Q.転生者の存在意義とは?   作:七黒八白

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A.そこに無ければ無いですね(笑)。



第六話 Q.転生者特典とかないんですか?

 

 

 

「────スイッチ!」

 

 ハルバードを勢い良く振り下ろしてくるボスの取り巻き、《ルインコボルド・センチネル》。道中の迷宮区に出てくるソレとは、ステータスが違い高く設定されている。何よりデータの収集によりAIの性能が上がったのだろう、動きはベータ時代よりも要所で素早くなっている気がする────だが、まだまだ追える。

 

「はぁ────!」

 

 俺が《スラント》でハルバードをかち上げて半ば程からへし折り、その威力によって泳いだ上体にすかさずアスナの《リニアー》がセンチネルの喉元を貫いた。鉄仮面に鎧という軽装の俺やオウルよりも防御力が高そうな出で立ちだが、アスナの剣技は正確にその隙間を射抜いた。動く相手にここまで的確に当てられるのは間違いなく彼女の才能だろう。

 

「いいぞ! キリト、アスナ! 一応ポーションを飲んで交代だ。次! 俺とコペルとお前だ!」

 

「もう交代? 私もキリト君もまだHPに余裕はあるけど?」

 

「いや、一旦下がろうアスナ。余裕があるに越した事は無いし、武器の耐久性にも気を使いたい」

 

 ポーションは回復結晶と違い、即時でHPを回復するものではない。俗に言うリジェネという奴で飲むと一定時間徐々に回復するものだ。品質によって回復量は変わるのだが、プレイヤーメイドでもない限り一層の物は最低品質だ。コペル以外は盾を装備していない俺達は防御手段に乏しく、相手のソードスキルを武器で防いでも少しダメージが入ってしまう、安全性を重視するオウルの指示は的確と言える。

 

「コペル! 無理に攻撃はしなくていい! 危ない時は俺がカバーに入る! お前はデバフ系のソードスキルで足を止めてくれ!」

 

「分かった!」

 

「了解」

 

 緊張を隠せない面持ちのコペルに対して、ミトの方はと言うと至って冷静だった。別にコペルの動きとて悪くは無い、弱攻撃は真正面から受けて強攻撃は出鼻を挫き行動をキャンセルする。だがミトとオウルの動きは一線画す。縦や横に振り回されるハルバード、その軌道を完全に見切り、そっと剣や鎌を添える様に当ててズラし────すれ違う一瞬、流れる様に首を斬り落とす。一応、特殊個体のmobなのだが呆気ないくらい簡単に倒せた事に内心安堵する。

 

「…………似てるな」

 

「え? 何が?」

 

「オウルとミトの戦い方だよ」

 

 今更だが、気付いた。ベータ時代に鎌を使っていた大柄でギョロ目のプレイヤー。アレはミトだったのか、そしてオウル程では無いが何度か戦った事もある…………考えると色々と腑に落ちるが、一つ解せない。オウルが明らかにミトを名前で呼ぶ事を避けている。仲が悪いのかと思ったが、二人の間にぎこちない空気が流れているかといえば、そんな事は無く。寧ろお互いの武器の長所が噛み合ったコンビネーションの完成度たるや、間違いなく現在のSAO屈指レベルだろう。前日に多少はリハーサルしたが、それでもこれほどの完成度とは。

 

(────いや、今はそんな事を考えてる場合じゃない。ボスはどうなってる? 周りのパーティーは?)

 

 レイドを組んでいる為に視界の端には俺達を含めた四十七人のHPバーが表示されているのだが、そのどれもが表示は安全域(グリーン)である。コボルドロードは二つのタンク隊が攻撃を代わる代わるに受け止めて、すかさずにダメージディーラー達の攻撃でHPバーはそろそろ四本目に突入するところだった。

 

(順調だな…………まぁディアベルがベータテスターなら当然か、変更点は今の所無いし)

 

 ならばセンチネルの相手をしている他の部隊はどうかと見渡してみると、そちらはあまり芳しくない。数で勝っているのでHPこそ大して減ってないが、身軽に飛び跳ね動き回るセンチネルに上手く対処しかねているようだ。正直『そんなに難しいか?』と思うが何もかも初めてのボス戦。緊張感や未知の敵に後手に回ってしまうのは、それこそ当たり前なのか知れない。

 

(俺達のパーティーメンバーがおかしいだけなのかもな…………特にオウル)

 

「────えぇ気味や」

 

