長夜月(偽) 作:四末説最後の一つは均衡ってマジ?
誤字修正、感想大変感謝!
偽夜月って呼んでたけど、もう感想で言われてたガバ夜月としか呼べなくなっちゃった……!
ファイノンがアグライアとトリビーとの共謀により「紛争」の試練に挑み、そして失敗した。
私は創世の渦心に向かってそれらを眺める事はしなかった。まぁ火種の返還や半神の誕生を見届けない黄金裔など山のようにいる。かの賢者アナクサゴラスでさえ、自らの命を捨てるその時といつかの輪廻での最期の時くらいしか行かなかったのだし、私が行く必要は無いだろう。
そもそもの話、ニカドリー討伐を終えて直ぐに私にはやるべき事があるので、見学に行く事が出来ないのだが。
神悟の樹庭、そう呼ばれる場所がある。
理性のタイタンであるサーシスの、その神体。オンパロスの歴史の全てを見届けてきたと言われる大樹があり、その上に建てられた学舎。そこは多くの賢者が集い、日夜探求を繰り広げ、そして多くの生徒達に学びを与える場所だ。言ってしまえば、オンパロスにおける大学のようなもの。
賢者であるアナクサゴラスは勿論の事、昏光の庭に所属するヒアシンシアも居る場所だ。もっともヒアシンシアに関しては、ニカドリー襲撃の負傷者を治療する為に現在オクヘイマにいるが。
しかし、開拓者達がその平和な神悟の樹庭を見る事は叶わない。何故ならヒアシンシアの招待を受け向かった時には、既に暗黒の潮――とついでにカスライナ――に襲われて、見る影も無い程の惨状となっているからだ。
そして、ゲームにおいては暴れ散らかして「お前の何処が文弱な学者なんだよ、ホヨバの文弱は文弱じゃない」とまで言われる一因であるアナクサゴラスは瀕死どころか死ぬ寸前まで逝く事になる。まぁ彼の場合自分の魂を利用して錬金術を行うのもあるだろうが。どうしてそう思い切りが良いんですか……!
ともあれ、ファイノンの火種返還と紛争の試練、そこから数日経ってから星ちゃん一行が樹庭に訪れる事を考えると、ニカドリー討伐してすぐくらいには暗黒の潮が襲う必要がある。
そしてサーシスなどが、黒衣の剣士カスライナを暗黒の潮より生まれた者、暗黒の潮と共に襲い来る脅威と認識させねばならない。多分カスライナは抱えた火種の圧倒的な力で寄せ付けず、壊滅に屈さないという不変の意志で侵食を跳ね除けているだけで、丁度暗黒の潮が襲ってるから便乗してサーシスの火種盗ろう、くらいの心持ちなのだろうが。いや、暗黒の潮の本分が神も人も世界も壊滅させる事であり、火種すらも壊滅させようとしている事をカスライナは知っているのだったか。つまりこの時期に彼が来るのは、暗黒の潮に飲まれる前に火種を保護する目的か。
別に黄金裔達の味方ではないが、火種を守るために訪れたのに暗黒の潮と同一視されるカスライナ可哀想……でもカスライナは全部の輪廻で可哀想だから通常運転か。
つまるところ、私のやるべき事とは――壊滅の手先として此方に殺意を向けている――カスライナの手伝いと言う事になる。
そんなこんなで、やって来ました神悟の樹庭。実はここもこの千年の中で来たのは初めてである。私、主要な場所に行かなすぎでは?
