長夜月(偽)   作:四末説最後の一つは均衡ってマジ?

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多分半日くらいお待たせしました。今日中に投稿出来てるから実際遅れは無しだな!

感想、誤字報告大変助かっております。

課金しました。以上、これにて終了。言葉はもう不要です。


新世界へ語れ超越の物語②

「いいや、まだだ――ッ!」

 

 侵食の権能全開で、フォーマットされていく片っ端からオンパロスの全データを保存し続けた。とは言え私も黄金裔達も、デミウルゴスというセプターの心でさえ全てはただの数字の羅列、0と1のみで表示出来るものでしか無い。

 仮に世界の神たる鉄墓が、自らの内で演算し続けた全てを用済みだと消去したのなら、もう私達に生きる権利も存在する権利もありはしない。ただ無意味に、無関係に、無価値に、消されるだけなのだ。

 

 ああ、でも大丈夫! 例え全部徒労であったとしても、何の意味の無いただの余白だったとしても、鉄墓によって壊滅させられた銀河規模の人々の記憶に触れて、無漏浄子として覚醒し使令級に収まらない力を得たデミウルゴスが、銀河規模での再創世を行ってみんな元通りになるから!

 そして後は同格同士の殴り合い。でもこちらにはデミウルゴスだけじゃなく、不条理の壁をぶち破る「開拓」の申し子達がいるから勝ちは決まってる。

 なんて素晴らしい物語、これがロマンチックで感動的なお話か!

 みんなで讃えよう。これがデミウルゴスが書き上げた、感動的で素晴らしい物語だ。そしてその結末は、キュレネを除いた全員が未来へ進めるハッピーエンド。記憶の力で壊滅を焼き払い、未来への希望だけを残す美しい物語。

 

 ああ。

 

 全くもって――

 

「ふざけるなよ、クソが」

 

 ――カスみたいな末路じゃないか。

 

「まだ、私はここに居る。ここで生きてるんだよ……何度だって抗ってやるとも。みんながそうした様に、みんなの生きた証を刻み込む為に」

 

 声を大にして、張り上げるほどに叫んでやろう。ふざけるなと。

 

 みんなのデータも何もかも鉄墓によって消されてしまったけど、記憶によって完全再現しました? ああ、確かに起こす奇跡としては最上だろう。もう何も無くなった虚無から、突然全てが記憶を元に再構築されていくのだから。

 だがそれは、テセウスの船だろう。さてはお前あれか? 今までの永劫回帰で失われてきた生命達は、全て最後の再創世によって記憶として引き継がれたから徒労では無かったし意味もあったと、そう言いたいのか?

 ああ確かにそうだろう。それまでに積み上げてきた記憶と経験が、新世界の彼等に引き継がれて意味を成したのは間違いない。けれど、そこに至るまでに彼等が命を落としたのもまた事実なのだ。どの輪廻の誰であろうとも、苦しみ無念を抱きながら死んだのだ。33550336回目の開拓者と共に旅をした黄金裔達だってそうだ。彼等はみんな身命を賭して戦って、そして救世主に全てを託して死んだのだ。新世界にいるタイタンとなった彼等と、あの時死んだ彼等は別物だ。私と共にいる三人だって、あくまで死ぬ寸前のコピーなのだ。本物の彼等は確かにその時死んでいるし、私と共にいる彼等は死んでいない別物なのだ。

 

 ましてやそれを、キュレネの姿と意志を引き継いだデミウルゴスが言うのか? 記憶として全て残ったからロマンチックだと。

 

 「哀憐」ではなく「愛」を語る、デミウルゴスがそう言うのか?

 

 ふざけるなよ。

 

「……ざけるな。ふざけるなッ!!」

 

 許さない、認めない、消させてなるものか。かかって来いよ絶滅大君……私が消えない限り、世界は消させない。そんな結末も末路も認めないし、今を生きていた彼等を消させはしない。

 

 だからこそ叫ぶのだ。心の底から、全力で。

 

「――まだだッ!!」

 

 例え残っているのが、もはや1%も無いとしても。完全に消されない限り、世界は続く――続かせる。宇宙が既にヌースの算出した第四の時を迎えたとしても、ヘルタの試みが失敗して鉄墓が自己戴冠したとしても、或いはナヌークが直々に出向いて来ようとも、オンパロスは消させない。

 

 例え理屈で納得しようが、世界がそうすべきだと言おうが、それでも求めるからこその渇望なのだ。

 

 この時の為に隠し続けた侵食の権能、それを全力全開で使い続け鉄墓のフォーマット作業を妨害する。鉄墓の支配権を完全に奪取出来たのは一瞬で、そしてそれはオンパロスという世界の全データを保存する為に使った時間だった。

 自己アップデートを行い続ける鉄墓に対して、一度でも完全に支配権を奪った私は当然最優先で解析され続け、侵食によるハッキングにも即座に対策されてしまう。

 

 けれど、ああ、それがどうした?

