Q.転生者の存在意義とは?   作:七黒八白

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A.知らん、誰それ……怖……。



第八話 Q.この子は誰ですか?

 

 

 

 デスゲームが始まって、既に一ヶ月以上が経過した。

 

 俺の(と言うと自慢になるかもしれないが)活躍によりディアベルは死なずに済んだ。だからだろうか、僅かではあるのだがSAOの攻略速度が早まっている気がする。気がするというのは、SAOの外伝扱いであるプログレッシブ系列の原作知識が、俺には殆ど無いからだ。まだまだ先の事だが、ぶっちゃけ本編の方もアリシゼーション編の最後辺りはふわっふわである。

 そしてネズミに食い荒らされたのではないかと疑う程、穴空きチーズ並みにスカスカの知識では『キリトがエルフのお姉さんと混浴』する事と『暗所かつ狭い場所でアスナの胸を揉みしだく』事と『なんかデッカイ城でエルフのお姉さんとアスナと混浴』する事くらいだ────いや、何してんの? アイツホント何してんの? SAOのレーティング知ってんのか? これでは『キリトさん』じゃなくて『リトさん』だよ、彩南町に帰ってどうぞ…………あれ? そういえばアスナの声って…………。

 

「────あほくさ、さっさとクエスト受けに行こう」

 

 馬鹿馬鹿しい考えを俺はそこで打ち切り、俺はゴツゴツとした質感の遺跡跡に造られた主街区《カルルイン》で歩を進める。クリスマス・イブが近いだろうからか、三時間前にボスが倒されて、既にアクティベートされた筈の街にはプレイヤーが殆ど見受けられない。尤も時間帯が二十時半を回っているので、皆ただ休んでいるだけかも知れないが。

 

(ボス戦には一層以来参加していないが、ハードなレベリングとクエストの先取り、そして『ソロ』だからか今の俺はLV18……遠目に見た感じ今の攻略組の平均レベルは14~15って所だろう)

 

 現在のアインクラッドの適正レベルは階層数×3だ。この開かれたばかりの五層ならば、適正レベルは15という事になる。しかしこれは、俺の体感的に『複数人のパーティーでフロアボスに挑む強さ』だ。当然、ソロならばもっと条件は厳しくなる。勿論、ソロで最前線を動いている死に急ぎ野郎は今の所は俺以外にいないが。

 

「この層はベータ版と同じならちょっとフロアボスが強い筈、でもディアベルの指揮なら対処は難しくないだろう────だったら、俺は俺で自己強化に励むか」

 

 もしも何らかの変更があればその限りでは無いが、ディアベルも偵察戦無しで挑むボス程怖いものは無いと理解している筈。情報はメッセージでアルゴに渡しているので、必要以上に俺が関わる理由は無い。そもそも二層でコペルを殺害して以来、キリト達とは顔を合わせていないし、今更ノコノコと攻略組に顔を出すつもりも今の所は無い。

 

「さぁーてと、さっさと時限クエストを終わらせて、迷宮区のマップデータを無料でアルゴに投げ渡す……か…………な」

 

 周囲に誰もいない事を良い事に、独り言をペラペラ喋りながら歩いていると、薄暗くて綺麗とは言い難い、使われていないだろう木の樽や箱が雑多に置かれた繫華街の路地裏の様な、言葉を選ばなければ薄汚いその場所で────壁から、尻が生えていた。

 

「…………………………………………」

 

 ────オイオイ、大魔王カヤバーン、お前SAOのレーティング知ってんのか? 

