長夜月(偽)   作:四末説最後の一つは均衡ってマジ?

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誤字修正感想感謝ですわ。


さよならニカドリー

 長夜月が赤い海月を作り出し、ニカドリーにぶつけて爆発させる。その威力はタイタンの神鎧すら砕き、紛争が大きく後退りする。

 槍で貫かれ上体が二分しかける程の穴が空いて沈黙していたモーディスが、その傷を再生させて立ち上がり、よろめくニカドリーの身体に拳を叩き込む。炸裂する獅子のエネルギーがニカドリーの神体を大きく削り、タイタンは膝を突いて沈黙する。

 

「――――ッ!!」

 

 沈黙は数秒で破られ、ニカドリーは咆哮を上げて立ち上がる。獰猛な勢いを以て槍を突き立てんと攻め立てるが、モーディスが拳で打ち合い――そして袈裟斬りによって倒れ伏す。

 邪魔な盾を排除したとそのままの勢いで長夜月へと向かうニカドリーだったが、立ちはだかる六体の赤い海月の爆発に、進むどころか元いた位置まで戻されてしまう。

 

 もう何度も繰り返され続けた死合い。モーディスの死と、ニカドリーの死。けれどモーディスの数瞬のみの沈黙の隙は長夜月の海月によって保たれるどころか、ニカドリーの勢いすらも削いでいた。

 不死身の殺し合いにおいて、決着を着ける方法は不死身の種類によって決まると言える。例えば擬似的で回数制限がある不死ならば、その不死を使い切らせれば良く、際限なく永続的な不死であるのなら、精神を殺してしまうしかない。

 二人に照らし合わせるのなら、ニカドリーは魂を分割しその存在を不滅とした。一方モーディスには明確な弱点があり、その弱点を突かれずステュクスを逆流すると言う強い精神性が続く限り死ぬ事が無い。さらに言えば、ニカドリーは狂気に陥ったが為もはや精神が死ぬ事すら無い。

 不死身勝負で言えば、圧倒的にモーディスが不利であると言える。しかし、それでも最終的にはモーディスが勝つと言えるような凄みが彼にはあった。

 

 海月の爆発、モーディスの拳、それらに神体を大きく削られながら尚も踏み出してきたニカドリーに、モーディスは虚をつかれた。今までとは違う攻撃パターンに長夜月の援護も間に合わず、ニカドリーの振るう槍先がモーディスの身体を貫こうとする――その直前で、大剣が横から叩く事でその攻撃をズラした。

 攻撃がズラされ、踏み込んだ勢いのままのニカドリーの身体に仙舟の意匠が組み込まれた槍が突き刺さる。

 

「お待たせ、モーディス。危ないところだったんじゃないか?」

 

「はっ、抜かせ救世主。あの程度が死地になる事は有り得ない」

 

「あのタイタンを相手に二人で持ち堪えていたとは、素直に驚かされた」

 

「ふふ、龍鱗ちゃんは私達黄金裔を過小評価してたのかな? もっとも、持ち堪えられた理由の九割は王子ちゃんだけどね」

 

 救世を背負いし男と、開拓を守護する男。その二人が合流した事によって、趨勢は一気に黄金裔側に傾いた。

 これより四人で行う時間稼ぎ。今まで通りに天罰の鋒を振るう暇を与えず、そして星ちゃんとキャストリス、ミュリオンの三人がニカドリーの不死の絡繰を暴き、無効化するまで保たせる必要がある。

 

「ニカドリーの不死を解除出来る可能性が出来た。それまで持ち堪えよう――出来るかい? モーディス」

 

「誰にものを言っている! 俺一人でも充分過ぎるくらいだ!」

 

 

 

 それからはあっという間だった。

 攻めの手数が増えた事で常に優位を保ちながら攻め続け、ニカドリーは防戦一方。けれどタイタンの名は伊達じゃなく、それでも死と隣り合わせの激戦が続く。ファイノンか丹恒のどちらかが致命的な一撃を喰らいそうになれば、モーディスがその身体で、或いは長夜月の差し込んだ海月で攻撃を受け、ニカドリーに隙を与えない様に立ち回り続けた。

