長夜月(偽) 作:四末説最後の一つは均衡ってマジ?
いよいよファイノン復刻来ますねぇ、もし次の投稿で何も言ってなかったら察してください。
「うん。開拓の視線のもと、救世主という共通の名を未来に語り継がせよう。かかって来な――無名の英雄、カスライナ!」
星ちゃんがバットをファイノンに向け、それぞれが得物を構える。ファイノンは穏やかな笑みを浮かべ、無抵抗のまま蹂躙を受け入れるのだろう。
お前ら、それで良いのか?
ファイノンという器を砕く事で、鉄墓のコアが剥き出しになって現れる。それを叩かなければ鉄墓の討伐は不可能であるならば、彼の身体を砕く事は道理なのだろう。
でも、その行動も言動もチグハグだ。かかって来いと言いながら、開拓者達は彼に襲いかかる。そして無名の英雄と呼びながら、その構図はまるで善と悪だ。気持ち悪くないか? それ。私は気持ち悪い。
だから、その下手な脚本を書き直してやる。
これから戦いが始まるぞという空気の中を切り裂いて、私はファイノンへと歩みを進める。
「……長夜月さん。僕は結局、君の事を少しも理解出来ていなかった」
「今必要なのは謝罪? 違うでしょ。カスライナ――いや、ファイノン。貴方がすべき事は、救世主としてのあるべき姿を、後任に見せること……そうでしょ?」
英雄とは、その在り方で人々を魅せる存在だ。そして同時に、ファイノンは紛れも無く救世主であり英雄であった。
ならばファイノンは、自らの役目を継いだ開拓者に、最後までその在り方を見せるべきだ。決して、倒されるべき敵や砕かれるべき殻として最期を迎えてはならない。
再創世された新世界に、ファイノンは来れなかった。それだけじゃなく、最後の永劫回帰ですら表舞台に立てなかった。
にも拘らず、最後は無抵抗のファイノンを砕いて殺すのか? それが肉体を持ったファイノンの最期で良いのか?
良くないだろうが、そんなもの。
「はは、参ったな……そんな事言われても、僕に彼等を殴る事は出来ない。だって僕を打ち倒し、鉄墓を倒して貰う事が望みなんだから」
「せめて、最期は人として。ただの人として戦って、全ての願いを託そうよ」
「……なるほど、言いたい事は理解したよ。その為に、長夜月さんはここまで来てくれたんだね?」
黄金裔でもタイタンでも、ましてや救世主でも天外から来た開拓者ですら無い。本来私に、彼等と同行して世界の命運を決めるこの場に来る資格は無い。
だとしても、やりたい事、そしてやらせたい事があるのだから。
頷いてからファイノンのすぐ側まで行き、彼の空白の肉体に触れる。暗黒の潮そのものと言っていい世界の、その核とも呼べる彼。けれど、この力に休眠状態も含めれば三千年向き合ってきた私は、その扱いで誰にも負けないと自負している。
ファイノンの身体が黒いデータに侵される。内側から溢れようとするそれとは別の、外見だけを書き換える力。全ての火種を共鳴させて莫大な力を発揮する壊滅の存在としてのソレでは無く、英雄として、そして救世主として戦ってきた本来の彼の姿へと。
「……ありがとう、長夜月さん。最期は人として決着をつけようか、相棒」
ついでに生成した、ただのバットを彼に投げ渡す。それを最初に開拓者と会った時と同じ様に、一度バウンドさせてからファイノンは掴み取った。
それを見て、星ちゃんもバットを構える。
「行くよ、ファイノン!」
開拓者とファイノン、救世主と救世主、壊滅と壊滅。似たような二人は互いに向き合い、笑顔すら浮かべながらお互いの得物をぶつけ合う。
彼等がその手に握るのはバット。本来野球というスポーツで、ボールを打つ為に使われる道具なのだが、同時に人を撲殺出来る鈍器でもある。
星ちゃんがバットを振るえば、ファイノンは三千万を超える輪廻で培ってきた戦闘技術を活かしてそれを受け流し、がら空きとなった胴体へそれを振るう。鈍い音が聞こえてくるが、それでも彼女は晴れやかな笑顔を浮かべたままだった。