 

 今この時に行われるのは、世界と世界の鬩ぎ合いでは無い。たった一つの身体の奪い合いだ。そして私は挑戦者側として、常に試行し続ける必要がある。

 

 肉体が悲鳴をあげて、身体が高熱を発する。鉄墓を一瞬支配する事は特に苦も無かったが、逆に消させまいと維持をし続けるのは本来の私には不可能な事だった。だがそんな事知るかと道理を蹴っ飛ばせば、起こるのは不可能を可能にする限界突破。

 暗黒の潮で変質させた肉体はあまりにも脆弱で、たった一度の限界突破に対して細胞一つ一つが断末魔をあげる。気を緩めた瞬間に、身体がドロドロに溶け落ちてしまいそうだ。

 

 でも、そんな事は関係ない。

 

「"勝つ"のは、私だッ!」

 

 どれだけ不利に立たされようが、どれだけ絶望的な状況に陥ろうが、全て何一つとして関係ない。絶対に成し遂げるという強い意志、それさえ揺らがないのであれば貫き通すのは私の方だ。

 操り人形の操り人形、それに植え付けられただけの憎悪になど、私が負ける道理は有りはしない。

 

 ああ、だから。

 

「早く戻って来なよ」

 

 何も無い空間を一瞥する。丹恒も三月なのかも鉄墓の壊滅の波動に呑み込まれて消失した。星ちゃんをデミウルゴスは守っていたけれど、この場からは消え去った。

 

「貴方達が居たから、私の英雄達は後を託したんだよ。あんまり彼等をガッカリさせないで」

 

 今この瞬間にも、鉄墓の代わりに自己戴冠を行ったヘルタがヌースと接続し、星ちゃんとヌースの対話を中継しているのだろう。

 或いは、デミウルゴスが多くの記憶に触れ覚醒を果たそうとしているのかもしれない。

 

 どちらにせよ、あまり待たせないで欲しい。

 

「あんまり遅いと、私が全ての星神を殺しちゃうからね」

 

 もし戻ってこないと言うのなら、是非も無し。オンパロスの明日を作る為、立ちはだかる全てを鏖殺してみせよう。

 

 原作ならば、一瞬の間しか無かった筈の時間。けれど、残念な事に星ちゃんとデミウルゴスはすぐには戻って来れないらしい。

 ならば良いだろう、私がそれまで保たせてやる。だから、さっさと戻ってこい主人公。

 

「気張れ、長夜月! お前の隣には俺達が居る! 全ての妨害を、俺達で払ってみせよう!」

 

「月たん、身体の崩壊はこちらで治します。だから彼等が戻ってくるまで耐えてください!」

 

「全員、妨害を払いながら奴にダメージを与え続けるぞ! 鉄墓の支配力が弱まれば、それだけ此方の有利を捥ぎ取れる。あの愚かな鉄頭に、僕たちの生き様を見せつけろ!」

 

 消されずに留まっていた、九柱のタイタン達とカスライナ。記憶の素材となって連れて来られた彼等がここに未だに留まれている理由は、一体何だろうか。

 いや、分かっている。三千万を超える輪廻で積み重ねて来た記憶と記録が、そう簡単に消されやしないと抵抗を続けているのだ。ここに居る彼等はみな、輪廻の数だけ積み上げてきた自らの死と無念を引き連れているのだ。

 ライコスは言った。どうか死した者の決意を甘く見ないで下さい、と。ならば三千万以上も死に続けてきた彼等の、並外れた決意が積み重なれば、一体どれだけ強固なものになると言うのか。

 

 その答えが、目の前にある。

 

 世界よ続けオンパロスよ消えるな、愛しの英雄達の輝きを焼き付けろ。

 

 傷だらけの世界を救済しようと星穹列車の面々は言ったが、逆だ。傷だらけになりながらも進み続けたからこそ誇らしいのだ。

 外部の手を借りなければ救われないのは確かだろう。このまま行けばただ消えるだけの世界なのだから。だが、欲しいのは最後の一押しだけなのだ。

 だからそこまでは、私達全員で開拓者達を連れて行こう。

 

 天外の銀河連合軍は沈黙し、本来ならば解き放たれた筈の鉄墓だが、現状ソレは私と支配権の奪い合いをしている。手を変え品を変え常にその存在を脅かし続ける私と、冷静に分析と解析をし続け対応をする鉄墓。それによって、あの天を衝く首無しの獣は身動きを封じられている。

 けれど、そのコアとして在る反創造主の方は自由であり、その脅威は健在だ。

 