「────え?」

 

 オウル達が戦ってくれる間、ポーションでHPを回復する為に後ろ下がっていると関西弁のイントネーションで不意に話しかけられる────予想に漏れず、キバオウだった。

 

「これでLAは取れへんやろ? のぅ?」

 

 ────その言葉に俺が思った事は戸惑いでも怒りでもなく、どこまでオウルは見越していたのかという驚愕である。だって、LAの事はガイドブックにも書かれていない。キバオウがテスターでないのなら、誰かが教えた以外は絶対に有り得ないのだ。

 

 挑発的な笑みを浮かべるキバオウ、しかし彼も所詮は踊らされている一人に過ぎない、オウルにネタばらしされる前の俺と同じ様に。彼はニュービーとしてベータテスターである俺の事を糾弾しているつもりなのだろうが、彼が今の所担ぎ上げているディアベルはベータテスターである事はほぼ確定だ。それを考えれば、キバオウはとんでもない道化だ。

 

「…………まるで、俺がテスターだった事を確信している口振りだな」

 

「惚けんなや、ワイは知っとんねん。お前がベータ時代に汚い立ち回りでLAを取りまくったって事をな!」

 

 それは事実だ、確かに俺はベータ時代にソロである事を最大限活かして漁夫の利を得ていた。しかしながら、今のSAOでは顔も声もリアル準拠になり、俺の名前はベータ時代と同じでも確信している奴は本当に少数だろう。だが、今の俺はアルゴとオウルは絶対にそんな事を密告しない事を確信している。同時に、どうせこの後に続く言葉も大凡分かる────分かりたくもないが、分かる。

 

「────ディアベルだな?」

 

「なっ、(ちゃ)うわ! 《鼠》じゃ! 鼠! そ、それに今戦っとるお前の相方もどうせテスターやろ!?」

 

 予想通りの言葉に、俺の中の何かが不快な物を覚え、毛髪がビリビリと逆立つ。何故だ、何故なんだ? 何故そこまでベータテスターを毛嫌いする? 他者に劣る事に敏感で、ゲームの中だからこそ優位に立ちたいというゲーマーの習性は俺とて理解出来る。しかしこの電子の牢獄に囚われているという点で、俺達は等しく被害者であり人質なのだ。どれだけ気に食わないのだとしても、俺達は協力しなくては生きて帰れないのは明らかだ。それだけではない、アルゴは分かり易くニュービー達に情報を配って、俺なんかとは違い確実に多くの人を助けている。そして、確証は無いのだが────恐らく、オウルも一枚噛んでいる。

 

(ガイドブックに記されている情報の量と正確性から考えて、いくらアルゴでも一人で集めているとは考えづらい。でも俺とオウルが恐らく、最前線の最先端を走ってて多くのクエストを最多かつ最短でクリアしてる…………だろ? 相棒────!)

 

 何故、彼は俺には何も言わなかったのか。それは正直分からない、テスターとしての利点を捨てる判断に反対すると思ったから? 俺が役立たずだから? 俺の力が必要ない事だから? それとも、俺の罪悪感や劣等感を刺激しない為? どれも間違っている気がするし、間違ってない気もする。一つ確かな事は────

 

「アルゴは……! オウルは……! 俺なんかと違って! 自分の利益のためだけに誰かを蹴落とすような奴じゃない! そんなにベータテスターが嫌いなら! これから先! 一切ガイドブックに頼るなよ!!!」

 

 ────もしここで、オウルの肩を持てないなら、俺にアイツの隣に立つ資格などない。

 

「……っ! ざ、雑魚コボはくれてやるわ。精々足は引っ張んなや!」

 

 まさか十代半ばにも達していない俺の啖呵に怯んだわけでなかろうが、キバオウはやや面食らった表情で捨て台詞を残してパーティーのもとへと戻っていった。空気を読んだのか、俺の後ろで黙して控えていたアスナが空の瓶を捨てながらキバオウの背を睨む。

 

「何あれ……感じ悪いわね。オウル君はどうか流石に知らないけど、アルゴさんにはお世話になってるくせに────!」

 

「あぁ……全くだ……」

 

 アスナの零した愚痴に静かに賛同するが、隣の暫定的パートナーは何故かまた黙ってしまった。どうしたのだろうと振り返ると、俺に対して強張った顔を向けていた。はて? 

