長夜月(偽)   作:四末説最後の一つは均衡ってマジ?

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マネーウォーズ、ついに富の創造主20までいけた。
普通に大変だったんだけど、実装から数日程度でいってた人達は化け物か?

1回だけ星3キュレネ作れたことあったけど、あの時金が余りまくってたからコスト5キャラ全員星3になってブローニャが全て破壊してたわ。


方舟世界:変数γ③

 時が流れ、預言の黄金裔はオクヘイマに集った。神託の聖女であるトリスビアスが分かたれた断片達は、長く続く戦争の中で少しずつその数を減らしていった。彼女の振るう力である百界門は、空間と空間を繋ぐ「門と道」の権能。戦争において、相手の背後を取れるというのは大きなアドバンテージとなり得る。例えその門を開くのに彼女達の存在力を大きく削るのだとしても、必要とあればやらねばならない。今や千の断片達は、二百程度にまでその数を減らしていた。

 

 だが、黄金裔と勇士達の働きによって、ようやく欠けていたパーツが揃う事になる。

 

 「救世」のファイノン。

 

 「紛争」のメデイモス。

 

 「天空」のヒアシンシア。

 

 残念ながら担うべき存在の見当たらない「歳月」だけが欠けた状態ではあるが、それ以外は全てが埋まっている。正確には「大地」は荒笛が担当していたが、かの存在はジョーリアへ反逆した際に受けた傷によって大きく寿命を損ない、預言の黄金裔でも無い人間に力と火種を継承した。

 

 そして未だに討伐されていないタイタンは紛争、天空、歳月、死、理性の五柱であり、歳月と理性は人類に対し協力的であり、天空はその都合上最後に回す必要がある。よって、手を出せるのは紛争と死であるのだが……死のタイタンであるタナトスに関してはその行方が知られていない。

 けれど、それについてはアナクサゴラスがいずれ判明すると保証をしている以上、とやかく言う必要は無い。

 

 つまり、再び幕を開ける準備は整った。メデイモスとファイノンは互いに高め合う関係の、それでいてオンパロスにおける最高峰の一角と言える戦士であり、ヒアシンシアは患者一人一人に心から寄り添える強い医者だ。かつて火を追った英傑達と、その英傑達に勝るとも劣らない実力を有した勇士達。まさに今この時こそが戦力の最盛期であると言えるだろう。

 

 故に、カイザーからの号令が下るのは当然の事だった。

 

「これより、第二次火追いを開始する。オクヘイマ、並びにオクヘイマへの協力を惜しみなくしてくれた各都市国家諸君、随分と長い事待たせてしまったな。だが、ここに神権を引き継ぐべき預言の黄金裔は揃い、天霆卿を始めとした戦士達の戦力も申し分ない。よってこれより、旧き神々を廃し新たな時代へと踏み出す事となる。まずは紛争のニカドリーを征伐する! 金織卿、並びに天霆卿、彼等への宣誓を頼む」

 

 あらゆる輪廻、あらゆる変数世界においてもっとも生き残った人類が多く、同時に屈強さを誇るオクヘイマ。生き残り、集った全ての人々の前でカイザーは高らかに宣言する。我々の勝利は必定であると。世界を縛る旧法を廃し、新たな時代を迎えさせると。

 そしてそこに立ち並ぶ、現在の半神ならびに未来の半神達。神権を継ぐ者では無くとも、彼等に劣らない戦士達。

 

「浪漫の名のもとに、みなへ新世界を齎す事を約束致しましょう」

 

「神権を継ぎ、半神となって世界の骨子となるのは彼等預言の黄金裔達だ。そこに俺達はどう足掻いても干渉出来ん……だが、その露払いは俺達にこそ相応しい。故に約束しよう、勝つのは俺だ。誰かの涙を明日の笑顔へと変えんが為、俺達の剣はあるのだとこの世界に知らしめよう」

 

 カイザーの演説と黄金裔達の圧倒的な存在感。今まで終末に抗い戦ってきた全ての市民達は、この時ついに一つとなった。全員で立ち向かい、再創世を果たし、輝かしい黄金紀を手に入れる。そうはならないのだとしても最早関係無い。一つの意志の下に統率された彼等は、自らの意志と信念で以って断崖の果てを飛翔するだろう。

 

 

 

 紛争のタイタン、狂気の王ニカドリー。かの神はクレムノスを本拠地とし、狂ったままに手当り次第攻撃を仕掛けては恐怖を振り撒いた。しかし精強なるカイザー軍と、途中合流した屈強なクレムノスの戦士達は例え神との戦いであったとしても一歩も退きはしなかった。