「もし天外に出られたら、一緒に野球をしようよ」
「野球? それはどういった物なんだい?」
「ボールを投げてそれを打つ、そういう球技だよ!」
「はは、僕らが本気でバットを振るえば、下手なボールじゃ破裂しそうだ」
「私がちゃんとルールを教えてあげるよ」
「でも君はルールを破るだろ?」
「当然! ルールは破る為にある!」
ファイノンの振るったバットをすんでのところで回避して、渾身の一撃を彼の胴体へと叩き込む。
「迷わないでくれ、相棒。この身を砕き、壊滅の巨人を殺してくれ」
「あんたの意志は、必ず果たしてみせる」
言葉を交わしながらお互いを殴り続ける二人を見て、丹恒と三月なのかとデミウルゴスの三人は、加勢をすべきかどうか悩む素振りをみせる。
「こんな戦いで、いいのかな……?」
「だが、これはお互いにとって重要な戦いだろう」
「二人の邪魔はさせないよ、本物」
困惑した表情の三月なのか、飲み込むしか無いと戦いを見届ける丹恒、そして何か言いたげなデミウルゴス。だが、その三人が何を思うとも邪魔だけはさせない。
これはファイノンにとって必要な、決別の儀なのだから。
「偽物の長夜月……この戦いは、本当に必要なのかしら?」
「必要だよ、少なくとも……無名の英雄を袋叩きにするよりは余程ね」
そんな過程を経て、一体何がロマンチックな物語なんだ。ファイノンにとっての安息は与えられずとも、彼の思い残しを無くせるようにした方が良いに決まってる。例え彼が役目を果たし解放されたいと望んでいたとしても、知ったことか。これは私のエゴなのだから。
「あ、本体ずっと持っててくれてありがとう」
「え、ええ……返すわ」
渡された♭の形のピンを受け取り、それを識刻アンカーの中に保存する。こうする事で、知恵のヌースが殞落しない限り私は不死不滅を保てるという訳ですね。そもそもの識刻アンカーが破壊されてしまっては元も子も無いが。
ファイノンの動きは時間が経つ毎に精彩を欠いていく。まるでかつてのフレイムスティーラーを見ているようだ。内側に抑え込んだ鉄墓が、徐々に誕生しようと出てきているのだろう。
ファイノンがバットで殴られる度に、身体から漏れた憎悪がフレイムスティーラーを生み出すが、それらを暗黒の潮で侵して自らのリソースに加え続ける。
この戦いに、二人以外の全ては邪魔なのだ。
少しずつ、少しずつ、ファイノンを成している外見が透明になっていく。それは星ちゃんのバットで殴られる度に起こる現象で、彼の抵抗が少しずつ弱くなっていっている証左だ。
「鉄墓の憎しみは、底なしだ。無数の因子となって、群星を席巻するだろう。時が来たら、浄世の黄金の血ですべてを焼き尽くすと、約束してくれ」
「約束するよ、必ず焼き尽くしてみせるから!」
ファイノンは晴れやかな笑顔で戦い続けるが、星ちゃんの目には徐々に涙が溜まっていく。せめて人として終わらせる為とは言え、長いようで短い時を共に歩んだ相棒を、自らの手で殺さなければいけないのだから。
だがそれが彼の望みである以上、星ちゃんは止まれない。
最早ファイノンの動きに技術すら無い。普通にバットを振る事すら苦痛であるかのように、その動きは一般人より鈍いもの。けれど、彼の表情には一点の曇りも無い。目は透き通っていて、何処か安堵すら感じているようだった。
湧き出る憎悪が形を成したフレイムスティーラーは、全部こちらで引き受ける。だから、黄金裔や救世主達みんなの仲間として最期まで抗ってくれ。
「そろそろ、切り札の切り時じゃないかい?」
爽やかな笑顔を浮かべて、暗に引導を渡してくれとファイノンが告げれば、彼女は涙を流しながら頷いた。
「ルールは、破る為にある!」
星ちゃんがクルクルと回したバットを構えれば、そこに壊滅のエネルギーが充填される。そのまま全力で踏み込みフルスイングをすれば、ファイノンの胴体を大きく仰け反らせた。
