A.貴方が割り切り過ぎなだけです、人の心とかないんか?
「PvPをする前に聞きたい、お前何でそんな浮かない
「…………」
────私は友達を見捨てた、いや見殺しにした。
彼女は私の様なゲーマーでは無い、頭は良くともただの女子中学生という事は分かっていた。でも、この世界に誘ってしまい、招いてしまい、地獄に落としてしまった責任として、私は彼女を決して死なせない様に自らと共に鍛えた。それがせめてもの償いになると信じて。ベータテスターとしての知識を存分に活かして、彼女の得意な武器を選び、効率的な狩場を探してクエストを最速で完了させていき────今から数日前に事件が起こった。
あれは《リトルネペント》を狩っていた時の事だった。彼女も私も一層で戦うには充分なレベルを達しており、当のネペントも《実付き》さえキチンと対処出来れば問題ないと考えていた。事実、私達はそれ以上に強いmobが湧く場所でも問題なく戦えていたし。彼女も要領良く、しかもVRの適性も高かったのだろう。その
────確かな信頼と僅かな期待、だから私はあの時に欲が出てしまった。
ネペントの群れを発見し、狩っていた時に私は偶然レアモンスターを発見したのだ。私も彼女も余裕もあった事もあり迷った。果たして、ビギナーの友達を一人にしてレアモンスターを倒しに行くべきか、ネペントに集中するか。そして、私の選択は彼女に一時任せてレアモンスターを狩りにいった。mobは呆気ないくらい簡単に倒せた。しかし、私が離れている時に彼女が発動したソードスキルの先に《実付き》がPOPしたのだ。手前のネペントに重ねて隠れ、彼女からは見えない位置にいた。咄嗟に大声で呼び止めても既に遅かった、二体のネペントを突き刺し実が弾けて────。
「浸りすぎ────ッ!!!」
「あ
スパーンと勢い良く脳天から衝撃が仮想の肉体を突き抜ける。何をされたのか顔を上げてみると、SAOのベータ以前からの付き合いであるオウルの手にはジョークグッズなのか、ハリセンが握られていた────いきなり何すんだコイツ、八つ裂きにしてやろうか。
「いきなり何すんのよ!? 私は滅茶苦茶悩んで────!」
「だとして、数日間凄く悩んで…………じゃあ、答えは出たのかよ?」
「────!」
「悩んで苦しんで、毎日毎日、自己嫌悪と自己否定の繰り返し────不毛だな」
こちらの心中などお見通しと言わんばかりの青い瞳に少し心がささくれ立つのを感じたが、しかし彼の意見は的を得ている。ずっと、ずっとだ、同じ事を考えて考えて、悪循環の堂々巡り。ここ数日間の碌に食事も睡眠も取れていない、安全マージンは既に達しているとは言えレベリングだって行けてない。今はまだ一層で、前線に復帰するのは難しくないが、ボス討伐の経験値を得られないと置いて行かれるのは────そう遠い話じゃない。ベータテスターのアドバンテージだって、いつまでも続くものじゃない。
「…………お前の相棒ってさ、《黒鉄宮》の碑は確認したか?」
「…………ううん」
オウルが顎に手を当てながら何か考えながら聞いてくる。ベータ時代には蘇生の間だった《黒鉄宮》。今はそこに巨大な石碑があり、そこには現在SAOにいるプレイヤー全員の名前が刻まれており────死んだ者は横線が引かれて、死亡理由も書かれる。私は、怖くて、それすら見ていない。
「────そっか、まだ生きてる可能性もあるわけだ」
「そんな…………そんな希望観測しないでよ!? ネペントの大群に囲まれたのよ!? しかも近くにはフィールドボスだっていた筈だし────」
「なら今から一緒に確認しにいくか? 俺とお前だけなら一時間もかからずに、はじまりの街に行ける」
「そ、れは────」
「もういいだろ? まずは受け入れろ、
────一つ確実な事は、時間が癒してくれないのなら、
「は…………?」
戦いの中で癒す、だと? 彼が何を言っているのか全く分からず、じっと見つめて返答を待つ。以前の四十路のオッサンアバターとは違い
