Q.転生者の存在意義とは?   作:七黒八白

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A.入れて構いません、いざという時に対処する事を忘れないなら



第五話 Q.不確定要素は入れるべきですか?

 

 

 

「…………なぁオウル、大丈夫なのか? あの二人は」

 

「実力の事ならアイツ…………鎌使いは俺が保証する、アスナは言わずもがなだろ。まぁキリトが聞きたい事はそっちじゃないだろうけど」

 

「なら答えてくれよ」

 

「流石に女子の友情の行く末は俺にも分からんね」

 

 広場のすぐ近くあったベンチに腰を掛けて、めちゃ安の黒パンにクエスト報酬のクリームをぶっかけて噛り付く。後ろにはベンチの背もたれに腰を掛けて、メニューウインドウを弄っている白いトレンチコートの剣士がいる。視界の左上には見慣れた『Kirito』という自分の名前に『Owl』という見慣れた名前が続き、その下には『Asuna』と『Mito』とある────今頃、お互いに思い丈を吐き出している最中だろう。

 

「それよりも、さっきの広場では何であんな事を…………」

 

 キバオウなる剣士の言い分は確かに些か行き過ぎた部分はあったが、俺の考える(といっても付き合いはベータ時代を含めても短い時間だが)オウル像からは少し不自然だった。一言でいうと冷静沈着、やや無慈悲気味だが人情も理解しているので他人に全く無関心では無いが、それでも他人が彼の内情に踏み込むことは難しいだろう。俺とはまた違った形で、他人と自分の間に大きな溝がある────様な気がする。さっきの場面は俺が思うオウルなら、鼻で笑って無視した筈だ。

 

「他責思考が気に食わなかっただけだよ、それよりも後でパーティー連携の打ち合わせをしよう」

 

「…………あの二人が仲直り出来たらな」

 

 その言葉が嘘かどうか、俺には正直分からない。それほど白いコートの剣士は言葉にも表情にも、あの青い瞳は真意を見せてくれない。悪意や敵意も無い事は確かなのだが、腑に落ちないと思った事も一度や二度では無い。それでも頼りになることは間違いないと、俺は黒パンを腹に収めた…………あの二人が仲直り出来なかったら、コンビでボス戦って参加出来るかなぁ? 

 

「────やぁ、休んでいるところ悪いんだけどちょっといいかい?」

 

 丁度食事を終えて、今後はどうするかなと思った時だった。ガシャガシャと鎧と盾装備のプレイヤー特有の効果音と共にレイドリーダーのイケメンナイト────ディアベルがそこにいた。別に僻みでは無いのだが、彼は何故こんなMMOをしているのだろうか。後ろのオウルもそうだが、絶対にサッカーやバスケの部活動でキャプテンでもしている方が似合っている。

 

「ディアベルか、良いよ。何か用か?」

 

「ありがとう、キリトさん。実はね、パーティーにアブ……ソロで活動していて周囲のパーティーに入りづらい人が居てね。キリトさん達は四人パーティだから出来ればその人を入れて欲しいんだ」

 

 哀れな…………どうやら今までソロでやってきた為に、周囲との交流を疎かにしたせいでパーティーからアブれてしまった奴が居るようだ。何故かその事実に俺の胸がズキリと痛む、いや今のSAOではオウルとコンビで活動して来たし、何なら暫定的とはいえアスナとミトも居るので俺は全くソロでは無いのだが、とても他人事とは思えない。

 

「オウル、別に良いよな?」

 

「構わないよ…………ま、女子二人に現を抜かすようなら少し考えるけど」

 

 それは…………うん、そうだな。お前が昨日送ってきたメッセージを見た時、俺も同じ事を考えたよ。圏内で頭を抱えて『なんでや!?』と叫ぶ俺、他人のふりをして五分くらい口を聞いてくれなかったアスナ。あれ? 俺はコイツとコンビこのまま続けていいのか? そんな疑問が浮かび上がるが、一旦他所に置いておく。

 

 俺とディアベルは、何とも表現しがたい微妙な顔で苦笑するしかなかった。とは言え、パーティーの人数が増えるのは素直に喜ばしい。四人ではボスへの攻撃役に参加出来ないのではと考えていたのだ。しかも入ってくるのは最前線にも拘わらずソロで動けるプレイヤーだ、間違いなく戦力的には申し分ないだろう。

 

