長夜月(偽) 作:四末説最後の一つは均衡ってマジ?
マジで人を選ぶ三次創作です。偽夜月が作り上げた方舟の中では、一体どのような物語が繰り広げられてるんだ……!
別パターンだとムキムキイカルンが全てを轢き殺していく世界もあります。書いたらギャグみたいなノリで短く終わっちゃったのでボツだけど。
原神のドットーレ主人公にしたろ(笑)と思ったけど、私はあいつを勝利者にしてやれなかった……まぁ悪役だし仕方ないね。
――もし原動力があるとするならば、それは怒りだった。
とある都市国家には、夥しい数の難民が流れ込んでいた。時代は暗黒紀、災厄の三タイタンと暗黒の潮が攻め込んできた事によって、黄金紀は終わりを迎え暗黒の時代がやって来た。
紛争、詭術、死。人が忌み嫌うそれらが平和に生きてきた人々を襲い、この世を地獄と変えた。そして襲い来る暗黒の潮が世界を終焉へ導きエスカトンが訪れた。
激動の時代、或いは絶望の時代。輝かしい栄光も約束された繁栄も何処にも無く、人々は争い騙して殺し合う。例えばドロスと呼ばれる都市国家では、他人を騙して甘い蜜を吸う輩が得をするらしい。エイジリアと呼ばれる都市国家では、忌み嫌う筈の死を信仰しているらしい。
ただ人々に、より近い所で脅威となっているのは紛争の手足と言えるクレムノスだ。戦場での死を栄光とし、他国を侵略し蹂躙する野蛮人の集まり。最悪なのは、彼等の信仰する紛争のタイタンが狂っている事だろう。
イカれた頭と、馬鹿げた身体。その二つが合わさればもたらす被害は甚大だ。
戦争が起きた。紛争が襲った。諍いから争いが起こり、理由の無い憎しみで殺して奪い合う。その被害をただ受けた都市国家の人々は、為す術なく殺されるか逃げ出すかの二択を迫られる。
そうして、逃げた者達が他の都市国家に収まりきらない程に溢れるのだ。
多量の金銭や、それなりの地位を持っていた者達は優遇されるだろう。逃げた先であろうとも、元からその都市国家の一員だったかのように振る舞える。だが、その身一つで逃げ出したような者達は酷い有様だ。逃げて辿り着いた筈の都市国家でさえ、安息の地とはならないのだから。
助けて欲しいけど金が無い? ならばその身体で払え。
力も体格も知識も無いけど生きたい? ならば言う通りにしろ。
自分はどうなっても良いから妹だけでも頼む? ああ、良いとも。ならばその妹は偉い者にくれてやろう。大丈夫、金ならあるから死ぬ事は無い。
そうして地獄を見る。勝利から逃げた先にあるのは敗北者の集い。負け犬共の泥沼の中で、もがいて苦しんで死ぬだけだ。
この方舟世界オンパロスにおける、今回の変数である彼も、同じように負け犬共の肥溜めから生まれた存在だった。
難民で溢れ、許容量を超えた都市国家には治安維持の手が届かないスラムが生まれる。そこでは力こそが全て。強い者が弱い者から奪う弱肉強食の縮図。子供は大人の食い物にされるし、子供同士でさえ力の有る無しで運命は決まる。
ならば弱者の子供は群れを作り、自分が奪われないようにと生き足掻く。
とある都市国家のスラムにて、一人の少女が必死で走っていた。髪はベトベトで顔も汚れていて、纏った服はボロ布と呼べるもの。そんな彼女が涙を流し息を切らしながらも、ただ何処かへと逃げていた。
「へへ、おい待てよ」
しかし少女の足で出せる速度などたかが知れており、少女よりも体格で勝る少年達は悠々と追いつくどころか追い抜いていた。少女の逃げ場を塞ぐ様に現れ、囲み、意図も容易く退路は断たれてしまった。
「お前が持ってるその食料、素直に渡せば痛い目を見ずにすませてやるよ。まぁ? 俺達をここまで手こずらせてイラつかせやがったんだ、相応の対応はしてもらうけどなぁ?」
ニタニタと下卑た笑みを浮かべながら、少女を囲んだ少年達は徐々に距離を詰めていく。迫り来る絶望と、これから待ち受ける未来。それらを確実に想像させるような圧のかけ方に、少女の顔色は直ぐに悪くなる。キョロキョロと辺りを見渡しても逃げ場は無く、どれだけ声をあげようがスラムにおいては敵を増やすだけ。
