鈴木藍那は一般的な高校生である。
仲の良い友達と買い食いしたり、部活で汗水を垂らして青春を謳歌したり、正に我が世の春を満喫していた。
そう、していた。
その日は8月8日夏休みの真っ只中、それは起こった。その日は猛暑であり藍那は中学生の弟の創と共に部活の練習のために途中までの同じ道のりを一緒に談笑しながら歩いていた。
その時トラックが一台突っ込んで来ていることに藍那は気付いた。
その瞬間彼女の脳は生き残るために高速回転したことを理解した。
(私だけなら避けられる!)
トラックが突っ込んでくるまで2~3秒。今から思いっきり後ろに飛べば助かる!
だが、不幸なことに藍那と話ながら前を歩く弟は藍那と話すことに夢中で突っ込んでくるトラックに気づいていない。
つまりは2択。
弟を突き飛ばせば弟は生きるだろう。だが、自分は死ぬ。自分が後方に避ければ弟は避けれず弟が死ぬ。
抱きついて一緒に避ける?無理だ。弟はがっしり体型で思いっきり突き飛ばすぐらいしなければ助けられない!
(どうしよ!どうしよ!どうしよ!どうしよ!)
この間0.2秒だが、考える前に彼女の体は既に動いていた。
鈴木藍那17歳は精一杯の力で弟をドンと突き飛ばしていた。
「え?姉ちゃ 」
ああ、やっと弟は気付いたようだ。
全く世話の焼ける弟だなあ。
・・・けど、うん。後悔はない。だって姉は弟を守るモノだから。
トラックが近づく、私はもう助からない。
走馬灯が頭をちらつく、が、もう遅い。もう助からない。スローになった世界の中で私はそれをクリアな視界で捉えていた。
・・・こう言う時あのゲームならなんて言うだろう。
まだ、クリアしていないあの最悪の鬱ゲー。
でも、まあ、ここは無難に行こう。愛する弟に最後の言葉を贈ろうじゃないか。
「生きて」
私が言えたのはそんなたった3文字。
その瞬間、私はゴン!と言う音と共に絶対に聞いてはいけない音を聞いてしまった。
「姉ちゃああああああん!」
「きゃあああああああ!」
「人が轢かれたぞ!」
「救急車!早く!」
そんな声が意識が消える片隅で聞こえたのを最後に最後に私は鈴木藍那と言う17年間の人生を終えた。
でも、まあ仕方ないよね。
◆◆◆
そして気付いたら転生していた。
いや、正確には前世を思い出しただけだった。
それも目の前にはよだれを垂らす化け物。
つまり、あれだ、走馬灯ついでに前世の記憶も思い出したのだ!
「何で!今!思い出した!」
絶体絶命から絶体絶命。
って言うか前世はそのまま死んでいる。
「ちくしょおおおおお!」
そこから始まるは脱兎のごとき逃走劇。
ここがプレイしていたゲームの世界だと気付くまで、彼女の逃亡劇は続いた。
頑張れ!鈴木藍那改め、アイナ・クライ!
この鬱にまみれた世界が平和になるその日まで!
ここから彼女の第二の人生が始まった。