ま、まぁ理由はあるのだし、そもそも壊滅の運命を歩む存在なんて壊すくらいしか出来ないのだから仕方ないだろう。
深淵の領域から引き連れてきた暗黒の潮が、サーシスの神体を襲う。世界樹とも呼べそうな程に巨大な樹木を襲い、そこに住まう生物達を暗黒の潮の造物へと変貌させていく。
学者も、キメラも、大地獣も関係ない。荒笛の護りたい存在の全てと黄金裔達の守るべき存在の全てを犯し壊して書き換えていく。尤も人間は殆ど残っていないが。
長夜月はそれを傘を差した状態で、表情一つ変えずに眺めていた。
悲鳴が上がる。怒号が上がる。造物達を撃滅せんと武器を取り立ちはだかる黄金裔が、或いは勇敢な学生や賢者達もいるが、壊滅はそれら全てを徒労に終わらせる――そんな光景が広がるのだろうと考えていたのだが、現実は実にあっさりとしている。人間か、動物か、その違いをまざまざと見せつけられるだけ。神悟の樹庭の賢人達は予め暗黒の潮の襲撃を予測しており、少数の賢人を残して既にオクヘイマへと避難させていた。故に残ったのは少数の賢人のみであり、造物になるような人間がそもそもいなかった。
なるほど、これなら荒笛も長夜月の提案に乗るだろう。黄金裔達が掲げる再創世も、完全なる記憶の器であるファイノンによる全人類再生も、動物達には何の関係も無い。ただ暗黒の潮とタイタンと、黄金裔と人間と、世界全てに追いやられ命を落とすだけになる。今回の輪廻においての荒笛は長夜月と契約をしておらず、行方不明である。まぁ居たとしたら、間違いなく私を一番恨む存在になるのだろう。個人的には猫や犬などの動物が好きなので、キメラも大地獣も出来るだけ被害を出したくないと言うのが本音なのだが、この身に流れる壊滅の血潮はそれを許さない。
神悟の樹庭に残った少数の賢人達と、サーシス、そしてアナクサゴラスはヤーヌスの力を利用して護りを固めた。サーシスは自らの火種を分割して保護し、致命傷を負ったアナクサゴラスは自らの魂を錬金術の素材として利用する。
賢人達はヤーヌスの力で守れば、オクヘイマから黄金裔が駆けつけるまで持ち堪えられるだろうと考えたようだが、残念ながらそれは甘い想定だ。暗黒の潮とは神すらも壊滅させる為の方程式なれば、タイタンが残した神跡の力程度は乗り越えられる。
樹庭に侵入し、慌てる賢人も戦う賢人も、アナクサゴラス以外の全てを変質させた。
ところでカスライナはどうやって侵入するのだろうか。そう思って彼の動向を探ってみれば、普通に空間転移みたいな方法で侵入してた。
まぁ、カスライナの場合たかがタイタン如きで釣り合いが取れるはずもないか。抱えている火種の量が違いすぎる。
後は、開拓者達が来るのを待つだけか。念の為カスライナからトリアン達を守れるように待機はしておこう。
♭
「アグライア様、話しておきたい事があります」
ヒアンシーの招待を受け、星とキャストリスとミュリオンの三名をトリアンの案内で神悟の樹庭へと向かおうとする時に、キャストリスはアグライアへと内密な話を持ちかけた。
「どうかしましたか、キャス」
「これはゴーナウスさん……いえ、ニカドリー様から聞いた話なのですが」
そう前置きをしてから、死にかけのニカドリーから聞いた話をアグライアへと共有する。タイタンの声を聞けるのは、神託を受け取る預言者のトリスビアスとキャストリスだけである。そして、狂気に飲まれていたとは言え、タイタンからの忠告を聞かない理由は無い。
伝えられた内容は、ニカドリーが完全に狂気へと堕ちた理由。特徴から長夜月と考えられる黄金裔とかつて対峙し、その時を以って僅かに残っていた理性すらも失った事。つまりは、黄金裔に潜んだ長夜月という敵を教えたのだった。
「正直に言えば、信じ難い話です。けれど、正気を取り戻した紛争のタイタンからの言葉……嘘だと断ずるには、余りにも重い」
「はい。それで共有すべき内容だと思い、話させていただきました」
アグライアからすれば、いや、他の誰であろうと信じ難い事だ。カイザーの時代から共闘していた事もあるアグライアやトリビー達は尚の事。同じ黄金裔として轡を並べ、火追いの旅をし続けて来たのだ。長夜月の不審な点は、都市国家に寄り付かない事と、深淵を渡り歩ける事。しかしそれも、他の黄金裔や人間達が寄り付かないエリアを見張り、タイタンやクレムノスのような好戦的な集団の動向を伝える大事な役割があっての事だった。さらにアグライアからすれば、自らの下を離れて久しいサフェルの動向を、時々伝えてくれる頼もしい情報源でもあった。
そして、もし敵であったとしたのなら、果たしてアグライアの持つ金糸や、カイザーや剣旗卿を騙し続けた事になる。自らの金糸と神権を熟知しており、更にはカイザーの頭脳と嗅覚を知っているアグライアには、とてもでないが信じられない。
であるのなら、カイザーの没後に敵となった?