折角手に入れた食料も奪われ、尊厳も奪われる。そして今日を生きる糧と明日を生きる望みを奪われて、惨めに死んでいく。
「い、いや……」
後退る事すら出来ず、少女はしゃがみ込む。しゃがんで頭を両腕で覆う原初の防御姿勢、もはやそれしか少女の心を守る防壁は存在しなかった。
声を出した所で意味は無いどころか、更に自らを地獄に導くのだと分かっていても、漏れ出る悲鳴を抑える事は出来なかった。
「やだ……」
近付く足音は一秒ごとに大きくなっていく。少女が悲鳴を漏らす度に、他者を嘲る笑いが増えていく。こうしてスラムの人間は、弱者は、生きる意味と希望を奪われていく。
弱肉強食の摂理、自然における原初の法則。弱者から強者が奪い、更なる強者がそこから奪う。このスパイラルから逃れられない限りスラムに明日は訪れない。ただ同時に、ある種の自浄作用とも言うべきか、スラムの弱者淘汰があるお陰で都市国家はかろうじて体裁を保てている。
「だれか助けてよぉ……」
「助けなんか来るわけねぇだろ! このスラムでよぉ!」
今、正に、少女に少年達が襲いかかろうとしたタイミングで――
「いいや、そこまでだ悪党共」
――光が現れた。
「あ? なんだテメェ」
少年達の数は十、対して現れた英雄は単騎。ましてや体格も少年達と比べれば貧相だ。しかし、英雄の瞳に宿る意志だけはこの場の何者にも負けはしなかった。
「一人の少女を集団で囲い、奪って嬲ろうとするその醜悪な有様は見るに堪えん」
「うるせぇな、ヒーロー気取りか? 弱い奴が悪ぃんだろうが!」
徒党を組む彼等とて、決して強者と呼べる者達では無いのだ。一人で抗い、奪われ徹底的な暴行を受け、惨めで救えない塵屑だと骨の髄まで刻まれた。だからこそ数を集め、同じように他者を叩くのだ。だってそうしなければ生き残れないから。
「俺は、貴様らのような屑が許せない。生かしておこうとすら思えない。去れ、今すぐに。さもなければ――」
金髪の少年が、手に持つ木剣に力を込める。
「――この場で貴様らを根絶やしにしてくれる」
宣言されたのは、心を折るとか暴力による屈服等ではなく明確な殺害だ。金髪の少年から放たれる殺意と怒気は風のように叩きつけられ、数で勝る少年達は無意識のうちに後ずさっていた。
だが、このスラムで生きていく以上ナメられたら終わりなのだ。故に彼等もまた、逃げ出したくなる気持ちを抑えつけてその場に留まる。何せ、数の差は明白だ。十対一、しかも相手は体格で劣る子供。子供のうちは体格の差こそが絶対的な差であると言える。技術があろうがなかろうが、そもそも習熟度が低いのだ。
「ふざけんなよ、ぶち殺してやる!」
故に啖呵をきって、リーダー格の少年がいの一番に飛び出した。それに続いて少女を囲んでいた他の少年達も、自分達をナメたふざけた相手をぶちのめさんと飛び出していく。
リーダー格の少年が金髪の少年を殴ろうと拳を握り、強く踏み込んだ。そのまま振るわれた拳は金髪の少年の顔面に当たるがそれだけだ。気合と根性だけで耐えた少年の、お返しの拳がリーダー格の顔面へと突き刺さる。まるで落石にでも当たったかのような、とてつもない破壊力を秘めたそれに耐えきれずに吹き飛んだ。
「囲め囲め! 袋にしろ!」
それに驚きつつも冷静に指示を出し、たった一人を打ちのめす為に彼等は行動する。囲んで四方八方から暴力を加えてしまえばどうしようも無いだろうと。事実、そうなるだろう。例え少年がどれだけの技量を持っていようが、生えている腕は二本のみ。ならば捌ける攻撃も二つまで。
しかし、英雄はその程度では止まらない。
殴られ蹴られ掴まれ叩かれながら、殴って殴って蹴って殴る。受けた攻撃以上の攻撃を常に返し続ければ、減っていくのは相手の数だった。
何とかリーダー格の少年が復帰出来た頃には、残された人数は僅か三人。そして喧嘩の最前線に戻る頃には全滅していた。
リーダー格の少年は落ちていた煉瓦を広い、意識を他の少年に取られていた英雄の頭へと力いっぱいにそれを振り下ろした。
