Q.転生者の存在意義とは?   作:七黒八白

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A.大丈夫じゃない、多分問題だ。



第十一話 Q.そんな武器で大丈夫ですか?

 

 

 

 ディアベルとの話し合いで、ボス攻略戦は少し遅らせる事となった。貴重なギルドフラッグを攻略組に紛れているかも知れないPKプレイヤーに渡さない為に、ディアベルのギルドの強化の為に、俺達の手で確実に手に入れる為に、俺とフィリアのコンビとキリトとアスナのコンビは、ボス攻略メンバー集めに奔走している。

 

「…………けどさ、報われない話だよね」

 

「ん? 何がさ?」

 

 迷宮区の攻略の為に拠点としている、現時点では最前線と言える《マナナレナ》。その村から近い夜の森の中を疾走しながら、後ろの女性プレイヤー────フィリアが不満そうに呟いた。

 

「いやね? 必要な事だって言うのは私も分かるよ。ギルドフラッグの性能次第じゃPK集団が攻略組を真正面からPK出来る可能性も出て来る。だから先んじてそれを手に入れて、ディアベルさんの《ナイツ・リスプレデント》に渡す…………でもさ、これってオウルにも、キリトとアスナにもあまり恩恵は無いじゃない」

 

 俺が探している人物が恐らくこの先にいるので、疾走から徒歩に変えてフィリアの疑問と不満に答える。十二月後半でそろそろクリスマス・イブも近い夜の森、こうして二人きりで女性といる状況はSAOでも恵まれているかも知れないが。時折吹いていくる風は心地良さなど全く無く、そしてデートというには今いる森には風情など全く無い。何よりも、攻略組の未来が掛かっている現状では、浮つく気持などまるで湧かない。

 

「確かにそうかもな……でも、攻略組の半分以上を占める《ナイツ・リスプレデント》が強くなる事は全SAOプレイヤーにとって良い事だし、そもそもPK集団の話を持ち込んだのは俺達だ……言い出しっぺの法則だよ」

 

 あと、どうでもいいけど《ナイツ・リスプレデント》ってギルド名は誰が考えたんだろう。直訳すると《輝かしい騎士達》や《壮麗な騎士達》だろうか、シンプルに《ナイツ・オブ・グローリー》とか《ナイツ・オブ・ザ・ラウンド》で良かったのではないかと思う。いや、まぁ、ディアベルとリンドはまだ分かるよ? でもキバオウ似合わねぇー…………。

 

「それにしてもだよ…………ディアベルさんもギルドや攻略組から何人か頼りになるプレイヤーを見繕ってくれたりしても良いのに」

 

「出来る事ならそれは避けたい。そのプレイヤーがPK集団の息が掛かってない保証が無いし、それに俺達の目的はボスの討伐であって偵察じゃない。ディアベルがどう説明するかにもよるけど、今の所カバーストーリーは“逃げるのは無理めだったから倒しちゃった☆”だからな。勝手にボスを討伐した事になる今回の作戦は、ついてきたプレイヤーの印象や立場が悪くなる可能性もあるしな…………」

 

 ディアベルのギルドメンバーにしても、攻略組にしても、周囲のプレイヤー達との軋轢が生じるような事は避けたい。それで、もしもそのプレイヤーが孤独に苛まれて追い詰められている時に、黒ポンチョ────Pohに唆されでもすれば、目も当てられない。

 勿論、それは幾ら何でも悲観的過ぎるとは自分でも思うのだが、同時に『ならば何故、モルテと黒フードはPohに付き従っているのだ?』とも思う。現状では、それだけ奴の人心掌握は計り知れない。まさかエクストラスキル《洗脳》でも持っているのではないかと、馬鹿馬鹿しい考えすら浮かんで……………………いや、もしも、他者に対して強烈な“心意”を働かせるなら或いは────

 

「ところで、今の何処に向かってるの?」

 