 

 一瞬、俺は『あれ? このゲームR18だったか?』と思ってしまったが、異性に対して不埒な行いが出来ない《ハラスメント防止コード》はちゃんと存在している事は既に確認している。ならば、であるならばだ、これはきっと、ただのオモシロジョークオブジェクトに過ぎな────

 

「うーん……うぅーん!! 抜ーけーなーいー!」

 

(────い、と思ってた時期が俺にもありました…………)

 

 何でやねん、何で声からしてただでさえ少ない女性プレイヤーが、こんな昼間でも人通りが少なそうな裏路地の裏通りで、壁尻になっとんねん。俺は何故か関西弁になりながら、心の中で突っ込まずにはいられなかった。真面目に何故、この女性プレイヤーはこんな目に遭っているのだろう。まさか俺の事を貶める罠か、と疑うが俺の位置はアルゴくらいしか追跡出来ない筈。それすらも大雑把な位置しか分からず、先んじてこの女性が居る事は不可能だ。つまり、美人局などあり得ない。

 

「あのー……大丈夫ですか?」

 

 俺の中には『うわーメンドクセー』という心と『いやいや、困ってるなら助けなきゃだろう』という心が二つあった。具体的な割合で言うと七対三くらいで。もしも、俺の手助けをしようとする行いに壁尻女(仮名)が『あー大丈夫大丈夫! だからサッサと消えてくれる?』とか『はぁ!? 何見てんの!? マジキモイんですけど!?』とか言うなら、俺はあぁそうですかそれは悪うござんしたね、と全力疾走で目的地まで消え去った事だろう。しかしながら、未だに藻掻く目の前の彼女は────

 

「え!? ウソ!? そこに誰かいるの!? 良かったー! ねぇ、ちょっと引っ張ってくれない? 穴に頭から突っ込んだら引っかかってさー」

 

 ────見りゃあ、分かるわい、それは。

 

 そんな言葉はギリギリの所で喉に止めて、純粋なSOS信号ならば流石にお人よしでも何でもない俺ではあるが、見て見ぬふりをする訳にもいかず。念の為に、壁尻女(仮名)に一言断りを入れてからブーツの上から足首を掴む。流石にこのくらいなら《ハラスメント防止コード》には引っ掛かるまい。ブーツだけ抜けない様に、しっかり掴んでから女性にも用意を促す。

 

「……じゃあ、引っ張るんで。いっせーので、で一緒に力んで下さい。自分は敏捷値高めで筋力値はそこまで高くないので」

 

「うん、お願い!」

 

「「いっせーので!」ふんッ! ────とっわぁおおおぉぉおお!!?」

 

 うんとこしょ。どっこいしょ。それでもカブは────いや、(しり)は抜けません。そんな俺の予想に反して、二人分の筋力値は過剰でつっかえが取れたのか、彼女は勢い良く穴からすっぽ抜けた。俺の変な叫びは思っていた以上に簡単に抜けたので、ほぼすっ飛ぶ形で後ろに転がり、ボロボロの樽や木箱のオブジェクト群に、ドンガラガッシャーンとコミカルにダイブしたからだ。

 

「アイタタタ、いや痛くは無いけど、ありがとうね! ────ってアレ? どこー? 親切なプレイヤーさん?」

 

「…………ここ、ここだよ、look down」

 

 何故か英語で、俺は上に向けて言う。女性プレイヤーはまだ状況を理解していないのか、意味が不明瞭な調子でゆっくりと下に視線を向けると────そこには、女の尻を顔面で堪能している男がいた。

 

 

 

 ────ていうか、俺だった。

 

 

 

「────変態ッッッ!!!」

 

「────あばかむッッッ!?!?」

 

 この状況と俺に対する的確なありがたい一言を添えて、素早く立ち退いた女性のトゥーキックが俺の頬に突き刺さる。成程ねー、これがハーレム物ラノベ主人公の主人公補正って奴かー…………で? これ、クーリングオフってどこで出来るの? 

 

 

 

 ♢

 

 

 

「ごめんなさい、助けられておいて流石にアレは無かったわ……」

 

「あぁうん、良いよ別に」

 

 これが現実ならば、彼女のつま先が頬に突き刺さり、奥歯が数本抜けて口内が血祭りになる事は間違いなしだが、ここは仮想世界。《圏内》である限り決闘でもしないと、HPは決して減らないし、それはつまり犯罪者フラグが立たないという事だ。紫色のシステム障壁に阻まれて、衝撃が顔を突き抜けたくらいで一々怒っていたらキリがない。目の前で深々と頭を下げる少女には、()()()()()()()()()()。攻略組にこんな奴は間違いなくいなかった。

