長夜月(偽)   作:四末説最後の一つは均衡ってマジ?

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いつも感想、誤字報告ありがとうございます。

何かの目的に向かって頑張ったり苦しんだりして、ようやくその願いが叶うといった所で死んでしまったり二度とそれが出来なくなるような展開が性癖です。
けど、オンパロス編に限っては馬鹿みたいなハッピーエンドでも良かったなって思うんですよね。
まぁメタで考えれば、ファイノンがナナシビトに加わっちゃったら、何かあった時大体「ファイノン鬼強ぇえ!逆らう奴ら全員明日の黎明にして行こうぜ!」ってなっちゃうから出来ないんだろうな……とは思います。

そんなこんなで一応最終回です。ノーマル、ビター、バッド、トゥルーなエンドが好きな人からすれば蛇足になるかも。


だれかのための物語

「あれ……?」

 

 まず感じたのは違和感だった。

 

 記憶の連続性という点において、つい先程の事のように思い出せるのは星穹列車のラウンジで、ナナシビトの面々と会話をしていた事だった。

 つまりは、今際の際。計画通りであれば、存在の維持が不可能になる前に識刻アンカーの中にある私の本体に意識を戻し、アナクサゴラスの術式によって地脈を完成させる。

 その瞬間に、自分は精神的な死を遂げる筈だった。

 

「生きてる……? それとも、死んでる?」

 

 声を出せる。身体を動かせる。しかもそれは、今までの紛い物の存在では無く、れっきとしたここに在る存在として。

 

 肉体、と言うには少し違うけれど。それでも暗黒の潮やその造物から作り出した入れ物とも違う。限りなく生きている人間に近しい身体だった。

 

 三千年よりも昔、一人の生きた人間として存在していた頃の感覚が蘇ってくる。腹の中で消化活動が起こるし、くしゃみなどの生理現象も起こる。今なら食材の味も認識出来るだろうし、眠る事も出来るのだろう。

 

『何も分からない、と言った困惑具合ですね』

 

「アナクサゴラス先生?」

 

 何処からか声が聞こえてくる。けれどこの感覚は最近まで慣れ親しんでいたもの……自分の内側から聞こえてくる声だった。

 となれば、彼は今も尚私の肉体に魂だけで同居しているのか。

 

「新生したオンパロスで、私は外に出た触覚……では無いんだね。この感じだと」

 

 ならばどういう事か。一先ず辺りを見渡せば、何処かの惑星なのだろうという事は分かるが……。

 

『貴女の考えている事を当ててみましょうか。恐らく「私は死んだはずなのに、どうしてまだ生きているんだろう?」では無いですか?』

 

「いや、まぁそうなんだけど……」

 

 自分の全てを地脈へと変える。そうして記憶を回して鉄墓の討伐を因果が揺らごうとも確定させる……そういう計画だったのだ。

 

『何の計算もせず、やる事を決めるだけだから想像もしていなかった事が起きるのです。分かりやすく言いましょうか……貴女の考える方舟計画、その根幹となる地脈。それを作るのに、何も貴女の全ては必要無かった、というだけの事です』

 

「あー……なるほど。計算した結果、別に全部使わなくても作れた、って事ね」

 

 いや分からんて。どう計算すんねんそんなの。え、逆にアナクサゴラス先生は地脈を作るのに必要なリソースを計算出来たんですか?

 まぁ出来るか、この人なら。

 

『とは言え、ほぼ全てを使う事に変わりはありませんでしたがね。おおよそ貴女の99%を使う事で地脈は構築出来ました』

 

「それって、外を観測してた意識だけの私が戻る必要無かったんじゃ?」

 

『いいえ、意識は必要でした。むしろそれが無ければ完成はしませんでしたよ……ただ、僅かな余剰が生まれるので、それを利用しただけです』

 

 まぁ詳しい事を考えるつもりは無いけれど、要するに杜撰な計画をアナクサゴラスが計算を元に緻密に組み直した結果、消える筈だった私が存続出来たと言う事だ。

 それにしても、この限りなく生きているのに近い状態の身体については分からないが。

 

『現在貴女の使っているその身体は、メモキーパーであるブラックスワンを参考にしたものです』

 

 確か法身や記憶ミーム体と呼ばれる身体だったか。いや有能過ぎて怖いんだけど、それ以上に何処からそれを作るリソースを持ってきたんだ?