 故に、いずれは超えるべきだが中々それが叶わない強敵として、その武勇は畏怖と共に語り継がれていた。

 

 ニカドリーの強さはその武力だけでは無い。神としての権能として、ニカドリーは無数の神体を持つ。いくら攻め入ってきたニカドリーを討ち果たそうとも、倒したそれは無数の神体の内の一つでしか無い。倒すだけならば、これまでのどのタイミングであっても可能であり、実際両手じゃ数え切れない程に撃退はしているのだ。

 

「ええ、ニカドリーは無数の神体を手足とし各都市国家へと攻撃を仕掛けていました。これは間違いありません。恐らく本体は、常にクレムノスに居座っているのでしょう……ですが、ニカドリーの本体を叩いたからと言って、そう簡単には事は運びません」

 

 カイザー軍で行われる軍議にて、アナクサゴラスは自らの知恵を用いて予測される全てを話していた。

 

「クレムノスの戦士達がオクヘイマに合流すると共に齎した資料を読み解くに、ニカドリーはその本体すら不滅性を有しています。裂魂の儀と呼ばれる儀式を用い、自らの魂を五つに分割する……例え本体の一つを完全に破壊したとしても、その他の魂が存在すれば直ちに補完され復活を果たすでしょう」

 

「なるほど、ではその対処法は?」

 

「分割された魂を持つ神体を本体と言うのなら、ニカドリーは五つの本体を持つことになります。原理上、それらを同時に討ち取れば不滅性を発揮させずに倒す事が可能でしょう」

 

 ふむ、とカイザーは思案する。ニカドリーの神体の一つと何度も渡り合い、その戦力分析はとうに済んでいる。半神であるヘレクトラやアグライアであれば、優秀な戦士が二人程入れば問題なく対処出来る。黄金裔の中でもトップクラスの実力を持つメデイモスやファイノンならば、一人では勝てなくとも何人かの有効打を与えられる存在が居れば勝てるだろう。

 だが、五つを同時に破壊となれば犠牲はどれだけ出るか……後の事を考えれば、ここであまり犠牲を出す訳にはいかない。

 

 さらに、本体がそもそも出てくるとは限らない以上、まずは本体を引き摺り出す必要がある。

 

「天霆卿、頼めるか」

 

「委細承知した」

 

 問題は、引き摺り出した本体をどうするか。レイならば、本体がいようがいまいが全てを蹂躙してみせるだろう。しかし、どれだけいるか分からない分体を相手に物量戦をしてはジリ貧だ。

 

「カイザー、提案があります」

 

「聞こうか」

 

「クレムノスの王子、紛争の正当後継者であるモーディスを引き合わせましょう」

 

「理由は?」

 

「ニカドリーは狂気に犯されていても、紛争にして戦士の神です。自らの分体の尽くがたった一人に足止めされ、自らと同じく紛争を担う戦士が現れた時、挑戦者が神権を継ぐに値するのか見定めようとするのではないですか?」

 

「一理はある。だが、それだけの理性があると思うのか?」

 

「無いでしょう。ですので、強制的に理性を戻すのです」

 

「……なるほど、理性のタイタンか」

 

「ええ。サーシスは人類の味方をすると公言しています。ならば存分にその力を借りれば良い。狂気に堕ちたとは言え、元は誇り高きタイタンであるならば、最低限の理性を残す為の何かを行っていてもおかしくはありません。それこそ、裂魂の儀の時にでも分離させておけば、理性こそが後付けのストッパーとなり得ます」

 

「道理だな。そしてわざわざ儀式を行っている以上、紛争一人でそれを行える訳も無い……協力者が居るのなら、尚更対策はしているだろうな」

 

 この世界のアナクサゴラスは既にライコスと元老院、そして半神議会の満票を得てケファレとの融合実験を済ませている。そこから得たタイタンの元となった存在と、再創世の確実性は事実として広まっている。

 当然、前回紛争を担ったゴーナウスについても周知の事実だ。

 

「数多の分体を天霆卿を始めとした英傑で抑え、現れる本体を理性で覚醒させ我々で仕留める。これを作戦として行く……問題は、五体の核を殆ど誤差なく撃破出来るかだが――」

 

 チラリと周囲の人間を見渡してから、カイザーはふっと息を吐く。

 