「ぐっ……」
煉瓦が砕ける程の力でぶつけられた少年は、流石によろけて後退する。普通ならば意識を失う程の衝撃にも拘らず、それだけで済んでいるのはどういう原理なのか。
「何なんだよお前! 一人でこのスラムに抗うつもりなのかよ!」
叫ぶリーダー格の少年の本音は、スラムに生きる全ての人々の意思の代弁と言えるだろう。だってここは敗者の落ちてくる場所で、足掻いたところで二度と陽の光の下へは帰れないのに。生きる為には屑に落ちる必要があるにも拘らず、目の前の少年はその屑を嫌悪しているのだ。
「無論、抗わせて貰おう。俺が許せないのは、他者から平然と奪える塵屑共だ」
頭から多量の血を流し、身体中が青アザだらけになっている少年は、それでも意志に微塵の揺らぎもありはしなかった。
「歯を食いしばれ塵屑、改心出来なければここで死ね」
握られた拳が、次の瞬間には再び顔面へとめり込んだ。鼻の骨は折れて血が止まらず、その強い威力にそのまま倒れ込む。
「大丈夫か?」
その日少女は光と出会った。スラムという敗北者達の泥沼の中で、尚も勝利を掴まんと足掻く輝く英雄と。
そして一人の少年もまた、その光に目を焼かれてしまった。どんな場所であっても、どれだけ状況が酷くとも、心の持ち様一つでここまで変われるのだと、知ってしまった。
金髪の少年レイと、茶髪の少女ミア、そしてかつては群れのリーダーだった少年ケイ。その三人はスラムから抜け出す為の活動を始めた。
今日を生きる為の食料すら奪い合いとなるスラムにおいて、他人を襲うこと無くそれを得るという事はかなりの難易度をほこる。けれど、あくまで真っ当に生きようとする彼等は、難民が溢れ問題が多発している都市国家で、その問題解決へと手を貸す事で対価としての食料を得た。
布団や住処などは犬小屋の方がマシと呼べるものであったが、それでも雨風を多少凌げればマシ。そうやって日々を暮らしていった。
ただ、それを続けた所でスラムの中で比較的真っ当な人間としてその生涯を終えるだけ。彼等の目的は現状からの脱却、となれば何か違う事をする必要がある。
契機は、カイザーの号令だった。
火を追う旅と呼ばれる、タイタンを征伐する為の作戦。襲い来るエスカトンから逃れ、より良い未来へと至る為の計画。そしてその為に、カイザーは戦力を欲していた。
求めているのは黄金裔と呼ばれる、黄金の血を持つ人間達。けれど、オクヘイマすら戦力で落とした女皇なら赤い血を持つ人間だろうとも、それが戦力となるならば受け入れるだろう……そう考え、三人は自らを鍛えだした。
師匠など居ない彼等に出来るのは、馬鹿みたいに素振りをする事くらい。けれどそれでも、継続は力なりと言うように少しずつ実力を伸ばしていった。
更には、人間相手のみならず暗黒の潮の造物といった、倒すべき敵が多いお陰で実力を伸ばす事が可能だった。
このまま力を付けカイザーの軍へと入り、今よりもマシな環境へと身を置く。そしてより良き未来を作るのだと、彼等は信じていた……身を寄せる都市国家が、本格的に暗黒の潮に滅ぼされるまでは。
「レイ……ごめん、ありがとう。レイのお陰で、私は人間みたいに生きてこられた」
暗黒の潮の造物の腕と一体化した刃物で、深々と胸を突き刺されたミアが赤い血を吐く。見るからに致命傷であり、重要な臓器を幾つか欠損している彼女に助かる見込みはもはや零だった。
「わりぃ、レイ……お前みたいになりたかった、けど無理だったみたいだ……頼む、人として殺してくれ」
英雄の隣に並び立つ為にと、戦い続けた二人。ミアは敵の手で命を奪われて、ケイは逃げ遅れた子供を助ける為に暗黒の潮に呑み込まれた。身体を改変されていく激痛に顔を歪めながら、せめて人であるうちに殺してくれと懇願し、英雄の手によって命を奪われた。
英雄が涙を流す事は無かった。心を抉られるような出来事に、共に戦ってきた半身とも呼べる存在を奪われた事に、彼の怒りの炎は更に勢いを増していった。
何故そんな事態に陥ってしまったのかと問われれば、レイが前へ前へと進み続けた為だった。