「────え? あー、この森には装飾品や革系装備とかの素材を落とすmobが多いからな。前も言ったけど、俺の唯一のダチがこの先に……居たな」

 

 末恐ろしい考えが俺の思考を染めかけたが、フィリアがそれをインターセプトした。俺は意識を現実に戻して周囲に《索敵》を使用する。すると周囲には弱いmobの光点とプレイヤーの反応が二つ。ハッキリ言って、この辺りのmobは大して強くない。俺は勿論の事、現在LV16のフィリアでも簡単に倒せるだろう。

 

「モンスターは兎も角…………プレイヤー反応が二つか……」

 

 まさかとは思うが、念の為にフィリアにもハイディングするように伝え、足音を殺しながら木の陰に隠れる。恐らく俺が探していたプレイヤーも《索敵》を持っている筈だが、物音や気配を消せば熟練度的には隠れられない事も無いだろう。陰から身を出さず、俺はストレージから鏡を出す。

 仮想世界は基本的に現実世界に極めて近いが、幾つかの欠点というか製作者の意識が回らなかった点がある────その一つが、鏡を用いた遠近エフェクトの除去。基本的にスキル補正無しの場合、遠くの景色は霞がかかった様に見えづらいのだが、鏡に映した場合はそのエフェクトが消えてクリアに見えるのだ。

 

「まさか、アイツらが……?」

 

「決めつけるのは早いな、様子を────!」

 

 そして俺が目撃したのは────細剣使いのアスナと大鎌使いのミト。

 例え、小さな鏡でも見間違えない。紫色っぽい黒髪のポニーテールに白い外套と大鎌、瞳の色こそリアルの翡翠色では無いがフード無しでSAOを歩けば目立つことこの上ない美しい容姿…………今更だけど、アイツなんで純日本人の筈なのに翡翠色の瞳なんだ? いや、俺もなんでか瞳が青色だし、この世界の人類には“フラクトライト”なるものが脳に有るらしいので『そういう生態でそういう遺伝子がある』と言われたらそれまでだが。

 

「アレってアスナと……もう一人は誰?」

 

「俺の友達……因みにアスナとも友達なんだが…………」

 

「…………歯切れ悪いね」

 

「喧嘩別れしちゃってね」

 

 一層のボス戦以降は一度も会ってない、フレンド登録こそ消してないが一度もメールは来てないし送ってない。あれから攻略組を何度か遠目に見たが、アイツの姿は無かった。最前線で戦う事を辞めて、店を開く事にしたというのをアスナから聞いたが本当だったようだ。死が身近にある最前線には、もうミトは出る気はないのだろう…………。

 

「オウル……?」

 

「何でもない────それよりも、アイツらデュエルするみたいだな」

 

「え!? 何で?」

 

「多分ボス戦に挑むモチベーションが無いアイツを、アスナが引っ張り出そうとしているんだろうな…………」

 

 そこまで言って、俺は漸く気付いた。果たしてフィリアはどうなんだろう、と。

 彼女が俺とコンビを組んだ理由は、カルルインでの遺物拾いを効率的に行う為だ。無論、その前のひと悶着も理由に含まれているだろうが、今となってはそれは些末事。あれから約二日経っているが、なし崩し的にまだコンビは続いている。しかし、もうそろそろ明確にしておかないといけない頃合いだろう────いや、寧ろ遅過ぎたくらいだ。

 

「────フィリア、お前はボス戦に参加しない方がいいんじゃないか?」

 

「…………え?」

 

 突然の俺の言葉に、彼女は理解が追い付いていないようだ。流石に直球過ぎたかと反省して、ゆっくりと詳細に言葉を継ぎ足していく。

 

「お前は、元々攻略組に入ってたわけじゃないし、攻略組を目指していたわけじゃない。PKプレイヤーに目を付けられたから、護衛も兼ねて今はこうして一緒に行動しているけど……今回のボス戦は、かなりイレギュラーな戦いになるだろう。レベルマージンは充分でも、ノウハウも無しに参加はしない方がいい」