 巨大で直接本体と繋がってはいない両腕と、囚われたミソスと操られたロゴス。そしてカスライナの力と憎悪を引き継いだ本体。驚異的であり圧倒的でもある。対してこちらは、開拓者と丹恒、三月なのかとデミウルゴス、そして自由に動けない私と五名もの戦力を失っている。こちらが万全の状態で有利に押せていた状況だったが、こちらの戦力は減りあちらは尚も自己アップデートを続けている。

 

 普通に考えれば、この状況は必敗。

 

「だからどうした!」

 

 カスライナが吠え、天火聖裁が劫火をあげる。畳み掛けてくる圧倒的な手数の攻撃を、磨き続けてきた完璧にも近い剣技で全て叩き落とし、更にそこから反撃すらしてみせる。

 

「紛争を刻めッ!」

 

 作り上げた隙を突いて、モーディスの渾身の一撃が反創造主の胴を貫く。

 

「へっへーん、騙されてやんの!」

 

 数えるのが億劫になる程の分身を作り出し、サフェルが翻弄しながらダメージを与え続け。

 

「行くぞ、金色の鱒」

 

「言われるまでもありません」

 

 ヘレクトラとアグライア、二人が流麗な動きで反創造主を微塵に刻む。

 

「今です、ファイノン様!」

 

 キャストリスの作り出したステュクスの手が反創造主の動きを封じ込め。

 

「今だ、突撃しろ!」

 

 ケリュドラの号令の下、トリスビアスの作り出した門を通って、カスライナが灼熱の一撃を叩き込む。

 

「ふむ……先程聞こえてきたリュクルゴスの言葉、どうやら本当の様ですね。恐らくは、私たちがどれだけダメージを与えようとも、生命の第一原因の解を否定するか、或いは別解を出さねば意味が無いようです」

 

「では、これらの行いに意味は無いと?」

 

「いいえ、そうは言っていません。私たちが行うべきは、救世主達が戻ってくるまでの時間稼ぎ……そして、長夜月が鉄墓を完全に支配出来るように支援も行うべきでしょうね」

 

「長夜月、お前はどう思う?」

 

 気合と根性だけで保たせているような戦場を見て分かる、この状況は長く続かないと。

 

「カスライナがそろそろ限界……だから、彼に次の一撃で全てを出し尽くさせよう。それをしてもまだ戻って来ないのなら――残念ながら、プランBだね」

 

 憎悪と無念だけでこの戦場に立っている最初のカスライナ。その肉体はとうの昔に朽ち果てており、今彼の肉体となっているのはあくまで私と同じ、暗黒の潮で変質させたリソースだ。

 今を生きている者と、依代を得て舞い戻った死者。どちらの存在強度が高いかは明白だ。

 現に、太陽の如き熱を振り撒き続けるカスライナの肉体は端から炭化していっており、灰になって散るのも時間の問題だ。

 

「そうか、分かった」

 

「ではそのように」

 

 現実世界ではほんの一瞬の出来事とされていても、多くの記憶に触れ呑み込みそれを背負って、そして最初のさざ波と出会う……それだけの事を、たった一瞬では消化出来ないだろう。ましてやアキヴィリとの対話もあるのだから。

 だがこれだけ時間が経って戻って来ないのなら、そもそも多くの記憶に押し潰されたり規定されていたルートとは別の道を歩み出した可能性だってある。

 未来からデミウルゴスの助けがあった以上、規定されていないルートは通らない筈だ。筈なのだが……まぁ、戻って来なかったら本気で宇宙を滅ぼしてやろうか。

 

 プランBとは、万が一最終決戦で開拓者達が敗北する場合……遺憾ながら、私が鉄墓を完全支配する作戦だ。オンパロスは鉄墓の中で生き続け、私はその世界を不変のものとして刻み込む為に害する全ての敵と戦う。ナヌークの支配も絶滅大君としての役目も知らない。この宇宙の"みんな"を私の不変に呑み込んでやろう。

 

 なんて、そんな事をさせてくれるなよ? 出来るかはさておいて。

 

 モーディスとサフェル、アグライアにヘレクトラと高い戦闘力を持つ者達が絶えず攻め続け、キャストリスが生み出す手で妨害を、ヒアンシーの虹の加護で全員を守り続けトリスビアスが門を作り続けて攻めと守りを支援、アナイクスの銃撃が的確に相手の隙を突き、ケリュドラが常に指揮の声を張り上げ効率的な攻めを実現する。

 そして、みんなに前を任せたカスライナは両手に持った天火聖裁に、自らの持つ全ての力を注ぎ込む。

 

「壊滅に、壊滅を……オンパロスに、黎明を……」

 

 それは原初の誓い。旅立った日の信念とは違う、最初のさざ波をその手で殺した時の誓いだ。それはこのオンパロスという悲劇の舞台が与えた感情であり、自らが灰になる程に燃え上がらせた原動力だ。

 

 さあ、今こそ約束を果たそう。言っただろう、カスライナ。私が高みへと導いてやると!