 身長はあまり高くない、目算でキリトが大凡165センチ程だったのを考えると、彼より10センチ程低い。髪の色は地毛かどうか不明だが、橙色と茶髪の中間色で瞳の色は翡翠を連想させた。武装は軽装剣士なのだろう、青いフーデットケープの下に《軽装金属装備》のスキルを必要としない程度の胸当て、黒いショートパンツのベルトには短剣が備えられている。

 

「あたし、()()()()。アナタは?」

 

「オウル、しがないソロプレイヤーだ」

 

 ゲーマーらしからぬ社交性なのか、差し出された手を握り返す。普通のゲーマーなら『うひょー美少女プレイヤーとのイベントフラグ(゚∀゚)キタコレ!!』となるのだろうが、生憎俺は忙しい。このまま彼女とは別れて、目的のクエストをサッサとこなすべく、交流もほどほどに軽い会釈と共に去るとしよう。

 

「じゃ、気を付けてな。ここはベータの時も良からぬ事を企む輩も少なく無かった」

 

()()()()()()って……アナタやっぱり元ベータテスターなのね」

 

「ソロで動くビギナーがいるかよ、それに俺は元ベータテスターである事は隠してないしな」

 

 約三週間前に、コボルドロードの戦いを終えた後に俺はベータテスターである事を明かした。以来はベータの時はどうだったか、という情報をアルゴ経由で流している。もう攻略組に俺がテスターあった事を疑っている者は居ないだろうし、今後も俺の知識や情報を求められる事となるだろう。相手が誰であれ、最早隠すつもりもない。第一、ベータの時代に昇れた階層は十────元ベータテスターとしてのアドバンテージも、あと半分だ。出し惜しみしても恨みを買うだけ、良い事は無い。

 

「へぇー……じゃあ、この後は率の良いクエストとかこなすわけ?」

 

「まぁな…………って、なんでついて来てんだよ」

 

「だってさ! この階層って《遺物拾い》が盛んだったんでしょ! アナタもっと拾える場所とか知らない?」

 

 その発言を聞いて俺は、ハハーンと心の中で合点がいった。後ろから追従してくる彼女の目は、アニメで良くある『¥』や『$』マークになっている気がする。まぁ、この世界の通貨はコルなのだか。

 

「さては……さっき頭から穴に突っ込んでいたのは、遺物目当てだったのか?」

 

「うぐぅ」

 

 ぐぅと唸る彼女は図星のようで、気不味そうに顔を背ける。恐らく何処かから、ベータテストの《カルルイン》は遺物拾い祭りで、滅茶苦茶儲けた奴がいたと聞きつけたのだ。そして夜遅いのにも拘わらず、遺物が再出現する保証が無い今の正式版SAOで、先んじて遺物を掻っ攫おうと画策していたのだ…………だからってあんな場所へ文字通り首突っ込むか? とも思うが。

 

「ふふふ、じゃあこれは知ってるか? ベータの時にレベリングそっちのけで、遺物拾いに夢中だった奴は敬意をこめて《ヒロワー》なんて呼ばれてたんだぜ?」

 

 

 

 ────素晴らしい提案をしよう、お前も《ヒロワー》にならないか(CV.上弦の参)? 

 

 

 

「ち、違うし、安全圏で稼げるからちょっと頑張ってただけだし。私は《ヒロワー》にはならない」

 

「別に良いけど、ほどほどにな。特に《圏外》は実入りも良いけどバックアタックの危険性がある。ソロでは絶対にやるな」

 

「────え!? 《圏外》だともっと実入りが良いの!?」

 

「話聞いてましたかフィリアさん?」

 

 目は口程に物を言うという表現があるが、今の彼女はまさにそれだ。キラキラと輝く瞳は、さながら鰹節を前にした猫の如し。彼女が《ヒロワー》になる未来は、恐らくそう遠くないだろう。だがしかし、俺に何の関係も────。

 

「じゃあさ、オウル手伝ってよ。遺物拾いの」

 