「逃げても駄目、時間も癒してくれない…………だったら前に進んでいく内に何かしらの進展を望むしかない。だがそれは、救いとは限らない。友達が死んだ事実にぶち当たるかもしんねぇし、生きててもお前を拒絶する可能性もある」
「…………ッ!」
その言葉に、幼い頃の苦い記憶が蘇る。仮想世界にも関わらず────或いはだからこそ、私の脳波を読み取ったナーヴギアがアバターをフラつかせた。その様子を見て、流石にオウルも僅かにばつが悪そうな顔をしたが、それでも彼が言葉を選ぶ事はない。良くも悪くも昔から嘘を吐くのが下手だ、コイツは。
「それでも、少なくともここで足踏みしてたって────お前の魂は腐る一方だ」
黒いハイネックのインナーと、シンプルなスラックスというラフな格好だったオウルは、メニューウインドウを出して白いトレンチコートの様な革防具を上から纏う。武器は《アニールブレード》、その鋭い輝きからかなり強化されている事が分かる。剣の重み故か、それとも拘りや自信か、彼はコート以外の防具は纏っていない。防御力を捨てた回避と敏捷性に頼った姿、デスゲームの一層時点で軽装の剣士の極致と言える戦闘スタイル。トールバーナの端の人気が少ない宿屋前で────恐らく、ベータ時代に戦った中で、最も速く最も強かったプレイヤーと、私は向き合う。
「だから戦う。悪いが俺は、この荒療治以外知らない。
────でもお前も、その気で俺を訪ねて来たんだろう?」
「ええ、私の力が、ボス戦でも通じるのか…………貴方で試させてもらう」
「いいぞ…………因みに、負けたらお前はお留守番な。いざという時に怯えて竦んでも困るからな」
────言ってろ、と悪態は心の中で吐いて思考を戦闘に集中させる。
彼我の距離は六メートル弱といった所か。片手剣の《ソニックリープ》の圏内である事を考えれば、スキルや何の補正もない跳躍では逃げるのは厳しい。そもそも私の両手武器である大鎌は私自身が軽装である事を差し引いても鈍重、彼にはどうやっても敏捷性では上回れない。
(でも逆に一撃の重さと攻撃範囲は私の方が有利! 懐に入らせず五割削るか、有効打を一回当てれば良い…………!)
オウルからのデュエルの申込みで《初撃決着》を選んだ。当然だが今のデスゲームと化したSAOで《全損決着》はまず論外。では《半減決着》はどうかと私は提案したが、彼の『HPが51%の状態から60%削れるソードスキルを受けたら…………どうなると思う?』という、何を食って生きてたらそんな考えに行き着くんだと言いたくなる考えによって取りやめとなった。その点、初撃決着はクリーンヒットかHPが半減となれば終了となるので────まだ、比較的安全だ、飽くまでも
(デスゲームになってからデュエルは初めて…………六十秒の間に何が出来る?)
まずは相手の傾向だろう、オウルとの戦いは初めてでは無い、ベータ時代を含めればだが。嘗て彼は敏捷性を高めに振って、鋭さと取り回しが利く細剣に近い片手剣を好んでいた。一撃の重さよりも立ち回りで優位に立ち、プレイヤーやmobの喉・眼・心臓といったクリティカルポイントを狙いすましたアサシンの様な戦い方をしていた。見た限り武装は白いコートと片手剣だけ、私ですら軽装剣士の域は出てないがブレストプレートは装備しているというのに。
(やっぱり装備重量を削ってアバターの速度を高めている…………私のLV12より高いとしても筋力にはそこまで振ってないと見るべきね────つまり、一撃は速いが軽い!)
攪乱なども考えられたが、培った戦闘技能をドブに捨てる様な真似をすればそれこそ弱体化は免れない。オウルの戦闘スタイルは変わっていないと確信に近い物を感じ、私は鎌の欠点として懐に入られると弱い事から攻め続ける事を選択する────残り時間は、十秒を切った。
(速さは向こうが上だとしても、大鎌の攻撃範囲を一気に飛び越える事は出来ない! 絶対に内側に入れない立ち回りを意識しないと…………!)