 

『簡潔に言ってしまえば、偽物の長夜月と呼ばれる存在が関わった存在、殺害や救済も含めて何かしらの記憶に残っている者達の記憶で作り上げたものです……貴女風に言うのなら「"みんな"の記憶から作り上げた外装」ですね』

 

 わあ、すっごく分かりやすい。

 

「なるほど、じゃああくまで私という存在の核は方舟になった地脈の方なんだね?」

 

『ええ。貴女がファイノンの「みんなの願いを叶えたい」という渇望を利用しようとしたように、私も貴女の「黄金裔のみんなを外へ連れて行きたい」という渇望を利用させて貰いました』

 

「つまりこの身体は、みんなの記憶だけじゃなく天外への思いも含まれてる訳だ」

 

『33550337回目の輪廻の時、僕の臣下達は天外についてよく聞かされていたからな……当然、憧れもするだろうし、共に行く事を望んでいただろうからな』

 

 オンパロスの人々全ての思いを背負ったという点では、世を背負う者としてケファレとして、あの瞬間星ちゃんは全員の願いと共にあったのだろう。

 だが、鉄墓からオンパロス全てのデータをコピーして自らのファイルに加えていた私は、言ってしまえばオンパロスそのものとも言える。

 なるほど、ならばそれらの願いを共に連れて行けるのも道理か。

 

『別に今までの輪廻の話だけではありません。今も尚方舟の中で繰り返されるオンパロスの歴史、貴女によってわざわざ変数が常に生まれるようにされているのですから、当然天外への思いを抱く者もいるでしょう。そんな彼等の願いも集まってその身体は作られているのです』

 

『そういう事よ、長夜月』

 

 話の流れで聞こえてきたのは、今まで自らの内側から聞こえてくる事は無かった声。けれど、自分が開拓者の視点で共に旅をしていた時には、オンパロスで最もよく聞いた声であり、そして共に未来へと進みたかった声でもあった。

 

『はぁい、あたしに会いたかった?』

 

「まさか、方舟の中からこっちに出てきたの?」

 

 過去のさざ波は、オンパロスという世界と天外の境界線にも存在していた。そこに居た彼女はきっと、最初のさざ波であり、そしてオンパロスを守るデミウルゴスの力でもあった。

 そして、箱庭という挑戦者も限られ外敵が攻め入る可能性が低い世界において、彼女はそこを守護する必要が限りなく薄い。

 ならば、暇して出てきても不思議では無いのだろう。きっと彼女こそ、オンパロスで最も天外に憧れを抱いていた存在なのだから。

 

『うーん、少し違うわね。あなたの作り上げた方舟のお陰で、確かにキュレネは役目から解放されたわ。同じ歴史を、過程は違えど繰り返し続けるという性質上、そこにキュレネが居なくても歴史は確定するもの……それこそ、記憶の力で補強しなくともね』

 

 彼女が告げるのは、方舟が完成した時点でキュレネが解放されたという事実。私の考えた無謀な計画が、実を結んだという事だった。

 

『だから、キュレネは新生するオンパロスで目覚めるわ。それこそ貴女の望んだように、ファイノンと再会して彼はようやく救われるでしょうね』

 

 そうなると、この肉体に同居している魂のキュレネとは一体どのキュレネなのか。

 

『ふふ、難しく考える必要は無いわ。私達はみんな、記憶での追体験じゃなく、実際に外の世界を見てみたかったの。それは何処かの輪廻に限った話じゃなく、どのキュレネも思った事。貴女が夢を見せてくれたのよ?』

 

『長夜月、恐らく方舟の中から出てきたというのは間違いないでしょう。ただし、それが一人のキュレネでは無いという事です』

 