「あはは……でも、ありがとう二人共。感謝するよ、彼がそのソロプレイヤーだ」

 

 ディアベルの背後から一人の男が歩いてくる。見た感じの年齢は俺やオウルと変わらない、十代半ば位だろう。片手剣は俺達と同じ《アニールブレード》と一層では強めの武器、左腕にはバックラーが装着されている。鎧の類いは無く、革製の防具で軽装剣士として立ち回る事を旨としているのが分かった────しかし俺が、そして恐らくオウルも、注目したのはそのどれでもない。

 

「────久しぶりだね。キリト…………それに、オウル」

 

「…………コペル?」

 

「……………………」

 

 気不味そうな顔している彼に対して、俺は名前を呟くのが精一杯だった。そして俺の後ろのオウルが、どんな顔をして、何を考えているのかは、全く分からない。

 

 

 

 ♢

 

 

 

 ────また逢えるなんて、思ってなかった。

 

「ミト……ミトっ────!」

 

 死んでても、おかしくなかった。生きている今の方が、不思議なくらいだ。

 

「ごめんなさい、ごめんなさいアスナ! あの時、見捨ててしまって……貴女の事を置いて行ってしまって……!」

 

 こうして、また、彼女の体温を感じられるなんて、思いもしなかった。頬を伝わって流れるものを止められず。もう二度と離しはしないと、強く抱きしめる。アスナの肩にぽたぽたと染み、慟哭は止まらない。許される筈がない、許されていい筈がない────それでも、私の口は止まってくれなかった。

 

「レアアイテムなんかに……私が欲張らなければ────!」

 

「いいの、ミト。私の為だったんでしょ? キリト君とオウル君から聞いたの、“あのモンスターは細剣を落とすからアイテム欲しさに見殺ししたわけじゃないと思う”って」

 

 まるで母親にあやされる幼子の様に、アスナが優しく髪を撫でながら慰める。そんな資格は私には無い筈なのに、彼女の方がずっと怖い思いをした筈なのに。それでも彼女は私の思いを余すことなく掬い上げて、全てを肯定してくれた。

 

「キリト……? ()()も…………?」

 

「────きょうすけ?」

 

 聞き返される言葉に『しまった』と思うが、後悔先に立たず。自身の行いを悔いるあまりに、つい口が滑ってしまった。私は一体、何度過ちを繰り返すのか。アスナの視線が上向きに思考が纏まる様を表すように揺れ動く。

 

「そういえば、ミトってベータテスターなんだからソロでも動けるわよね? なのに、オウル君と一緒に行動してたって事は…………もしかして────」

 

「────いえアスナ? 違うのよあれとはリアルでちょっと交流があってね? 決してそういう感じのそれでは無いのよボス戦にソロで挑むのは無謀だし赤の他人とは組めないから泣く泣く仕方なくパーティーを組んだこれこれこういう事情なのよ」

 

「どれがどれでどれなの?」

 

 私の動揺を読み取ったナーヴギアが丁寧に涙を止めて、頭を回しながら矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。しかし情けない事にそのどれもが中身空っぽである。いつの間にかお互いに涙が止まり、そしてアスナは隙ありとばかりにニヤつきながらコチラを質問攻めしてくる。

 

「へぇー……名前を知ってるって事は、リアルでも付き合いがあるのよね? きょうすけ君? オウル君の下の名前よねー、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「────」

 

 その言葉にチクリと、僅かな何かが私の胸を苛んだ。大丈夫だ、アスナに悪意は全く無い、()()()()()()()()()()()。それは時間にして一秒も無いだろうが、ただでさえ聡く、女子校特有の陰湿な魔窟で育ってきたアスナは敏感に私の変化を感じ取ったのだろう。楽しそうな顔色が曇ってしまう。

 

「…………そういえばリアルの話はしちゃいけないんだったよね、ごめんなさい。詮索しちゃって」

 

「いいのよ。こんな状況だもの、素顔を晒してる時点でネットリテラシーなんてあったものじゃないわ……それに、少しだけ聞いて欲しい事もあったし」

 

「…………聞いて欲しい事?」

 

 このままでは、アスナはきっと勘違いしてしまうだろう。彼の事を、アスナには少しだけ知っておいて欲しい。決して血も涙もない人間では無いのだと、非情な様に見えるが慈悲深いのだと。()()()()()()()()()()()()、彼が昔と比べて変わっているかもしれないという事は理解している。それでも────