 

「どうかしたか……?」

 

「────キリト君、ちょっと深呼吸しましょうか。その顔は、キバオウさんも怖がるわよ…………」

 

 リアルでも知り合いらしいミト以外には、冷静で論理的だがややツンケンした態度のアスナが俺を宥めてきた。どうやら俺の顔は自分でも知らない内にかなり怒り一色に染まっていたらしい…………まぁ無理も無い。仮想世界では脳波を読み取るせいか、感情表現がかなりオーバーに出来ているのだ。それこそ何時如何なる場面でも無表情を保つのは高等テクニックと言ってもいい程で、オウルくらいポーカーフェイスが上手い奴は未だに見た事が無い。アイツと比べれば俺は表情豊かな方だろう。

 

「ごめん、でもナーヴギアで感情表現が大袈裟なだけだよ。そんなに怒ってない、大丈夫、俺は至って冷静沈着だよ」

 

「そ、そう? …………なら、いいんだけど」

 

 そんなボス攻略戦の最中、束の間のやり取りを終えると同時にプレイヤー達の歓声が響き渡る。ボスを倒せたのかとディアベルが率いる本隊を見やると、やっと最後のHPバーに入るところだった────となれば、俺達はまだ湧出してくる取り巻きのセンチネルを倒さなくてはならない。

 

「アスナ、そろそろ三人と代わろ…………?」

 

 戦っているオウル達と交代しようとした瞬間、視界の端に映ったコボルドロードの姿に違和感を感じた。骨斧と革盾を投げ捨て、副武装である湾刀を、湾刀、湾、刀…………では無い! 違う! 

 

「マズい…………違う、ディアベル……下が────もがっ!?」

 

 思わず戦慄し、勝手に喉が震える。俺は全力で叫びディアベルに撤退させようとしたが────突如として白い影が死角から現れ、ポーションを口に突っ込まれた。白い影は、まるで鳥の尾羽のようにコートの裾をはためかせ、尋常ではない速度で疾走する。単騎駆けするディアベルと、刀のソードスキルで迎え撃つコボルドロードの間に割り込んだ。

 

「さぁて────そろそろ活躍しようか」

 

 

 

 ♢

 

 

 

 ────力負けする。

 

 コボルドロードのソードスキル《浮舟》を俺のソードスキル《レイジスパイク》で迎え撃ち、鍔迫り合いした瞬間に悟った事だ。俺のレベルは一層で考えれば間違いなく破格の値だ。しかし、そのステータスはほぼ敏捷性に割り振っている。その為に俺よりもレベルが三、四くらい低いプレイヤーが大半のこのレイドでも俺は非力な方だ。現に下から斬り上げるコボルドロードの刀に対して、上から体重を押し付ける形で優位に攻めているにも関わらず押し切れない。

 

「────下がれディアベル! 湾刀じゃない! ()()()()()()()()()()()()()刀スキルだ!」

 

「────っ!?」

 

 あと一秒後に俺の剣が弾き返され、続くコンボスキル《緋扇》で俺は斬り捨てられるだろう。ただでさえ、軽装な俺がエクストラスキルなど受ければ一発アウトである────故に威力を横に流す。ソードスキルが終了すれば技後硬直で動けなくなる、その前に角度をつけて僅かに下がる。斬撃が俺の身をスレスレで通り過ぎ、刃物を研ぐ音を何十倍にもした不協和音が耳を劈くがHPバーに全く変化はない。

 

(キリトのテスターとバレる発言は防いだ、ディアベルの即死コンボも止めた。次は────)

 

「■■■■■■■■■■────ッ!!!」

 

「うるせぇな、ハウス! お座り! ちんちん! ちんちん!! ちんちん!!! 

 

「オウルさん?」

 

 しかし俺の思考は一旦そこで止まった、《浮舟》は殆どダメージがないコンボの初動スキルで技後硬直が極めて短い。ディアベルの命を刈り取れる筈の攻撃を邪魔された為か、コボルドの王は乱杭歯を剝き出しにして滅多やたらに刀を振り回してくる。腕力勝負では勝ち目がない事は分かり切っているので、腕の力み、足の方向、目線の先、それらの要素から次手を予測し、そして俺自身の行動から相手の動きを制限して全ての攻撃を斜めから打ち据えて逸らす────腕に伝わる衝撃から一発でノックバックにより体幹が崩れて、追撃で死ねる事を実感しながら。

 

「オ、オウルさん────」

 

「悪いな、見ての通り忙しい────雑魚コボルド退治の指揮を頼めるか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「────…………あぁ、分かった! 任せてくれ!」