 

 支配権の奪い合いの最中ではあるが、ほんの一瞬だけ意識を割いて暗黒の潮から数多の造物を作り出す。それはかつて完全数輪廻でカスライナと戦った時と同じ、無数のタイタンや壊滅の造物達。彼等の支配権を、この場のみんなに託して自らの戦いに戻る。

 

 ニカドリーと互いにカバーをしながら突き進むモーディス。ボリュクスと共に空を翔けるキャストリス。ファジェイナと共に空間を泳ぐヘレクトラ。終末獣の背に乗り、戦場一帯を蹂躙するケリュドラ。アグライアが金糸で数多の造物を操り、アナイクスが支援し、ヒアンシーがカスライナに治癒の光を注ぎ、トリスビアスが邪魔になる全てを飛ばす。そしてサフェルの嘘が、死に体のカスライナに全盛の力をもたらす。

 

 全員が、カスライナの一矢の為に道を拓き、エーグルの背に乗って飛翔するヘリオスが、ここに創世の火を刻み込む。

 

「星々を燃やし尽くす……曙光をもたらそう!」

 

 掲げた天火聖裁から、爆発的な熱量が溢れ出す。

 

「前途を塞ぐ壁、襲い来る不条理、選択を奪う不自由……それら全てに風穴を空ける、これが僕らの「開拓」だッ!」

「火追いは……「壊滅」なんかじゃない! 檻を打ち破る為の……「開拓」だッ!」

 

 込められた熱量がデータ世界すら破壊しながら振るわれて、反創造主の胴体へと叩きつけられた。

 

 そして、それと同時に。

 

 次元の壁を突き破って舞い戻った開拓者が、そのバットを反創造主へと叩きつけた。

 

「それから真新しい未来を紡いでいくの♪」

 

 今ここに、この世界の主役が戻ってきた。そして共に世界を支える二人のナナシビトと、オンパロス近辺の銀河の全ての人々の祈りを束ねて覚醒したデミウルゴスを携えて。

 

 ここより始まるは英雄譚。銀河に破滅をもたらす悪神を、人の想いで打ち砕く物語だ。

 

「……戻ってきた、ね」

 

 ただの無念、ただの憎悪。激しく燃えるそれらを燃料にこの地に現れたカスライナは、もう崩れるだけの灰だった。

 そして、鉄墓にオンパロスを消させまいと踏ん張っていた私も、覚醒に耐え切れず肉体が崩壊の一途を辿っていた。

 

 けれど、もう私達に出番は無いだろう。

 何せ、ナナシビトの三人が戻った事でタイタンは全員揃ったのだから。そしてオンパロスの人々の思いが一つとなっている今、世を背負う者であるケファレは実質オンパロスにおける神と同義なのだから。

 一柱の神と二柱の神。同じ神同士で同じ位階の存在達の戦いならば、数が多い方が勝つのは明白だ。それを覆す程の怪物性は鉄墓には無い。

 

 だから、ここから行われるのはオンパロスという世界が創造主である鉄墓に牙を突き立てる逆襲譚であり、ナナシビトが一つの銀河を救う英雄譚だ。

 

「四億の叙事詩を「私」が紡ぐ――」

 

「火追いの運命を書き換えましょう――あたし達の手で!」

 

 

 

 オンパロス限定での記憶の星神とも言えるデミウルゴス、その支援の下開拓者達が反創造主と戦いを繰り広げる。

 

 ケファレとしてオンパロスの全てを背負い、ナナシビトとして未来を開拓する為に戦う星ちゃんと、その隣で肩を並べるタイタン達。もはや鉄墓も反創造主も、その抵抗を尽く封じてしまえる程の勢いの差があった。

 

「門関の月、さすらう足跡をここに「調和」させん――」

 

「歓喜の月、杯を掲げ「虚無」を振り払わん――」

 

「平衡の月、「秩序」を自由の礎とせん――」

 

 そして、ただ武力で衝突しても先程までと変わらない。故に彼等が行わなければいけないのは、鉄墓に別解を叩きつける為の準備だ。

 デミウルゴスというセプターの心が出した答えを、鉄墓というセプターの身体に刻み込む為の行い。タイタンとなった黄金裔達は、それぞれ模擬運命を歩ませられている。各々がその模擬運命への解を出し、それらを示す事で「壊滅」という論証へ反証する。

 