 

 そんな事をつらつらと言いながらも、同時に俺には償う方法が思いつかなかった。あのPKプレイヤー達が、フィリアの事を何処まで付け狙うかは現時点では不明だ。だが、声と下手をすれば顔を見たかも知れないフィリアを、そのままにしておくのは奴らにとってもリスキーな筈だ────間違いなく、奴らは口封じに来るだろう。

 しかし、奴らの狙いはディアベルだけではない。まず間違いなく俺とキリトも含まれている。厳密には攻略組全員が狙いなのだろうが、優先順位的には俺達が高いだろうという嫌な確信があった────つまり、俺の傍に彼女がいる事は、ただそれだけでずっと危険に晒す事に等しいのだ。自分一人で背負いこもうとしたが、結局周りに迷惑しか掛けられていない自分の弱さと愚かさに嫌気が差す。

 

「俺は、間違いなく奴らの標的になっている。だから────」

 

「────オウル、流石に何でもかんでも背負い過ぎだよ」

 

 懺悔や告解にも近いその提案を、彼女は女子らしい細い人差しで、俺の上唇に載せて止めた。虚を突かれた行為によって、殆ど固まっていた筈の決意と自己嫌悪が僅かに揺らぐのを感じた。彼女の瞳が真っ直ぐにこちらに向けられて、その純粋な輝きに目を背けたくなるがグッと堪える。

 

「そもそも、私がお宝に目が眩んで落とし穴に落ちた事がきっかけでしょう? 別に、オウル悪くないじゃん。アイツらが勝手に貴方を目の敵にしてるだけじゃない、()()()()()()()()()()

 

「それは…………」

 

「それにオウルがさっき言ったんだよ? ディアベルさんのギルドが強くなる事は全SAOプレイヤーにとって歓迎すべき事だって! だったらさ、私にもちょっとは戦う理由ってヤツ? あると思うな」

 

 励ましてくれる彼女の得意げな笑顔に、寧ろ俺の精神は針の筵に置かれるような心地になった。そう、俺は、まだ言っていない事があるのだ────一層のボス戦以降、噂になっている元攻略組のPKプレイヤーに追われているプレイヤーが俺である事を。

 

 ────そして、俺が、そのプレイヤーを、殺した事を。

 

「…………決着した、みたいだな」

 

 鏡に映した二人の姿を注視していると、ミトが態と隙を晒して誘い込んだ所に、変形ギミックが仕込まれた大鎌の分銅が地面から跳ね上がり、アスナの胸を強かに打ち据えた。剣技のやり取り自体は、殆ど互角だったと言って良いだろう。しかし、アスナには絶対的に対人戦の経験値が足りていない。逆に言えばベータテスターでも無いのに、既にそれだけの領域に指を掛けているという事だが。贔屓目なしに見ても、明らかにアスナは潜在能力がある。

 

「凄いね……! アスナもだけど、相手の鎌使いも。ていうかあんな武器があったんだ」

 

「あぁ、他にも鉄爪や軟鞭や投剣専用のチャクラムとか……俺が知らないだけで、もっと沢山の武器種があるだろうな」

 

「…………なんべん、って何?」

 

「柔らかい鞭の事、一般的に想像される鞭だな。棍棒的な扱いをされる硬鞭ってのもある。ほら、封神演義に出てくる打神鞭とか」

 

「ごめん、知らない…………」

 

 閑話休題(それはそうとして)、フィリアにこのSAOは阿保みたいな量の武器種がある事を教えてから。アスナが立ち去るのを見届けて、俺は木陰から出てハイディングを解除する。夜の森でもある程度は月の光が照らしてくれるので、臨戦距離に入る前にお互いの姿は判別できる。どこか幻想的な月明かりが照らす夜の森で白マントの鎌使いミトに、白髪に染めて新調してなお白いトレンチコートに拘る俺、盾無し片手剣士オウルが再会した…………目立つ格好だな、お互いに。

 

「────オウル!?」

 

「────や、()()

 

 俺の立場とか、彼女の心情とか、色々な物を考えればこの声掛けは正しいとは思えなかったが、それでも申し訳なさそうにしていれば許してもらえるとも思えなかったので。取り敢えず気さくに声を掛けてみた。ミトは驚きながらも、少しだけ明るい声音で────

 

「…………うしろの、()は────だれ?」

 

 ────応えた筈なのだが、何故か80くらいは固かった好感度ゲージがギュイィィーン! と20くらいまで急降下した…………え? 俺なんかやっちゃいましたか? 