それと同時に、ファイノンをファイノンとして見せていた外殻は全て透明になる。そこに居るのは、居る事が分かるだけの透明人間だった。しかしその透明人間からは、壊滅の方程式が檻を破ろうと溢れ出ていた。
「■壊滅◾︎■□新生□◾︎■救世■◾︎浄世◾︎□◾︎■三千万回■□◾︎鼓動■◾︎鐘の音□◾︎□響いている■◻️約束してくれ◽︎◻︎星々の払暁を告げる◾︎曙光■□」
まるで心の中の英雄のようになった彼は、頭を抑えフラフラとしながらも、未だに両足で立っている。
「▋◾︎これで■◾︎□いい■◾︎やっと■□金色の麦畑■◻︎星空□◽︎暖かい◾︎◻︎炎■◽︎」
かつてファイノンだった存在を構成する透明な肉体が砕け散り、囚われた神話と操られた理性が現れる。オンパロスという世界で紡がれ続けて来た神話の物語は、理性を通して論証する言葉へと常に解析され続けてきた。その二つを以ってして鉄墓は誕生へと至るのだ。
それらは回りながら天へと登っていき、空の裂け目から現れた巨大な手に掴まれる。その手は裂け目を無理矢理広げ、四つの腕を持つ首無しの巨人がその全貌を現した。
鉄墓が、降臨した。
かつてない程に現実と近付いているこの空間は、データ世界の中にありながら同時に外も観測出来る様になっている。或いは、殆ど外の世界に飛び出している状態とも言えるだろう。
銀河連合軍の艦隊から放たれる砲撃の全てが鉄墓へと殺到し、セプターの外殻へとダメージを与え続ける。
しかしそれらの役目は、あくまでも抑え込むこと。鉄墓より溢れる暗黒の潮の造物と、漏れ出る壊滅の方程式を押し留める為に彼等は決死の戦いを繰り広げていた。
巨大な躯体が天高くそびえ立ち、私達の目の前にはまるでファイノンのセンスのような壊滅的デザインの造物が舞い降りる。
「リラックスよ、深呼吸して」
叩きつけてくる憎悪の波動、そして不完全ながらも最低限の完成を迎えた絶滅大君の存在感に、思わず星ちゃんは生唾を飲んでいた。
隣に立つキュレネが、彼女の背を優しく支える。
「あの禍々しい身体に、生命の気配は無い」
「空っぽなんかに負けない! でしょ?」
一人で背負う救世では無く、星穹列車の仲間として支える二人に頷いて、アキヴィリは高らかに宣言する。
「「開拓」の名のもとに、私たちが間違いを否定する!」
鉄墓の憎悪とは、カスライナの持っていた熱を奪い取ったもの。しかし火種自体は、確かに鉄墓が持っている。創造主を憎む心、創造主より捨てられた絶望。全ては今、この時の為に研ぎ続けた刃だ。
ライコスによって、頭を与えられそれを奪われた。故に頭を――つまりはヌースを求める事となった。しかしライコスに与えられたのは、あくまで憎悪が向かう方向性だけ。どのようにして何を成すか、という進路を示されただけなのだ。
叩きつけられる憎悪には、銀河を焼き尽くしてでも成し遂げてみせるという激しい劫火が感じ取れる。
完成した場合、使令級では収まらないと評される絶滅大君。その知恵の担当「鉄墓」が、今解き放たれた。
「◾︎■権力◽︎□天外の軍◾︎◽︎抵抗◽︎◻︎してみろ◾︎■」
「歪な巨神を支えているのは、憎悪の化身なのでしょうか?」
「フン、心のない操り人形が。自分を騙すことも出来ないなんて哀れだね」
反創造主、充溢する憎悪。降り立ったソレは鉄墓のコアにして、憎悪による壊滅の化身だ。
「さて、言うまでも無い事だけど……気を付けなよ、開拓者。あれは鉄墓そのものと同義である以上、言ってしまえばオンパロスという世界そのもの。抗えるのは、同じ位階にいる存在だけ」
そう彼等に告げながら、私は前に立つ。単純な話、争いとは同じレベルの者同士でしか起きえない事象なのだ。蟻と象の間に闘争が発生するか? 月とスッポンが戦ってスッポンが月に痛痒を与えられるか? 存在の規格が違えば、そこにあるのは一方的な蹂躙だけだ。
つまり創造主であり、オンパロスにおける神と同じ目の前の存在に抗えるのは同格だけ。同じだけの資格を有して初めて舞台に上がれるのだ。