 

『へぇ、女の子なのに硬派なゲームやってんのな』

 

『…………なによ、わるいの?』

 

『ツンケンしなさんな、そうは言ってないだろう。俺もやってんのよ、そのハンティングアクションゲーム』

 

『…………協力プレイ、する?』

 

『お手柔らかに頼む』

 

 ────遊んでいた情景が甦る。

 

『うぉぉぉおおおお亜空間タックルチート臭ぇええええ!!!』

 

『私がヘイト取るから粉塵使って!』

 

『粉塵粉塵粉塵! ああ~ミリ残りのHPから回復するの最高に脳汁キマるんじゃ~』

 

『あ、そっち行ったよ』

 

『え? ちょ、武器研いでんすけど? にょわぁああああ!!!』

 

 無邪気に遊べていたのに、ずっと続けばいいと、思っていたのに。

 

『やっべ、クーラードリンク忘れたわ』

 

『どうする? あげようか?』

 

『────ふ、別にこのまま倒してしまっても構わんのだろう?』

 

『さっきのクエ三乙したのは誰?』

 

『生まれてきてごめんなさい』

 

『そこまで言ってないよ!?』

 

 ずっと、ずっと、ずっとずっと、ずっとずっとずっとずっとずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと────あの時間が続けば、良かったのに。

 

「────────ト……ミト…………ミト!」

 

「────っ、ごめんなさい。ちょっとぼんやりしてた」

 

 昔を懐かしむのは後にしよう、今はアスナに必要な事だけを伝えなくては。無論、その理由は話せないがアスナならきっと納得してくれる。

 

「よく聞いてアスナ、彼は────オウルは私の事は()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………え、何で」

 

「ごめんなさい、理由は話せないの。でも彼に非はないの、どちらかと言うと問題があるのは私の方……アスナも知ってると思うけど、私達の家庭って正直一般的じゃないでしょ?」

 

「まぁ…………確かに? 厳しい方だと思う?」

 

 ライトブラウンの瞳をぐるりと回しながら疑問形で彼女は答えた。やはりアスナはどうにも自分の事をあまり客観視出来てない所がある。初めてだったとは言えネットゲームで実名を入れる時点で気付くべきだったが。というか、仮にもIT企業の令嬢がそれでいいのか。

 

「その……家の付き合いで彼と知り合ったんだけど、色々あって交流しなくなって……その…………」

 

「……良いよ、ミト。言いづらいなら言わなくて、とにかく喧嘩別れじゃないのね?」

 

「うん、オウルも私に悪感情は無い、筈…………多分……おそらく……きっと……」

 

「自信無さすぎでしょ……大丈夫! 私、手伝うから!」

 

 いや、違うから────! アスナと宿の中でドタバタしながら誤解を解くために奮闘する。明日からボスに挑む事を考えればこんな事をしている場合では無いのだが、それでも彼女の楽しそうな顔を見ていると、どうしても棚上げにしてしまう私がいた。

 

「────で!? 二人はどんな風に出会ったの!?」

 

「詮索しないんじゃなかったの!?」

 

 

 

 ♢

 

 

 

「…………どう思う? オウル」

 

「どうもこうも────出来るなら、正直組みたくないよ」

 

 ────ホント、よくもまぁ俺とキリトの前に顔を出せたよなアイツ…………。

 

 正午の攻略会議を終えた後にディアベルが連れて来たプレイヤー『Coper(コペル)』。名前のホンワカした感じと本人の幼さの残る柔和そうな顔立ちはとは裏腹に、彼は俺達をMPKしようとした。ディアベルの前では知り合いである以上の事は話さなかったが、彼が去った後に人気のない場所までコペルの提案で付いて行くと────突然、彼は地面に頭を勢い良く落とした、いや自ら叩き付けたと言ってもいい。

 

『ごめん! 本当にすまなかった! 謝って済む事じゃないけど僕はどうかしていた!!』

 

 開幕土下座による謝罪にキリトは面を食らった、隣の俺も正直驚かされた。ここが圏内でなければ、その威力に彼のHPは僅かに減らした事だろう。頭を上げる事無く彼の謝罪は続いていく。

 