 

「あ……あぁ、彼女は────」

 

「────()()ッ!?」

 

 ────違う、違うよ? LoverじゃなくてSheって意味だよ? 

 そう伝えようしたのだが、まるで生まれたての小鹿みたいに脚をプルプルさせている鎌使いの異様な姿に言葉が詰まってしまう。それが彼女の目にどう映ったのか分からないが、昏い表情で口角をヒクつかせながら笑い、ミトは後ずさる。ちょいちょい、違うって、待てって、おい。

 

「ふ、ふふふふふ、そうなのね……そうなんだ。貴方にも、アスナにも、私はもう必要ないのね────────さよなら! 元気でね!!」

 

「ちょッ待ッ、お────い!!? どこいくね────ん!?

 

 違う! 絶対に違う! 俺とフィリアの関係をコイツは絶対に勘違いしている! このまま逃がしたら一番仲良しであろうアスナ辺りがどんな反応するか分からない! 俺は焦りながら何故か笑いのニューウェーブ風に引き留めようとする、されど振り返る事無くミトは素早く近くの枝に跳んで去っていく。ならばと《索敵》で追い掛けようとするが、かなり熟練度が高い筈の俺でも痕跡が見当たらない────アイツわざわざ《隠蔽》使いやがった! 

 

「…………オウル、サイテー」

 

「なんで俺が振ったみたいになってんの!?」

 

 夜の森の中で、暫定的コンビ相手からジトーっとした目で非難される、情けない男の声が響く。

 

 

 

 ────ていうか、俺だった。

 

 

 

 ♢

 

 

 

 ディアベルから貰えた猶予は、あと一日と数時間。しかし、迷宮区の奥深くに鎮座しているボスの元まで余裕を持って到着するならば、余分な数時間は無いものと考えて、ちょうど丸一日とすべきだ。

 この前の迷宮区のマッピングと門番的ボスの討伐によって俺はLV19になり、フィリアはLV16になった。いま俺達はミトと再会した森から《マナナレナ》に戻って、今後の計画を立てている。古い遺跡と現在も使われているらしい坑道ダンジョンがあるこの村は、下方向にグルグルと渦巻く摺鉢(すりばち)状になっており、村という割には石畳や遺跡と同じ石材の建物が並んで牧歌的な雰囲気はそこまで無い。

 キリトとアスナからのメッセージでは、エギルの四人組と、ネズハという聞き覚えが有るような無いようなプレイヤー、情報屋のアルゴが現時点では参加が決定しているらしい。因みにアスナも俺と同じくミトを誘ったが、やはり負けた事もあり不参加のようだ。惜しいような、ホッとしたような…………少しだけ、複雑だ。

 

「ねぇオウル? これからどうするの? 他に宛ては無いの?」

 

「無い、皆無だ……俺もフィリアも今からレベリングするくらいなら、装備を新調及び強化した方が戦力アップに繋がるだろうな」

 

「オウルって友達少ないんだね、なのに振っちゃったんだ、あの子?」

 

 うぐぅ、と精神的に脆い部分にフィリアの攻撃────いや、()()が刺さる。いや振ったというのは滅茶苦茶に誤解なのだが…………いや、もしかしたらミトにとっては、()()()()()()()()()()、心の古い傷口を抉られたような気分になったのかもしれない。そう思うと俺も、申し訳ない気持ちになるが解決する事は出来ない以上、一旦それは棚上げにするほかない。

