今日この日、鈴木藍那の葬儀が行われた。
と言っても大きなものではなく家族葬であった。
だが、そこに弟、鈴木創の姿は無かった。
「創!いい加減にしなさい!お姉ちゃんの葬儀なのよ!創!」
母親の怒声が飛ぶが創は頑として自分の部屋から出てこなかった。
「・・・・・・後悔するわよ。創。」
母親はかみ殺したような声で言って去って行った。
「・・・後悔ならもうしてるよ、母さん。」
◆◆◆
(side 鈴木創)
あの日、姉ちゃんが俺をかばってから俺は家に閉じこもった。
姉ちゃんは死んだ。トラックに打たれた場所が悪かったのが主な原因だったらしい。
ちなみにトラックが突っ込んできた理由は居眠り運転だった。ただ、運転手の不注意だけが問題だったのではなく、その働いている会社では過酷な残業が多かったらしい。運転手もほぼ眠れない生活をしながら運転していた。その結果あの日ついに事故が起きたのが事件の真相だった。トラックの運転手には会えていないが、警察が言うには謝罪の言葉をずっと言っていたらしい。
もしかしたら、本当は真面目で良い人だったのかもしれない。
「・・・何を恨めって言うんだよこんなの。」
事件お起こした運転手が悪い?確かにそうだが、常習化されたブラック体質の企業にも大いに問題があっただろう。じゃあ、その企業が悪いのかと言えばいいのだろうか?そうでもないだろう。昨今の運搬業が人手不足と言うのは俺だって知っている。そのせいもあるのだろう。
問題を追っていくと結局は運が悪かったと言うことに行つくのだ。
・・・嫌違うな。逃げてるだけだ。
悪いのは、一番悪いのは、あの時、トラックに気付かなかった俺じゃないか・・・。
「創!」
「遅れた。・・・ごめん。」
その瞬間、母は創を力いっぱい抱きしめた。
「ありがとう。出てきてくれて。」
母はただただ嬉しそうにそう言ってくれた。
「創。顔洗ってこい。ひどい顔だ。姉ちゃんに笑われるぞ。」
いつも厳格な父が今日はどこか優しくなっていた。
創は言われるがまま顔を洗った。確かにひどい顔だった。
父も母も祖父母もそろって喪服に着替えていて自分も喪服へと着替えた。
そして、葬儀が始まった。
姉の体は綺麗にされていた。
あの時はあんなに・・・・
『生きて』
・・・姉ちゃん。
葬儀は一通り終わった。後は火葬するだけだ。
あの元気が取り柄の姉が火葬されてもう会えないなんてどこか夢を見ているようだった。
「ごめん。姉ちゃん。」
そんな言葉をいつの間にかつぶやいていた。
そしたら、ぽたりぽたりと涙が溢れてきた。
「ごめん・・・ごめんなさい。・・姉ちゃん。」
姉ちゃん、やりたかったことあっただろうな。
姉ちゃん、いつも俺のこと守ってくれたのに何も返せなかったな。
姉ちゃん、俺なんも約束守れねえじゃん。
思えば思うほど涙が止まらなかった。いつの間にか俺は声を大にして泣いていた。それこそ小学校低学年の時以来のようにわんわん泣いていた。父さんも母さんもじいちゃんもばあちゃんも泣いていた。みんなみんな泣いていた。
家族葬はそれで終わった。
俺はそのまま帰って風呂入って寝た。
でも、寝れなかった。そうしたら、リビングで母と父が静かに泣きながら話していた。
「・・・どうして、あの子が。」
「藍那は創を守ったんだ。・・・褒めてあげなくちゃ、そうだろ母さん。」
「そうね。そうよね。お姉ちゃんだもんね。藍那。・・・あい、な・・・。」
ずっとずっと泣いていた。本当にずっとずっと泣いていた。
あの厳格な父が泣いている姿なんて想像も出来なかった。
「・・・逃げるのはダメだよな。」
そうして俺は勇気をもってリビングに出た。
そして
「「創!」」
「父さん、母さん、話がある。」
俺は全部話した。
俺がトラックに気づけなかったこと。
気付けば姉ちゃんは死ななかったこと。
最後に姉ちゃんが言っていたこと。
全部、全部話した。
あれから、ずっと同じ夢を見ることも、あれから、実は全然眠れてないことも、話して話して、謝った。
「・・・姉ちゃんを・・助け・・られなくて、ごめん。父さん、母さん。」
結局、俺は謝りたいだけだったのかもしれない。
ただ、その夜は父さんも母さんも俺を抱きしめてくれた。
「生きて、か。」
「本当に凄い子ね。藍那は。」
「ああ、本当に。」
「創もきっとこの言葉があったから。」
「ああ、本当に凄い娘だ。藍那。」
自分の命が掛かった時に他者の心配を最後までするなんて、本当になんて子なのだろう。藍那の父も母も創の話を聞いて少し誇らしくそしてそれ以上に寂しさと悲しみを感じていた。
そしてその言葉があったから創が前を向いていけると言う確信が両親にはあった。
「創は藍那のたった一人の姉弟だもの。ちゃんと伝わっているわ。きっと。」
「ああ。きっと伝わってるさ。俺達以上に。」
ただただ姉弟の愛情の存在に二人はあたためられていた。
その後、程なくして創は学校に復帰した。
創は学校に復帰し、娘が居なくなった家で、父と母は静かに過ごしていた。
すると、
ピンポーンとインターホンが鳴る音が響いた。
「誰かしら?」
「さあ?」
するとそこには藍那と同じ制服を着た、少女が立っていた。
「あの、ここは鈴木藍那さんのご自宅でしょうか?」
「ええ、そうですが・・・藍那のご友人ですか?」
「・・・はい。その部活の後輩で、その、納骨まで終わったと聞いたので、その、私にも墓参りさせてくれませんか!」
「・・・その、た、大変お世話に・・・なったので。」
いつの間にか、少女の頬には涙が溢れていた。
藍那の父と母は目を合わせて驚いた。
身内以外の者にここまでの行動を取らせるのはそれだけ凄いことだ。
「良いわよ。教えてあげる。」
「ありがとうございます!」
少女はそれをメモして家を去って行った。何でも部活のみんなで行くそうだ。
「あの子は幸せ者だな。」
「ええ、きっと。」
こうして鈴木藍那の死は受け入れられた。