 

 暫くすれば、星ちゃんとキャストリスとミュリオンが現れ、同時にニカドリーが最盛期に近い力を取り戻した。

 しかし、最早不滅では無いニカドリーは徐々に神の躰が壊れていき、最終的には膝を突いた。ここに勝敗は確定した――が、ニカドリーの最期の抵抗は既に発動されていた。

 

 天罰の鋒がオクヘイマ――より正確に言えば黎明のミハニ――へと向けられ、蓄えられた莫大なエネルギーが放出された。かつては群島すらも消し飛ばしたと言われるその一撃は、当たれば黎明のミハニをきっと消し飛ばせたのだろう。しかし、それを予期していたアグライアとトリスビアスによって百界門で防がれ、最期の抵抗は無為に消えた。

 

「もう剣を振るう必要は無い……世界から、紛争が消えた」

 

 神の躰は光の粒子となって崩れ去り、残ったのは紛争の火種のみ。それをファイノンが一時的に取り込む事で保管し、創世の渦心へと持っていく事になる。

 今更ながら、ここでファイノンが火種を取り込んで何の影響も無いのは、彼の容量が莫大だからなのだろう。アナクサゴラスの事を考えれば、適任のモーディスならばまだしもそれ以外の黄金裔では大きなデメリットがあった可能性もある。

 

 ともあれ、これにて紛争の討伐が終わり、開拓者にはミュリオンと言う記憶の媒体がついた。となれば、もうそろそろカスライナが動き出す頃合いか。

 彼は眠っている訳でも沈黙している訳でも無く、天外から現れた存在に希望を見出し、オンパロスの未来を変えてくれる事を願っている。開拓の二人がそれに適う存在なのか、見極めて居たのだろう。

 まだ理性的に思考や行動は出来るだろうが、そろそろ内に抱えた億を超える火種の熱量に焼かれ、初期衝動にのみ動かされるようになるだろう。或いはこの時点でサーシスやオロニクスの火種を狙っていた辺り、最早惰性で行動していた可能性すらあるか。

 

 戦いは終わり、黄金裔達は帰路に就く。しかし、キャストリスのみがゴーナウスへと別れを告げると言ってその場に残った。

 

「先に帰っていて下さい。私は後から追いかけます。ゴーナウスさんとお話がしたくて……最後に、もう一度だけ」

 

 

 

 ♭

 

 

 

 他の黄金裔達が立ち去ったのを確認してから、キャストリスはニカドリーの残骸を抱えた。

 

「ゴーナウスさん……ニカドリー様、まだ聞こえていますか? すみません。今はただ安らかに眠りたいでしょうが、私の疑問に答えられるのはあなただけなのです……どうかお許しを」

 

「教えてください……タナトスがどこにいるのか知っていますか? どうしても探し出さなければならないのです。生まれた時に奪われた半分を……その手から取り戻さなければ」

 

 ニカドリーの途切れ途切れの声が聞こえる。元よりタイタンの声を理解出来るのはキャストリスのみであり、仮にこの場に盗み聞きしている存在が居たとしても、その内容までを知る事は叶わない。

 

「そうですか……「紛争」のタイタンでも「死」そのものに会ったことはないのですね。まだまだ旅を続けなければ……例えオンパロスの端から端まで歩く事になっても」

 

 本来であれば、ニカドリーの安らかな眠りを祈るキャストリスの言葉で終わる話。タナトスの行方は分からず、手掛かりを得られず、けれど交わした約束は確かに守るから安心してくれと伝えるだけの話。

 しかし、イレギュラーが起きているオンパロスにおいて、紛争のタイタンは今を生きる黄金裔に必要となる警告を残した。

 

「気を付けろ……? 一体何にですか」

 

 ニカドリーとの会話を可能としているのは理性としてゴーナウスが戻ったから。本来であれば暗黒の潮の影響を受けた時に切り離された、狂気に犯されていない魂の核を取り戻したからだ。