 

「触れないでもらえるか、そこは…………それよりも装備の新調をしよう。今はこの村が最前線になっているから、生産職系のプレイヤーも多くいる筈だ。多分、もうそろそろNPCよりも熟練度が高いプレイヤーが現れてもおかしくない」

 

「うーん、装備かぁ…………私は《ブレッシング・ダガー+4》を強化するくらいかな」

 

 フィリアはメニューウインドウを出して、何やら指でストレージを見分しながら呟く。迷宮区の宝箱の中身、フィールドのmobの狩りに加えて、初めて会った夜のクエストリワードと遺物拾い祭りで素材も資金もウハウハで潤沢な筈だ。それでも武器以外に強化余地が無いとなるなら、全身の防具がほぼ今いる層よりも上の階層でしか素材が手に入らないのだろう。

 対して俺の方はというと、インナー、スラックス、ブーツ、グローブは現時点でほぼ最大まで強化されており、少なくとも七層後半まではこのままでも大丈夫だろう。クエストリワードやmobからのレアドロップを厳選した甲斐もあって、この村では今すぐ更新する必要も余地も無い。

 

「俺は、このトレンチコートと片手剣が強化の余地があるな…………鍛冶師と針子の生産職プレイヤーを探すか」

 

「うーん、こういうのってさ、どこを探すのがセオリーなの?」

 

 フィリアと共に石畳の道を歩きながら俺は答える。周囲には一線級のプレイヤーだけではなく、ミドル帯のプレイヤー達も多く行きかっている。アルゴのガイドブックのお陰で、パーティさえ組めばmobなどの対策が容易だからだろう。彼女にはちゃんとした形で、感謝と何かしらの品を贈らなければと、心にメモっておく。

 

「答えはその街や村の名物がある場所の近くだな。要するに、人が集まる所に自ずと商機を見出したプレイヤーが《ベンダーズ・カーペット》を広げている。ベータ時代でもそうやって人脈を広げていったな」

 

 その時、何故か《ベンダーズ・カーペット》とネズハというプレイヤーネームが結び付きかけたが、特に重要な感じはしなかったので真相に繋がる尻尾を俺はあっさりと手放した。多分、俺が忘れている原作イベントがあったのだろうがPK集団では無いなら、後回しだ。

 

「へぇ……因みにこの村の名物は?」

 

「確か、バナナ味のロールケーキだったかな? デッカイケーキで食いごたえあったなぁ……転移門はここにないから、その周囲にプレイヤーが居るかもな。そこを探してみよう、ついでにケーキも食おう」

 

「後半が本音だよね」

 

 フィリアが背後から何か言った気がするが、特に────いや絶対に、間違いなく、天地がひっくり返っても有り得ない位に重要では無いので、右から入ってきた音声を左へ受け流す。歩く速度を1.25倍速にしてロールケーキが売っている喫茶店まで急ぐ、すると俺の読みと知見に違わず、大勢のプレイヤーで賑わっている。今は多くのプレイヤーがホームを買えないので露店商だけしかいない。

 

「ふむふむ、《調合》スキルを使ったポーション類の販売に、《裁縫》スキルのお洒落目的の販売に、ガチガチの戦闘ビルドだが使わない素材の売買を行う万事屋的な事をしているプレイヤーもいるな…………」

 

「凄いね……なんだか、本物のファンタジーの世界みたい……」

 

 ほえー、と感心しているフィリアに心の中で同意する。しかし目的の鍛冶師は全く見当たらない、露店なら携行製錬炉で開いている筈なので目立つ筈だからだ。ならばと思い《裁縫》スキルのプレイヤーの元に行って新しいコートを作ってもらえないか相談するが、スキル熟練度が足りないので一線級の防具は作成出来ないとの事だった。