 

 俺が言葉に潜ませたものを、ディアベルはキチンと読み取った。即ち────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という俺の後押し。

 ベータ時代でも刀スキルは特に厄介だった。十層という後半にいきなり出て来た武器スキルは初見というだけでなく高威力もさることながら、ソードスキルの予備動作モーションを見切るのが難しかったのだ。どれくらいかと言えば、まだ未熟とはいえキリトすら分が悪かった。幾らベータ時代の知識があっても、初見の武器とソードスキルをどこまでニュービー達は対処出来るか────死人を出さない事を第一優先するなら答えは決まっている。

 

「聞いてくれ皆! ボスの武装が違った! だが撤退はしない! このままボスは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! 取り巻きのセンチネルにも何らかの変更が考えられる!」

 

 想定外の事態から立ち直ったディアベルは、茫然自失していた隊に矢継ぎ早に指示を出す。コボルドロードの上下ランダムに斬りつけるソードスキル《幻月》の斬撃と体の間に剣を挟み紙一重で逸らしながら横目で見てみると、センチネルのコボルドがまた四匹湧いている。だがディアベルの指揮が有れば大して問題では無いだろう、どちらかというと現状一番死にそうなのは俺だ。曲刀に比べて刀は威力こそ控えめだが、ソードスキルの速度によっては見てからでは間に合わない────冗談抜きで、一度でも、数ミリでも、剣の当てる箇所を間違えれば終わる。

 

「オウルゥゥウウウウ────ッ!」

 

 激怒と焦燥が入り交じり、ブーツが床を踏み砕くのではという勢いで疾走音が聞こえてくる。瞬間、俺は続けて放たれた《幻月》の斬撃を上から来ると見切り、刀が通る軌跡に時間差で《ホリゾンタル》がぶち当たる様に振るう。正面衝突すれば押し負けるが、横からの攻撃なら軌道を逸らす事は容易い。そして俺の技後硬直は────

 

「────スイッチ」

 

「────一人で突っ走らないでよ!!!」

 

 ────()()が大鎌を振るい、ロードの両脚を速度デバフ効果のソードスキルで刻みつける。運が良い事にロードが転倒し、その隙に下がって距離を取りポーションを飲んで後から駆け付けてくるだろう仲間たちを待つ。それにしても速度デバフとは素晴らしい、これで益々速度と手数で翻弄しやすくなった、やはりコイツはかなり頼りになる。

 

「悪い悪い、お前を連れて来て良かったと心底思うよ……で? 他の皆は?」

 

「なっ、ちょ、いきなり────」

 

「もう来ているよ。なぁオウル……いや、今は止そう。それよりもボスはどうする?」

 

「……………………」

 

「すみませんミトさんでも今はそういう場合じゃないと思うんですよ────だからその人を殺せそうな目を止めて下さいお願いします」

 

 一足遅くキリトがやって来る…………そして何故かミトに殺されそうな目で睨まれて土下座してる、いや何してんの? あと何か言いかけたがかぶりを振って中断してしまった。正直何を言おうとしてたのか、予想はつくが今はキリトの言う通り言及する場合では無い。遅れてアスナとコペルもやってきてパーティーメンバーが勢揃いしたので、作戦を言う。

 

「いいか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから、俺が回避盾をする間に変則型スイッチで削ってくれ」

 

 余談だが変則型スイッチとは、通常の防御役と攻撃役を入れ替わりながら二人一組で行うスイッチを、()()()()()()()()()()()()()()()残りは攻撃に徹する超攻撃型の編成である。この場合、移動速度の無い完全な要塞型の盾役が望ましい────間違っても、防御力ぺらっぺらのダメージディーラーが請け負う役ではない。

 

「回避盾って…………貴方、本気で言ってるの? レベルがキリト君と同じでも装備が軽装な分、防御力は低いんでしょ? 一撃でも貰ったら────」

 

「────剣は折れないのか? オウル」

 

「キリト君!? 止めないの!?」

 

 ゲーム初心者でも理解出来る無謀、アスナのあまりにも真っ当過ぎる正論。しかしキリトの心配は俺自身ではなく、使っている剣の耐久値が持つのかどうかだった。そもそも、ロードがいつ攻めてきても可笑しくない今の状況で話し合いなど出来ない────つまり、異論は認めない。

 