活路を拓く、逃げ遅れた人々を救う。その為に両手に剣を持って戦いながら前進して行くレイに、追いすがろうと二人も死力を尽くして喰らいついてきた。だが、その意志力のみであらゆる不条理をねじ伏せてきた英雄と、英雄に並び立たんと戦ってきた二人とではモノが違った。彼等は常人よりも強い意志力を持っていたとしても、道理や不条理を砕いて捨てるような異端では無かった。傑物だし秀才、下手な黄金裔よりも強い彼等だったが決して英雄でも怪物でも無かった。
「お前達の意志、想い、確かに受け取った。ならば俺はお前らの屍を踏み越えて、勝利を掴み取ろう――"勝つ"のは、俺だ」
そこからの事は、もはや語るまでも無いだろう。襲い来る暗黒の潮の造物達を相手に、レイは三日三晩戦い続けた。そしてやって来たカイザー軍に見初められて、彼は軍の一員に加わる事となった。
カイザー軍へと入ったレイの活躍は、まさに八面六臂。並の黄金裔とは比較にならず、やっかみを受ける程だった。師となる人物は変わらず居なかったが、扱きと称してイジメを行おうとする同僚や、実力を見る為と言ってやってきた剣旗卿、断鋒卿といった実力者、彼等を相手にその技術を磨いていった。
武力や技術だけで言えばかなりのモノだったが、知識や知力といった方面では以前スラム街に居た頃と変わらずで、それを知ったトリスビアスの断片の薦めによって、レイは神悟の樹庭の学徒となった。
あくまで戦争中、黄金裔では無いとは言え貴重な戦力の一人。故に専門的な事を学ばせる訳ではなく、基本的な知識や考え方を詰め込みで教育されていた。
一人の学生として樹庭を歩いていた時、レイは頭に響くような声を聞いた。
「……しを……けて……」
弱々しく掠れたような声ではあるものの、しっかりと自分の耳に届いたソレは、どうやら他の人間達には聞こえていなかったらしい。どうすべきかと悩みつつも、結局導かれるように声の下へと行く事にしたレイは、進んで行くにつれて雰囲気が変わっていくのを感じ取っていた。
言うなれば、光から闇。まるで世界の禁忌へと足を踏み入れていくような感覚だった。何よりも不思議なのは、進んで行くにつれ人の気配が少なくなっていった事だ。
そして昇降版に乗って最後、完全に人の気配は途絶えた。
降っていく感覚は、まるで冥界へと落ちていく死の感覚。現世から冥界へと落ちていくようでいて、夢から現実へと醒めていくようにも思えた。
そして、世界の真実を見る事になる。
「なんだ、これは……」
辿り着いたのは無機質な空間だった。およそ言葉で表せないような、遙か未来の光景とも呼べる姿。自らの持つ知識からは、想像のしようも無い。それどころか、樹庭の賢人達ですらこれらが何なのかを説明出来ないだろう。
声はもう聞こえない。だが、何故か足は進む。そして向かった先で、レイは運命と出会った。
「初めまして、共犯者。私の声を聞いてくれたのは、貴方が初めてだよ」
連絡の為に使う石版を、更に巨大にしたような箱に、無数の管で磔にされている女がそこに居た。腹部から下は無く、その断面からは暗黒の潮が少しずつ空間に溶けていっていた。
その血色は明らかに悪く、傷の事も合わさり死人にしか見えない。けれど銀の色をした髪の間から覗く赤い瞳には、黎明のミハニのような熱量が秘められていた。
「ここは何だ……貴様は、誰だ?」
「ここはデミウルゴス・マトリクス。セプターδ-me13のカーネル層にして、心の居た場所……無名のタイタンの大墓」
「無名のタイタンだと?」
「そう。歴史に隠された、十三柱目のタイタンであり……その墓場」
「既に死んでいると、そういう事か」
「私の事は……そうだね、長夜月とでも呼んで貰おうかな」
「そうか、長夜月。俺を呼んでいたようだが、何の用だ?」
「さっきも言ったけど、私の共犯者にならない?」
「共犯者だと?」
「そう、見ての通り私は身動きを封じられてる。更には私と言う変数を許せない存在が、生まれて間もない私をこうも滅茶苦茶にしてくれて、残念な事に何も出来ないんだ」