 だが《調合》スキルのプレイヤーの露店はかなりいい感じで、メッチャ不味いポーションしか売ってないNPC店よりも、高い効果があるポーションをフィリアと合計五十本購入した。『毎度! おおきに!』という景気良さそうな声に手を振りながら、露店通りを後にする。このポーションは有用なので集まったパーティーメンバーに割り振ろう。

 

「高品質なポーションは手に入ったけど、鍛冶師と針子はいなかったね」

 

「まぁ、いないなら仕方ない。別に強化余地があるってだけで必須なわけじゃないし…………」

 

 そう言って俺は左腰に帯剣している《ブレイド・オブ・ダスク+5》を撫でる。一層の時から愛用していた鋭さ極振りの《アニールブレード+8》は三層の中盤辺りから耐久性に物足りなさと感じて、インゴットに戻して再錬成した。それで作成されたのが、この直訳で《黄昏の刃》と読める片手剣だ。強化余地はまだあるが、最大強化しても六層中盤辺りが限界だと考えている。これを機にまたインゴットにして再錬成する事も吝かでは無かったのだが。

 

「それよりもケーキを食おう。この層をクリアしたら、上層からわざわざ降りてカルルインから、ここまで歩かないと食えないんだから。最前線の今の内に食べるのが最も効率的だ」

 

「スイーツ食べるのに効率的もないもないでしょ…………でも賛成ー!」

 

 そんな事を呆れて言っているが、フィリアの足も気持ち速くなり、目的地である喫茶店に急ぎ向かう。《カルルイン》で食べた《ブルーブルーベリータルト》とは違って品に限りは無いが、それはそれ、これはこれ。カランと、ドアベルが鳴って店に入ると雰囲気の良い洒落たテーブルに腰掛けて────

 

「はぁー!? 何よコレ!? このケーキこんなに高いの!?」

 

 ────真後ろの席から聞こえてきた、何故か聞き覚えがあるのに、初めて聞く声に肩が跳ね上がった。目の前に座ろうとしていたフィリアも驚いて視線を後ろ席の、声からして女性プレイヤーに向ける。そこにはメニュー表を手に固まっている片手鎚の女子プレイヤーに、珍しい事に全身スチール製の完全防具のプレイヤーがいた。

 

()()()()……どうしよ、これじゃあ私素寒貧よぉ……」

 

()()、私が奢ろう。この鎧を作ってくれた恩も、励ましてくれた恩も、これで返せるというものだ」

 

「駄目よ! それはそれ、これはこれでしょ!? 大体、私の鍛冶師としての熟練度上げに手伝ってくれた事でそれはチャラよ!」

 

 

 

 りず……リズ…………リズベット? 鍛冶師────!!! 

 

 

 

「お前や────!!!」

 

「「────!!?」」

 

 

 

 ♢

 

 

 

 恐らくだが、西暦2000年以降に産まれただろう少女達には、絶対に伝わらないだろうネタで、喫茶店に甘味を求めて集まった彼女達を順に俺は問い詰めていく。

 

「この中に一人、鍛冶師がおる。お前か?」

 

「ち、違うよ」

 

 と、青色のフード付きケープのトレジャーハンター(自称)が答える。

 

「じゃあ、お前か?」

 

「……違う」

 

 と、全身スチール製防具でフル装備した。見るからにタンクっぽいプレイヤーが答える。

 

「じゃあ、お前か?」

 

「ち、ちが────」

 

「お前や────!!!」

 

「────まだなんも言ってないでしょうが!?」

 

 と、盾と片手鎚を装備した『リズ』と呼ばれた女子プレイヤーが答える。いいセンスだ(CV.傭兵の蛇)。この子の《ツッコミ》スキルの熟練度は400、いや甘く見積もっても450はあると見た。因みに、デスゲーム初日から鍛えてる俺の《片手用直剣》は、つい先日でやっと200に達した…………先は長いな。

 

「ちょっと! いきなり何よ! そりゃあ確かに騒がしかったのは謝るけど……」

 

「あぁ、ごめん。別にナンパじゃないよ、さっきの会話からしてズバリ君は鍛冶師だろう? 俺の武器を鍛えて欲しかったんだよ。友達との一時を邪魔して悪かった」

 

 こちら目的をサクッと簡単に伝えて、同時に無礼な真似を謝罪する。目の前にいるリズベット(髪は黒茶色で原作のピンク色じゃない)は人が良く根明なのだろう、俺に敵意や悪意が無いと判断すると直ぐに許してくれた。えぇ子なやぁ……恋人に一途とはいえ、こんな女子からのアプローチに全く気付いていない奴がいるってマジ?