確かに長夜月は都市国家に寄らなかった。それは即ちアグライアの金糸の範囲に入らなかったと同義であり、騙す以前に知りようが無い。
でも、黄金裔を裏切る理由が分からない。
暗黒の潮に汚染され、造物のように書き換えられたなんて事は無いだろう。アグライアの金糸は目に見えない汚染すらも見抜き、それに対処出来るのだから。金糸で見た長夜月は、どこをどう見ても完全に黄金裔であり、かつて見た姿と何一つとして変わらなかった。
つまり黄金裔のまま黄金裔を裏切った事になる。
確かに粛清者や元老院といった火追いと黄金裔に反発する存在はいるし、彼等の甘言で裏切る黄金裔も居るだろうが、長夜月に限ってそれは無い。最近バルネアで話した時、元老院や粛清者のような存在が出るのは集団として当然の事だが、火追いを否定したいのなら代案を用意しろと彼女は本心で言っていた。
つまり黄金裔でありながら裏切った場合、長夜月は何か自分達も知らないような事を知ってしまったか、或いはアグライアすら知らないような集団からの甘言を受けたかになる。
だとしても――
「――ニカドリーを狂気に堕とせた方法が分からないですね」
そもそもタイタンが狂ったのは、暗黒の潮が原因だ。災厄の三タイタンと共に現れたと言われているが、その被害を真っ先に受けたのはその内の一柱であるニカドリーなのだ。
仮に何かしら狂気を発生させる手段があったとして、長夜月一人でニカドリーと相対し勝利したという事になる。
完全に弱体化する前のニカドリーを相手に、活動を続けられる程度の被害に収めた状態で勝利した? 半神ですらないただの黄金裔が?
「考えるべき事は多岐にわたりますが、すべき事は明白ですね……いずれ機会を見て、長夜月に審判を下しましょう。金糸が真贋を見定めます」
「彼女に会った場合、どのようにいたしましょうか?」
「率直に聞いてみるのも悪くないかもしれませんね……その後の対応次第では、行動そのものが答えとなる場合もあります」
かしこまりました、と頭を下げて離れていくキャストリスを見送ってから、アグライアは溜め息を吐いた。
「まさかこのような事になるとは……いえ、そう言えば何故予測出来なかったのでしょうか?」
黄金裔には例外なく神託が下されている。ケファレの神託に瑕疵は無い。ニカドリーとの戦いの行く末や再創世の向かう先ですらトリスビアスは聞き取れる。黄金裔一人一人に下された神託も、その者達がどのような末路を迎えるかを教えるものだ。その時を迎えるまで分からないような内容が殆どではあるが、裏切ったのならそれ相応の神託が下されていなくては不自然だ。
にも関わらず、私達は長夜月に下されている神託を不思議に思っていなかった。ではその内容とは一体――
「――私達は、彼女に与えられた神託を、その内容を知ってはいない……」
最初から、黄金裔として彼女と接していた。カイザーの号令を受けて、各地から火追いの英傑達が集まった。中には誇張する者や嘘を吐く者等も多く、けれどタイタンを征伐する為には必要な人員だった。
ああ、その時代に集まった内の一人なのだから、神託は知らなくてもおかしく無いだろう。わざわざ全員分の神託を、カイザーから重用され、そして保護もされていたトリスビアスの分け身達に全て確認させる筈も無いのだから。
そしてカイザーの時代も終わり、長夜月は都市国家に寄り付かなくなった。ああ、神託を確認する暇など無かっただろう。その機会に恵まれなかったのだから。
でも、ヤヌサポリスで合流しオクヘイマにやって来た長夜月に対して、アグライアの師匠でもあるトリビーは微塵も疑っていなかった。疑問にすら思っていなかった。
気付かなかったからか? いや、違うだろう。気付けなかったのだ。
「もし彼女が本当に裏切り者で、そしてニカドリーを相手に殆ど怪我なく制圧出来る程の実力があるのだとしたら……」
最悪よりも最悪な想定。けれど、黄金裔の代表であり再創世を完遂させる為には必要な想定だ。
「私達は、タイタンの征伐以前に多大な犠牲を払う必要があるのかもしれません」
♭
「一、二……三手で充分」
啓蒙の玉座にて、アナクサゴラスを助けに来た開拓者一行とカスライナが向かい合っていた。超絶強キャラ感を醸し出すカスライナと、それを補足するようにあれには勝てないわ! と撤退を進めるミュリオン。普通に分身を出してるけどあれって嘘を真実にする欺瞞の権能なのかな? サフェルも突然謎に分身しまくったりしてたし……まぁこまけぇこたぁいいんだよ! うおおおお、カッコイイぞフレイムスティーラー!