『たかだかクエストリワードの為に人殺しなんて……! 言い訳じゃないけど気が動転してたんだ……本当に死ぬんだろうかって疑ってたんだ。許してくれなんて言わない、でも償わせて欲しい、ボス戦のアイテムもコルも全部要らない! 君達に許されなくとも、せめて役に立たせて欲しい!』

 

『コ、コペル…………』

 

 俺程は無慈悲になれないのだろうキリトは、明らかに戸惑った視線を此方に向けてくる────はっきり言って、俺はコペルを全く信じてない。許すか許さないかの問題以前だ、償いという形でさえ関わりたく無い。

 しかし、コペルは既にディアベルと顔を合わせている。もしここで、彼をパーティーに入れない場合は間違いなくディアベルに何故なのか問われるだろう。その時に、素直にコペルのMPK未遂について話すべきかどうか。

 

(────難しいな)

 

 まず前提として、コペルのパーティー入りを断れば絶対ディアベルに理由を聞かれる。理由を話す事を断ればボス戦には参加出来ないだろう。当然だ、足並みを揃えない奴を死闘に挑む連合に入れたい奴なんていない。

 だがコペルのMPK未遂を話すのも正直どうかと思う、別にコペルの心配をしているのでは無く。ディアベルがそれを誰かに話さないとは限らないし、もしも周囲にコペルの事件が漏れれば…………攻略組の連中は、どう反応するか。

 それにディアベルとて、レイドリーダーとして示しの付かない真似は出来ない。そんな事をすれば誰も付いて来なくなる。まだ一層も越えてない現実、戦力は幾らでも欲しい中でコペルを仲間外れにすれば不信感が拡がる可能性もある。それに俺はディアベルを死なせたくない、彼は腹に一物あるがそれでもリーダーとしての能力は本物だ。彼がいれば原作の二年間のデスゲーム期間を短縮出来るかもしれない────その為に、今回のボス戦に不参加は有り得ない。

 

 そして仲間にした場合のリスクやデメリットは────善からぬ事を企んでいた場合、コペルに初動の主導権を譲る事になる可能性が高い。

 

(でも一番怖いのは、コペルのMPKがバレて公開処刑でもされてプレイヤーによる私刑の前例が出来る事…………それだけは避けないといけない)

 

 駄目だ、全部に対処は出来ない。コペルを仲間にしてもしなくてもデメリットがある気がしてならない。キリトはコペルの事をどこまで疑っているのだろうか、流石に全面的には信じていないだろうが少しだけ不安だ…………何にせよ、いざという時は()()()()()()()

 

「────この一層のボス戦だけは、同じパーティーでやろう」

 

「…………理由を、聞いてもいいか?」

 

 当然、キリトの表情は曇っている。気持ちはわかる、俺だってリスクを抱える行為だと思う。

 

「初めてのボス戦で躓くと“このSAOのクリアは出来ないんじゃないか? ”そんな空気が蔓延する可能性がある。コペルの強さは確実に攻略組でも平均以上だろうし、レイドを指揮しなくちゃならないディアベルにこれ以上の心労はかけられない……何より、俺達以外のパーティーにコペルを押し付けるのは、それこそ()()()()()()()()()()()()

 

「それって……いざという時は()()()()()()()ってことだよな…………」

 

「ま、案外全部杞憂で終わるかもな」

 

 ────あぁ、そうだ、でも安心しろ。お前は何もしなくていい、全て俺に任せろ。

 

 数年前の事件を思い出しながら、俺は人の命を奪える、剣の重さを再認識する。

 

 

 

 ♢

 

 

 

「────行けるな、ボスのステータス情報を見た感じはそこまでヤバい印象はない」

 

 次の日、アスナが《ウインドフルーレ》を貰い受けて、それを強化した後に広場で集合してボスの偵察戦を行う手筈だったのだが、道具屋に置かれてあった新しいガイドブックに《イルファング・ザ・コボルトロード》の情報が記載されているのを攻略組が発見した…………まぁ、それ書いたの俺とアルゴだし、予め出すって聞いてたから驚かないけど。

 

「これなら犠牲者は出さなくても倒せる────いや、違うな。誰も死なせない、絶対に! 皆! この情報に思う事はあるだろうが今は感謝しよう! 一番の難所だった偵察戦を省けるんだから!」

 

「────待った、ディアベル。それはベータ時代の情報だろう? ガイドブックにだって書かれてある。変更点があったらどうする? 初のボス戦なんだ、道具などの費用はこの際気にせずに偵察戦をキチンとした方が良いじゃないか?」