 

「え、あ、ま、まぁ良いわよ。私こそ騒いじゃってごめん……ってこれさっきも言ったわね」

 

「後は君の《ツッコミ》スキルの高さについ釣られクマー」

 

「それは私が相手を誘った場合のネタでしょうーが!」

 

 500……550……600……750……! バ、馬鹿な……!? まだ上がるだと……!? 底知れぬ彼女の《ツッコミ》スキルに、既に俺の脳内スカウターはプスプスと黒煙を上げている────俺は、魅せられていた。主人公(キリト)にも並ぶ、才能(ツッコミ)の原石に! 

 

「打てば響く良いツッコミだ……改めて、俺はオウルだ。よろしくな、リズベット」

 

「熊じゃないんかい! …………まぁいいわ、よろしくね、オウル」

 

 そんな俺とリズベットの下らなくも愉快な寸劇のそばで、フル装備タンクが鎧越しでも分かるくらい反応する。傷があまりない事から作られて間もない鎧なのだろう。それはつまり、攻略組の可能性は低いという事だ。だと言うのに、俺の事を知っているという事は、少し嫌な予感がする。

 

「オウル……? 聞いたことがあるような?」

 

「へえ、俺って案外有名人なのかな? でも君みたいな、女子のタンクプレイヤーとは知り合った覚えがないな。良ければ、君の口から名前を聞かせて貰えるかな?」

 

「!!?」

 

 分かりづらいが、フルフェイス型兜のエコーが掛かっても間違いない、このプレイヤーも女子だろう。わざわざ男口調で話している感じがあったので、知られたくなかったと思うのだが気付いてしまった以上、指摘するほかない。隠していた理由にもよるが、気付いた上で言い触らさない方が印象は良いだろうし。そんな打算的な考えで、彼女の正体を明かす。無論、聞き耳を立てている奴がいない事は既に《索敵》で確認済みだ。

 

「ちょっとオウル! アンタねぇ……」

 

「いや、良いよ。リズ、彼は言い触らしたりしないだろうし」

 

 言いながら留め具を外して角が生えたチェスのポーンっぽい兜を脱ぐと、こちらは俺のスカスカ原作知識にはない少女が出てくる。日本人形の様に切り揃えられたオレンジ色の髪は、生真面目な剣道部員といった印象を受ける。やはり見覚えは無い、というか攻略組には現在アスナ以外に女性プレイヤーはいないのだから間違いようがない。

 

「こんにちはオウルさん。私はリーテンと言います。でも、なんで分かったんですか? バイザーまで下してたのに……」

 

「スチール製タンクのフル装備を揃えるには、鉱石を集めなきゃならないけど。現状のSAOで一人で集めるのは現実的じゃない。多分、リズベットにも手伝って貰ったんだろう? そしてNPC店に依頼したら熟練度の低さから失敗の繰り返しになる、ただでさえ珍しい女性プレイヤーで、タンク職やろうとしてたら普通はそれだけで噂になりそうなもんだ」

 

「そ、それだけで……?」

 

「あとは勘と当てずっぽう……そっちこそ、俺の事をなんで知ってそうだったの?」

 

「その、私の……付き合っている彼が攻略組で、そんな名前のプレイヤーがいるって……」

 

 へぇ、とやや無関心気味に返事してしまったが内心ちょっと穏やかでは無い。多分、攻略組で流れている噂は良い物では無いだろうからだ。それを察したのか、リーテンは一瞬フィリアに視線を向けたが、元に戻して俺に関する話はそこで打ち切ってくれた────正直、ありがたい。