「────なぬ」

 

 肩にポンと手を置かれ────いや、ガッシリと掴んできてフィリアは言う。『お前も《ヒロワー》にならないか?』と(言ってない)。

 

「嫌だね、何で俺がそんな事をせにゃならんのだ」

 

 確かに今の俺はレベルが18となっており、この五層ですらレベリングはmobの関係上効率的とは言えない。恐らく一週間程度でこの階層もクリアされる事を考えれば、この階層では金策やアイテム収集に勤しみ、次の階層で素早いスタートダッシュをした方が効率的と言える。

 だが、それは別に『ソロ』でも充分可能な事だ。彼女と組む理由にはならない。第一、今のSAOでパーティーを組む事は命を預かり、同時に預ける事と同義であり、それはつまり彼女を信用せざるを得ないという事────初対面の人間にそこまでの事は、俺には出来ない。

 

「こんな言い方したら悪いけど、女性プレイヤーなら引く手数多だろう? 他を当たって────」

 

「あたしのお尻堪能したこと、言い触らすよ?」

 

「────語弊があり過ぎるだろその言い方ぁ!!?」

 

 まさか俺を脅す気かこの女!? 『してやったり』とニヤニヤのドヤ顔を構しているその頬を抓ってやりたくなるが、そんな事をしても俺がハラスメントで牢屋送りになるだけだ。どうでもいいがミトといい、アスナといい、このフィリアといい、ドイツもコイツも顔面偏差値高すぎないか? 

 俺は一旦足を止めて思考の海に潜る、もしも、もしもここで、フィリアを突き離して『ソロ』を貫き、フィリアが有言実行した場合は────

 

『オウル君……一回、死のっか』

 

『コンビを組んだのか、俺以外の奴と……』

 

『余程、愉しんだみたいね、きょうすけぇ……!』

 

 ────アカンこれじゃ俺が死ぬゥ! あとイマジナリーキリトの反応が何故かキモい。お前とは友人以上の関係を築いた事は無いよ────まぁ抱いてやった事はあるけどなぁ!!! (そのままの意味)。

 

 となれば、もうフィリアをパーティーにする以外に選択肢は無い。まぁ、俺にもメリットが無いわけでは無い。まず『コンビ』なら死の危険はそれだけで激減するし、遺物拾いは人手が多ければそれだけ捗るし、これから受けようとしていたクエストも人手が多い方が早く済む。それに彼女が強くなれば、攻略組になってくれるかも知れない。無論、最後のは願望に過ぎないが。

 

「…………はぁ、もう良いよ。じゃ、ついて来い」

 

「ヤッター! それじゃあよろしく! オウル!」

 

 パーティー申請をこちらに飛んでくる。名前の綴りは『Philia』。英語じゃないよな、多分。意味はあるんだろうか、そんな事を考えればピースをこちらに向けて笑っているフィリアがいる。

 

「────で! どこ行くの!? お宝沢山あるんでしょうね!」

 

 

 

 ────気楽なものだ、ここはデスゲームだというのに。

 

 

 

 ♢

 

 

 

 特に根拠は無いが、昔から竹宮琴音────私は運が良かった。

 ナーヴギアこそ前々から持っていたのだが、特にこれといったゲームに嵌る事も無く。大体、知育型のフルダイブの意味をあまり感じさせないタイトルで少し遊んだくらいだった────だからだろうか、何と無しに出掛けた近所のゲーム屋で、一本だけ売り出されていたゲームのタイトルを見た時は天恵だと思った。即決で買って、その時はファンタジーの世界を歩き出す夢想で、喜びと期待が隠せなかった。

 

 私は、運が良かった────運が、()()()()

 

 2022年11月6日、あの日にデスゲームが茅場晶彦に宣言された。大勢の人間が合唱でもするかのように、怒号と悲鳴が全身を打ち響いたあの感覚は、今でも忘れられない。全てが電子データの仮想世界でありながら…………或いは、だからこそ剥き出しの感情がそこにはあった。