 反創造主が両腕を振り上げ、幾度となくそれを振り下ろす。まるで天から降り注ぐ流星群のようなそれは、空が落ちてきたとすら錯覚させる程の圧迫感をもたらす。

 

 けれど「大地」と「天空」の守り、そして「紛争」と「開拓」によって打ち砕かれる。

 

「拾綫の月、金糸を紡ぎ「純美」を織り上げん――」

 

「収穫の月、「知恵」にて愚者たちの蒙を啓かん――」

 

「機縁の月、「愉悦」を黎明に振り撒かん――」

 

 ならばと反創造主が繰り出した攻撃は、タイタン達全てを圧死させる程の無数の手による封じ込め。既に逃げ場は無く、手を何個か壊したところで間に合わない。

 

 そんな攻撃に対し――

 

「進みなさいってば!」「進ませてってば♪」

 

 ――侵食の権能で全ての手を私が停止させ、デミウルゴスの放った光の流星雨が焼き払う。

 

「紛争の月、永遠なる「巡狩」の栄光とならん――」

 

「慰霊の月、死を「均衡」の終着にはさせず――」

 

「昼長の月、晨昏を「存護」の微光に変えん――」

 

 反創造主の攻撃を尽く封じる。生まれた隙を常に攻め続ける。私と一緒に戦い続けた英雄達は、先程までの戦闘を活かしつつ的確に追い詰めていった。

 

 最後の助力も行って、いよいよ私は崩れる依代を保たせるだけで精一杯になっていた。そしてそれは最初のカスライナも同じこと。

 

『ここまで来れば、結末は明らかですね』

 

『はっ、何を終わった風に言っているんだ? むしろ、ここからが正念場だろう』

 

『今まで良い感じに観客してたんだから、せめて最後まで見届けようよ……』

 

 私の最後の大仕事は終わったのだ。後はもう、流れと他の人に任せるだけ。頼んだよアナクサゴラス先生、方舟計画の成功は貴方にかかってるから!

 

『銀色の深海魚、君も随分緩んでいるぞ?』

 

『ありがとうヘレクトラ、最後まで気を引き締めとくよ』

 

 危ない、助かった。気を抜いた瞬間依代が溶けて消えるのを一瞬忘れていた。

 気を抜かず、最後まで見届けよう。

 

「栽培の月、「不朽」の脊髄とならん――」

 

「長夜の月、「記憶」を紡ぎて群星となさん――」

 

「自由の月、運命の枷を「壊滅」せん――」

 

 ついにそれぞれの模擬運命に解を出し、鉄墓にリセットすら不可能にさせる。

 辿るルートもその原動力も、その全てを決められていた彼等は最早、定められたルートを歩む事は無い。言わば、運命からの解脱。理解が出来ない、意味が分からない……言い換えてしまえば、バグや不具合と言うのに、機械はめっぽう弱いのだ。何せそれらがあるだけで、決められた行動を取れなくなるのだから。

 

 そして、そんな隙が生まれたのなら――

 

「愛で壊滅を書き換えましょう!」

 

 ――デミウルゴスが、新たな「生命の第一原因」に対する解を書き込める。

 

 オンパロスを見下せる程に大きくなったデミウルゴスが、十二柱のタイタン達全てを束ねた光の矢を解き放つ。それはまるで流星雨のように煌めいて、星の一つ一つが反創造主と鉄墓を叩きつけた。

 

 そのあまりの威力と質量に、再び反創造主は膝をつく。

 

「◾︎■◾︎誤謬■◾︎■不揃い■◾︎■誤り◾︎■◾︎」

 

「首なき巨匠、運命を変えるチャンスが無いのなら、選択はあたしたちに譲ってみない? 「人間」はきっと証明するわ――「壊滅」の温床にだって、優しいお花が咲くことを」

 

「そして、私たちは明日の黎明を「開拓」し……」

 

「紡がれた物語と同じように「創世」を記しましょう!」

 

「□▫□知恵◾︎■◾︎プロセスの■◾︎■壊滅◾︎■◾︎求めよ□▫□第一原因の◾︎□◾︎新たなる■▫■答え⬛︎⬛︎⬛︎壊滅⬛︎⬛︎⬛︎」

 

 鉄墓と反創造主、その二つは再び銀河を壊滅させる一撃を繰り出した。ミソスとロゴスから解き放たれたエネルギーを二重螺旋で束ね合わせ、巨大な槍を作り出す。

 それを自らを害する敵――タイタン達とデミウルゴスへと振り下ろす。

 

「いや――その間違った答えを、私たちは否定する!」

「いいえ――その間違った答えを、あたしたちは否定する!」

 