残り五秒、オウルが動きを見せた。脱力を効かせて棒立ちしていると思えばゆっくりと剣を抜き始めた、少しづつ既視感のある構えにしていく────あれは、ソニックリープか? どういうつもりなのだろう? 確かに距離を詰めるのに便利な技だが、私が対処出来ないと思っているのか?
(無理、もう今から意図を読み解く時間は無い、峰の曲線で威力を流して────)
開始まで残り半秒で私が構えを僅かに下した瞬間だった、オウルがソードスキルのライトエフェクトを────
「────え!?」
「ソードスキルってさ────邪魔じゃね?」
「────“ソードアート”全否定!?」
デュエル開始の紫色のログを私は見る事は出来なかった、正面から不意打ち気味に斬り掛かってきたオウルから目が離せなかったからだ。振り下ろされた片手剣の斬撃を大鎌で受け、甲高い金属音が響き腕に衝撃が伝わってくる。一瞬の拮抗の後に僅かに私の方が押し出せる────やはりオウルのステータスは敏捷性に極高傾向、力でなら押し勝てる!
(押し返して体勢を────!)
「“崩して畳み掛ける”────だろ?」
「────は!?」
鎌に加える力を増そうとした思考を読まれて、斬り込んできた数秒で即座に彼は剣を引き戻す。突如として支えが無くなるが、私もそれで転ぶようなアマチュアでは無い。勢いを足で殺し、オウルの姿を追う為に視線を巡らせるが見当たらない、数瞬前には確かに目の前にいた筈────しかし、疑問が氷解するよりも先に回答が飛んでくる。
「ぐッ────!?」
不快な感触が首筋に一閃走った。ダメージエフェクトの残滓が宙に残る事から自分が攻撃を受けた事を、身をもって実感する。いつの間にか背後にいたオウルに対して、即座に鎌を巧みに操り上半身を狙った斬撃を振るうが────あろうことか、至近距離の鎌をスレスレで上体を大きく逸らし、滑る様に踏み込みながら同時に私の脇腹に剣を鋭く差し込んでくる。
「どんな体勢で斬り込んでんのよ…………!」
「相手の行動を見切れば、攻撃と回避は同時に行える」
ソードスキルを用いない攻撃は大したダメージにはならないとはいえ、二撃分ダメージをリードされた。向こうのHPは全く減っていない事を考えれば焦燥感が募るが、この勝負は《初撃決着》。こちらのHPが五割を下回る前に、たった一撃でも入れれば逆転出来る。劣勢に立たされようとも、私の出来る事もやるべき事も変わらない。自身の獲物の有効射程を保ちながらフェイントを織り交ぜ、縦横無尽に斬り尽くす。片手剣に比べて分厚い刃は、重く低い風切り音を奏でながら空に軌跡を残す。
タイミングを彼に悟らせず、近寄らせない為に激しく鎌を手元で回して振り下ろし。すかさず勢いを殺さず背後に回して横薙ぎ、続いて逆袈裟に斬り上げて態と隙を晒して誘い込んだ所に回し蹴りを放つ。数少ない友人の彼女からは『円舞曲のようだ』と称された一連のコンボはベータ時代から身に染み付いた動き、デスゲームになってからもmob相手だけではなく自主練を重ねて工夫を凝らしている。
「お前ってホントに足癖わるいよな」
────しかし、そのどれも目前のオウルには掠りもせず。そればかりかフェイントを物ともせずに、半身となって躱しながら私の足を無造作に掴んだ。
これだ、ベータ時代から彼の戦い方で一番特徴的だった。敏捷性が高い事を踏まえてなお、異常な回避力。ベータ時代のデュエルはお互いに一分間を適当に過ごして、強力なソードスキルを使うだけの手抜き感が否めなかった────オウルが出た公式試合以外は。
彼が戦う時は決まって時間ぎりぎりまで抜剣せずに、貫くような視線で相手を観察していた。ギャラリーもその様子に飲まれて徐々に静かになり、妙な緊張感に包まれたのを覚えている。そして相手の攻撃は悉く紙一重で躱し、碌にソードスキルを使う事無く淡々と優勝した。
「くッ、離せ────!」
「いいよ」
「な────!?」
一々こちらの意表を突かずにはいられないのか、絶対に離さないだろうと思っていた足を簡単に手放した────だが、足が地面に着くまでの無防備なコンマ数秒の間に、軸足を断ち切られた。