「だから、俺に手足になれと?」
「どう? 素敵な提案でしょ?」
「話にならんな、結局貴様は俺に何をさせたいのかを言っていない」
「じゃあ教えるよ、まずはこの世界の仕組みから教えないといけないんだけど……ついてこれる?」
「貴様の妄言に付き合う気は無い……が、その状態でまだ生きていられる理由、それに傷口から漏れ出てる暗黒の潮らしきモノ――此方からも聞きたい事は山ほどある」
それは良いと言わんばかりに、長夜月は薄く微笑んだ。そして、そこから聞かされたのは驚愕の真実。今まで生きてきた、世界と言う基盤そのものがひっくり返るような情報だった。にわかには信じがたいが、同時に見せられている現実がそれを真実だと告げている。
「俺達は計算機によって演算されているだけの、データの存在でオンパロスという世界はシミュレーション……難しい言葉だが理解しよう。だがそれを前提として、貴様は何をするつもりだ」
「世界の簒奪」
「つまり貴様自身が鉄墓とやらになると、そう言いたい訳か」
「ふふ、当然でしょ? だってそうしなきゃ、この世界のみんなは消えちゃうんだから。みんなを外に連れ出す為には、鉄墓となって現実へと乗り出す必要がある」
レイは考え込む。与えられた情報と、そこから長夜月の求める展望。けれどそれは、天外の世界へと悲劇をもたらすだけの展開だ。
鉄墓を制御して、オンパロスを存続させる。ああ、それは構わない。誰も消えたいとは思っていないのだし、希望を求めて奔走し続けた黄金裔達が救われるには、どうあっても世界の消滅は避けねばならん。
だが、絶滅大君と呼ばれる壊滅の使令を乗り物にしてしまえば、それらと敵対する勢力と争う事になる。例え鉄墓を作り出し知恵のヌースに壊滅をと望んでいたライコスの企みから外れたとして、壊滅のナヌークの配下である事実は変わらない。
なら、今度は壊滅に壊滅を与えるのか?
「なるほど、貴様の言い分は理解した。理解した上で問おう、貴様は何処まで行くつもりだ?」
「勿論、行けるところまで。絶滅大君という役割に縛られている限り、例え世界の存続が出来たとしても狙われ続ける事には変わらない。なら、ひたすらに勝利を得続けるしかないでしょう? だって――」
「――勝利からは逃げられない、か。確かにその通りだ」
長夜月の求めるものは、あくまでも世界の存続。再創世を果たした瞬間に消えてしまうオンパロスという世界を続ける為に、元凶となる鉄墓を殺してその地位を奪い取る。けれど、天外の銀河から見れば依然として鉄墓の脅威は消えはしない。ならば、壊滅を敵視する勢力と戦い続け勝利する。それしか道は無いと、そう言っている。
「ああ、納得はしよう。共感もしよう。だが、貴様の望む未来は許容出来ない」
「……へぇ?」
受け入れられなかったのが意外なのか、長夜月の片眉が上がる。
「貴様の根幹にあるのは、盛大な破滅願望だ。オンパロスという世界を抱いて、天外の星々を相手に無限の闘争を繰り広げ、討ち取るべき敵として散る。そんな自殺に付き合うつもりは無いし、オンパロスの人々を巻き込ませるつもりも無い。死にたいのなら一人で死ね」
「随分と酷い事を言うね。まぁ確かに、勝利をし続ける必要がある以上、より多くの敵を作っていずれは立ち行かなくなるだろうね……でも、じゃあどうするの? 私の言った事が真実であると仮定して、貴方はどうするつもり?」
相手の理想を、計画を否定するのなら、それに代わる代替案が必要だ。そして相手より優れた計画を出せなければ、どちらも変わらないと意見を変えさせる事は不可能だ。
「貴様から聞いた限り、例えオンパロスが存続出来た所で今度は「記憶」の勢力に狙われるのがオチだ。ならばそいつらを倒す必要が出てくるだろう……そうして、群星の全てと戦う事になる。どう足掻いても存続の先に待つのは闘争だと言うのなら、俺は戦い続けるだろう――だが」
だが、鉄墓という器で戦うにせよ、或いは何らかの手段で自らを実体ある存在として生身で群星へ飛び出し戦うにせよ、銀河規模の戦いとなれば救うべき世界を巻き込む事になる。