「――愚問だったな。ではこれよりニカドリー討伐作戦を開始する。世界の命運を決める、その一歩目だ。各々死力を尽くせ――とは言わん。見せつけるぞ、旧き神に。我々こそが新世界を担うに相応しいとな」

 

 

 

「ここに居るな、ニカドリー。その玉座と火種を貰い受けに来た」

 

 クレムノスの正門にて一人立つレイは、静かに……けれど雄々しい宣言をする。まるで挑戦者を歓迎するかのように、正門は開かれクレムノス自体が地響きを起こす。

 漢とは、いつどの時代であろうとも、力と力の競い合いを好むもの。ましてや自らの首を取りに来た挑戦者が、何度も自身の分体を撃退したかの英雄ならば拒む道理は無し。例え理性が失われ狂気に堕ちた神だとしても、その根底にあるのは漢のそれ。

 

 つまり、現れたレイに対してニカドリーが出迎えるのは必然だった。

 

「……まずは一体か。貴様、分体一つで俺をどうこう出来ると思っているのか?」

 

「■■■■■■■■■■■■■■」

 

「そうか、ならば早々に引き摺り出してやろう。構えろ、紛争のタイタン……行くぞ」

 

 レイは自らの腰に下げた六つの剣の内一つを抜き放ち、構えを取る。高まる戦意に反応したニカドリーもまた槍を構え――そして、両者共にその姿がかき消えた。

 

 一瞬の合間に、金属と金属の激突音が七度。常人ならば気付く事すら出来ず、黄金裔ですら目で追えない速度域で行われた切り結び。力負けし、体勢を崩したのはニカドリーの方だった。次に繋げる事や悪足掻きすら叶わずに、そのままニカドリーの分体は分断され消滅した。

 

 天霆卿とカイザーに呼ばれるまでに至り、このオンパロスにおいて比肩するものの居ない領域までのし上がったレイの実力。如何に紛争のタイタンと言えど、ただの分体では足止めにすらもなりはしない。

 

 だが、勝負はここからだ。ニカドリーからすれば、自らの本体に刃を届かせなければよく、さしもの英雄と言えど無限に湧く分体の物量相手には勝てないだろう。正門から、自らが居る玉座まで。来れるものならば来てみろと、あくまでも王として待ち受ける。

 

 ニカドリーの分体はすぐに現れる。小手先を調べるように、今度は二体。普通に考えれば、これだけで絶望的な状況である。たった一体でも都市の蹂躙が可能な存在が二体いて、対する英雄は一人なのだ。

 だが、それでは足を止めることすらしない。片方のニカドリーと打ち合いながら、もう片方の手で二本目の剣を引き抜いて隙を伺っていた分体を両断する。そして残り一体となれば結果は瞭然、僅かの時間すら稼げずにたちまちに斬り裂かれた。

 

 進む、分体が増える。斬る、斬る、進む。分体が増える、増える、増える。斬る、斬る、斬る斬る斬る進む突く裂く進む進む増える増える斬る斬る斬る増える進む進む増える増える斬る斬る斬る斬る――

 

 押し寄せる波濤。絶えず現れてはその数を増やし続けるニカドリーの分体は、もはや津波の様相を呈していた。一体で都市を蹂躙し、二体もいれば絶望を齎して、三体以上いれば如何に勇敢な戦士と言えど多数の犠牲は必要経費。紛争の体現者にして最強の戦士であるニカドリーが、もはや数えるのも億劫な程に押し寄せるのだ。

 普通に考えれば波に飲まれて死に、どれだけ優れた戦士であろうとも消耗の果てに敗北する。

 

 しかしどうだろうか。顔面に一本の壊滅の烙印を押された金髪の青年は、波の中にあってもその存在感を放ち続けている。四方八方から穿たれる槍の大半を弾き、致命傷にならない物は無視をして、押し寄せる攻撃以上の密度でやり返す。まさに人力で海を割る如き所業。或いは、雨の中を微塵も濡れる事無く歩いていくような神業。

 

 愚直に磨き続けられた居合抜き、それによって最高速で振るわれる剣はあらゆる防御を無視して対象を斬り捨てる。そのまま納刀しては別の剣を振るって殺す。或いは致命傷を与える槍に対して振るい、タイタンの膂力で穿たれるそれすらも弾いてみせる。

 

 技術や剣術では無い、ただの努力の果てに到達した抜刀術。速さと威力と切れ味だけを追求した斬撃は、ニカドリーの分体を豆腐でも切るかのように容易く裂いてみせる。

 