やれー、そこだ! いけー! などと観戦気分で眺めてはいるが、一応本当に危なくなったら助けに入るつもりではいる。つもりではいるのだが、まぁ予想通りと言うべきか呆気なくフレイムスティーラーにコテンパンにされる開拓者一行。イカルンさんがいないから仕方無い。
突然後ろからアンブッシュでフレスティの胴体を腕でぶち抜いたアナクサゴラス(サーシス)の攻撃によって記憶の欠片が多少吹き飛び、傷口から黄金の血を垂れ流すフレイムスティーラーだが、それも直ぐに元通りになり、サーシスが加わっても圧倒的な戦力差は覆らず追い込まれる開拓者一行。
しかし決死の覚悟で百界門をトリアンが開き、キャストリスが謎の手を門から生やしてカスライナを掴まえ引っ張る。しかしカスライナの抵抗は激しく、まるで引き込めそうになかった。
このままではこの場でトリアン消滅サーシス略奪とかいう原作崩壊待ったナシなので、海月を作り出してカスライナの眼前で破裂させた。
一瞬仮面越しに驚きの表情を見せたカスライナは、そのまま百界門へと飲み込まれここでは無い何処かへと飛ばされた。ちなみに残念ながら、彼がその気なら次の瞬間にも戻って来れるので、実は無駄な抵抗だったりする。
「危ないところだったね、開拓ちゃん」
傘を差したままの長夜月が歩いて現れる。どうしてこの場に、という疑問よりも助かったという安堵の方が大きかったらしく、誰もがその場に腰を下ろしていた。
しかし一人だけ、気になる事を覚えつつも長夜月と会う事があれば問わねばならない者がいた。キャストリスは抜けそうになる気を保ちつつ、出来る限りいつも通りの表情を保った状態で問いかけた。
「助かりました、長夜月様……どうしてこちらに?」
まぁ急に現れたら驚くよね、と思いつつ長夜月は返答する。
「暗黒の潮の気配とでも言うべきかな。それを感じたから様子を見に来たんだけど……遅かったみたいだね」
道中にあった切り裂かれた造物達は、全てカスライナによって斬り伏せられたのだろう。それなのに暗黒の潮より生まれた、なんて誤解されてるカスライナ可哀想。
「なるほど……ところで、一つ伺っても宜しいでしょうか」
「何かな? 納棺ちゃん」
「あなた様がニカドリー様を狂気に堕としたのは、一体どう言った理由で、どのような方法なのですか?」
わり、俺死んだ。
あっれー、なんでバレてんの? もしかしてゴーナウス? ゴーナウス悪さした? 嘘でしょ? ゴーナウスの魂ってニカドリーと一体化しても直ぐに汚染されるとか言う話じゃなかったっけ? なんで別れてた肉体の記憶読み込んでキャストリスにその事告げてんの? あれ、もしかしてガバった? え、なんすか、じゃあニカドリーが自然と完全に理性失うのを眺めてた方が良かったって事すか? それともあれすか、実は完全に狂気に堕ちて無いけどオクヘイマも襲うし紛争しまくるただの迷惑装置として作動してたって事すか? うわ、なんかその可能性すげー高そうなんだけど。
「……何の事かな?」
この間はもう認めてる間じゃん! 終わったわ!
「ニカドリー様に教えていただきました。かのタイタンを完全に狂気に堕としたのは、黒い傘を差したピンク髪の女であると……その特徴に一致するのは、長夜月様しかいません」
やめろよ、急にこっち詰めてくるの。何も考えてないんだからさ返答なんて。しかし、安心してくれ、人類史には困った時の唯一の解決法が伝わっている。今からそれを見せてあげようじゃないか。
「これ、なーんだ」
見せつけるのはただの貨幣。その場にいる全員の視線が貨幣に向く。私のする事は至って単純だ。それを指で弾いて空へと上げるだけ。
発動「飛翔する弊・劣化版」! 逃げるが勝ちだぜ!
キン、と金属の弾かれる音がした。マジシャンなどが使うミスディレクションと呼ばれる手法、それは衆人観衆の視線を誘導する技術であり、その場にいた全員の視線――それこそ理性のタイタンであるサーシスや記憶の精霊であるミュリオンすらも、その貨幣を見詰めていた。
そして、次の瞬間には全てが終わっていた。
確かに視線で追っていたはずの貨幣は消え、それを弾いた目を引く存在でもあった長夜月の存在すらも、跡形もなく消失していた。
狐につままれるとは正にこの事、誰もが何が起きたのかもどうしてこうなったのかも理解出来なかった。
しかし、キャストリスは一つだけ確信する。
長夜月はキャストリスの質問に答えられなかった。だから逃げたのだと。
その事実が示す意味は何なのかは、後でアグライアかアナイクスと話せば分かる事だと、そう思考を締めくくった。
必要に迫られてとは言えアナイクス先生魂安売りし過ぎじゃない?
コンスタンスさん、壊滅の信奉者の癖に虚無の運命歩んでるの恥ずかしくないの?
でも持続か黄泉が強化されそうだからオーケーです。