「五人でローテしてたお陰で武器は大丈夫だ、俺が正面を陣取る。左からはアスナとミトがペアで、右はコペルとキリトが攻めろ────さぁ行くぞ! 聞き分けの悪いワン公を躾てやれ!」

 

「ちょっと!? いいの!? キリト君!?」

 

「信じろ! オウルなら出来る! 助けたいなら早く倒すんだ!」

 

「キリト! いざとなったら僕が盾で防ぐから強気で攻めてくれ!」

 

「アスナ、どうせアイツは言っても聞かないわよ」

 

 即興の打ち合わせをしている仲間達を置いて颯爽と先陣を切る、既に立ち上がり俺をタゲっているロードに真正面から向かうと挨拶代わりにソードスキルを放とうとしてくる。直線の居合斬り《辻風》、二秒後に視認不可能な速度で飛んでくる致死の技を意識しながらも、俺は意識を外では無く内に向ける。

 

「ふー…………」

 

 行うのはただの深呼吸なのだが、イメージするのはあの日、初めて人の命を奪った感触。超えてはならない一線を超えた実感は、脳髄の奥まで氷柱をぶっ刺したような凍てつく意識を俺にもたらした────周囲状況を把握しながら、死を意識しながらも今まで()()()()()に対処していた攻撃に、今度は全集中力を注ぎ込む。

 

(《辻風》到達、1.5秒後────撃墜の最適解斜め下から《レイジスパイク》────発動は0.2秒後がベスト)

 

 これが果たして、転生者としての特典なのか。はたまた殺人を起こしたことによって、俺の脳に何らかの異常が起こった故の物なのかは不明だ。しかし、俺の眼には確かに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それに対する最適解が脳裏に勝手に湧いてくる────恐らくは、邪魔な主観の情報を削いだ結果と経験則が前面に出た予測だろう。

 コンマ数秒のズレすら無く、受け流す形で視認すら出来ない居合斬りを弾く。威力と射程が長いソードスキルはそれ相応の技後硬直をもたらす。その隙にキリト達が各々のソードスキルを叩き込んで、目に見える速度で最後のHPバーが減っていく。

 

(この調子なら、あと107秒後に決着だ────LAは……まぁ、無難にキリトでいいか)

 

 怒り心頭の表情でありながら、フェイントを咬ませ《幻月》を放とうとするコボルドロード。だが、そのフェイントすら俺の行動予測の範疇から出ていない。上と見せかけた下からの斬り上げに、斜め下から《スラント》で軌道を逸らして威力を流し、上体を浮かせてやる────勢い余って片足で踏ん張る王の姿は、どこか滑稽ですらあった。

 

「凄い……! 完全に封殺している……!」

 

「コペル! 油断するな! オウルの防御力とロードの攻撃力なら一発逆転が有り得る! 一方的に見えても綱渡りな事に変わりは無い!」

 

 叫びながらキリトは通常なら反撃を考慮しなくてはならない範囲まで踏み込み、ソードスキルをぶち当てる。ミトとアスナも既に俺の盾役としての働きを認めたのか、続けざまに刺突と斬撃の嵐を巻き起こしている────フィナーレが近い。

 このまま脳死でペチペチと殴っているだけでも勝てるが、キリトに原作通りLAを取らせる為に少し策を弄する。態と少しだけコンボ開始スキルである《浮舟》を甘く弾く、それに気を良くしたのか、AIらしからぬ笑みを零してコボルドロードはニタリと口角を上げる。今までの鬱憤を晴らそうと大きく踏み込みスキルを発動させる────三連撃スキル《緋扇》、本来ならばディアベルを殺した技だ。

 

「────オウルッ! 退けッ!」

 

 俺と同じ様に刀スキルの凶悪さを知ってるキリトが俺に向かって叫ぶ、折角キリトがテスターとバレない様に気を使ったのに、台無しにしかねない行為に内心呆れるが────ここまで全て予想通り。獲物に噛みつくが如く上下の連撃、目で追える速度を超えているが元々目で追うつもりも無いので全く問題ない。

 

 ────そう、俺がすべきは『反応』では無く、『予測』だ。

 

 上から来る斬撃を刀身で逸らしてやり過ごす、続く下から来る斬撃は速過ぎて刀身は間に合わないので柄頭を叩き込んで軌道をズラす、流石に数パーセントHPが減るが問題ない。最後の一拍置いた射程の長い突き技────ここだ。

 “ソードアート”と銘打つだけあってこのSAOのソードスキルには様々な恩恵がある、それはスキル毎によって違うが原則的な物は────()()()()()()()()()()()()()