掴まれて固定されていれば、不格好ながら鎌で攻撃も出来たろう。筋力値はこちらが上なのだから、馬乗りにでもなれば殴り勝てただろう。だが、オウルはそれら全てを計算していたからこそ、即座に足を離して片足で無防備な状態に私を追い込んだ。そして理解が及んだ時には────オウルの剣が私の正中線を綺麗に通り過ぎた後だった
♢
「く────っそぉお!!!」
────目の前に倒れている鎌使いは、とてもお嬢様学校に通っているとは思えない毒づき方だ。俺は剣を背中に仕舞いながらそう思った。
「まぁ、そのフラフラのコンディションでそこまで戦えるなら大丈夫だろ。
────お前もボス戦に来いよ」
「はぁ? 負けたら連れて行かないって────」
「お前にやる気出させる方便…………言っとくけど、別にお情けじゃないからな? 不甲斐無いようだったら本当にお留守番にしたし、もしも初のボス戦が負けで終われば次のボス戦がいつになるか分からない以上、戦力を遊ばせておく意味はない」
それに俺とキリトとアスナは片手武器でノックバック効果やデバフ効果が薄い、ここに両手武器の強みである先の効果が得られるのは大きい。圏内である為にデュエルが終わった今はHPは勝手に減らないが、部位欠損した脚が即座に治るわけではないので、手を繋ぎ引っ張り上げて肩を貸す────少しだけ、懐かしいな。
「…………ねぇ、ボス戦はいつ始まるの?」
「俺の予想なら、明日か明後日だな。アルゴにマップデータを渡したし、レイドを率いてくれそうなプレイヤーに心当たりあるみたいだし」
「そう…………」
聞きたいことは聞き終えたのか、宿の個室に運んでベッドに座らせる。ここは俺が取った個室だが、流石に多感な時期の女子が男と二人きりというのは落ち着かないだろうと出ていこうとするが────
「どこ行くのよ…………用がないなら、ここに居てよ」
「…………ハイハイ」
────そう言われてしまうと、どれだけ気不味くとも出ていくわけにもいかない。
「う…………うぅ、ふぐ…………」
また何か思い出したのか、堰を切った悲しみは嗚咽と涙になって溢れてきた。対面側に座りながら俺は視線を逸らしてメールが届いてないか確認する、慰めや同情は逆効果だと知っているから。コイツは強い、時間があればまた持ち直せる筈だ。そんな事を考えながらメニューウインドウを弄っていると、キリトからのメッセージがあった。
(原作のアスナが手に入れた《ウインドフルーレ》はドロップしなかったか…………だが、キリトもいれば今の武器でも強化するのは今日中に終わるだろう────俺達で四人パーティーを組むか?)
問題は傷心中の彼女と、コミュ障のキリトを鉢合わせるとどんな化学反応が起こるのか、ちょっと予測出来ない事だろう…………まぁ、キリト君なら分かってくれるやろ(楽観視)。タイピングで素早くキリトにメッセージを送る。
『そうか、これから細剣の強化素材集め?』
『あぁ、でもアスナが元々集めてた素材も含めれば、そんなに時間は掛からないよ』
『りょ。それよりちょっと頼みたい事あんだけどさ』
『なんだよ?』
『キリトはアスナとコンビでボス戦挑んでくんね? 俺、気難しい相方出来ちゃった(笑)』
『は? ………………………………………………………………は?(激怒)』
怖ぁー…………メンヘラの彼女かよ。フレンド登録してるので俺の位置は分かるだろうから『因みに女子(笑)』と返信を送り、突撃してくるのを牽制する。『はぁぁあああああああ!!??』という初心な男子中学生の返信だけ確認して、ウィンドウを閉じてパーティーを解散しHPバーが消えるのを見届ける。恐らくキリトは別の宿を取る事になるだろうが、二人との合流は攻略会議の時でいいだろう。
────それから約三十分後。アルゴから攻略会議が明日の正午に、トールバーナの広場で行われる連絡がきた。
「…………お前も、来るよな?」
「────勿論、いつまでも泣いてられないもの」
ご丁寧な事に泣き腫らした赤い顔まで再現されているSAOの出来栄え────或いは製作者の性癖に感嘆しながら、その日はもう休むことにした。無論、部屋は別である。
「一緒でもいいのよ、別に何もしないでしょ?」
「良いわけねえだろ」
────無論、部屋は別である(強調)!!!
