長夜月(偽) 作:四末説最後の一つは均衡ってマジ?
やばいすね、スタレのアプデまでの間に完結させるつもりだったのに間に合わないかもしれない……テンポあげないと
ちなみに今回ガバ夜月が言うヒュポクリテスとは役者とか演者とかの意味で使ってます
「黄金裔に紛れ、再創世を促す。ええ、貴方のおっしゃっていた通りに千年も行動されていました。しかし、それもここまでの様ですね?」
劣化版の飛翔する弊。そんなものを使わなくとも逃げる事は出来たけれど、その方法を利用した理由は二つ存在する。
一つは判断材料を増やして可能性を撹乱する事。そしてもう一つはサーシスとアナクサゴラスのコンビに何か仕掛けをされない為……と、後から何とでも言えるが、さっきの私は確実にテンパっていた。結果的にマシと思われるかもしれないが、今までの行動から予期せぬ事態が起きたようにこれもどう転ぶかは分からない。
ともあれ、無事に神悟の樹庭から逃げ出した私はスティコシアまで来ていた。特に狙った訳でも理由がある訳でもなく、ただ遠くに逃げてきただけである。
そんな私を笑いに来たクソアンティキシラ人が一体。
「へぇ、私を笑いに来てる暇があるのかな? 管理人さん。ガーデンが三月なのかを利用してオンパロスのファイアウォールを突破した結果、かつての三月なのかの知り合いである星穹列車の客人達がこの世界にやって来たのに……そっちの対応はしなくて良いのかな?」
「ええ、心配には及びません。いくらナナシビトが関わって来ようとも、オンパロスの運命とは変えられるものではありませんので」
「確かに、内側から変えられるような物じゃない。けど、ただ壊滅の為に動く私と彼等とでは、行動の原理が大きく違う……そうでしょ?」
「ふふ、ナナシビトのお二人に何かが出来るとでも?」
「貴方みたいな頭の良い人間は、整った数式を乱される事が何よりも嫌なんじゃないかなと思ってね……実際、異変を察知した星穹列車が迅速に行動を起こした場合、外部からの介入も有り得るんじゃないかな? そしてそれは、壊滅の太陽を生み出すという其の望みの障害になり得るんだけど」
「なるほど……確かにそうかもしれません。しかし、何も変わらないでしょう。ナナシビトがいくら関与しようとも、外部からの助けを得て行動を起こしたとしても、訪れる結末は変わらないのですよ」
「そう……まぁ、管理人さんがそう言うなら信じるよ。物語の結末が変わらないと言うのなら、無駄な抵抗を壊滅させるのは私の役目」
「出来るのですか? 貴方に。ニカドリーに無駄に関与していた事を悟られ、黄金裔内部に潜んだ裏切り者であると知られてしまったと言うのに」
さてはコイツ、侵入してくるメモキーパーとかの処理で溜まったストレスを会話で発散してるな? 後は不確定要素の内の一つである私の事を測ろうとしてるのか。
「……あまり舐めるなよ、知恵の使令」
壊滅に犯されたスティコシアは、全てが私の思いのままの独擅場だ。本体性能がボスを張れるくらいには強いライコスだろうが、潰す事は出来るのだ。
力が見たいと言うのなら、ああ見せてやろうじゃないか。こちとらこれからの事を考えて計画を立てないといけない状況なのに無駄に頭を使わせやがって。
長夜月の周りを流れるステュクスが、まるで生き物のようにうねりを上げて舞い上がる。ステュクスとは現世と冥界の境となる川の事であり、その川の水には相反する二つの要素が含まれているとされる。触れたものを犯して壊す猛毒としての性質と、触れたものに不死を与える祝福としての性質。
このスティコシアは既に暗黒の潮で壊滅させられた国であり、そこに流れるステュクスも――冥界に受け入れられない亡者で溢れてはいるが――当然影響を受けている。
ライコスというアンティキシラ人を害する方法は山のようにある。無論彼が本気でこちらを排除しようとすれば容易では無いが、現状の彼は役に徹するヒュポクリテス。その仮面を脱ぎ去るには早すぎる。
「なるほど、ステュクスの水を操ってみせますか。まるでかつてのセイレーンの技を見ているようですが……それで何をしてみせると?」