 敵をキッチリと視認してソードスキルを発動させれば、運動ド素人のゲーマー達でも当てる事は難しくない。故にソードスキルを防ぐ事は難しく無いが、()()()事は少し難しい。射程内ならば剣は吸い込まれる様に当たるし、突進系なら敵が跳躍しても勝手に向かってくれるからだ。

 だからこそ、テスターもビギナーもソードスキルを避ける時に意識する事は()()()()()では無く。頭部や心臓部のクリティカルポイントなどに当たらない様にする事、腕や脚なら然程問題では無いが、例えば頭なら状態異常の《スタン》になる可能性が高いからだ。

 

 ────だがそれは、裏を返せば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 幾ら敏捷性高めでもスキルの補正無しの跳躍では、ソードスキルからの命中補正からは逃げられない────なので()()()()()()。同時に刀の切っ先が動き出して俺の正中線ど真ん中を貫こうと先走る。猶予は残りコンマ数秒、右足を抱える様に大きく上げて突きの速度を計算した上で、思いっ切り大きく踏み出す。

 

「はいそこぉおおお────!!!」

 

「はぁあああ────────!?!?」

 

 狙い通り見事、振り下ろした足裏は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()────キリトがあんぐりと口を開き、コボルドロードは呆然としていた……さっきから表情豊かだな、お前。

 技後硬直によって動けないロード、当然その隙を逃すのは勿体無い。左手に握られた剣を構えて水平二連切り《ホリゾンタル・アーク》を足元の刀に放つ。左から右へ、右から左へ、斬撃の軌道を可能な限り狭めて一点に集中させる。ド派手なライトエフェクトと硬質な物がひび割れていく音、そして引き起こすのは────刀の《武装破壊》。

 

「決めろ────キリト!!!」

 

「────あぁ!!」

 

 そしてそれを見て、反射的にキリトは動き出していた。刀身が半分失われて攻撃力も大幅に減ってしまい、コボルドロードは最早脅威ではない。多分完全に刀が無くなった訳ではないので、ソードスキルは使えるだろうが《緋扇》は高威力故かクールタイムは長い。キリトは軽くなってしまった刀を軽々と弾き返し────《バーチカル・アーク》が、王を討ち取った。

 

 

 

 ♢

 

 

 

 ────コイツ明らかに、俺にLA譲ったよな……? 

 

 一体何を考えているのだろうか。いや、勿論この後『キリトー! LAちょーだい!』と言われたら逡巡に逡巡を重ねて、空手形を貸し付けて譲るのも吝かでは無いのだが……いや無いな。そんな事をするつもりなら、オウルはあのままコボルドロードを絶対に倒せた。都合、数十回の刀ソードスキル、しかもベータテスターであっても四ヶ月前の記憶────その全てを一身に防いだオウルは、間違いなく“現SAO最強のプレイヤー”と言える。

 

「ふぃー、はい終了終了。オツカレー……カレーと言えば、()()()()確か牛が沢山いたなー、あぁカツカレー食いてえー!」

 

 オウルはワザとらしく大きく両手を上げて背伸びして、そんな気の抜けた事を言う。その言葉が意味する所は────。

 

「オウルさん……その────」

 

「やぁディアベル、お前もお疲れ様。()()()レイドを率いたのに見事な指揮だったよ。今後もボス攻略の際は頼んでいいか?」

 

「…………オウル、さん」

 

 何かを言おうとするディアベルの肩を馴れ馴れしく組んで、続く筈の言葉を遮る。違う、オウルはそんな真似はしない。どんな激戦の後も疲れを見せない顔で、周囲に敵がいないか警戒して決して隙を見せない。たかだか数日前に知り合ったプレイヤーにそんな事はしない────言語化しづらい焦燥を感じて、俺がオウルに駆け寄ろうとした時だった。

 

「おいお前!? 何で言わなかったんだ!?」

 

「…………あー?」

 

 シミター使いのプレイヤーがオウルに向かって叫んだ、その顔はどう見ても怒り一色に染まっている。

 

「何の事だよ?」

 

「ボスのスキルの事だよ!! アンタは刀スキルの事を知っていたじゃないか!? そのせいで危うくディアベルさんが死ぬとこだったんだぞ!?」

 

 シミター使いの訴えを皮切りにレイド部隊に動揺が広がっていく、その言葉を待っていたとばかりに大仰な手振りと耳障りな大声で黒フードの男がオウルに指を突き付けて言う────黙れ、辞めろよ、コイツのお陰で勝てたんだぞ? 