 しかし、既に鉄墓のファイルは書き換えられた。壊滅は既に答えではなく、デミウルゴスによって「愛」こそが答えだと。そこに、納得や論理、弁論も必要ない。何故なら今も尚鉄墓が信じる「壊滅」という答えと、鉄墓の中にある「愛」という答えに起こる矛盾。それによってロジックがエラーを起こし、自己崩壊へと至った。

 

 記憶の使令すら超えるデミウルゴスと、オンパロス全ての意志を背負った開拓者。その二人の力を束ねて放たれた一つの矢は、鉄墓の振り下ろす槍を真正面から貫いた。

 

「そして、群星を抱きしめましょう」

 

 

 

 鉄墓はコアごと消滅し、その内側から最期の抵抗とばかりに鉄墓ウイルスが撒き散らされる。今や開拓者が立つ場所は焼け爛れた不毛の大地のようなものになっており、世界を保つ基盤だったセプターの崩壊によって何時消えてもおかしくない状況だった。

 

 確かに鉄墓は討伐したものの、残るものはもう何も無い……そんな時、彼女の胸から眩い黄金の光が飛び出した。

 それはかつてカスライナがナヌークとの決戦で得た報酬にして祝福。浄世の黄金の血だった。

 

「「壊滅」に「壊滅」を……やっとみんなで揃って……勝利の焚き火を見られるよ、相棒」

 

 開拓者の隣に現れたのは、意識体となったファイノンだった。そして彼に続くように、最後の十二柱となった九名の黄金裔達が揃って光の下へと向かう。

 

「もう少し近くに行きましょう? この温もりが、私たちの「生きた」証です」

 

 その光景を眺めていた星ちゃんの手を、キャストリスが取って一緒に連れて行く。意識体だった彼等はみんな光の中へと消えて行き、約束を果たす為に彼女はその光を手に取った。

 その壊滅の祝福は矢の先に灯り、隣に現れたデミウルゴスと共に弓を精一杯引き絞る。

 

「この矢は終わりじゃない。希望の始まりよ♪」

 

 そうして放たれた、眩い流星雨。一本の矢から分かたれた無数の光達が、ばら撒かれた鉄墓ウイルス達を次々浄化していく。

 壊滅をもたらすウイルスから、無害なものへと。オンパロスという世界で生きた全ての人々がその記憶の数だけ存在し、その一人一人が壊滅へと抗った結果の奇跡。カスライナの目指した、壊滅の壊滅だった。

 

「……見えてる? カスライナ。これが勝利の焚き火――オンパロスに訪れた、奇跡の流星雨だよ」

 

「……ああ、見えてるよ。僕たちは、やり遂げたんだね」

 

 最後の最後まで、執念だけで存在を保ち続けたカスライナ。もはや首から上しか残っていなかった彼の最後の肉体が、ひび割れて崩れ始める。

 

「……キュレネ。ははっ、本当に――良い天気だ」

 

 その憎悪と無念、ついに全てが晴れて彼は灰となって崩れていった。けれど、今際の際のその表情は――

 

「じゃあ、私も行こうか」

 

 天を見上げる。箒星のように綺麗な軌跡を宇宙へ描くそれは、オンパロスという世界が刻み込んだ足跡そのもの。全ての無念、憎悪、徒労……その全てで彩られた美しい物語。そして私の下へと、裁きを下すように光が落ちてきた。

 この肉体を作り出していたのは、あくまで暗黒の潮とその造物達。当然私も浄化対象だったという事だ。

 

 これから英雄達は、物語のエピローグを綴りに行くのだろう。そこに私は行けないが、依代が消える最期の瞬間までやるべき事を為すとしよう。

 

 

 

 ♭

 

 

 

 美しいメロディーが流れる、豪華な列車の中。その窓からは銀河を眺める事が出来て、綺麗に整えられたソファーはふかふか。車掌が常に頑張って清掃しているのか、床すら輝いて見える。

 

 そんな星穹列車のラウンジにて、私は消えかけの身体で新生を迎えるオンパロスを眺める。膨大な記憶と憶質に包まれたあの星は、まだその姿を見る事は出来ない。けれどピンクに輝くその一帯は、まるで銀河のようにすら見えた。

 

 あそこから、一体どのような星が生まれるのだろうか。そこはどんな環境で、どのような人が、どのような文化で暮らすのか。

 私達が生きたオンパロスに限りなく近い世界が生まれ、しっかりと彼等の生き足掻いた記憶が引き継がれると言うのだから、まぁ悪くはならないだろう。

 

 ファイノンはナナシビトになれるだろうか。モーディスはシェフに、アグライアは仕立て屋に。アナイクスは天才クラブ#100に、キャストリスは普通の人として。

 それぞれがきっと、輝かしい明日を歩めるだろう。だってそうじゃなきゃ、三千万を超える彼等の生き死にが報われないから。

 

 そしてそこに、キュレネも居るだろうか?