 たった一人の進軍は止まらない。止められない。もはやニカドリーに、レイをどうにかする事は不可能だった。

 ただ、それでも。戦士としての矜恃があった。漢としての魂を揺るがす熱い何かがあった。故に、どちらかが果てるまで――その想いの下、ニカドリーは無数の分体の全てをこの最前線に注ぎ込んだ。

 

「なるほど、良いだろうニカドリー。かかって来い……勝つのは俺だ」

 

 

 

 ニカドリーは無事討伐された。五つの本体を相手に黄金裔や戦士に数名の死傷者はいたものの、紛争の火種を得る事に成功した。

 

 後はこれを持ち帰り、メデイモスが試練を突破して半神となるだけ――その帰り道。クレムノスの正門から堂々と凱旋をしようとする一行の前に、黒衣の剣士が佇んでいた。

 

「天外からの変数は、ついぞ現れなかった……しかし、今回の輪廻における何もかもは、今まで僕が繰り返してきた全てとは大きく異なっている」

 

 希望と熱を失った、身体の奥まで染み込むような地獄の亡者の如き声。仮面を着け黒い衣で身を隠し、何者かを悟らせないような姿を取った剣士は独り言のように呟いた。

 

「外からの変数は来なくとも、内側で本来有り得ざる変数が生まれたという事になる。おかしな話だ……彼の実験場であるオンパロスにおいて、唐突に変数が湧く事など有り得ない。ならば、その変数は僕の心を折る為に彼が用意したものだと考えるのが自然だけど、その在り方が目指すものはとてもそうとは思えない」

 

 預言の黄金裔、黄金裔、そして戦士。この場のほぼ全員が困惑を隠せない。唐突に現れた何者かが、一人で何かを呟き続けているのだからそれも当然だ。この場で状況について行けてるのは二人だけ、長夜月より話を聞いていたレイと元々知っているアナクサゴラス。そしてある程度予測を立てていたケリュドラと可能性はあるかもしれないと心構えをしていたアグライアだけだ。唯一ファイノンだけは憎悪のままに駆け出そうとしていたが、憧憬を抱いた英雄との対話を邪魔しないように堪えていた。

 

「英雄、君の望む事はなんだ?」

 

 砕けてなお形を保っているヘリオスの切っ先を、レイへと向けて黒衣の剣士は問いかける。目の前の変数がどのような物なのかを解明する為に。

 

「無論、勝利だ。オンパロスを襲うエスカトンに、我等を実験の為の要素としか見ない管理者に、そして誕生を待つ絶滅大君に……その全てに勝利して、明日の笑顔を掴み取る」

 

「……僕たちの心の中の英雄とは、似ても似つかない。けれど、君の戦いぶりとその意志は、どの時代の誰よりも光り輝いて見える」

 

 黒衣の剣士、カスライナ。彼は数多の輪廻を超えて疲弊している。いつまでも抗い続けてみせると抱いた鋼の意志だって、時を重ね続ければ摩耗は免れない。その身に秘めた膨大な火種は、一つだけでも絶大な熱量を持っている。それを四億以上も抱えていれば、肉体だって耐えられない。

 どれだけ擦れて疲弊したように見えようとも、カスライナはまだまだ耐えられ続けるだろう。新しい自分を新たな器として連綿と火種を引き継ぎ続け、悠久の時を希望を信じて待ち続けるだろう。

 

「名前を、聞いても良いかな?」

 

「レイだ」

 

 だが、ついに現れた変数を前にすれば、鋼の意志にだって緩みは生じる。信じていいのかと疑念も生まれる。

 

 だからこそ、試さずにはいられない。

 

「君の言う事が、望む事が本当なのかどうか……試させてもらおう」

 

「貴様の望む事が何かは知らんが、良いだろう。見たいと言うのなら見せてやる」

 

 数多のニカドリーの分体と戦い続け、致命傷だけを避け続けたレイの肉体は、自らの黄金の血に塗れている。見るからに重症で、刻まれた戦いの痕跡から察すれば到底戦える状態では無いだろう。だが、鋼の英雄は退く事を知らない。

 ただ前に進み続ける事しか知らない愚か者は、自らの状態など顧みずに前へと進むのだ。

 

 互いに獲物を構え、そして瞬く間にぶつかり合う。力と度胸で相手を圧倒する強者がニカドリーなら、カスライナの剣術は悠久の時の中で磨き上げられた究極の剣技。ただ愚直に素振りなどをし続けたレイと、その技量の差は一目瞭然。エンドモとケファレどころかエンドモと星神の規模で差は開いている。