明くる日、俺と鎌使いの彼女はデュエルで消耗したポーションや装備を補填して、適当に街中を歩き回りながら時間を潰す事にした。街の構造や道順は完全に把握しているので、広場には五分前に辿り着ける。どうせならちょいと豪華な昼食を取りたいし、SAOには女性プレイヤーが少ないので、一か所にずっと居ると衆目が鬱陶しい事この上ないからだ。悪いことをしている訳でもないのにフードで顔を隠し続けるのも、精神衛生上よろしくないだろうし。
「あーパスタ食いてえ、欲を言うならシーフードが山盛りの奴」
「それが最後の晩餐にならなきゃ、いつか上層で食べれるわよ」
「ベータ時代の攻略レベルで言えば、今日集まる連中も充分な筈だがな」
「でもベータ時代の攻略では死人が出ることが前提だったじゃない」
ポトフとガレット、メインにブフ・ブルギニョンと何故かフランスの郷土料理に舌鼓を打つ。美味しい事には美味しいのだが、魚介類好きの身としては魚料理が殆どない一層ではいい加減食事も飽きてきた。それに格式ばった物が出ると、意味も無いのにテーブルマナーも気にしてしまう。最もそんな事を指摘する無粋な輩は居ないのだが、眼前の女子は流石に上流階級の者なだけあってその辺りも完璧だった。
「流石にマナー良いな、足癖は悪いのに」
「一言多いわよ…………貴方も出来ている方よ?」
「意識しないといけない時点で怠い」
「分かる、ファストフードは人類最高の発明よ」
俺は未だしも、とてもお嬢様の口から出ていい言葉ではないのだが指摘するつもりは無い。適当に腹ごしらえを終えて、暫く狩りに出ていなかったらしく金銭が乏しい彼女に代わり俺が出した。割り勘で良いとは言っていたが別に大した額では無いし、その内返してくれれば良いというと渋々ながら納得する────相変わらず律儀な事である。
(ふーむ…………レイド上限が四十八だから一人足りないな)
ピッタリ五分前に広場に着くと、奥の端の方にハーフコートのキリトと紅いケープを目深に被っているアスナがいた。俺は目立つ白いトレンチコートを着ているので、すぐにキリトに捕捉され『お前後で説明しろよ?』と視線で語られる。『カッカすんなよ、分かってるって』と、視線で返しながら俺達は前の方に座る────因みに、彼女も白色のフードで顔を隠している。理由は勿論周りの視線がウザイ以外に無い。
「はーい! じゃあ時間通りに始めたいと思います! そっちのコンビさん達! あともう三歩くらいこっちに寄ろうか!」
俺とキリトの視線のやり取りが丁度終えると、同時に勇者王っぽいイケメンボイスが、これまたコミュニケーション力高そうな語彙で朗々快活に広場の全員に語りかけている。ウェーブがある髪を鮮やかな青色に染めている盾持ちの片手剣士だ。確か一層ではこの手のメーキャップアイテムはmobからのレアドロップしか無い筈なので、趣味でなければ今日に備えて化粧でもしたのだろうか。
「知ってる人もいるだろうけど、俺は《ディアベル》! 気持ち的には《ナイト》やってます!」
青髪のイケメン剣士────ディアベルの掴みはバッチリだったのか、気難しい筈のゲーマー達は口笛を吹き、やんややんやと騒ぎ立てる。傍から見る分には気分は良いが、この後の展開を少し知っている身としては『なんだかなぁ……』といった感じだ。