 震えた、死の恐怖に。泣いた、現実に戻れない事に。叫んだ、簡単に人が死ぬ事実に。それでも《圏内》にずっと居る事の方が不安を覚えた、戦う術が無いまま《はじまりの街》に居たとしても何も解決しない。一週間も経ったのに外部から何もアクションない時点で、恐らくは外の科学者達ではナーヴギアを外す事は出来ないのだろう。それも頷ける話だ、何せ茅場晶彦は世紀の大天才と謡われ持て囃されたのだから。

 誰の助けも期待出来ないと悟った私は、恐怖の震えを抑えて死に物狂いで戦った。暫く経つと、ビギナーの間で『ベータテスター』という単語が聞こえてきた。何でもベータ版のSAOを遊んでいたアドバンテージを利用して、先に進んでいるのだとか、ありがたい話だ。ビギナー達は『見捨てられた』とか『自分達だけが強くなるつもりだ』とか言っていたが────私としてはSAOをクリアしてくれるなら誰でも良かった。

 

 安全マージンを取って、臨時パーティーを組んで、やっとSAOの基礎的な部分に慣れてきた時だった────一層のボスが倒されて、二層が開通したと《トールバーナ》の酒場でアイテムを整理している時に聞いた。そこから、攻略はとんとん拍子で進んでいく。三週間も足踏みしていたとは思えない速度で、二十階の迷宮区は攻略されてボスは倒される。階層のフィールド端のダンジョンなどは攻略組も殆ど触らないのか、手つかずのままだった。私にこのゲーム、いや世界を楽しむ余裕が出来たのは丁度その辺りだったと思う。

 

「そういえば、フィリア? お前はレベル幾つ?」

 

「あたし? 昨日14になったばっかりで、スキルは見ての通り《短剣》に《索敵》、後は《解錠》と《罠解除》を入れてる」

 

「ふむ……スキルスロットは四枠か。攻略組じゃない事を考えたら高いが、最前線で活動するにはちょっと心許ないな。つーか《罠解除》は良いけど、《解錠》はどう考えても趣味だな…………」

 

「何よ、結構役に立つのよ? 他のプレイヤーが開けずにおいた宝箱を独り占めに出来るんだから」

 

 確かスキルスロットが増えるレベルは、6で三つ、12で四つ、20でスキルスロットは五つとなり、その後はレベルが10上がる毎に一つずつ増えていくんだったっけ? 私は次に取るのは何しようか迷いながら思う。もっとお宝探しに便利なスキルが欲しいのだが生存系も捨て難い。大抵罠が仕掛けられていたり、鍵の付いた宝箱は有用なアイテムが入っているのだ。お陰でレベルとステータスは兎も角、装備は中々充実している。

 

「オウルはどうなの? レベルとかスキルとか」

 

「フィリア、覚えておくと良い。SAOにおいてレベルとスキルを知られる事は心臓を握られる事に等しい、簡単に教えない方がいい」

 

「む……先に言わせておいて」

 

「ははは、言ったろ? 良からぬ事を企む奴も少なくなかったって」

 

「それはどーも、ご教示痛み入りまーす」

 

「因みに俺はLV18でスキルは取得順に《片手直剣》、《索敵》、《隠蔽》に……《投剣》だ。LV20になったら次は《軽業》かな、アクロバットな動きは戦闘に自由が利く」

 

「結局言うの!? じゃあさっきのやり取りはなに!?」

 

 揶揄うように────というか実際に、真顔で揶揄ってくる目の前の白髪に白コートの剣士を睨む。真意が読めない上に突拍子も無い。だが、そこまで警戒する事があるのだろうか? 確かに、一層のはじまりの街周辺ではレベルの低いプレイヤーに対して、恐喝行為など問題になっている事はある。しかし、そこまでだ。アイテムやコルは未だしも、命を奪うような真似までするプレイヤーは流石にいないだろう。

 

「どうだかな…………知ってるか? 一層の時、攻略組のプレイヤーに《MPK》を仕掛けたプレイヤーが居た()()()。しかも仕掛けた奴と仕掛けられた奴は、今も行方不明だそうだ」