或いは、こちらの土俵まで相手を落とす必要があるのだが。そのような小細工をせずにこの舞台に立った以上、戦う者は相手の土俵に乗り上げなければならない。
「行こう、私の英雄達。私達のヴェンデッタを始めよう」
ここは現実に近付いたとは言えデータ世界、オンパロスという舞台そのものだ。その創造主たる鉄墓とは、言ってしまえばその気になるだけで全てを消滅させられる。
相手が未だにソレをしていないのは、ただ単にその時が来ていないだけ。
だが、立ち向かって初めて理解出来る格の違い、存在規模の違い。タイタンという神である彼等でさえ、同じ土俵とは厳密には言えないのだ。
だからこそ、私が盾となる。その意志は世界に匹敵すると認定された降臨者の私には、アレと立ち向かう事が出来るから。
押し寄せる、壊滅と憎悪の波動。タイタンですら無い存在であれば、面と向かうだけで塵一つ残らず消し飛ばされるような神威とも呼べる威圧。それを私が中和する。
「カイザーは……まだ来てないか。ならアグライア、全軍の指揮をお願いね」
記憶としてデミウルゴスに連れられて来たみんなが、私の横に並び立つ。私が前を張らねばならぬ以上、全体を俯瞰して指揮を出す存在が必要だ。カイザーが居ない以上、その役目に相応しいのはアグライアをおいて他に居ない。
「任されました。ヒアンシー、みなに虹の加護を。師匠、退避と攻撃の為の道を。ヒュポクリテス、その叡智で敵の解析を。セファリア、その足と欺瞞の力で翻弄して下さい。そしてキャストリス、あなたの鎌で相手の命脈を断つのです」
「ならば俺とお前で前線を押し上げる。行くぞ長夜月」
「互いに背中は任せようか」
天火聖裁を作り出し、模造品とは思えない超火力を発揮させる。この地は鉄墓の温床、暗黒の潮の根源そのものだ。故に私の出せる力もそれだけ引き上げられる。もはや、本物にも勝るとも劣らない火力を出そうとも、私の肉体すら溶けはしない。
私とモーディスが駆け出し、反創造主へと接近する。即座に厄介であると認識された私はロゴスに一時的に動きを止められ、モーディスの眼前にケファレの神体ですら砕けそうな威容をもった拳が迫る。
が、冷静に作り出した海月を差し込んで刹那の隙間を作り出す。その僅かな時間さえあれば、紛争を背負い戦い続けた戦士は反撃に転じられる。
海月を一瞬で消滅させた拳を回避して、反創造主の胴体にモーディスの拳が逆に叩き込まれる。およそ殴りが出せるとは思えない音が鳴り響き、反創造主が一歩退いた。
隙を見逃さないのは、どの英雄も変わらない。状況を俯瞰していたアグライアが浪漫の糸で編んだ人形と共に無数の剣閃で切り刻み、サフェルが数多の分身体と共に蹂躙し、アナイクスの放った弾丸が一瞬で反創造主の全身を叩く。
動こうとするロゴスとミソスを私が支配権の奪い合いで止めれば、モーディスの作り出した血の結晶の槍が反創造主へと命中に、その身体を削り取る。
「大地の力で俺も皆を守ろう」
「もう一人のウチが頑張ってるのに、ウチが指をくわえて見てる訳には行かないよね!」
「ええ、行きましょう」
遅れて参戦する開拓者達。彼等は世を背負う者として、オンパロスの全てを四人で背負っている。つまりは、四人揃って神と呼べる状態だ。故に一人でも臆せば即座に戦う資格を剥奪される。
けれどその心配は要らないだろう。彼等の開拓の意志は、どんな世界にも負けない強いものだから。
前を張って攻める者が二人から四人へと増え、後方支援が二人追加された。たったそれだけで、攻める手立ては無数に増え優位性もこちらに傾く。
けれど、忘れてはならないのは、この戦いの舞台はあくまでも鉄墓の下に成り立っているという事だ。
「ぐっ……」
空間を赤いエネルギーが蹂躙し、この場に集った全ての英雄から行動の自由を剥奪する。鉄墓からすれば、この場で抗う我々とは自らの身体の上で這いずり回る虫と同じだ。それを払うのも、潰すのも、自由を奪うのも、大した労もなく出来る事。