 

「成程な……つまり、君は攻略組の彼の力になりたくて、でも痛いのは嫌だから防御力に極振りにして戦う事にしたわけだ」

 

「ま、まぁそんな所です…………別に防御力が低くても痛みは無いですよ?」

 

 ────あぁ、気にしないで下さい。ただのメンドクサイオタクの発作です。

 

「オウル、このまま談笑するのも良いけど鍛冶の件はどうするの?」

 

「あ、そうだったわ。てなわけで、リズベット。ここはどうか俺の武器を作ってくれないか?」

 

「えー……? 確かに鍛冶スキルあるけど、五層なら探せばNPC店で私よりも熟練度高い奴も────」

 

「お前とリーテンのバナナ味のロールケーキ、俺が奢るぞ?」

 

「────っしゃあ! 言質取った! やったろうじゃない! 後で反故とかしないでよね!」

 

「男に二言は無い! 二言は、無いんだぁぁあああ!!!」

 

「二回言ったじゃん」

 

 ────あまりにも早い転身、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

 口には出さないが、オタクが言いたい名言ランキング上位(俺調べ)を心の中で呟きながら、ストレージからコルをオブジェクト化して反対側に座る彼女達に渡す。

 その後はリーテンの彼との(シヴァタという盾持ち片手剣士らしい)の馴れ初めとか、フィリアが私も奢ってとか言い出して了承した後に『あれ? 工賃代って幾らなんだっけ?』とか、脳内でソロバンを弾いた結果。ちょっと怖くなってロールケーキをチビチビと味わっていると、それを横から啄もうとしてくるトレジャーハンターを『僕のだぞッッッ(CV.美食家)!!!』と牽制する────奢ってやるのにその上盗み食いすな。

 

「いやー食べた食べた……じゃ、《素材》とか《芯材》とか、あとお金が大丈夫なら早速始めるけど?」

 

「ああ、頼むよ。《芯材》はコイツを溶かしてインゴットにして、使ってくれ」

 

「はいはい、《ブレイド・オブ・ダスク+5》ね…………これ強化試行回数も残ってるし、数値的にはまだ通用しそうだけど、いいの?」

 

 帯剣ベルトの留め具から外して鞘ごと受け取ったリズベットが、武器のプロパティを確認した。確かに性能的には申し分無しだ、しかしそれはフルレイドパーティーでフロアボスに挑む場合。今回のボス戦は何人集まるか分からない以上、鍛える余地があるなら妥協すべきでは無い。訝しむ彼女に向けて、俺ははっきり首を縦に振るう。

 

「あぁ、もう決めた事だ。────“魂”を込めて打ってくれ」

 

「なーに言ってんのよ。────―そんなの当然でしょうが」

 

 普通はこんな事を言えば、電子で造られた仮想世界で“魂”など有り得ないと笑われるか、厨二乙と言われそうなものだが。意外な事にリズベットは、そういうものを酌んでくれるタイプだった。露店でも使える携行製錬炉で“黄昏の刃”は灼熱色に染まって、一つのインゴットに変化する。

 その鋳塊は、黄金というには朱色の主張が激しい。だが優しい輝きは宝石のようで、俺もリズベットもリーテンもフィリアも無意識に溜息をこぼした。正式名称は“クレプスニウム・インゴット”というらしい。多分だが、英語では無い。

 

「────よっしゃ! 打つわよ!」

 

 そしてリズベットがスミス専用ハンマーを掲げて、勢い良くインゴットに振り下ろす。

 

「えい!」

 

「よっしゃ!」

 

「ふん!」

 

「はいよッ!」

 

「えいさ!」

 

「ほいさ!」

 

「────うっさい!!!」

 

「────ごめんなさい!」

 

 ────怒られちった☆

 

 

 

 





この小説、主人公がハジケてる方が人気出るんだろうか……。
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