「壊滅の力とステュクスの力、その二重の結界の中に貴方を閉じ込める事が出来るんだよ、管理人さん。貴方は確か、神礼の観衆とかいう役目に徹してたんだよね……そんな貴方が、こんな滅んだ都市国家で一人閉じ込められている姿を誰かに見られたら、一体どうなるんだろうね?」
ただ、ライコスの身体を破壊しようともあまり影響は無いだろう。輪廻の度にカスライナに首チョンパされる事で有名なライコスだが、三月なのかを捜索している際の描写を見るに彼の躯体は何個かあると見て良いだろう。
だから、有効なのは壊す事ではなく、いずれ来る開拓者達が閉じ込められているライコスを目撃する事。
「なるほど、その姿を目撃されれば色々と勘繰られる事もあるでしょう。しかしスティコシアに人が来ると思うのですか?」
「随分と面倒な話し方をするね、知恵の使令。素直に聞きたい事を聞けば良いんじゃないかな?」
「いえ、聞くべきも無い事ですよ。しかしこれで分かりました。長夜月……いいえ、三月なのかさん、貴方は全てを暗黒の潮によって壊滅させられた訳では無い。セプターと私の目を欺き、何らかの方法で自らの存在をバグと書き換えた。違いますか?」
ある種の確信めいたライコスの発言に、長夜月は薄く微笑んだ。巻き上げられたステュクスの水が威嚇する蛇のように蠢き、空間を変質させる暗黒の潮もスティコシアを犯していく。
「……知ってるかな? 知恵の使令。壊滅を遂行する絶滅大君には、それぞれの壊滅の美学が存在するんだよ――ああ、ごめん。鉄墓にはそんなもの無かったね」
「美学ですか。お言葉ですが、鉄墓にも壊滅における美学は存在します」
「それは鉄墓の美学じゃなくて、貴方の美学でしょう?」
知恵の星神であるヌースを自らの頭として奪い取り、失われた脳を取り戻す。言ってしまえば鉄墓の衝動とはそれだけであり、壊滅に見初められ壊滅の方程式を完成させた事で、その方程式で進んだ文明などに特攻効果を持てるというだけのもの。
知恵の特異点だとか思考の可能性の拡張だとか定数なんとやらだとかをどうのこうのと言うのは、あくまでザンダー・ワン・クワバラの目的でしかない。
そして悲しい事に、最初の天才であるザンダーも、その造物であるセプターδ-me13も、どちらも壊滅に惚れ込んだ訳では無い。そのどちらもが、手段としての壊滅を扱っているに過ぎないのだ。
勘違いをしてはいけないが、かの壊滅の星神が一瞥したのは、ヌースの天体ニューロンでは無く、その中のシミュレーター内部のデータ生命体である。
「では貴方には存在すると? 壊滅における美学が」
沈黙は肯定であると、そう判断したライコスは長夜月へと質問する。適当にはぐらかすだけで、本心も本音も誤魔化そうとする嘘すら言わない彼女へと。
「ふふ、そんなものあるわけないじゃん。壊滅は壊滅、ただ壊すだけだよ。何もかもを破壊して、エントロピーを増大させる。その果てに宇宙の熱的死があるだけ……でも、私達壊滅の行人はそんな事考えずに壊すだけなんだよ」
ほら見た事か。嘘も本当も無い、思考すら介在してない戯言だ。しかし、これ以上話を続けて本当に閉じ込められても困るのはライコスだった。
壊滅を目的とし絶滅大君の誕生の為に行動する長夜月と、鉄墓を誕生させヌースの破滅を望むライコス。その道程が完全に一緒ではなくとも、向いている方向は同じである。
謎と嘘に塗れた長夜月は当然信用に値しない存在ではあるが、少しずつその中身は見えてきた。完全にメッキが剥がされた状態で、敵対する存在だったのならその時に対処してしまえば良いだけのこと。
使令と行人、力の差は歴然であり、優位性の差もある。
「ふむ、まぁいいでしょう。どうぞ、気の向くままに壊滅を」
ライコスがスティコシアから居なくなって暫くしてから、長夜月は戦闘態勢を解除した。ステュクスは元の流れに戻り、暗黒の潮に汚染された地域も綺麗になった。
「……うーん、やっちゃったなぁ」
面倒な奴とのダルいやり取りも無事終わらせられたので、ようやく反省会が出来る。
いやぁまさか、キャストリスにバレてるとは思わなかったよね。どうしてニカドリーに理性が残ってんだ。ふざけるなよゴーナウス!