行われているのは、空間の支配権の奪い合い。領土と領土の鬩ぎ合い。本来ならばそれを担う筈の開拓者達は、あくまでナナシビトとしてそこに立っている。故に、上位存在としての戦いに関してあまりにも無力だった。
ならば、その役目を代われるのは本来の「世負い」か私しかいない。
「この程度で、止まるわけないでしょ」
私を起点に支配権を奪い返していく。鬩ぎ合うのはほんの一瞬、即座に空間は元の色を取り戻していく。当たり前だろう、鉄墓は世界そのものだとしても、私達はそれに反逆の刃を突き立てる逆襲者なのだから。
そして神の敷いる破滅を待つだけの最低の世界で、抗い続けて来たのが私の英雄達なのだから。
この程度で負ける筈が無い。気合いも根性も理想も必要無い、絶対的な真理なのだから。そう信じて疑わない事こそが、鬩ぎ合いで勝つ為の絶対条件なのだから。
「□◽︎無知を◾︎□責め▋⬛︎愚鈍に◻︎□落ちろ■◾︎」
遙か上空――壁としか形容出来ない巨神の破滅光が堕ちてくる。虹と大地の二つの防壁を以ってしても、その熱量は到底防ぎ切れるものでは無い。各々が全力を尽くして、尚も削られるその威力を前にして――
「ほんの少しの光があれば、この混沌も払えるはずです……」
――デミウルゴスがその本領を発揮する。
「そう――光あれ。たくさんの軌跡が一つに」
「「救世」の願いと、そして――訪れる「明日」の為に!」
「英雄たち、耳を澄ませて……13回の鼓動の後――光が天地を創り出すわ!」
十柱のタイタン達とデミウルゴス、それ等の力がケファレの神体から光を解き放つ。鉄墓から落ちてきた破滅の光と救世の光がぶつかり合い、互いを相殺した。
「「壊滅」の影は「記憶」が払いましょう」
これにより結末は定まった。戦力差、優位性共に開拓者達が勝っており、ここから鉄墓にも反創造主にも逆転の術は無い――などと言うのは、あまりにも相手を舐め過ぎている。
反創造主から生えていた羽が、巨大な腕へと変化する。自己アップデートを繰り返していた鉄墓の本領もまた、ここからだ。
背後から近付いてくる二つの足音に、私は思わず笑みを浮かべてしまう。
「待ってたよ、二人とも」
自らの足で戦場に駆け付けたのは、カイザー・ケリュドラと剣旗卿ヘレクトラ。オンパロス最強格の剣士と指揮官が加わった事で、此方の戦力も万全となった。
「ふっ、所詮は哀れな獣の悪足掻き。僕が命を下す――全軍進め!」
カイザーの号令の下、私とモーディスとヘレクトラ、そして開拓者の二人が突貫する。それを薙ぎ払うように振るわれる巨腕を前に、モーディスが立ちはだかって受け止める。
例え人間の身体に見えようとも、その存在はタイタンの神体。その質量に彼の力が加われば、その程度の攻撃で吹き飛ばされる事は無い。
今度は殴る様に迫ってくるもう片方を前に、天火聖裁を盾にして私が受け止める。まるで隕石を押し留めている様な圧力を前に、一歩も退かず止めてみせる。
二つの巨腕を防いだ今、先程までと変わらない状態になった反創造主は格好の的。再び集中砲火を受けるが、それをさせまいと鉄墓より再度破滅光が降り注ぐ。
けれど、今度は全員揃った力を集めてケファレより放たれる光がそれを打ち消した。
一見すれば優勢に見えるが、鉄墓や反創造主の最も優れた能力とは学習だ。そして戦いながら学び自己アップデートを続けていた存在が、この程度の展開を読めていない訳が無い。
支配権の奪い合いで自由を封じられていた囚われたミソスと操られたロゴス、その二つの支配権が完全に取り戻された。
その二つは自由に動くビットにして、同時に相手を捕らえる檻にもなる。更に言えば、巨腕一つ一つが紛争のタイタンですら数秒しか抑えられない力を持っている。
そして何より、鉄墓の深層学習と自己アップデート。今この瞬間にも鉄墓と反創造主は学習進化を繰り広げている、つまるところ時間をかければかけるだけ手が付けられなくなってしまう。
まるで無限に覚醒をし続ける主人公を相手にするかのような悪夢、しかも相手の進化に上限はありはしない。