 

「オレ! オレ、知ってる! コイツ元ベータテスターだ! だからさっき刀スキルの防ぐ事も出来たし、次の層に牛がいるとか言ってたんだ!」

 

 ────もしも、コイツのカーソルがオレンジだったら、俺は間違いなく剣を抜いていた。

 

 しかし、今の今までリアルでもゲームでも他者との関わりを極力避けて生きてきた桐ケ谷和人の理性は、寸前でその行いがどれだけのリスクを含んでいるのか訴えかけて、俺のアバターが取ろうとした行動を制限した。それに歯が砕ける程の煩わしさを感じながらも、舞台は進む────間違いなく、全てオウルの狙い通りに。

 

「はぁー……俺が、ベータテスターで。次の層の、情報を持っていて。エクストラスキルの対処法を、知っていて────で?」

 

「ボスの情報とか! 旨いクエストとか! 知ってて隠してんだろ!?」

 

「────それで?」

 

「ほっ……本当はもっと、ベータ時代の知識があるんだろ! 次の階層のmobとかボスとかの攻略情報を持ってるんだろ!?」

 

「────だから?」

 

 耳障りなキィキィとした声で目一杯叫んでいる黒フードの男に、スタスタと全く怖気ることなくオウルは詰め寄る。その行動は彼の予想とは違ったのだろう、逆に気圧されて語気がどんどん萎み弱まっていく。

 

「だっ……だから、ボスの情報を隠し持って、ディアベルさんを追い込んで……」

 

「だったらあの場面でリスクを背負ってまでディアベルを助けには行かないよ。もしもディアベルを死なせたいなら傍観するし、一人でボスを倒せる自信があるならレイドに参加しないし────それとも何か? 黒フードさん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 オウルのその言葉に黒フードは押し黙り、そして同時に俺の脳裏に閃きが走った────この黒フードの男は、LAの事を知っている? 

 だが、それを理由に言い返す事は自分もベータテスターであると公言するに等しい。恐らくだが、この男はLAを理由にディアベル、若しくはLAを手に入れた誰かを糾弾する腹積もりだったのか? それならばオウルに隠す気が無いとは言え、わざわざベータテスターである事を槍玉に上げる理由に繋がる。そこまで思考を巡らせて何かに気付けそうになったが、シミター使いの怒声が遮った。

 

「なら! ベータテスターである事を認めるなら! 情報は全部差し出せ! アイテムもコルも全て!」

 

 余りにも横暴極まる言動。流石にそれはと思ったアスナとミト、続いてエギルも諫めようとするが────それよりも早く、騎士の号令が掛かった。

 

「────リンド! もう辞めるんだ」

 

「ディ、ディアベルさん!? でもコイツは────!」

 

「俺は言ったはずだ、“ベータテスターの力も借りたい”と……それは、決して糾弾して資産を奪い取る事じゃない────今回みたいに危ない時に助けてもらう事だ」

 

 ディアベルはチラリと横目で何かを見る、その視線の先を追うとそこにはキバオウがいた。恐らく今の言葉はリンドだけに向けたものではない、キバオウと黒フード、そして潜在的なテスター排除派に向けた言葉だろう────オウルの後押しもあり、今後もディアベルは()()()()の筆頭プレイヤーとして活躍していかなくてはならない。ある意味では、最も辛い役回りと言える。

 

「オウルさん、すまなかった。君に助けられたのに失礼な事を…………」

 

「いいさ、でもまぁ、仲間にはもうちょい気を配った方がいいぞ────特にそこの黒フード、夜中に会ったら()()()()()()()()()()

 

 おどけた風に言うオウルの言葉にディアベルもつられて笑うが、何故か俺には全く笑えなかった。それはきっと、オウルの精巧な作り笑いだけが理由では無いのだろう。

 

「さてと……それじゃあ俺達は、一層の街に戻ってボスを無事に倒せた事を報告しようかな」

 

「ん? このまま二層に行かないのか? 一番近い街の《ウルバス》も三十分歩けば着くし、道中のmobも大したことないぞ?」

 

「それは()()()()()()()だろう? さっき痛い目を見たしね、誰も死なせないって宣言したから安全を優先したい────勿論、オウルさんが行きたいって言うなら止めないよ」

 

 ディアベルは踵を返しボスフロアの入り口側に戻る、対してオウルは次の階層に繋がる階段を指差すが、彼の意志は変わらないようだ。確かに、一層でも細やかな部分ではベータ時代と違う点はあった。だがこれだけのプレイヤーが揃っていれば問題ないと思うが…………いや、違う。今のレイド隊はオウルに大なり小なり不満を燻ぶらせている、せめて時間を置いて、オウルとの軋轢を減らそうとしているのか? 