 

 挙手すると同時に発言するが、周りの反応はあまりいい感じではない。パーティーメンバーのキリトと女子二人とコペル。後はエギルさんのパーティーあたりは賛成気味に首を縦に振っているが、それ以外のメンバーは俺の事をあまり信用していないようだ。特にキバオウは見るからに敵意剝き出しである────流石に昨日の発言が響いているか。

 

「確かに、初のレイド戦でノウハウは殆どない。でもこのレイドの平均レベルが五低くても何とかなる相手だし、取り巻きのmobもボス部屋でしか湧かない特殊個体とはいえ、一対一なら未だしも六人パーティーでなら対処は充分だ────俺は強気に出るべきだと思うよ」

 

「せや! 知った風な事を言っとんちゃうぞ! 道具の補充も装備のメンテもタダや無いんや!」

 

「あっそう……なら、不測の事態が起こった時の対処法はあるのか?」

 

 予想通りではあるのだが、キバオウのヘイトが恐ろしく高いな。周りの連中も黙っているが、大なり小なり似たような感情を孕んでいると見るべきか。賛否両論ある、しかも否の方が多いだろう意見だったろうし、仕方ないが。

 

「幾らボスが初見の動きをしたとしても、前衛が盾を構えて防御に徹したら凌ぐ事は出来る。取り巻きがいなくなれば後は交代しながら全員で対処する────ガチガチに作戦を立てるよりも、ゆとりを効かせて対応能力を高めた方が良いと俺は判断している。ここにいるのはそれが出来る猛者達だろうからね」

 

 カリスマあるレイドリーダーが皆を信頼している、という旨の言葉に攻略組が沸き立つ。些か浮足立っている気がしないでもないが恐怖で竦むよりはマシだろう。俺はもう反対意見は出さずに了承の意を示し、レイドは《迷宮区》へぞろぞろと歩き出した。集団の行軍だがステータスが高いプレイヤーばかり、mobも道中もこれといって躓く事は無く談笑する余裕すらあった。

 

「不安だな…………」

 

「何がだキリト? 話すべきことがあるなら今のうちに頼むぞ」

 

「あぁ、いや、昨日さ。アルゴが俺のアニールブレードを依頼で買取に来ただろ?」

 

 あーはいはい、その話ね。因みに昨日はパーティーこそ五人で組んでいたが、女子たちは風呂付きの民宿(多分原作でキリトが泊まった所)、男子三人は俺が取っていた宿で夜を過ごした。キリトくんのイベントを潰した事にちょっと罪悪感が湧く。

 

「キバオウの奴が出したヤツな、でもまぁキバオウも仲介役で依頼を出した本人じゃないだろうけど」

 

「え? じゃあ誰が…………」

 

「ディアベル」

 

 俺とキリトのやり取りに、パーティー全員が少し固まる。俺達のパーティーは人数が一人足りない事から最後尾で行進している為に前の方にいるディアベルやキバオウには気付かれていない。それを確認にしてからキリトやアスナ、コペルに鎌女子も問い詰めてくる。

 

「ど、どういう事だ……? 何でディアベルが俺の剣を? 四万コルもあったら同じ物を揃える事も簡単だろうに……」

 

「答えは簡単。キリト、お前の弱体化を図っていたのさ────LAボーナスの為にな」

 

「LAボーナス……って何? きょ、オウル君?」

 

「ラストアタックボーナスの略称で、ボスをいっちゃん最後に殴った奴には超高品質なアイテムがドロップするのさ。んで、キリトはベータ時代にそれを搔っ攫ってた」

 

 ────つーかアスナさん? 今俺のリアルネーム言いかけんかったか? 誰かな? 俺のリアル情報横流ししたのは? 心当たり一人しかいねぇけど? 