 

「あ……聞いた事あるかも」

 

 風の噂程度だが、最前線近くで動いているプレイヤーの間では有名な話だ。何でも被害者は今でも加害者から逃げ回っており、攻略組でもその二人の名前は出す事が禁忌扱いされているとか。私達のHPが全部無くなった時に死ぬかどうかはプレイヤーでは確認出来ないが、それなら私達がもう一ヶ月以上もSAOから出られない事に説明が出来ない。

 

「そういう事だ。だから安易に他のプレイヤーにレベルやスキルは教えない方がいい。────だが、バレても問題ないスキルや相手、または、敢えてバラす事でミスリードを誘うならいいでしょう(CV.脱サラ呪術師)」

 

「なるほどー…………好きなの? 呪術廻戦?」

 

「労働はクソという事です!!!」

 

「ハイハイ、わかったわかった」

 

 険しくも無表情、内心を伺わせない青い瞳は排他的なクールでイケメンっぽい雰囲気がそこにあったが、本当にあっただけだった。しかし、そんなやり取りの中でも入り組んだ路地からメインストリートに出て、その足取りに迷いは無い。やはりベータテスターというのは、偽りは無さそうだ。

 

「ねぇ? 今何処に向かっているの? 遺物拾いは?」

 

「ただそのまま遺物拾いするよりも、効率的な方法がある。先ずはこの先に富豪のNPCの屋敷がある、そこでクエストを受けるぞ」

 

「えー……クエストならいつでも良くない?」

 

「ところがどっこい、良くないんだなコレが。何故なら、今から受けるクエストは《カルルイン》に入ってから72時間以内に受けて、クリアしないといけないから」

 

「え……時間限定クエスト? それって、チャンスは一回だけって事?」

 

「いや、《カルルイン》から出て168時間以上────つまり丸一週間経てば、またチャンスはあるよ。詳しい事はクエストを受けてからな……あ、因みにRPGあるあるだけど、ツボとかタルは壊すなよ? 普通に犯罪者(オレンジ)フラグ立つからな?」

 

 メインストリートを歩いていると、改修されていても古めかしい質感だった建物群は少し豪奢なテクスチャーに変わっていた。富豪のNPCの屋敷に向かっているとのことなので、この辺りは富裕層のエリアという事なんだろう。もしもここにプレイヤーホームを買うとすれば、どれだけの資金が必要となるか。想像するだけでげんなりしてくる。

 

「いつかは自分の家とか持てるのかなぁ…………」

 

「気が早いな、ベータ版ですら家を買ってた奴はいないのに」

 

「まぁ、たったの二ヶ月だったんでしょ? ベータ版は。因みに、家を買うならオススメの階層とかある?」

 

「俺は十層の和風テイストの家が好みだったかな、特に移動や物資補充にも困らなかったし────と、着いたぞ」

 

 彼が足を止めた場所は、塗装された煉瓦や石材で組まれた大きな屋敷だった。丁寧に黄金色のドアノッカーを叩いて、執事NPCが開けてから中に入る。大概のプレイヤーはNPCに配慮せずにズカズカと入るが、思いの外育ちが良いのか、オウルはお辞儀までしていた。執事と何か少し話をしてから、また先導する。数ヶ月前の記憶でも鮮明に覚えているのか、少し歩いたらヴィンテージ風のお洒落な扉に辿り着く。

 中には一人の婦人がいて、オウルは『いきなり失礼します、御婦人。何かお探しのようですね? 私達は旅の剣士ですが、何か役に立てませんか?』と丁寧に訊ねる。大体場合クエストを受ける時は、困り事が無いか聞けば問題無くクエストを受注出来るのだが、稀に特定のキーワードがないと受けられない物がある。オウルのその言葉に、婦人に見慣れたクエストを表すマークが浮かび上がった。

 

 そこからのクエスト内容は要約すると、『宝石が付いたお気に入りの指輪を失くしてしまった、大した事ではないので町民に頼るのは申し訳ない。謝礼は弾むので、旅の剣士さん、探してくれませんか?』という、ありきたりと言えばありきたりなクエストだった……ありきたり、その筈なのだが。