 そして、自らの肉体に戻った理性は、その身に起きた事を余さず理解した。

 

 つまりは、完全体となったニカドリーは知っているのだ。自らを完全に狂気に堕とした存在を。黄金裔の中に紛れる敵、エスカトンの化身たる存在を。

 

「長夜月様が、ニカドリー様を完全に狂わせた? 待ってください、どうしてそのような事が……」

 

 火種すら失った残骸のタイタンに、出来るのは事実を伝える事だけ。そこに推測や感情の入り込む余地は無い。

 

「分かりました。もし彼女が敵だと言うのなら……いいえ、敵だとしてもやる事は変わりません」

 

 火種を薪に炎を上げ、暗黒の潮に抗い続ける。そう黄金裔として約束したのだから。

 

「さようなら……タイタン」

 

 

 

 ♭

 

 

 

 私が星ちゃんにした仕込みは、この先を考えればあのタイミングでやるしか無かった事だ。

 

 私が本物の長夜月が現れるまでのデコイとして、ライコス含めた世界を騙すには今回の輪廻だけでなく、次の輪廻にも居る必要がある。

 しかし、私が確実に輪廻を越えられる保証は何処にも無いのだ。

 

 まず輪廻のシステムを考えてみよう。

 

 これまでであれば、カスライナが全ての火種を回収、もしくは黄金裔を全滅させる事により再創世の進行を不可能にする。その後、ある回数以降は今輪廻における自分と同一個体であるファイノンに抱えた全ての火種を託すという工程が挟まるが、儀礼剣に収めたキュレネの魂と歳月の火種の力によって世界を巻き戻す。

 この時、魂だけで存在していたキュレネが無名のタイタンの大墓にて何者かにその輪廻での記録を語り、キュレネだけの記憶ではない記録として残し、セプターがフォーマットを開始する。

 プロセスの進行に不備があり、作業が完了しなかった為に最初からやり直す。今まで行われていた再創世と言う歴史を巻き戻し、再びやり直すようにセプターに仕向けるのだ。

 

 それが、今までの輪廻で行われていた事だ。では、開拓者が現れた33550336回目ではどうなのか。

 

 これも基本的には今までと変わらない。ファイノンへとカスライナは全てを託し、カスライナは歳月の力で世界を巻き戻す。その際に開拓者とミュリオンを保護し、彼女達に次の輪廻を託して自らはナヌークとの決戦へと向かう。

 しかし、この輪廻ではキュレネによる記録は行われず、紡がれた物語というミュリオンの持つ本に記録された状態だ。

 そして世界はフォーマットされ、開拓者は訪れた時から千年前の時代で活動をする事になる。

 

 輪廻を越えるには、一体どうすれば良いだろうか?

 

 考えられる方法は三つある。

 

 一つは歳月の力を使う。これはカスライナや開拓者の扱う方法で、彼等はフォーマットを乗り越える為にエリュシオンに一時的に保護される。オンパロスの何処かに地続きで存在すると思われるエリュシオンは、オロニクスの加護を受けた楽園だったはず。つまりその方法で輪廻を越える場合、私もエリュシオンに居る事になってしまう。それは場合によっては悪手となりかねない。

 

 一つは無名のタイタンの大墓に居る事だ。あそこはセプターの内部とも呼べる場所であり、記録の保管庫でもある。そこに入る事が出来るのならば、外で行われるフォーマットの影響を受けずに輪廻を越えられるだろう。ただしこれをする事は出来ない。この方法を使ったのは本物の長夜月であり、恐らく私でも侵入は可能だろう。ただしライコスや場合によっては黄金裔にも監視される私が安易にその方法に手を出せば、その時点で多くの事が狂いかねない。私という存在における至上命題が達成不可能になる可能性がある以上、その方法は無理である。

 