いや、口先で誤魔化すこと自体は出来たのだろう。かつて野外を歩き回っていたらたまたまニカドリーと遭遇したけど、たまたま襲ってた暗黒の潮を利用して生き延びたとか。しかしげに恐ろしきはアナクサゴラス(おまけでサーシス)だ。舌先三寸で騙そうとしてみても、彼等を相手に通用するどころか片っ端から謎を全て解明されてしまいそうだ。最悪身バレとかまでなら構わないのだが、心の奥に秘めた本心だけはバレる訳にはいかない。
まぁ、逆に考えればこのタイミングでバレたのは丁度良かったのかもしれない。この後の流れとしてはサーシスと融合したアナクサゴラスをアグライアが監視し、カスライナがオロニクスを討伐し火種を確保、トリアンが限界を迎え、カスライナから火種を奪う為にアナクサゴラスの作戦で戦いオロニクスの火種を奪取、モーディスが紛争の半神となりクレムノスで暗黒の潮を押し留める。民会で元老院と黄金裔との議論が勃発し、開拓者が歳月の半神となりつつ失われた自らの魂を取り戻す為にキャストリスとタナトスを追う。タナトスの火種を手に入れキャストリスが半神となり、アナクサゴラスは再創世の仕組みを解き明かし自らの命と共に火種を返還する。
一先ずここまでの流れを思い返してみても、私が関われる場所もそうすべき理由もありはしない。元々いなくても変わらないのだから当然ではあるが。
無事に開拓者達の旅は軌道に乗っており、下手な干渉さえ避ければ迎える結末は変わらない。ならばこそ、やるべきは邪魔をしない程度に自らを印象付け派手に散る事だ。今までの行いと欺瞞の権能による仕掛けで、多少は黄金裔達の思考のノイズになるだろうが、結局黄金裔は火を追う事こそが至上命題であり、差し迫る終焉に抗う為に彼等はタイタンの征伐を急がなければならない。
「……ああ、もしかして見てるのかな? ピンクの妖精さん。もし貴方達がタナトスを追っているのなら、この道で間違いないよ。でも気を付けて、メデイモスすらも感じ取れない死の半神の居場所は、この現世には無いからね」
そう呟いてから、どうせならとスティコシア内部へと足を運ぶ。荒れ果てた建造物、ステュクスに半分以上飲み込まれた光景。かつてのセイレーンや住まう市民達が居た頃と比べれば、ただの抜け殻としか表現出来ない。
そう言えば、ヘレクトラはどうなったのだろうか。カイザー率いる火追いの戦争には付かず離れずで参加して、法の半神の試練に巻き込まれないようにしていた為、法と海洋の半神の結末については見ていない。恐らく試練の為に五百の黄金裔達を使ったケリュドラに、セイレンスは刃を突き立てたのだろうが……そのまま自らの望みを絶ってしまった事に気付いて発狂したのだろうか?