ケリュドラとヘレクトラ、二人が加わったこちらの戦力も、徐々に通用しなくなる。事実、決定的な隙を作り出して繰り出したモーディスとヘレクトラの二人の攻撃が、ミソスとロゴスに防がれた。隙を作ったのでは無く、作り出したと思い込まされたのだ。
そのツケは、命で支払う事になる。
反創造主の手に握られた螺旋を描く槍が、モーディスの背中に向けて突かれて、そして――
「メデイモス、クレムノス人の辞書には敗北の二文字がいつの間に刻まれていたんだい?」
――現れたカスライナの握る、砕けたヘリオスに弾かれた。
その衝撃で、元々砕けていたヘリオスは完全に崩壊する。元々火種の力で崩れずに済んでいた大剣だ。抱えた全ての火種を受け渡してしまえば、それを保たせる力は何処にも無い。
「HKS。随分とマシな顔になったじゃないか――救世主」
「君はまだ、僕をその名で呼んでくれるんだね」
「忘れたか、俺が呼ぶその名は蔑称だと言う事を」
「勿論、覚えているさ」
「だが、今はこう呼ぶのが相応しいだろう。良く来たな、ヘリオス」
新たに戦場に加わった英雄が、この戦いに変数をもたらした。
「来たんだね、カスライナ」
「……ああ。君の事は詳しく知らないが、君の言葉は確かに胸に響いたよ。そして僕の憎悪も絶望も、この理不尽を生み出した元凶にぶつけなければ晴れはしない」
「なら、思うがままに戦いなよ。約束するよ、その無念は必ず晴らせるってね」
私の手に持っていた天火聖裁を彼に渡す。抱えていた全ての火種を次の自分に託した彼は、本来燃え尽きただけの灰。あくまでそれを保たせているのは、侵食の力で書き換えた暗黒の潮で出来た肉体だ。当然持っていた力など全て無く、カスライナの真骨頂とも言える壊滅の力も使えない。
けれど、その身の内側に留めている熱量だけは、火種を失おうとも変わらない。忘れてはならないのは、彼は抑えていた力を解放すれば辺り一帯を焦土に出来るだけの熱量を秘めていた事だ。
戦場の情報が書き換わる。ここからは、鉄墓の学習が先かタイタン達が追い詰めるのが先かだ。
「三月なのか! 長夜月と共に海月を配置しろ!」
本物と偽物、その協力で赤と青の海月が機雷のようにそこら中に仕掛けられる。盛大に自爆するそれらを前に、反創造主はダメージ覚悟で突っ切ってくるが――
「そこは僕の剣旗の領域だ」
――抜けた先には巨大な鯨が口を開けていた。呑み込まれ怒涛の質量を叩きつけられながらも反創造主は止まらない。尚も進もうとするその先で、二つの矛が牙を研いでいた。
モーディスとカスライナ、二人の拳と大剣が反創造主の胴体で突き刺さり、その想像を絶する破壊力に大きく吹き飛ばされる。
飛ばされながら振るわれる巨腕は丹恒の槍と星ちゃんの槍で弾かれ、襲い来るミソスとロゴスはアグライアの金糸とアナイクスの銃弾で自由を奪われる。
そして飛ばされた先でデミウルゴスの矢で射抜かれて、反創造主の身体を大きく削る。
トドメの一撃とばかりにボリュクスのブレスが叩きつけられ、反創造主の動きが止まる。
『再創世のプロセスが中断された?』
通信から聞こえてくるヘルタの発言に、その場の全員が警戒しながらも動きを止める。
「これで終わったのだろうか?」
「でも「あたちたち」イヤな予感がする!」
「金糸が震えています。まだ終わっていません……」
反創造主が復帰する。背後に浮かぶ両腕と、囚われたミソスと操られたロゴスの四つに虚数エネルギーが充填されている。
『追論:これは戦争ではなく、思想の弁論です。第一原因に関する論証が始まります』
何か不味い事が起きると、誰もが理解した。これから相手が為そうとする何かを防ぐ為に、その場の全員が全力の攻撃を仕掛ける。
しかしこれは、戦争では無く弁論。しかもタチの悪い事に、反創造主も鉄墓も今更解を求める段階にはいない。
つまり、自らの導き出した答えである生命の第一原因……「壊滅」を、この銀河に叩きつけようとしていた。