 

「そうか、なら俺が街のアクティベートをしてこよう。二時間経てば自然と開くとはいえ、そんな生殺し嫌だろう? 代わりと言っちゃなんだが、一つ頼まれてくれるか」

 

「ありがとう、感謝する……それで頼みってなんだい?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。俺も流石に四人も守る事は出来ないからな、帰るならソイツ等も一緒に連れてってやってくれ」

 

「────え」

 

 オウルの指差す先には────俺とアスナとミトとコペルがいた…………そうか、飽くまでもそういう事にしたいのか、お前は。出来る事なら、違うと叫びたい。でも、それは、きっとオウルの決意と努力を無下にする事だ。

 

「行こう、皆。一旦トールバーナまで帰ろう」

 

「……良いの? キリト君? ミトも?」

 

「いいのよ────あとで殴るから」

 

「あぁ────助走つけてな」

 

「ええー…………」

 

 俺もミトも納得はしていない、そんなの出来る筈がない。だがここで暴れても仕方が無い、今はまだおんぶに抱っこでも────その内、俺がお前を守れるくらい強くなるよ、オウル。四十六人は迷宮区に戻り、たった一人の剣士は二層の階段へと足をかける……せめて餞別にこの《コート・オブ・ミッドナイト》を渡せば良かったと思うが、後の祭り。白いトレンチコートの姿は消えていた。ぞろぞろと歩いているレイド隊は、それなりに消耗してはいるだろうが流石にこの迷宮区で不覚を取る程では無い。何ならボス戦を終えてレベルアップし、行きの時よりも安全性は高まっているくらいだ。

 

「そういえばさ、キリト君とオウル君ってリアルでも知り合いなの? それともSAOで知り合ったの?」

 

「え、急にどうした? SAOで知り合ったんだけど……」

 

「いやーなんか仲良さそうだったから、オウル君の事をキバオウさんが悪く言った時、凄い顔だったよ」

 

「本当にね、ベータ────んん、前は一匹狼気取ってふらふらしてたのに」

 

 げっ、と心の中で思ってしまったのは無理からぬ事である。よくよく考えればミトはベータテスターである為に、あの勇者顔のアバターだった昔の俺の事も知っているのだ。いや、別にあの頃に恥ずかしい事をしていた訳ではないのだが……精々六層で初のデバフ《チルネス》を解除する際にオウルに抱かれた(深い意味は無い本来の意味で)くらいだ。そして出来る事なら、その記憶も思い出したく無かった。

 

「ハハハ、でもミトさんもなんかオウルと親しげだったよな? ボス戦の時は迫力のあまり土下座しちゃったよ、俺」

 

「あぁ……キリト君が急に頭下げるからどうしたのか思ったら、そういう事……」

 

「フフフ、今後もし同じような事があったら“土下座”くらいじゃすまないわよ?」

 

((────怖っ))

 

 ────彼女との間に何があったのだ、相棒よ。

 恐らくは隣にいるアスナと同じ思考になった。暗い迷宮区のたいまつの明かりに照らされる彼女の闇を感じさせる表情は、まるでサイコホラーの殺人鬼めいていた。とてもではないが『ひゅーひゅー! お熱いねー! 南極の氷も解けちまいそうだぜー!』等とおちょくれる雰囲気では無い────ていうか普通に殺されそう。

 

「あはは……じゃ、じゃあさ! コペル君は!? コペル君とはいつ知り合ったの?」

 

「コ、コペルとはぁー…………えーと」

 

 何故か暗い雰囲気なってしまったので、アスナが強引に話題を変える。しかし俺と、この場にいないオウルからしてみれば、その話題の方が暗くなりやすいという物だ。何せ彼との出会いは今から数週間前と記憶に新しく────

 

 

 

『Coperがパーティーから外れました』

 

 

 

「────は?」

 

 

 

 俺の視界に無機質なシステムメッセージが表示された。

 

 

 

 

 

 





流石にSAOの関連作品全部は追えていないので、多少の矛盾はお許しください。
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