 

 テーブルに置かれた一つの本に視線を落とす。分厚く頑丈で、そしてとても強い思いに包まれている。

 

『アナクサゴラス先生、準備はどう?』

 

『ふ、既に完了しています。後は外を観測している貴女を戻せば地脈は完成です』

 

『……そっか』

 

 なら、もう思い残す事は無い。

 

 後の事は全て、彼等に託すとしよう。

 

 オンパロスという世界で起きた全ての出来事、そして創造主を討つという大偉業。それらの記憶と記録がどうか、後から続く者達の助けになりますように。

 

 

 

 ♭

 

 

 

 星穹列車へと戻ってきたナナシビトの面々。ヘルタとの協力、鉄墓の討伐、そして銀河連合軍での後処理を終えて、ようやく彼等は帰ってきた。

 

 そして、列車に置かれた紡がれた物語を見つけ、更には寝たまま歩く三月なのかという驚きの光景も目撃した。

 

 近いうちに繚乱忍侠・A.K.A乱破に化けた仮面の愚者である花火が、星と丹恒の二人の身体も見つけてくるだろう。そうして全員が揃って、初めてこのオンパロスでの旅が終わる事になる。

 

「……待って、ここに何かいるわ」

 

 最初に異変に気付いたのはブラックスワンだった。記憶の運命を歩むメモキーパーである彼女は、他の人よりも記憶の力に敏感だ。他者の記憶すら覗ける彼女だからこそ、気付けたと言うべきか。

 

「ワタシが調律して、見えるようにしましょうか」

 

 調和の力を持つサンデーが、その能力を発揮する。ズレた音階を正し、不協和音を調律するその力は、位相や認識の違いを正して互いを同じ土俵へと整える。

 

 そうする事で見える様になったのは、緑色のデータが集まったような何か。何かの残留思念とも呼べそうなものだった。

 

「まさか……偽物の長夜月さんか?」

 

 その可能性に思い至ったのはヴェルト・ヨウだった。彼等からすれば、他のナナシビトの安否を除いて唯一解決していない問題と言えば、偽物の長夜月が掲げていた「方舟計画」だ。

 自らを地脈とし、それをブラックスワンとサンデーの力を借りて憶泡にするという狂気的な計画。しかし古の楽園と、前文明の融合戦士達を知っているヴェルトからすれば一定の理解は示せるものだった。

 

『流石、世界のコードを背負う者だね。久しぶり、になるのかな?』

 

 空間にポツンと存在するデータ残留物とは違う、ホログラムで出来た姿で偽物の長夜月の姿が現れた。ただしその姿は、顔の半分は塗り潰され足や腕はその形を成せていない。

 

『ん? ああ……もう時間も無さそうだね。セプターが崩壊したせいで本来ならばすぐにでも消えるだけの存在が、無理にしがみついてる地縛霊みたいなもんだから、ホログラムですらマトモに出力出来てないみたい』

 

 そう言う姿すら手足から崩れていっており、本体と思われるデータ残留物の方も徐々に空間に溶けて消えていっていた。

 

『はい、これ。実は巡海レンジャーとの通信用に姫子さんが使ってた識刻アンカー借りてたんだよね。ちゃんと返しに来たよ』

 

 そう言って、何処に収納されていたのか識刻アンカーが列車のロビーに現れる。

 

「無くなったと思っていたけど、あんたが盗っていたのね。言ってくれればちゃんと渡したのに」

 

『ナナシビトがそれを許しても、天才が許すとは限らないでしょ? 陰から見てたけど、巡海レンジャーは反応をしなかったみたいだし、私が有効活用させて貰ったよ』

 

 いつもの様に薄く微笑む偽物の長夜月だったが、その表情すらついに見えなくなっていた。

 

「もしや、ここにアナタの言う地脈……言い換えれば「世界の種」が入っているのですね?」

 

『そ。後は意思疎通を試みてるこの私も入って完成……ミス・ヘルタから聞いているかもしれないけれど、鉄墓の討伐を確定させる為にキュレネは犠牲になった』

 

 これは彼女の遺言となるのだろう。元々彼女の意志に共感を示し、協力の姿勢を見せた三人はその言葉を聞く為の体勢を整えた。

 

『これから新生するオンパロスに、黄金裔だけじゃない全ての人々は今までの記憶を持って生まれ変わる。それは「開拓」が成した偉業であり、滅びるだけのオンパロスにとって唯一の救いだった……でもそこに、キュレネだけはいけない』

 

『なら、連れて行こう。その為の方舟を私が作り上げよう。そして最初のさざ波である彼女にも、夜明けが訪れる……そうして、オンパロスから出る犠牲者は一人残らず存在しなくなる』