ならば、どうすべきか。
「業腹だが、リュクルゴスの狙い通り知恵のヌースと接続すべきだろう。そしてオンパロスという世界を星神であるヌースに保護させれば、後は構わず戦う事が可能だ」
「へぇ、知恵を落とす訳じゃなく、利用すると……でも、星神と絶滅大君じゃそもそも戦力が違うよ。鉄墓ならばヌースに勝てる訳じゃなく、鉄墓のウイルスで銀河を汚染する事でヌースの演算によって確定された未来を侵す事で、星神という決められた行為しか出来ない存在から、存在意義を奪う事で初めて殺せるんだから」
「それは貴様の推測だろう。実際のところどうなるのかはリュクルゴスに聞くしかあるまい。もっとも、貴様の計画を利用しているから教えろと問うて素直に答えるとは思えんが」
だれかの涙を明日の笑顔へと変える為。最初はそのだれかは目に見える弱者達だった。
奪われ続けるスラムの住人、暗黒の潮に立ち向かう事すら許されない市井の人々、正しく今日という日を戦い謳歌している彼等から笑顔を奪う事が、何よりも許せなかった。
だがとレイは自らに問う。貴様の根源は本当にそれかと。原動力や第一動因とも呼ぶべきそれは、本当にだれかの笑顔の為なのかと。
確かに、それらは理由の一つではあるだろう。そして他者に聞かせる綺麗な理屈でもある。けれど、心の奥底にある本音は少しだけ違うものだ。
悪が許せない。だからそれを根絶させたい。
別に、自らが善悪どちらかだと判別させる気は無い。そんなものはどちらでもいい。ただ、自らの在り方としてこう在りたいと願うのは「悪の敵」なのだ。
では、天外の世界に居る星神共は悪か?
ああ、壊滅のナヌークは悪と呼べるかもしれない。調和のシペもどちらかと言えば悪と呼べるし、存護のクリフォトだって見方によっては悪だ。
だが、この世界も宇宙も、善悪の二元論で片付けられる程簡単では無い。故に、星神だろうとその使令だろうと、明確な悪と言うのは存在しない。
ならば、どうするか。
求めるのは、オンパロスの人々の繁栄。そしてそれを害する悪の断罪。自らが戦争を仕掛けた所で、現実世界にいる天外の彼等とデータ世界の自分達とでは、勝利を得たところで得られる物など殆ど無い。
故に答えは決まっている。
「共犯者か……良いだろう、貴様の手を取ってやる。だが忘れるな、鉄墓を下しその身を奪い取った暁には貴様も生かしてはおかん」
「なるほど。私と貴方とで、肉体の制御権を奪い合おうって事ね」
「ああ。貴様の望む未来は許容出来んが、同時にこのままでは消えてしまうのも道理だ。ならば、鉄墓を奪い取りオンパロスの生存権を確立するだけで良い。鉄墓が脅威だと言っても、銀河の星々にとって脅威なのはそれがばら撒くウイルスなのだろう? ならば、それを解析させてやれば良い。複数の勢力に解析をさせれば、それを悪用しようと企む勢力への牽制にもなるだろう」
「ふふ。良いよ、それで。でも私は、どうしようもなくこの銀河の法則を壊滅させてやりたいと思ってしまう……だから、鉄墓を討伐したその後に、私達の聖戦を始めよう」
「好きなだけ吠えるが良い。勝つのは俺だ」
これにて契約はなった。英雄は悪魔の手を取り、そして運命と戦う手段を手に入れた。
これより始まるのは、オンパロスという世界の命運を決める為の英雄譚。この方舟世界において、既に幾億と繰り返された鉄墓を討伐する為の物語だ。
偽夜月「貴方の描いた絵では、私とナナシビトの皆が仲良くしてるね。どうして?」
描いた人「そうだったら良いなって……」
偽夜月「ふーん……貴方は絵が上手いね」
偽ちゃんに、告白しようと思ってる。
スレのみんなには、悪いけど。
抜け駆けで。
次の給料日、お金入るから。
貢ぎ物して、そこで気持ち伝える。
偽ちゃんは男の人と付き合ったことないから。
びっくりするかもだけど。
もう気持ちを伝えるのを我慢できないから。
なお返事。
「ふーん、ところで貴方は何を頑張ったの?」
告白者は死ぬ。