裔達の記憶の素材が円を描く。

 

「火を追う旅は喪失の道、でもすべてが風に消えても……記憶が残るわ」

 

 彼等の力とデミウルゴスの力が合わさり、最後の門が開かれる。

 

「「「徒労はみな、ここに実る……孤独で苦しい旅路も終わりにしましょう」」」

 

 眩い光に包まれて、辿り着いたのはセプターの中枢で鉄墓の温床「劫火の孤塚」と呼ばれる場所だった。赤い空と虚無に飲まれた人間のような嘆きの影、そして何より目を引くのは引き裂かれた空とそこから此方を覗いているような巨大な何かだ。

 異様なまでの赤い空間にも拘わらず、冷たい雰囲気が漂っているのはそれが「知恵」に属するものだから。けれどそれが「壊滅」に飲まれる迄時間が無い、とホログラム体で現れたスクリューガムが教えてくれる。

 

「ついに世界の外と中が繋がったよ。オンパロスは今までで一番、銀河に近付いてる。よくやったね、お子ちゃまたち」

 

 スティーブン達ハッカーのお陰でセプターの遮断プロトコルが発動することは無く、オンパロス内部の時間は現実世界と完全に同期しているらしい。つまり、ついに決戦の時が訪れたという事だ。

 

 そして、ヌースの視線がオンパロスに注がれている事も教えてくれる。それによってセプターは過負荷を起こさないのか? という丹恒の疑問に、スクリューガムは元から鉄墓の誕生はヌースの計算の内だったと答える。

 

「でも、きっと大丈夫よ。オンパロスで最もありふれたものは「運命に打ち勝つ」奇跡、そうでしょう?」

 

 この場には居ないナナシビト達と会話をし、この傷だらけの世界を救済しようと彼等は決意を新たにする。

 

 そうだ、それでいい。救済しようと全力で足掻け。手を伸ばさなければ、掴めるものも掴めないのだから。そうした果てに救い上げた奇跡こそが、オンパロスの新生という結末だ。

 

 

 

 この地の終着点に、彼は一人立っていた。

 

「ファイノン……あの時の約束、覚えてる? それを果たしに来たよ」

 

「ああ。ずっと待っていたよ、相棒。旅立った時の信念を忘れることだけは決してない。鉄墓は今、ファイノンの胸で息づいている。僕のこの空っぽの体は、その完璧な器……そして運命に定められた棺となった。どうすればいいかは、もう分かっているだろう?」

 

 ファイノンの問い掛けに、星ちゃんは頷いた。

 

「過去を記憶に刻んで、明日の英雄になろう。私と一緒に、英雄になろう!」

 

「ああ……そうだね」

 

 互いに頷きあって、ファイノンは背を向ける。意識体のみの彼は、棺となった自らの身体へ向けて歩き出す。

 

「叙事詩の最後、三千万もの輪廻の光が消えたのは……今この刻、真の黎明を迎えるためだ」

 

 彼の肉体を包んでいた物から解き放たれ、鉄墓の器が翼を広げて降り立った。

 

「ようやく、ここまで来た……旅の終点だ。広い星空の下で、僕たちはまた、きっと会える」

 

「ミュリオン」

 

 デミウルゴスに向けて、彼はそう呼んだ。

 

「ええ……あなたの言葉は、彼女の代わりに心に刻んでおくから」

 

「いや、大丈夫だ。僕には見える……彼女もここに居るよ。犠牲になった仲間たちも、願いも、みんな。僕たちはやり遂げた、そうだよね?」

 

 デミウルゴスの言葉に首を振ったファイノンは、私の横の何も無い空間を見詰めてそう言った。

 少し俯くデミウルゴスの横に星ちゃんが並び立ち、二人は頷いた。

 

「ええ、そう思うわ」

 

「明日が来たら、星たちが火を追う旅の物語を語り継いでいってくれるよ」

 

「その中にいるのは「お前たち」だけじゃない「無数のお前たち」がいるだろう」

 

「宇宙の「記憶」に残るオンパロスは、きっと壮大で英雄たちが集う輝かしい世界になるわ。だから、あたしたちが愛するこの世界の為に……」

 

「結末を、綴ろう……」

 

 言っちゃいけないと思うんだけど、再創世後の世界に来てからのデミウルゴス、記憶しか残せないって言ってるよね。いや、分かってはいる。鉄墓を討伐しなければならない以上、オンパロスは消滅する。ならば何を遺せるかと問われれば、記憶や記録しか遺せないだろう。

 分かってはいても、それを聞かされる側は絶望するじゃないか。

 

「うん。開拓の視線のもと、救世主という共通の名を未来に語り継がせよう。かかって来な――無名の英雄、カスライナ!」




「だから、あたしたちが愛するこの世界の為に……」
「結末を、綴ろう……」

のとこのキュレネの台詞、やった当時あたちたちになってたんすよね。あくまでテキストだけですけど。あたちたち!?ってビックリしたの覚えてる。

なんかこのタイタンとなった皆と会っていく過程、みんな記憶しか残せないって分かってる感じしてやってる時凄い悲しかった。あと宣言したり紡がれた物語で連れて行って貰った後から、それぞれの台詞に本来つかない「」が付けられて、もうこっから生きた人間じゃなくて物語の登場人物の台詞になってんのかなぁってのも想像しちゃって悲しかった。
くそ……覚えておけよザンダー!ザンダー×ポルカの同人誌をキャストリスに描かせるからな!
それはそれとして天才達のボイス、まだ濁してるから何だろうけど阿茶とポルカの声がすげぇオネェに聞こえて笑っちゃった。やめなさーい!
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