『そういう事。無数の私達が外の世界を夢見ていた、でも私達はオンパロスを救う為に常にその身を捧げる必要があった……だから、私は無数の私の祈りの集合体。犠牲になっていった私達に、私を通して外の世界を見せてあげるの』

 

 本来のオンパロスでは無く、方舟の中のオンパロスで犠牲になっていったキュレネ達。例え記憶の再現でしか無いとしても、一回一回の輪廻で生きる彼等はそれぞれ別個体であり生きていた、という私の主張からすれば、紛れも無く生き抜いて犠牲になった者達だ。

 

「恨み言を言われてる気分になるね」

 

『まぁ、言いたい気持ちも当然あるわ。それこそ外に出て現状を理解しても、わざわざあの悲劇を繰り返さずとももっとやりようがあったんじゃないか、とは言いたくなるわ。でも、同時に共感もしているの』

 

「共感?」

 

 地脈となって世界を回す方舟の中の私は、言ってしまえばセプターの代替品。本来演算して世界を回す基盤であったセプターの代わりに、記録と記憶を用いて最初のカスライナとキュレネから鉄墓討伐までを無限に繰り返している。

 独善的で、酷く自己中心的な行いだ。そして同時に、認めたくは無いがもっとも神らしい行いだろう。

 

 そんな私に対して、まさか共感を抱いているとは思わなかった。

 

『ええ。だって貴女も私も同じだもの。黄金裔達の物語を、オンパロスという世界で起きた物語を、その全部を愛している……だって伝わってくるもの、地脈となって流れる記憶から。みんなが誇らしいっていう気持ちがね』

 

「そうだね。そこだけは誤魔化す気は無いよ」

 

 だってそれこそが原動力なのだから。そして、自らの掲げた不変でもある。

 

 姿形が変わろうが、記憶を無くして自己を失おうが、変わらず掲げる思いこそ不変。それだけは絶対に変わる事は無いと魂に刻んでいるのだ。

 

『私って、いつどんな時でも変わらないのが魅力なのよね。だから分かるわ……どの私でも、世界と人々の全てを愛していたって』

 

 哀憐という原動力を与えられ、その通りに生きるはずだったキュレネ。しかし彼女だけはセプターの演算において、異常となる動きをしていた。

 そして哀れみから始まった彼女の行動が、やがて愛へと実を結んだ。そして彼女は真我を得るに至った。

 

「なら、一緒に行こうか。そうだ、どうせならそのうちナナシビト達にキュレネの姿で会いに行こうか」

 

 記憶で作られたこの肉体は、今まで使っていた依代のように外見すら思いのままのようだ。恐らくそれは、本当の私というものを持たないのと実際に生まれた生命体では無いからという理由からだろう。

 であれば、今まで通り誰かの偽物として振る舞ったり、或いは特徴的ではない誰かとして活動する事も出来るだろう。

 

 それこそ、キュレネの姿で彼等と再会を果たす事も出来るはずだ。

 

『確か、本来のオンパロスの辿った歴史において、私達の世界を救ってくれた存在なのよね?』

 

「そうだね。オンパロスに現れた変数にして、有り得ざる未来を切り拓いた開拓者。彼等とその友人の尽力が無ければ、オンパロスに新生は訪れなかっただろうね」

 

『良いわね。私も是非会ってみたいわ』

 

『おい、長夜月。いつまで話し込むつもりだ? 状況整理は出来て疑問は解消出来たのだろう? なら立ち止まらず、僕の為に動くといい』

 

 確かに。随分と驚かされたし、想定外からの想定外でかなり混乱してしまった。けれど、そもそもの話。状況がなんであれ、やる事は変わらないだろう。

 

「オンパロスの救済は成し遂げて、方舟計画もアナクサゴラス先生のお陰で無事成功。更にはその甲斐あってかキュレネも解放された……なら、次はどうするか」

 

 そんな事、決まっている。

 

「仰せの通りに、カイザー」

 

 カイザーの宇宙征服物語の始まりだ!