 だが、カスライナの剣はレイに届かない。力と速度と技量の全てで圧倒している筈なのに、痛打を与える瞬間には必ず防がれている。

 

 その理由は明白だ。カスライナが一本の大剣で戦うのに対し、レイが振るうのは六本の剣。ほぼ同時に六人から居合抜きをされるような圧力に晒され続け、むしろカスライナこそ良く耐えていると評価されるべきだ。

 

 そして、意志のみで全てを捻じ伏せてきた鋼の英雄は、戦闘が続けば続く程に相手に適応をする。その在り方はまさに英雄譚の主人公、英雄や勇者とはかくありきとばかりに断絶されていた差を一足飛びで埋めていく。

 

 互いが本領を発揮しないままの様子見は、大した時間をかけずに終わりを迎えた。

 

「手札を切らずにこれだけの実力を……ニカドリーとの戦いから分かってはいたけれど、改めて実感すると驚きを隠せないな」

 

「お眼鏡には適ったか? 救世主」

 

「ああ、降参だよ。全力を尽くしたところで、僕じゃ君には勝てない」

 

 四億以上の火種を抱えたカスライナ、彼の実力はオンパロスという舞台の中でも極めて突出したものだ。積み重ねた時間と経験によって研ぎ澄まされた技量も然る事乍ら、やはり脅威となるのはその火種。絶滅大君である風焔と渡り合うだけでなく、遥か格上であるナヌークにすら傷を与える程のもの。

 しかしカスライナがその本領を発揮出来る時間はあまり無い。常に内側から自らを焼き続ける火種を共鳴させ爆発的なエネルギーを生み出す彼の本領は、使えば忽ちに自らの身体を焼き尽くしてしまうだろう。

 

 瞬間的な火力で以って、カスライナはレイに勝てるだろう。いくら鋼の英雄であり、英雄譚に語られる勇者のような存在とは言え、対応出来ない攻撃による一撃必殺は適応不可能だ。

 だが、仮に。何らかの要因で辛うじて生き永らえる事が出来てしまった場合。カスライナはあらゆる要素から勝率を皆無にしてしまうだろう。

 そして、例え初手に全身全霊の一撃を回避させること無く当てる事が出来たとして、勝利するビジョンをカスライナは見る事が出来なかった。

 

 故に降参し、同時にカスライナは目の前の英雄こそがオンパロスを破滅の運命から救う真なる救世主であると認めた。

 

「君に、世を背負う者の名前を託すよ。そしてどうか、オンパロスに真の黎明を齎して欲しい」

 

「ああ、託されよう。オンパロスの明日を掴む為に俺は進み続ける……だが、全てを託されてやるつもりは無い」

 

「それは、どういう……」

 

「共に行くぞ、救世主。お前が望んだ光景は、お前の目で見るべきだ」

 

 仮面越しに見るレイの姿に、カスライナは声にならない声を漏らす。今まで、新たな自分に託す事しか出来なかった。最初のカスライナ、次のカスライナ、その次のカスライナ……彼等もまた自分と同じ、救世主である事を求められながらそれを成し遂げられなかった不義者。この自分も同じく、この輪廻の自分に全てを託して消えるものだと思っていた。

 けれど英雄よ、共に行こうと言ってくれるのか。

 

 ああならば、もはや迷う必要など無いだろう。灰と朽ちた肉体が何なのか、変わらずに燃え続ける信念と憎悪は今も胸の中にある。擦り切れかけた理性だろうと構うものか。

 僕たちは、みんな同じ想いを抱いていた。

 

 オンパロスに黎明を、この世界に勝利を……そして、キュレネに役目からの解放を。

 

 胸に新たに灯った情熱が、死にかけの身体に生命の息吹を与える。解き放たれた意志力が、死へと向かう自らの存在を繋ぎ止める。

 

「ああ、共に行こう。勝つのは僕たちだ」

 

 こうして本来敵対し、消える筈だった前の輪廻のファイノンすらも味方へと加わった。

 本来のオンパロスの輪廻、方舟世界の中での輪廻……全てのオンパロスの物語の中で、もっとも強力で悲壮感や絶望など欠けらも無い火追いの旅となる。




3.8ストーリーの時、銀狼の名前が「終焉に抗う仲間」になってるとこめっちゃ好き
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