 一つはオンパロス外への脱出。これは丹恒やライコスの扱う方法だろう。丹恒は輪廻の終わりに恐らく本物の長夜月と接触し保護され、そして列車へと送り返して貰った。逆にライコスは、観測者としての自身が神話の外側と呼ばれる空間に居る事で、オンパロス内部にいる自らの分身がどうなろうとも影響を受けない。元々再創世されようが自身の同一個体が発生するよう細工はしているのだろうが、それが彼の不滅の絡繰だ。

 

 さて、こうして考えて私が取るべき手段はどれだろうと考えたのだが、残念ながらどの手段も取れないのだ。

 歳月の力はダメだ。エリュシオンでの保護を受ける事になるが、多分輪廻の時には私は星ちゃんの敵になっているだろう。許して貰えるかは賭けになる。

 大墓は論外だ。長夜月の存在がバレる可能性があるだけで論じる価値は無い。

 オンパロス外への脱出は不可能だ。私はオンパロス内部におけるバグデータの集合でしか無く、次元の壁を越える方法は持ち得ない。それこそ外部の助けを得る必要がある。

 

 あれもダメでこれもダメ、じゃあどうすんのと思うかもしれないが、三つ目の考え方を応用すれば私でも輪廻を越えられる。

 

 要は、ただのデータでしかない自分の核となるものが輪廻を越えられれば良いのだ。

 だから私は、ニカドリーとの戦闘中一時離脱する星ちゃんへと自らの魂とも呼べるデータを服の裏に仕込んだ。わざわざ右手で肩に触れてそちらに意識を集中させると言う小細工まで利用して。これは自分が所詮データでしか無いと言う自認を持っていて「侵食」の権能を持っている私にしか出来ない方法だ。

 あのタイミングしか無かった。今までは近くに覚悟ガンギマリのセコムが居たし、次に会う時は既にミュリオンを引き連れている。ファイノンやモーディスなら私が黄金裔であると言う間違った認識をしているので問題無いが、セコムは開拓者に異変や危険が迫る事を見逃さないだろうし、ミュリオンは後で怖い。記憶を集める事で記憶領域を展開して過去の出来事を詳細に知るって何だよ。忘れてたけど下手したらニカドリーを暗黒の潮で襲った事すらバレるかもしれないじゃんか。

 

 まぁつまり。長夜月.exeという私の全てとも言えるファイルを星ちゃんに仕込み、星ちゃんを軸に長夜月という存在を出力している状態にした訳だ。別に遠隔で自分の分身を操作している訳では無く、出力された長夜月に自分はいるが、あくまで大元は星ちゃんの下に存在しているだけ。

 これによって、私は擬似的な不死不滅となった。不死不滅なんかは別に狙いでは無いが。

 

 ともあれ、これにより星ちゃんが輪廻を越えれば、私も一緒に越える事になる。ライコスは次の輪廻に唐突に現れる私を不審に思うかもしれないが、もうその頃には暗黒の潮の化身のフリをする必要は無い。私はそのフリをしていただけでやっぱり三月なのか本人ですみたいな顔をしておけば良い。所詮はデコイでしか無く、隠れた本物の長夜月に目が行かなければ良いのだから。

 

 これで最低限の準備は整えた。後はやりたい事は二つ程度。その内一つは壊滅の手先として存分に暴れ、そして討伐される事。

 オンパロスに未来があって欲しい、黄金裔達全員が報われて欲しい、カイニス達粛清者はどうでもいい、頑張った者達が救われるような結末を望む。それらの私の良心が思う気持ちも間違いなく本心ではあるけれど、結局の所絶対譲れない唯一無二の不変、それだけが遂行出来れば良いのだ。

 

 三月なのかの安寧。たった一つ、それだけの事。それだけを絶対なる不変とする為に、我が身は炎へくべる薪としてあるのだ。

 

 

 

「長夜月様、一つお尋ねしたい事が」

 

「何かな? 納棺ちゃん」

 

「あなた様がニカドリー様を狂気に堕としたのは、一体どう言った理由で、どのような方法なのですか?」

 

 わり、俺死んだ。




ファイノンに「鳥は何故飛ぶのか」って色々な人に聞かせてぇ〜
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