「昨日、あるプレイヤーから受け取ったマップデータからボス部屋に続く道が判明した。このゲームが始まってもう三週間近く…………証明しようぜ、皆! このゲームはクリア出来るって! それが俺達トッププレイヤーの義務だ! そうだろ!?」
捻くれた俺の心情とは裏腹に、熱血なディアベルの語りは止まらない。いや、聞いている分には聞こえは良いのだ。寧ろ多少打算的な一面があるくらいが信用出来ると個人的には思っている。それにどんな思惑があろうと命を懸けて戦う人間をこき下ろせる程、俺が上等な人間かと自問すれば、全くこれっぽちもそんな事はない。
「ちょお待ってんか、ナイトはん」
────でもお前さ、組む相手はもうちょい選べよ。
サボテンを思わせる砂色の髪型にディアベルとはまた違った特徴的な声、小柄ながらがっしりした体格にスケイルアーマーを着た幅広の片手剣を背負った男がズカズカと広場の真ん中まで出て来た。
「そん前にこれだけは言わせて貰わんと、お仲間ごっこは出来へんなぁ」
「これだけって言うのは? なんにせよ構わないさ、でも発言するなら名前くらい名乗って欲しいな。匿名の誰かさんじゃあ、示しがつかないだろう?」
ディアベルの芝居がかったと称しても良い綺麗な語り口、人前で話す事に慣れているのか。はたまた台本でも用意していたのか、スラスラと淀みない。どちらかと言えば、後から出て来たイガグリ頭の剣士の方が自然と言えば自然だ。そんなディアベルの言葉に荒々しく一発鼻を鳴らして、大声でイガグリ頭が喋りだす────近くにいたら唾飛んできそう。
「ワイの名前は“キバオウ”や! こん中に死んでったプレイヤーと今も息も絶え絶えに戦ってるビギナーに土下座せんとアカン連中がおる筈や!」
睨め付けるギラリとした視線が広場を一周する、キリトと俺に対して一瞬止まったのは恐らく気の
「────アホくさ」
「…………!」
「……あ? 何やとコラ?」
離れた場所のキリトとディアベルの驚愕した顔、キバオウのガラの悪い視線が俺に向く。こうなる事は分かっていたので、予めギリギリ他人と思われる位置まで相方とは距離を離しておいた。それでも白色のフードから注がれる視線がやや痛いが、二人に聞こえる様に言った事実が消える訳では無いので一旦無視する。
「どうもこんにちは、俺はオウルだ…………で、聞こえる様に言ったのに聞こえなかったのか? アホくさって言ったんだよ、キバオウさん」
「お前…………人が死んどんのやぞ、言葉選べや」
「アンタの方こそ、大衆の前で土下座の強要に資産の恐喝…………デスゲームでそんな魔女狩りしてみろよ、ベータテスター相手なら何しても良い風潮が出来るぞ?
「せやかて……せやかて! じゃあ何の詫びも無しにこんままボスと戦うんか!? 自分の事しか考えてへん様な奴らと!?」
「そもそも
俺の正直な心情ではキバオウの言い分も一理なくは無いのだが、それ以上に思うのが『綺麗事の絵空事』だ。ただゲーマーに人の命が背負える筈が無いし、背負っていい筈がない。しかもゲーマーの皆が皆、天涯孤独のチャランポランでは無いのだ────彼ら彼女らにも、帰りを待つ家族がきっと居る筈なのだ。生き延びたいと願い足掻く事の、何が悪い?