 

「うーん……なんか腑に落ちないなぁ」

 

「ほほぉう、どこが腑に落ちないのかね? ワトソン君」

 

「誰がワトソンよ」

 

 いつの間にか出した煙草を吹かしながら、オウルが試す様な目で見てくる。そこはパイプじゃないのね。確かにクエストの内容はありきたりだが、逆にベータテスターの彼が、こんなありきたりのクエストを先んじて受ける理由が無い気がする。それに『大した事は無い』と言いながら見つけて欲しい矛盾、町民を頼る発想はあるのにそうしない理由が、ゲームの都合以外にある気がする。私がそう伝えると、彼は満足そうに煙を輪っか状に吐いた────上手い、愛煙家なのだろうか。多分、未成年者だろうが。

 

「ほぼ百点満点かな、強いて言うなら三日以内に受けて終わらせないといけない理由も加味したら、マジで花丸……フィリアはネタバレとか、気にするタイプ?」

 

「んー……SAOでは宝箱の中身以外、サプライズは求めてないかな」

 

 何故なら、クエストの分岐次第では負けイベント級の激強mobが出て来る可能性もゼロでは無いから。どの道、十層以降は情報皆無からスタートを考えれば、今は情報を最大限に使うべきだと私は思った。『じゃあ、いいか』と彼は前置きして、煙草の火をブーツの裏に押し付けて消した。

 

「ネタバレするとだ。あのマダムが探して欲しい指輪って、町民を殺してブン盗った物なんだよね」

 

「へっ────!?」

 

 まさかの解答に、息が詰まり変な声がアバターから出た。そのまま何でもない様に、彼は語る。

 

「んで、他の町民やら召使いに探させないのは、それがバレる事を恐れているから。旅の剣士なら指輪も、元の持ち主の事も知らないから大丈夫だと思ったんだよ」

 

「…………三日以内に受けないといけない理由って、もしかしなくてもソレ?」

 

「そっ、悠長に町民に話を聞きまわったりNPCの店を覗いたりしていると、気付いたらクエスト受けられないって感じで、ベータ版でもこのクエスト情報が回ったのはかなり後半。その頃だと他に効率的なクエストもあったし、態々受ける奴はいなかったな。あと多分だけど、三日以内って制限は長い間滞在していると旅の剣士でも、顔を住人に覚えられてるって警戒されるんじゃないかな」

 

「へぇー……そんなバックボーンがあったんだ。でもさ、結局物探し系のクエストなんだよね? mobを何体か倒したりする方が効率は良いんじゃない?」

 

「このクエストって探す場所の都合上mobと戦うのは必須だし、それにフィリアは遺物拾いしたいんだろ? なら、このクエスト中は山ほど遺物を拾えるし、この後に向かうレストランでそれをもっと効率的に出来るぞ」

 

 そういう暫定的なパートナーのオウルに付いて行くと、屋敷を出て入ったメインストリートからまたすぐに抜け出して、怪しげな露店が並ぶ裏通りを通り過ぎていくと、人気が無い裏通りにしては少しお洒落なレストランに辿り着いた────名前は《BLINK&BRINK》……《崖っぷち》とな? 

 

「変な名前ね……」

 

「入れば分かるさ、このレストランで食えるデザートが遺物拾いに必須で────あ」

 

 カランと、入店を知らせる気味の良いベルが鳴ると同時に彼が入店する。しかし、何故か少し強張った顔で足を止めてしまった。はて、と思い自分よりも高い背中の横から前を覗いて見ると、そこには同年代くらいの黒系統の装備を纏う少年と赤いフーデットケープの少女が居た。

 

「オウル…………と、えっと……誰ですか?」

 

 

 

 ────いや、それはこっちの台詞でもある。

 

 

 

 





プログレッシブは多分そこまで反映しないと思います。ホロウフラグメントもどうなるか。

ていうか、お気に入り登録5000人て、投票150て、本当にありがとうございます。
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