 

「それって、つまり…………ディアベルもベータテスターって事だよね?」

 

「間違いないと思うぞ、ベータ時代と名前は違うけど。俺、戦った事あるし…………言うまでもないけど、言いふらすなよ? コペル?」

 

「い、言わないよ。ていうかソレに気付けたら僕もテスターだって言ってるようなものじゃないか」

 

 まぁ、それもそう。ぶっちゃけた話、あそこまで統率力があってプレイヤースキルがある時点で疑っている奴は他にもいるだろうけど。しかし多くのプレイヤーが沸々と燻るベータテスターへの怒りを抑え込んでいるのを、こんな重要な時にわざわざ爆発させようとは誰もしまい────()()()()()()()()()()()()

 

「……ねぇ、オウル? だったらディアベルをそのままにさせていいの?」

 

「んー? 良いんじゃない? 俺は結局やる気が有る奴が前に立つのが効率的だと思うし……思うところがあるなら、お前がレイドを作ったら?」

 

「嫌よ、メンドクサイ」

 

 プイとそっぽを向くポニテの鎌使い、だろうなぁと俺は自分で言っておきながら納得する。コイツがそんなコミュニケーション力を発揮出来ると思わない。別にやろう思えば出来るだろうが、そのやる気が超えるハードルはヒマラヤ山脈より高い。クセの多いパーティーメンバーだと思いながら、ふとキリトを見やる。

 

「うーん……LAボーナスか……」

 

「惜しいのか?」

 

「確かに、惜しくないって言ったら嘘になるけど……それなら後でコル積んでくれたら売ったのになーって思っただけ」

 

「言うまでも無く、ディアベルもお前がテスターだって気付いてる。だから出来るだけ自身がテスターだと気付かれない様にキバオウに仲介役を頼んだんだろうな」

 

「そっか…………あれ? って事はあの時の広場のやり取りってもしかして────」

 

「パフォーマンス、或いは何らかの交換条件だったんだろうな」

 

 あっけらかんと答えた俺の言葉に、パーティーメンバーは全員『うわぁ……』といった表情をする。確かに、あんな爽やかナイトの癖して裏工作バッチリなのはギャップ通り越してドン引き案件だろうな。てか名前が悪魔だし、ナイトはちょっと無理がある気がしないでもない。

 

「あー……まぁ疑問も解消されたし。腹ごしらえでもするか、クリーム黒パン食うか?」

 

「わぁ! まだあったの? それ!」

 

 俺は微妙な空気を断ち切るために出したクエスト報酬のクリームと黒パンを全員に配る。もしも負けたらこれもお釈迦になるのだから大盤振る舞いである、黒パンはどうせ安いし。

 

「これ以外もそうだけど、食事関連はベータ時代よりも美味しくなったよね」

 

 と、コペルが言いながらもしゃもしゃと食べる。別にいいけどお前テスターって事隠さなくていいの? 確かにこの場にはアスナ以外ビギナーいないけど。

 

「たまに食いたくなるよなぁ……他の階層だと店売りとかされてないかな?」

 

 とキリトも頷きながら勢い良くがっつく。残念ながら十層まで行ったベータ時代では何処にも売ってはいなかったので、望み薄だ。そのキリトの隣でアスナは無心で食べていた、好きだねぇ、君ぇ、それねぇ。キリトとの思い出の一品だからか。かく言う俺もこれ好き、何たって主人公とヒロインの恋愛フラグに関わった一品なのだから、甘酸っぱい恋の味がするぜ! 勿論噓だぜ! 

 

「フ、バターのチューニングが甘いな…………」

 

「…………オウル君は何を言ってるの?」

 

「誰が分かるんだよ、そのネタ……つーかバターじゃねぇし」

 

「オウル……それ二十年以上前の漫画だよ」

 

 アスナが意味不明な物を見る目で、キリトは呆れながら苦笑し、コペルは冷静に諭してくる、そして────

 

 

 

「……未練歌♫未練歌♫未練歌♫ウォッイエエエイ♫」

 

「「「ミトさんッッッ!?!?」」」

 

 

 

 ────ポニテの鎌使いが小声で続く(爆笑)。

 

 

 

「さぁ、もう行くか。ボスはもうすぐそこだ」

 

「そうね、足は引っ張ったら承知しないわよ」

 

「待て待て待て待て待て!?!? 説明しろよ!? 今のやりとりの!?」

 

「オウルくんなの!? オウルくんが変な事教えたの!?」

 

 キリトとアスナが何か言ってるが聞こえない、聞こえないったら聞こえない。

 

 

 

 

 

 





前回ヒロインの欄にミトとありましたが、ぶっちゃけこの小説のヒロインは今の所作者にも不明です。ほぼ一人だけ内定出てる奴は、SAOには出ませんし。

あと原作との差異は大体オウルのせいです。多分、漫画貸した(笑)。

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