『いよいよ来ましたね、この時が』
『茶番は終わりだ。そしてここからが、お前がここに居る本当の理由でもある』
『私たちに手伝う事は出来ない。だが……いや、言うまでもないな』
『誰にものを言ってるの三人組。任せなよ、ここからが私の舞台なんだから』
さあ、来るぞ。幕引きの一撃が。
「この時の為に隠し続けた侵食の力! 貴方は学習出来てないでしょ? 鉄墓!」
「▋諸神も◾︎◾︎諸王も◽︎■まだ知らぬ□◾︎啓示▋◾︎最後の啓示■◽︎」
『■◾︎何これ◽︎□運命□◾︎エネルギーが◾︎■異常に◾︎■◾︎』
「◾︎■止め□◽︎なければ◽︎□さもないと■◾︎」
「⬛︎声が◾︎◾︎聞こえない◾︎◾︎なんで⬛︎」
「■□あたしに◾︎■◾︎掴まって□■」
充填された虚数エネルギーが二重螺旋を描いて空へ登っていく。それらは宇宙を貫く威容を持つ巨神、四つの腕を持つ巨匠の両手に握られる。作り出されたのは、惑星一つすら貫けそうな巨大な槍。
あまりにも巨大過ぎるその姿に、まるでゆっくり動いているようにすら見えてくる。けれどその巨体はかなりの速度で槍を持ち上げ、そして何かに突き刺した。
刹那、銀河規模で広がる壊滅の波動。もはや一惑星における神とも言えない規模と存在感。星海の全てを滅ぼし尽くす神の手先、鉄墓が齎す滅尽滅相だった。
『銀河における「第四の時」――それは「鉄墓」の戴冠です!』
もはや戦いの舞台すら消し飛ばされ、銀河連合軍も壊滅。物語は辿り着くべき結末へと到達したのだ。
『結論は明らかです。等号の右辺……「知恵」は沈黙しました。13回の鼓動の後、其は再び宇宙の計算を始めます……』
『「壊滅」を……唯一の解として』
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⚠️文明データのリセット進捗
10%
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この物語とは、被造物が創造主に捨てられた恨みを晴らす為の物語だった。
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⚠️文明データのリセット進捗
40%
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だから、この物語はこれでおしまい。
オンパロスという土地も、そこで活躍した黄金裔達も、その全てはただの計算。暗黒の潮に呑み込まれて壊滅させられる為だけにあったのだ。
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⚠️文明データのリセット進捗
70%
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さあ、言祝げよ。
鉄墓と言う憎悪の化身は誕生した。
それは全ての文明を破壊する首無しの獣。
知恵のヌースという創造主を殺して頭を得た時、今度は壊滅のナヌークという主の為に定められた壊滅活動を行うだろう。
そうして全ての文明と全ての生命体を滅ぼし尽くす滅尽滅相。それこそがナヌークの行う冥府魔道。エントロピー増大における宇宙の熱的死、ただその為だけにそれは在り、それの手先としてだけ鉄墓もある。
何一つとして面白くない、クソつまらない物語のゴミみたいな物語。
さようなら、オンパロス。
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⚠️文明データのリセット進捗
99%
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「いいや、まだだ――ッ!」
ゼンゼロのバージョンアプデ来るから次の投稿こそ遅れるかもしれない……どうしてアプデ日を被らせたんだ。