 

『まず行きたい場所がある。確か仙舟同盟だったか? どうやら次の僕は記憶の旅で、救世主の記憶を追体験したらしいな。そして剣旗卿への褒美として、鱗淵境とやらの海を見せたんだったか? なら、そこへ連れて行け。最初に僕に着いて来た剣旗卿への褒美を与える』

 

「いいね、仙舟同盟。雲璃ちゃんの好物の玉実鳥串私も食べてみたいと常々思ってたんだよね」

 

『仙舟同盟特産のメーレもあるのだろうか』

 

「あったかな……あったかも。変な豆の汁のソーダ売ってることしか覚えてないや」

 

『新生する私が天才クラブの一員となるならば、博識学会が気になるところですね』

 

「なんなら宇宙ステーションヘルタに乗り込んでも良いんだよ?」

 

『ほう? あれだけミス・ヘルタに啖呵を切っておきながら、貴女に合わせる顔があると?』

 

「理性のタイタンともあろうお方が、考えが足りないね。そんなもの、初手で土下座すれば大体解決するんだよ?」

 

『おい、それじゃあ僕も頭を下げる事になるじゃないか。そんなのは御免だぞ』

 

「……じゃあ、自分から乗り込むのは無しにしようか」

 

『ふふ、何だか賑やかね。貴女っていつも頭の中ではこんな風にワイワイ話し合っていたのかしら?』

 

「こんなに喧しくなったのは、再創世する直前くらいからだったよ」

 

 ていうかキュレネ、どうして普段の私を知っているような口を利いているんだ。方舟の中から出てきたキュレネなんだよな?

 あれ? もしかして本物のオンパロスの方の記憶の素材になったキュレネも混じってるの?

 

 まぁ、いいか。

 

「取り敢えず移動手段から考えようか」

 

 通常の手段では虚数の壁なんて越えられないからね。星穹列車みたいな特別な何かを使うか、開拓によって拓かれた航路を使わなければ星間移動は不可能だ。

 

『そんなもの、お前のお得意の侵食で何とかすれば良いだろう』

 

「いやいやカイザー、あれはあくまでデータ世界だから無敵だっただけで、現実じゃ……」

 

 あれ? もしかしていけるか?

 

 私は自らを地脈とする為に、オンパロスの全データをコピーして保存した。でもそれは、鉄墓が育んできた壊滅の方程式も含まれている。

 律者の力と絶滅大君の力を悪魔合体させれば、現実世界でもそれなりに猛威を奮うのでは?

 

 うーん、何だか私が討伐対象にされそうな気がしてきたな。

 

「まぁいいや、やってみよう。どうせ私の本体は方舟なんだし、身体が壊されても再構築出来るでしょ」

 

 ヤバいやつとして目を付けられたら、最悪星核ハンターの所にでも逃げ込もう。そして銀狼とひたすらゲームするのだ。

 自分、力になれます。なんなら侵食の権能が現実世界でも猛威を奮うようになればホタルの病気も多分治せます! 現実世界でどうなってるのか知らないから何とも言えないけど!

 

 

 

 こうして仙舟の羅浮に不法入国した私は、無事に雲騎軍に捕まりました。無一文だった私は(三月なのかが)顔見知りの景元将軍の計らいのお陰で仕事をしつつ、たまにケリュドラと代わって将軍とボードゲームを楽しんだりする事になるのだが、それは物語のエピローグの後の話。

 

 何にも記されず、誰にも語られない名前も知らない誰かのお話。




これにて完結。

とは言いつつも、雑な設定まとめとか番外編とかは投稿します。

一応ここで締めの挨拶だけはしとくか。
元々暇潰しで書き始めた話でしたし、そんな感想とか来ないだろうし評価も少しくらいしか貰えないだろうなーとか思いながら書いてたんですけど、思った以上に感想も評価も来て毎回舞い上がってました。お陰でモチベも高い水準で維持して投稿頻度も高めでこれました。最初の頃は批判的なコメントも来るだろうなーって感想欄見るの怖かったんですけど、好意的なコメントばかりで本当に助かりました。

また更新が待ちきれなくなったら会いましょう!
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