「帰りを待つ家族にまた逢いたい、その為に是が非でも生き残りたい、そう決意して、はじまりの街を出たテスターを、アンタは────これ以上追い詰める気か?」
「ぐっ…………!」
「────その通りだ、キバオウさん。誰もが死の恐怖と戦っている、それはベータテスターだって同じ事だ。それにアイテムやコルは兎も角として情報はあったぞ」
ハッキリ言って俺の言っている事は感情論でしかない、だがそれを言えばキバオウもそうだ。このまま水掛け論になるか、という所でタイミング良く低くも張りのある声が響く。キバオウが振り返ると、そこには身長百九十はあるチョコレート色の肌をした大男がいた。その手には見慣れたガイドブックがある。
「俺の名前はエギルだ。この場にいる全員、このガイドブックは知っているだろう? これは最前線の新しい街や村に行くと既に置いてあった物だ────つまり、情報提供者はテスター以外に有り得ないという事だ」
エギルさんの周囲に語りかける堂々した物言いは論理的に真っ当で、キバオウは押し黙るしかなかった。ここまでと見切りを付けたのか、ディアベルがキバオウの肩に手を置いて話を纏める。潮時と見切ったか?
「キバオウさん、貴方の言いたい事も理解出来る。右も左も分からないフィールドで戦う怖さは俺も知っているつもりだ…………でも、だからこそベータテスター達の力も借りたい。彼らを排斥して攻略に失敗したら、それこそ何の為に戦っているのか分からないじゃないか」
「…………」
その言葉は、ディアベルがベータテスターである事を原作知識とベータ時代に実際に戦った事すらある俺からすれば欺瞞でしかないが、何も言わずに押し黙る。だがディアベルは気付いているのだろう、俺の事を、そして俺が気付いている事を────ほんの僅かに、その瞳の奥に怯えが見えた。
「…………ええで、ワシも別に人死に出したいわけやない。でも有耶無耶にするつもりもないからな」
顔立てたるわ、そんな捨て台詞と共にキバオウは肩で風を切りながら元の位置に戻る。一先ずは収まったか、そう思い俺も元の位置に戻る。他人のふりをされた事が余程堪えたのか、俺が座った瞬間に白色のフードがその場に像を残す速度で隣に迫る────怖いんですけど?
「貴方ねぇ…………なんであんな真似を────」
「まぁまぁ、いいじゃん。穏便に済んだんだから」
ぶっちゃけると、いや隣の彼女にはぶっちゃけられないが、俺はキバオウとディアベルが裏で繋がっている事を知っている。ディアベルがいい感じで止めに入る事を知っているから出来た事だ、エギルさんの様な聖人とは全く違う小賢しいだけのクソガキである。でもコイツとキリトの事を思うと…………ま、多少はこの場のプレイヤーに響いたと思いたい。
「それじゃあ早速だけど、皆パーティーを組んでくれ! ボスの偵察戦も同じパーティーで挑むからそのつもりで頼むぜ!」
(ぼっちに対してはあんまり優しくないな、このナイト…………)
「体育の授業……修学旅行……うっ、頭が…………」
(ほーら、もう発作起こしてるよコイツ…………)
黙っていてもいなくても美少女の鎌使い、しかしその正体は精神性とトラウマで二律背反が出来てしまった悲しいただの女の子である。どうするかな、昨日はキリトに(面白半分で)あんなメッセージを送ったが、レイドで挑むとなればパーティーはちゃんと組まなくては────
「やあやあそこのお二人さんどうやらアブレてしまったようだね仕方ないね俺達もなんだよこれはもう組むしかないなそうだなよしじゃあそうしようこうしよう」
「どうしたキリト? 寂しさのあまり壊れたか?」
「だとしたら間違いなくお前のせいなんだわ!!」
────と思っていたが、まるで初速から最高速の昆虫の如く黒い影を残しながらキリトが迫ってくる。はえーよホセ、後ろから付いて来る筈のアスナが置いてけぼりじゃねーか。しかしそれ以外に解決案があるわけでも無く、パーティーを組まない理由も相方のトラウマ以外にこれといってないし、飛んできたパーティー申請のYESで答える。俺の視界の左上に『Kirito』と『Asuna』と既にあった────『Mito』、これがボス戦のパーティーとなる。
「────え? ミト、なの?」
「────ア、スナ…………?」
「…………うん?」
珍しい事に、彼女の声から知っている他人の名前が出た…………マジすか。
この小説は、
ヒーロー:キリト ←わかる
ヒロイン:アスナ ミト ←まぁわかる
ハジケリスト:オウル「浸りすぎー!!!」←!?!?
でお送りいたします。