人間ですらない私すらも魅了するような、夢と現を曖昧にしてしまうあの歌声はもう聞こえない。祝宴に湧き上がる人々の歓声も聞こえない。このスティコシアにあるのはさざ波の音だけだ。
ああ、私は彼女の歌が好きだったのだ。人の姿をしただけのバグデータでしか無い私には、睡眠という機能が存在しない。目を閉じて、眠っている振りは出来るけれど、人と関わる事を極力避けてきたこの千年間でそんな真似をしたのは僅か数回。
けれど、彼女の歌の中でなら確かに眠れたのだ。
救おうとは思わなかった。この輪廻の二人は、開拓者達が到達する時には行方不明でなければならない。オクヘイマはカイザーの代わりにアグライアが統治していなければならないし、六万の敵を屠った剣旗卿の存在は戦力として大き過ぎる。
けれど今にして思えば、確かに私はケリュドラの背中に夢を見ていたし、ヘレクトラの齎す微睡みが心地良かった。
接触すらも最低限に抑えていたけれど、それでもこうまで胸を焦がすものなのか。
「大丈夫、約束は果たすよ」
ステュクスに触れて、思いよ届けと呟いてみる。彼女達の魂は、果たして他と同じ様にステュクスに流れ冥界に拒まれているのかは分からないけれど。
『ならば、カイザーの名のもとに命じる。名も無き戦士よ、その身命を賭して再創世を遂げさせよ』
『カイザーの命に反するな。私が望むのはこれだけだ』
随分と懐かしい声が耳元で響いたような気がした。なんだがセンチメンタルな気分に沈んでいた自分が酷く馬鹿らしい。
さて、折角自らを黄金裔と偽る必要すら無くなったのだ。存分に自由に行動しようじゃないか。シナリオは軌道に乗って、再創世へのルートは固定化された。激流に身を任せた枯葉のように、もうこの勢いは止められない。
私が何かをした所で、迎える結末はただ一つだ。
「じゃあね、ヘレクトラ。貴方の歌を聞くべき人は他にいる」
場所は代わりヤヌサポリスにある謁見の祭壇。ここは人間に対し比較的マシな対応を見せてくれるタイタンであるオロニクスの御座す場所。そこにトリスビアスの断片であるトリビー、トリノン、トリアンがいた。
しかしその三人が異変に気付いた時、火種を盗む者「フレイムスティーラー」とアナクサゴラスによって呼称された存在が現れ、彼女達はピンチに陥ってしまう。
トリアンが残された僅かな力を振り絞り百界門を開き、トリビーとトリノンを逃がす事に成功したが、彼女のピンチは変わらず。そのまま殺されてしまうという所で彼女を助けたのは、勇敢なるクレムノスの戦士であるケラウトルスだった。
戦場での死を誉れとするクレムノス人ではあるが、戦場に立つべきでは無い子供を守る為その身を盾とした。
追い詰められ、崖から落ちた彼等に対し「フレイムスティーラー」は火種を持たない半神ですら無い存在は殺す価値も無いと、ケラウトルスの奮戦に敬意を表して立ち去った。
そのすぐ後に、ケラウトルスも酷い怪我や出血が原因で意識を失ってしまった。
「彼は、偉大な戦士だね」
「……月ちゃん」
「数日ぶりかな? 聖女ちゃん」
元々後数回も百界門を開けないだろうと言われていたトリアンは、神悟の樹庭とヤヌサポリスで立て続けにヤーヌスの権能を使った。その結果、記憶の忘却など限界を迎えつつあった彼女の最期の時が訪れようとしていた。
「大丈夫、安心して。ここは深淵ではあるけれど、貴方が眠り助けが来るまでは、暗黒の潮が襲い来る事は無いから」
「……そっか」
聞きたい事や、疑問に思う事はきっと多いのだろう。しかし、トリアンの表情は何処か晴れやかで嬉しそうなものだった。
「一人で迎える最期ほど、寂しい事は無いでしょ? だから、貴方が眠るその時まで隣にいてあげるよ」
まだ暖かい彼女の手を握りそう言ってあげると、一層嬉しそうに笑みを浮かべた。或いは母の事を思い出しているのかもしれないと考え、ついでに小さな頭もゆっくりと撫でていく。
「優しいんだな、月ちゃんは」
「もう騙す必要も無いからね」
その人物が優しいかどうかなんて、所詮は観測者がどう思うか次第だ。私は自分が優しいとは微塵も思わないが、少なくともトリアンがそう感じているのならわざわざ否定するまでも無い。
トリアンの身体から金色の粒子が流れ出る。それは死んだタイタンの神躰が崩れる時や、一部の黄金裔の死ぬ時と同じ様な光景だった。
「下手かもしれないけれど、歌でも歌ってあげるよ」
微笑んだまま消えていくトリアンに、鼻歌を歌って聞かせる。人間は死ぬ時最後まで残っている感覚が聴覚だと言うので、きっと彼女にも届くだろう。
身体から温もりが抜けていくと同時に、掴んでいた手も消えていく。
やがてその場に残っていたのは、トリアンを模した人形だけだった。
「……ヘレクトラくらい上手ければ、安らかに眠れたのにね」
おやすみ、トリアン。
世の中には先ガバ有利の法則というものがあります。
これは先にガバをする事で、相手のガバを誘発し結果的に有利を取れるという法則の事ですね。
しかし残念ながら偽夜月の相手はスタレ世界そのものなので、相手のガバは誘発させられないのでただのガバとなります。
実は本物長夜月も、意外とぽんこつな所があるの可愛いよね