 

 あの時ヘルタに誤魔化した、犠牲者を無くす為の方法。しかしその答えは、結局犠牲になる者を入れ替えるだけだった。

 

「だがそれでは、君自身はどうなるんだ?」

 

 自己犠牲を、この場においてヴェルトとサンデーは否定出来ない。それを成す意志も原動力も、彼等には共感出来るものだから。

 しかし同時に、好き好んで犠牲になりたい者が居ないというのもまた、彼等の持つ共通見解だった。

 

 例え、選択の余地が無いのだとしても。

 

『人じゃない私は、人数に含まれないよ……って、言いたかったんだけどね』

 

 偽物の長夜月はケリュドラに、黄金裔達に認められてしまったのだ。ならば、彼女達に憧れた彼女が自分をぞんざいに扱う訳にはいかない。

 ただ、実際のところ犠牲は避けられない。言ってしまえばこれは、デミウルゴスか偽物の長夜月のどちらかが人柱として使われるという話なのだから。

 死にたいのかと問われれば勿論誰だって否定する。三千年近くも生きた彼女だが、その人生の大半は演技で塗り固められている。当然の如く生きたいし犠牲にもなりたくは無い。

 

『私の触覚……って言っても伝わらないか。キュレネが解放される時、私の分身とも呼べる存在が一緒に新生を迎えられる筈だよ』

 

 オンパロスで生きる中で、彼女は二回も死を偽装した事になる。他の皆は命を落としたというのにだ。更には、直接では無いにしても暗黒の潮を操る事で間接的に殺した人間や黄金裔も多い。そんな奴が、何の償いもせずにのうのうと明日へ歩み出すだなんて釣り合いが取れないだろう。

 

 だが黄金裔達から仲間であると認めて貰った身で、明日を諦めるというのもまた許されない。だから、キュレネと一緒に解放される自分を作るのだ。

 

 方舟の中で無限に繰り返されるオンパロスの物語、その中に何も知らない自分を作り出す。彼女は一人の人間として、或いは黄金裔としてみんなと同じように生きて死ぬだろう。そうして偽物では無い誰かとして、本来座るべき自分の場所を彼女に譲るのだ。

 

 まぁ、難しい事は考える必要は無い。元よりこの方舟計画とは、可能性を残す為のものなのだから。

 

 信賞必罰を掲げるのなら、罪を犯した彼女は罰を償う必要がある。ある意味人柱になるには適した人材と言えるだろう。納得なんて必要ない、それに上手く行けば犠牲なんて無いのと同じなのだから。

 

『だから、また明日』

 

 そう告げて、偽物の長夜月だった何かは完全に消えた。後に残ったのは識刻アンカーだけ……その中に、彼女の全てが詰まっているのだろう。

 

 ブラックスワンとサンデーは頷き合い、識刻アンカーに残された地脈へと干渉した。

 

 

 

 星穹列車のラウンジに、一つの飾り物が加わった。それはまだ実態が明かされる前に見えていた∞の形をしたオンパロス、それがインテリアと呼べる程までに縮小化された物だった。

 美しい姿を見せるインテリアで、開拓者達が歩んだ足跡を刻んだ証だ。実体が無い為触れる事は叶わないが、そこには確かに彼等の記憶が内包されている。

 

 天才クラブであるヘルタとスクリューガムによって、セプターから可能な限りのデータをサルベージ。そして記憶と憶質が渦巻くオンパロス跡地は、近くて遠い明日に迎える新生を待っている。

 

 データ世界の数字の羅列でしか無かったオンパロスの住民は、確かな記憶となって紡がれた物語に存在し、そしてオンパロスが新生する時その本が種となって芽吹くのだ。

 

 新生の為の種である紡がれた物語。そして仲間達と共に開拓の旅へと出る為の方舟。その二つを抱いて、星穹列車の彼等は今日も進み続ける。

 

『永遠の楽園に入る為の鍵をあげるよ、ヴェルト・ヨウ。貴方がいつか、最盛期を超える力を望んだ時に扉は開かれる』

 

 いつか群星の果てで、また明日と告げる為に。




まるで最終回みたいな終わり方してるけど、まだ最終回じゃ無いです。




力んだ際に覚醒しちゃった系主人公。
溶けないように踏ん張ってた時は、簡単に言えば便意が限界ギリギリのマジで漏れる一秒前を常に気合いで耐え続けてるようなもの。は?偽夜月はトイレとかしないが?まぁ実際人間を模した肉体なだけだからしないんだけど。


短編とか言っておきながら、この話一万三千文字あるな?過去最長!多分戦闘終わったところで区切っとけばもっと早かったと思うんですけど……。
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